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3-12

 魔族――オスカー・デモンロードとの戦いは熾烈を極めた。

互いに何度も血を流し、その度に再生し、剣が折れては自らの力で直し、鎬を削り満身創痍となりながらも、やがて俺は隠された能力に目覚め、オスカーの首に刃を振るい――


「ぐっ……あ……が……」

「これで終わりだ、愚かなる吸血鬼よ」


 ――などということはなく、俺は普通に追い詰められて殺されかけていた。

どれほど底力を振り絞ろうとも、都合よく覚醒するなど物語の中だけのお話。

現実には持っている力だけが全て、降って湧いてくるようなものは存在しない。

奇跡など、起こるはずがないのだ。


「もう一度だけ言おう。魔王様に忠誠を誓え。そうすれば君も君の仲間も安全を保障する。なんなら、今侵攻させている軍勢を引かせてもいい。君にはそれだけの価値がある」

「そいつは……げほっ……ずいぶんと、買い被られたものだ……」

「答えは?」

「言ったろ……俺は人間を裏切れない……お断りだと」

「もしや、吸血鬼だから死なないと思っているのか? 私には君が殺せないと、そう思っているのか? ならば心外だ。私は吸血鬼の殺し方を知っている」


 そういうと、奴は俺の腹……肝臓を貫いた。


「がっ……ああ……!!」

「吸血鬼は魔力と血液がなくなれば死ぬ。ようは死ぬまで殺せば死ぬということだ。そして肝臓は主要な血管が通る臓器……このまま繰り返し刺せば、君は遠からず死ぬ」

「……よくわかってんじゃねぇか……がはっ」


 吐血しながらも、俺は魔族を睨みつける。


「もう一度だけ聞く。我らの仲間になれ。そうすれば助けてやる」

「お断りだ……!」


 へっ、即答してやったぜざまぁみやがれ。


「そうか……では死ね!!」


 そうして、奴の剣が振り下ろされ……。


「氷像がどうやって死ぬんだ?」

「なっ――」


 俺の言葉と同時に、腹を貫かれていた俺の身体が氷像となる。

そして本物の俺は背後から、奴の背骨を砕くように蹴りを入れた。


「あがっ……! なにが……!?」

「何でそれをお前にバラさにゃならないんだ?」


 ……仕組みとしては簡単だ。

奴と目を合わせて催眠の魔眼を使い、意識が逸れた一瞬を使って氷血術で作った氷像と入れ替わり、それを俺だと催眠によって勘違いさせる。


 つまり、やつはずっと氷像に語りかけていたわけだ。

で、タイミングを見計らって蹴りを叩き込んだだけ。


 催眠にはめるのも入れ替わるのもタイミングがシビアだし、奴の耐性も高いからそううまくはいかないが……今回は運良く成功した。

しかしこれはあくまで運によるもの、おそらく次はない。

だから、ここで仕留める!


「はぁああああああああ!!」

「がっ……あああああああああ!!」


 倒れて動けない奴の額、その宝石に剣で突きを入れる。

やはり硬い……が、策はある。


「無駄だ……君では砕けない!」

「おいおい、何のために突きにしたと思う?」


 すぐさま左手の血液剣を、ハンマーの形に変える。


「ま、まさか!?」

「そのまさかだ! 彫刻作品になりやがれ!」


 そのまま……柄尻にハンマーを叩き込む!


「ぎいっ……!?」

「はっはぁ! 効いてるみたいでなによりだぜ! そらもういっちょ!」

「があっ!?」


 よし、このまま砕いて――


「ぐう……調子に乗るな!」

「ぐおっ!?」


 奴は紅椿の剣身を掴むと、そのまま力任せに俺ごと投げ飛ばした。


 くっそ……あと少しだったのに……。

……いいやまだだ!!


「いい加減諦めろ!!」

「諦めて……たまるかよ!!」


 俺の意地と根性を込めた一撃が、やつの剣と交差する。


 ……だが、意地と根性ではどうにもならないものがある。

例えば、もう限界に達してた俺の腕とか。

疲労と負担に、更に今の一撃がトドメとなった。


「ぐっ……ああああ!!」

「……折れたか。勝負あったようだな」


 俺の腕はボキボキに折れ、血液操作によってかろうじて紅椿を持っていられるような状態になった。

……再生を……ダメだ、魔力が足りない。

血液にはまだ余裕があるが、魔力はもうすっからかんだ。


「……でもよぉ!!」


 この程度で諦めるほど、俺はヤワじゃねぇぞ!!

すぐさま左手のハンマーを、先端を尖らせた形状に変化。

うずくまる俺に油断して近づく野郎の頭、その宝石に向かって振り下ろす。


「ぬっ……がああああああ!!」

「もう一発!!」


 再度ハンマーを振り下ろし……ついに、奴の核にヒビが入った。

あと一発か二発、入れられれば勝てる。


 ……だが、そこが限界だった。

振りかぶった腕からがくんと力が抜け、血液操作が維持できずにハンマーは血液に戻り、バシャリと地面に落ちた。

そして全身から力が抜けた俺は、そのまま崩れ落ちた。


 ……もうダメだ。

もう、俺にはほとんど力が残っていない。


「はぁ……はぁ……最後の最後でやってくれたね……」

「……蝋燭は燃え尽きる一瞬が一番眩しいっていうだろ?」

「なるほど、言い得て妙だ……」


 もはや奴は何かを問うこともなく。


「終わりだ、吸血鬼にして氷の魔剣士……君の健闘に敬意を表して、君の仲間には手出ししないでおこう」


 そう言って、俺の腹に剣を突き立てた。


「がはっ……!!」

「そのまま血液を失い、消え果てるがいい」


 ……ヤバい、血が流れていくたびに、俺という存在が少しずつ消えていく。

止めようにも、回復のための魔力がない。

や……ば……マジ……で……死…………。











「サクヤよ、今から教えるのは純血の吸血鬼にのみ使える特別な奥義だ」


 ……気がつけば、俺の目の前にはじいちゃんがいた。

何が起こったのか、慌てて動こうとするが、どうにも動けない。

それに……なにやら、目線が低い。子供の頃みたいだ。


 ……いや、みたいじゃなく、そうなのか。

これは、俺の記憶だ。

……走馬灯というやつだろうか? だが、じいちゃんとこんな会話をした記憶はないぞ……?


「この奥義を使えばお前は最強の力を手にできるだろう。しかし、同時にお前という存在そのものを消し去ってしまいかねない」


 え、なにそれこわい。ていうかマジで知らないぞこんな会話。

走馬灯で知らない記憶が見えるなんてこと、あるのか?


「その奥義の名は、『真名開放(しんめいかいほう)』。俺等純血の吸血鬼には、生まれたときに二つ名が与えられる。何故か分かるか?」


 いや、全くわからないんだが。ていうかそんな中二設定あったの吸血鬼って。

いやまぁ吸血鬼って存在がもう中二病っぽいけどさ。


「……儂等純血の吸血鬼は、その血筋故にあまりにも大きな力を持って生まれてくる。とても赤子には耐えられん程の大きな力をな。故にその力を名前とともに封じたものが二つ名……真名じゃ」


 ……そんな力があるなら、今まさに使いたいところなんだが。

けど、結局底力は底力。限界を超えるなんて不可能だった。

いまさら、そんな力があるなんて言われても信じられないよじいちゃん。


「良いか、今から真名を開放するための詠唱と、お前の真名を伝える。……だが、この力はあまりにも危険すぎる。大半の吸血鬼は、開放と同時に力に飲まれてしまった……故に、お前の記憶にも封印をかける。もしも、お前の命の危機が迫ったとき、この封印は解け、記憶は戻るだろう」


 ……え、マジで?

マジでこれ、俺の記憶なの?

だとしたら、本当に真名ってのがあるのか?


「よいか、お主の真の名は――」











「はっ……!?」

「ほう、戻ってきたか。……だが、まもなくお前は消える」


 どうやら、意識が飛んでいたらしい。

相変わらず俺はやつに串刺しにされたまま、血液を垂れ流していた。


 ……どうする、やってみるか? あの走馬灯の記憶を。

だが、あれが夢だという可能性も捨てきれない。

真名なんてものはなく、そのまま死ぬ可能性もある。


「……いや、今更か」


 どちらにせよこのままじゃ死ぬ。

ならば、可能性を模索すべきだ。


「はぁ………らぁ!!」

「ぐっ……まだそんな力が……!?」


 僅かに残った魔力と血液をかき集め、足に集中させて、やつの腹を蹴った。

そして串刺し状態から開放された俺は、素早く地を蹴って距離を取る。


「……今更何をしようと無駄だ。何もせずとも、君はまもなく死ぬ」

「だろうな……だからこれからやるのは、悪あがきだ」


 ……じいちゃんは言っていた。これを使ったやつはすべからく力に飲まれたと。

力に飲まれるというのがどういうことなのかはわからない。


「けど、死ぬよかマシだ」


 恐怖はある。

だが、ここで奴を倒せず、あの剣がココに、ニーナに向けられることのほうがよほど怖い。


「だからやるぜ、じいちゃん――」


 そして俺は、自らを開放する言葉を口にした。


「――真名、開放!!」






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