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3-10

 ココとニーナの二人が加わったことで、俺も攻勢に打って出る。

……とはいえ、やることはそんなに変わりない。


「ぐっ……ぬおっ……んがっ!」

「どうしたどうした!? そんな調子では仲間を守れないぞ!」


 相変わらずの剛剣でありながら、嵐のように振るわれる剣閃を必死で防ぐだけだ。

火花が散り、氷が散り、ときに回避しきれなかった俺の血や髪、服が散る。

……ここまでの猛攻で、俺の服はもうボロボロだ。幸い脱げるほどではないが。


「まったく……俺が脱いでも誰も得しねぇだろ!」

「アタシは得した気分だぜ?」

「がっ……また、お前か……ダークエルフ!」


 そんなふうに俺が魔族……オスカーの攻撃をすべて受け持ち、やつの意識がそれた瞬間にニーナが首を切る。

急所ではないとはいえ、ダメージは入るはずだ。……ヤツ自身ダメージを受けたと入ってたしな。


「おっと、あたしを忘れてもらっちゃ困るっすよ――フレイムボルト!!」

「ぐうっ……!?」


 そしてニーナに意識が飛んだ瞬間、ココの炎の矢がオスカーの顔にぶち当たる。

……ワイバーンの目をピンポイントで狙ったときといい、相変わらずえげつない狙撃性能だ。


「魔法使い――!!」

「遅い、氷血術――氷血鎖! からの氷血槍!!」

「ぬっ、お……があああああああ!!」


 ココに意識を取られた瞬間に氷血鎖で絡め取り、十の氷血槍を叩き込む。


 ……このように、やっていることしては敵のヘイトをパスしあって、一番意識の外にいるやつから攻撃を叩き込んでいるだけだ。

注意点は一連の流れのあと、必ず最後に俺がヘイトを受け持つこと。

いくらココが優れた身体能力を持っていても、こいつは前衛である俺しか対応できないし、ニーナは言わずもがなだ。


 ……とはいえ、これは現実でゲームじゃない。そして敵もAIじゃなくて人間並かそれ以上の思考能力をもっている。決してヘイト通りに動いてくれない。


「くっ……ならばまずは魔法使いとダークエルフを潰す!」

「行かせるかよ!!」


 だから俺は、こうして二人を守る。

俺自身は手の注意を引く程度の攻撃でいい。とにかくふたりのもとに行かせないように盾となる。

そうすれば、二人が火力を出してくれる。


「邪魔だ!」

「邪魔するのが仕事なんでね!」

「ぐっ……!」


 駆け抜けようとするその足元に氷血槍を打ち込み、強引に足を止めさせ剣を振るう。

そのまま鍔迫り合いに持ち込み、押し返す。


「まさか……この短時間で私以上の腕力を身に着けただと!?」

「身体強化の真髄……その一端だ!」


 ……さんざん投げ飛ばされ柄で殴られ続けたグラインさんとの修行だが、たまに実戦形式ではなく口頭で教えてくれることもある。

身体強化のコツなんかもそんな感じで教えてくれた。


 曰く――漫然と全身に身体強化をかけるのではなく、その時その時、状況に応じて強化をかける部位を選び、他の部位は強化を緩める。

こうすることで消費魔力を抑えながら、最高効率でパフォーマンスを発揮できる。と。


 だが、残念なことに俺の魔力操作能力も状況判断能力もそれが可能な域に至っていない。

しかし剛剣を受け止める、そのシチュエーションに限ればこの強化の真髄、その一端に到れる。

まずは当然だが打ち負けないように腕力と握力。それもしっかりと使っている筋肉に狙いを定めて強化。

そしてそれらを支える足腰。こちらは骨格から強化していく。

これに全力で強化を回すことで、なんとか拮抗を保てるくらいの力は得られた。


「おおおおおおおおお!!」

「ぬうううううううう!!」


 火花を散らしながら、俺とオスカーは鍔迫り合いを続ける。

だが、急拵えの身体強化では長く持たない。


「ハァッ!!」

「がふっ……!?」


 俺の腹に、奴の蹴りが入る。

内臓が破裂する感覚とともに、俺は後ろに吹っ飛んだ。


「サクヤさん!!」

「げほっ、げほっ……すまんココ」


 ココに受け止められ、ようやく俺の体は止まった。

血反吐を吐きながらも、俺は再生能力で内臓を修復していく。

同時にココも回復魔法をかけてくれているので、すぐに動けるようになるだろう。

とはいえ……予想以上に戦力差が大きい。


「ぐっ…げほっ! 後ろに飛んで衝撃を逃してもこれか……」

「その判断力は見事だが、基礎能力が私に追いついていないのが致命的だな。仲間同士で補うにも限りがある」


 全くもってその通りだよちくしょうめ!!


「内臓を潰した。回復魔法であってもしばらくは立てまい。その間に彼女たちを潰そう」

「……いいや、甘く見てもらっちゃ困るね」


 なるほど、確かに並の人間ならばこいつの言う通りだろう。

だが俺は吸血鬼。自前の再生能力と回復魔法が合わされば、半身を吹き飛ばされたりでもしない限り数秒から数分で治る。

加えて今回は内臓破裂……血管の多く通ってる内臓ならすぐに治る。


 口元の血を拭い、俺は立ち上がる。


「俺を行動不能にするなら、腹に穴でも開けるんだな」

「ほう……大した回復力だ。術者の腕がいいのか、君が特殊なのか……なんにせよ、まだまだ楽しめそうで安心したよ」

「何も楽しくねぇよクソッタレ」


 ……口ではそういうが、実際俺のテンションはかなり上がっていた。

戦闘行為に楽しみを覚える……紛れもない吸血鬼の証だ。

奴と同類の、魔族としてのサガって奴だ。


「だああああああ!!」


 俺はそんな考えを振り払うように、遮二無二斬りかかる。


「どうした太刀筋が乱れているぞ! そんな剣では私を切るなど不可能だ!」

「うるせぇわかってんだよそんなこと!!」


 だが、乱れた心を写すかのように剣が乱れる。

まるで初めて剣に触った時のような粗雑な剣筋だ。


「くっ……そぉお!!」

「そら、隙だらけだぞ!」


 まずっ――剣、首――飛ぶ――!!


「なにやってんだよご主人!」

「ぐっ……はっ……ダーク……エルフ!?」

「ニーナ!?」


 間一髪というところで、ニーナが背後から奴の心臓を貫いた。


「ちっ、ここも急所じゃねぇか……おいご主人! 何考えてんのか知らねぇけど、一人で戦ってるんじゃねぇんだぞ!」

「そうっすよ! あたしらは三人で一つのパーティっす!」


 そんな声と共に炎の矢が飛び、ニーナが貫いた胸を正確に撃ち抜いた。


「ココ……!」

「やってくれるな……魔法使い!」


 だが、それでも奴は倒れない。

ならば、俺の番だ!


 ……吸血鬼でいい、魔族でいい。

俺には、それを受け入れてくれる仲間がいる。

絶対に、守り抜く!


「らぁあああああああ!!」

「ぐっ……!? ああああっ!!」


 ニーナが傷つけて、ココが開いた胸の傷に、紅椿を刺す。

そしてそのまま切り下ろす。


「……吸血鬼じゃねぇんだ。ここから真っ二つに切り裂かれたら……いくらなんでも死ぬだろ?」

「くっ……おおっ……させるものか!!」

 

 奴が切り下ろさんとする紅椿に対抗し、上へ打ち上げるように剣を振るう。

なるほど斬り下ろしには有効な手段だ。だが!!


「それを待ってたぜ!!」

「なんっ……だと……!!」


 俺の狙いはこれだ。

相手が剣を上に振るうと同時に、その力を利用して斬り上げる。

敵の剛剣の威力を推進力に変え、コイツをぶった斬る。

ただでさえ頑強な魔族、俺の力だけでは斬れないだろう。

だが、そのオスカーの力が乗れば?

両刃の剣だからこそできる搦手。

結果……胸から肩口までを切り裂かれた魔族が残った。


「がはっ……!? まさか……こんな……」

「慢心、油断……それがお前の敗因だ」


 剣ならば俺に負けないと打ち合いを選んだこと、そしてそれ以前に並のことならば死なないからとニーナの攻撃を軽視したこと。それが敗因だ。

倒れ、動かなくなったオスカーを見て、息を吐く。


「……終わったー!!」

「やったなご主人!!」

「すごいっすよサクヤさん!」


 ココとニーナに揉みくちゃにされながら、俺は紅椿を鞘に収めて――


 ――その瞬間、ゾッとするほどの魔力がオスカーの死体から放たれた。


「見事……実に見事! まさかこの体を倒して退けるとはな!!」


 傷もそのままに、まるで操り人形のように立ち上がった。


「なっ……あの傷で……!?」

「ああ、この体は確かに死んだ。だが、これは私が魔力で作った入れ物に過ぎない。死んでも修復すれば元通りだ」


 そう言うとオスカーの体が魔力に包まれた。

黒い濃霧のような魔力が消えると、そこには傷一つない姿があった。


「そんな……」

「不死身……ってことかよ」

「そこまでではないさ。私の本体である核、それを破壊すれば私は死ぬ。……とはいえ、少々お遊びがすぎたな」


 そういうと、オスカーが手を上げた。

瞬間、凄まじい魔力が周辺に渦巻いた。


「私はこれでも今回の総大将、個人的にはもう少し君たちと遊びたいが……負けてしまっては意味がない」


 そして、オスカーは俺を指さした。


「故に、一人ずつ片付けるとしよう。まずは君だ、氷の魔剣士よ」

「はっ……俺たちは絶対に離れない。どうやって一人ずつ片付けるんだ?」

「こうするのさ――魔人結界『決闘場』」


 その瞬間、魔力が結界として周辺の空間を隔てた。

そしてそれは、俺たちの空間も。


「う、うわっ!?」

「ぬあっ!?」

「ココッ、ニーナッ!?」


 まるで見えない壁に押されるように、俺と二人の距離が離れていく。


「大丈夫さ、結界によって隔てられただけだとも。まぁ、受け身を取れなければ少し怪我をするかもしれないが、命には関わらない」


 あの二人も私の獲物だからな、などとのたまうオスカー。


「なるほど、この結界が一対一の状況を作るってわけか」

「そうとも、一対一の決闘が好きな私特製の魔術だ。いい魔術だろう?」

「お前の趣味嗜好なんざ知らねぇよ」


 ……まずい。

奴の口ぶりからして、この結界は選んだ対象以外を弾くもの。タイマンを強制する魔法だ。

……そして、俺はこいつに一人で勝つことはほぼ不可能だ。

仲間がいたから、俺は奴に勝てた。

その上奴は謎の方法で完全回復しているのに、俺は結構消耗している。


 ……勝てるのか、俺は?


「さぁ、第三ラウンドだ!」

「こんなのクソゲー極まりすぎだろうが!!」


 俺の叫びも虚しく、魔族との戦いはさらに熾烈を極める。

 

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