3-09
くっそ、やっぱエドワード氏の発言フラグじゃねぇか!
「ぐっ……ぬおおおっ!!」
「いい、実にいいぞその気迫! それでこそ斬り甲斐がある!」
斬り甲斐なんぞあってたまるか!!
だが、言い返す余裕はない。気を抜けばすぐに押し切られる。
俺はとっさに左手を離し、篭手で斬り結ぶ剣身を支えた。
よし、これで柄一点で支えるよりは楽に――
――ピキ
「ピキ……って、まさか!?」
こ、篭手が割れてる!?
まずい、切れ味が上がったのと相手の剣圧が強すぎて篭手が耐えきれてないのか!
「ほう、ワイバーンの革篭手か。なかなか優秀な素材だが、私の剛剣の前には……無力だ!」
「ああ身を持って知ったよ!」
どうする、素手で支えるのは当然だがなしだ。スパッと切り落とされちまう。
せめて刃がなければ……。そうだ。
「……いや、でも行けるか……?」
ええいままよ! やるしかねぇ!
血液操作、起動! 全能力を紅椿に集中!
すると紅椿が赤い魔力が纏い、その形状を両刃から片刃へと変化させていく。
やったこととしては、この剣を手にしたときに想像したことだ。
この紅椿はもともと俺の血液から作られているのだから、血液操作で操れる。
まぁ、剣として固定化されてる上に俺の体外に出てから相当時間が立ってることもあってほとんど操作できなかったが……刃を潰すくらいのことはできる。
「よっしゃ成功!」
「ほう、形状を変化させる魔剣か……ますます面白い」
悪いな、これ魔剣の能力じゃなくて俺の自前なんだわ。
ともあれ、形状変化には成功した。
正直ぶっつけ本番でできるとは思わなかったんだが……うまくいってよかった。
だが、まずいことには変わりない。
篭手は剣に当てる位置を変え、剣の方の刃をつぶしたことでなんとか壊れずに済んでいるが、それでも相手の力に押され気味だ。
このままでは遠からず剣を弾かれ、斬られてしまう。
それを回避するには――
「――おいおっさん、はよ退け! あんたがいると動けない!」
後ろでかばうこのおっさんがどいてくれないとどうにもならない。
「なっ……お前、誰に向かって――」
「誰かは知らんが満身創痍なのはわかるし、あんたがAランク冒険者だってのもわかる! だからこの場は引けって言ってるんだ! あんたがいなくなったら誰がこいつを斬るんだよ!!」
「ぬっ……」
「この場は俺が押さえる! だから治療受けてさっさと戻ってこい! 長くは持たんぞ!」
「……すまん、感謝する!」
そう言うと、さすがはAランクと言ったところか、怪我をしているにも関わらず素早い身のこなしで後方へ引いていった。
「ほう、私を押さえると、そういったか少年?」
「ああ、言ったな。もう一つ言ったとおり、長くはもたねぇだろうがな!」
後顧の憂いは消えた、ならば真正面から受け止める必要はもうない。
俺はすぐさま体をひねるように回し、魔族の剣を受け流す。
……これをやるには後方が空いてないとできないからな。おっさんがさっさと引いてくれて助かった。
「ほう、私の力を利用して受け流したか……なるほど、口だけではなさそうだ」
「……どうかな? 今のが精一杯かもよ?」
……実際、かなりギリギリだ。
そもそもあんな剛剣正面から受けるなんて、俺の戦い方じゃねぇんだよ。
その代償に、今の一合で俺の両手はかなりしびれている。
このまま剣を打ち合ったら間違いなくスッポ抜ける。
再生能力を全開で両手に回しているが、しびれが抜けきるまでは数分と言ったところ。
それまで待ってくれたりは――
「面白い、Aランク冒険者とやらの他にもまだこんな獲物がいたとは……実に面白い。次はお前を斬ろう」
「いいや、その宣言は何も面白くねぇ」
――しねぇよなちくしょうめ!!
やむなく俺は血液操作で作った鎖で手と剣を縛り付け、無理やり固定する。
氷血術を使ったほうが強固に結べるが、あれは俺にも冷気が来るから手に向かって使うとかじかんでしまう。
しびれを抜くまでの時間稼ぎで手がかじかんでしまっては元も子もない。
「行くぞ!」
「ああクソッ!!」
俺の準備ができたと見るやいなや、魔族が斬りかかってくる。
あいも変わらず一撃でも食らったらヤバそうな剛剣を、ときに回避し、ときに受け流す。
ぐっ……受け流すにしても力が強すぎて受け流しきれない……しびれが抜けてないっつーのに。
「ははっ! よくその両手で食らいつくものだ! だが、これはどうかな?」
「嘘だろまだ上があるのかよ!?」
魔族の剣閃の速度が上がっていく。やばい捌ききれない……!
魔族の剣戟が、眼前に迫り――
「……ほう、これは氷の魔術か」
「氷血術だ、俺オリジナルだぜ?」
――とっさに出した氷血晶が、俺の頭スレスレで魔族の剣を防いだ。
あっぶねぇー!! マジ危なかったぁー!!
氷血晶を出すタイミングがコンマ一秒でも遅れていたら、氷血晶が魔族の剣に耐えきれなかったら、その瞬間俺は頭をかち割られていた。
いや、それくらいじゃ俺は死なないが、戦線離脱は免れない。
こいつとまともに打ち合える俺が抜けたら戦線が崩壊しかねないし……なにより致命傷からの再生なんて見られたら言い訳が効かない。
「防御魔法があるなら、もう一段上げてもついてこれるだろう!? 行くぞ!」
「ちょっ、ふざけんなおい!!」
さっきのより二割ほど速度が増す。
くっ……まるで嵐のような剣閃を剣で防いで、氷血晶で防いで、回避して……それでも間に合わず、かすり傷が増えていく。
今はまだかすり傷で済んでいるが、このままだと致命傷を喰らいかねない……!
そんな、危うい拮抗を崩したのは――
「――フレイムジャベリン!!」
「ご主人に手ぇ出すな!!」
「なっ……かはっ……!」
――頼もしい、俺の仲間だった。
「すみませんサクヤさん、遅くなりました!」
「悪いなご主人、こいつの取り巻きがしつこくてよ……」
炎の槍を放ったココは油断なく杖を構え、ニーナは魔族の喉を切り裂いたナイフを払い、血を飛ばした。
……そう、やつの喉はしっかりと切れている。
本来ならこれで終わりなのだが……まぁ、そううまい話があるわけ無いわな。
「見事、実に見事な魔法と不意打ちだ……まさかここまでのダメージを食らうとは思わなかった」
「おいおい、なんで首切られてんのに喋れんだよ……?」
「こう見えても私は悪魔族だ。見た目は人間に近くとも、身体構造はまるで違う……人間の急所が私の急所だと思わないことだ」
そう言って血を吐きながら笑顔を浮かべる魔族は、首を撫でると傷が消えていた。
「悪いご主人、しくじった」
「いや、あれはしゃーないだろ。ニーナとは相性が悪すぎる」
なんせニーナは急所を狙った一撃必殺スタイル。
なのに急所がわからないとなると、ニーナの強みが全く活かせない。
……あの様子じゃ心臓ついても殺せるかわからんしな。首を刎ねれば流石に死ぬと思うが、ニーナの体躯と得物であるナイフでは、完全に切り落とすのは難しい。
「いいぞ、興が乗ってきた。おまえたちは私――悪魔族部隊第十三分隊隊長、オスカー・デモンロードが斬り殺す」
「嫌すぎる名乗りだなおい」
俺はうんざりした顔で魔族――オスカーとやらを見つめるが、やつはどこ吹く風と言った様子で笑みを浮かべている。
あーやだやだ、この手の戦闘狂ってなにやっても喜ぶからやりづらいったらありゃしない。
それで本気で負けそうになると余裕が崩れるまでがワンセットだ。どうせ戦闘狂キャラでいくなら死ぬまで戦いを楽しむポーズしろってんだ。
……っと、思考がそれた。
ともかく、嫌でもやりづらくても戦うしかない。
「勝つとは言わねぇ、Aランクのおっさんが戻ってくるまでこの場を死守するぞ!」
「「了解!!」」
「ははっ、連れないことを言うな、後先考えずに殺し合おうじゃないか!!」
「御免こうむるね!!」
仲間と合流し、俺と魔族の戦いは第二ラウンドに突入した。