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3-07

 ……まぁ、いずれ国が俺への刺客としてハンターを差し向けてくるのは、ある程度予想できたことではある。

だからこそ、ハンターが来る前に旅に出て逃げようと思っていたのだが……一手遅かった。


「……まずい、ちょっと一旦出よう」

「……わかりました」

「訳あり……みたいだしな」


 そんなわけで俺たちは一旦ギルドを出て、人気のない通路に入り込む。

嗅覚を働かせて……ついでに風魔法で周囲の空気の流れを探り、人がいないことを確認した上で口を開く。


「……あの白装束、吸血鬼狩りだ。多分国が俺を捕まえるのに寄越した連中だろう」

「ああ……道理で周囲を探るように見てたわけっすね」


 ……実際、冒険者ギルドで待ち伏せするのは正解だ。

身分を保証するものが何もなく、戦闘能力しかない吸血鬼が生きるとなったら、冒険者にでもなるしかない。

そして冒険者になれば、メキメキと頭角を現すことだろう。


 ……そう、俺みたいに。


「まずったな……間違いなく俺は奴らに目をつけられてるだろうな」

「まぁ、初日にワイバーンぶっ殺してギルマスの弟子になった男だからなぁ、ご主人は」


 ……やらかし過ぎなんだよなぁ、過去の俺よ。

だが、今となってはもう遅い。


「……とりあえず、派手な活躍は控えよう。地味な依頼をこなして、とにかく目立たないように」

「ですね。ハンターとなれば吸血鬼への対策は万全でしょうし、今までみたいに吸血鬼の能力でゴリ押し……とはいかないっすから」

「ああ、能力を消されるだけじゃなく、俺の不死性を貫いてくるものも持ってるだろうからな」


 ……とにかく、ここは戦うのを避けるしかない。

順調に進めばAランクも間近だというのに、幸先が悪いことこの上ないな……。


「ちなみに吸血鬼の不死性を抜く方法ってどんなのがあるんすか?」

「まぁ、有名どころだと心臓に白木の杭を打ち込むとかかな」

「それ吸血鬼じゃなくても死ぬだろ……」

「まぁ、心臓を破壊するってのは吸血鬼に対しては効果的だよ。なんせ血液が能力元の吸血鬼だからな、心臓を破壊されて全身に血が回らなくなったら、死なないにしても吸血鬼の能力は心臓が再生されるまで使えなくなる」

「ほうほう、じゃあ心臓を守らないとダメっすね」

「あとは俺の場合銀と十字架がダメだな。これで心臓打ち抜かれたらヤバいかも」

「……とりあえず、万が一戦闘になったらご主人は後ろで待機な」

「激しく同意っす」

「情けないけどそれしかないよなぁ」


 とりあえずそんな取り決めをして、俺たちは冒険者ギルドに戻った。








 それから数日間は、ひたすら目立たない依頼をこなしていった。

比較的弱い魔物の退治だったり護衛だったり、珍しいところだと危険地帯に生えてる薬草の採取などもあった。


 どれもBランクなら受けて不自然ではなく、それでいて地味な依頼だ。

しかし、これだけ目立たないようにしているというのに、ハンターたちは常に俺たちを監視していた。


「ああああ鬱陶しいったらありゃしねぇ。ご主人、奴らギルドに通報できねぇの? 視線が鬱陶しくて集中できませんってさ」


 依頼を終え、酒場で食事を取りながらニーナが苛立ちを隠さずそういうが、あいにくと直接手出しされないとギルドは動いてくれないんだよ。

日本ならストーカー扱いで警察が動いてくれるかもしれんが……ここは異世界で、ストーカーという概念そのものが存在しない。


「まぁ落ち着け、こうしておとなしくしていれば向こうだって手出しはできない。奴らが根負けするまで待つんだ」


 奴らは俺が吸血鬼だという証拠がなければ手出しできない、俺たちは尻尾を掴ませずにシラを切り通す。

これはそういう勝負だ。


 向こうが安易に襲いかかってくるならギルドに助けて貰えばいいし、奴らの監視対象はおそらく俺だけじゃないはずだ。

いずれ奴らも他へ目を向けなければならない時がくる。

それを見逃さず、俺たちは街を出ればいい。


「はぁー……こうなるとAランクへの昇格を待ってというわけにはいかないな」

「え、サクヤさんAランクになりたかったんすか?」

「…………まぁな」


 お前のためだよ、とは言わないでおく。


「それなら問題ないっすよ。サクヤさんの活動記録はギルドカードに記録されてます。なんで、旅先で依頼をこなしていけばいずれAランクになれるっすよ」

「そんな機能もあったのかこいつ」


 ギルドカードを取り出し、思わず眺めてしまう。

そういえば依頼を終えてカードを渡すと、毎回なんかの魔道具に入れていた。

あれで情報を記録していたのだろう。


 ……つまり、こいつはメモリーカードの役割も果たしているのか。

魔力紋認証といいやはりハイテクだなこのカード。再発行一万ソルも納得だ。


「ふむ、なら旅に出ても問題ないな。……ちなみに獣王国までってどのくらいかかる?」

「徒歩だと四ヶ月くらいっすかね? ああ、乗合馬車を使えばもっと早いっすよ」

「なるほど……」


 まぁ、四ヶ月もあればなんとかなるか。

監視の目が外れれば、一切自重しないで強い魔物を狩りまくれるわけだし。

ワイバーンやそれに準ずる魔物に挑むのも悪くないだろう。

他にもこなせば評価が上がりそうな難しい依頼を集中的にこなすのも悪くない。


「……俺も変わったな」

「ご主人、なにか言ったか?」

「いいや、なんにも」


 俺がそう答えると、ニーナは気にした様子もなく肉にかじりつく。


 ……昔なら、危ないことはノーサンキュー、なんなら戦いも嫌ですって感じだったのに、いつの間にやら必要とあらば危ない魔物にも積極的に挑むようになっている。

もちろん俺自身強くなって勝てるようになったからってのもあるし、なによりできることなら戦いたくないという考え自体は変わってないが、それにしたって随分と適応したものだ。


 ……ここまで戦いに適応できたのは、やっぱり戦闘種族である吸血鬼故かね。

無論、適応できなければ生きていけないのだから、この特性には感謝しているが……それでも、人間である二人との違いに、少し寂しさも感じる。


「……食うか」


 せっかくの飯が冷めてしまう。

俺にとって食事は血液の摂取。普通のご飯は嗜好品だが、だからこそ美味しい状態でいただきたい。

なによりもったいないしね。


 そんなわけで考えを振り払い、肉を口に入れたところで、ふと変な感じを覚えた。


「……魔力?」


 もぐもぐごっくんと急いで飲み込み、感じ取った妙な気配に集中する。

……うん、かなり微弱だがやはり魔力だ。

それもただの魔力じゃない。

……なんていうか、説明が難しいんだけど……馴染み深いと言うか、親しみを覚えるような感覚というか…………そう、吸血鬼の魔力に似てるんだ!


 しかしおかしい。俺の魔力感知はそこまで優れていない。

だというのに、なんで魔力を感じ取れるんだ?


「なぁココ、妙な魔力を感じるんだが、なにかわかるか?」

「んん、魔力っすか? ……うーん、何も感じませんよ?」


 俺より遥かに魔力感知能力の高いココが感じ取れないという。

だが、一度意識すると俺にはくっきりはっきりと、その魔力が感じ取れてしまう。


「ニーナは?」

「えー、あー、うーん…………まぁ、言われてみれば……いやどうだろ……ダメだ、わかんねぇや」

「そっか」


 エルフであるニーナも感じ取れないと。

……これはやはりあれか、この魔力が吸血鬼のものに似ているから俺だけが感じ取れるんだろうか?


「うーん、なんなんだこの魔力?」

「サクヤさん、大丈夫っすか? 医務室で診てもらいます?」

「軽い調子で人を病気扱いするのやめろや」

「でもなぁ、アタシらがなにも感じないわけだし」

「気のせいじゃないっすか?」

「気のせい……かなぁ?」


 今も意識を集中させれば、たしかに微弱だが魔力は感じられる。

……だが、それだけだ。

特に害があるわけでもないし、ちょっと気になるだけだ。


「……まぁ、放置でいいか」


 そう思い、再び飯を口に運んだときだった。


〈――緊急任務発令!! 緊急任務発令!! Cランク以上の冒険者は至急戦闘準備を整え北門に集合してください!! 繰り返します!! 緊急任務発令!! 緊急任務――〉


「緊急任務?」


 依頼ではなく任務、しかも緊急? 一体どういうことだ?


「ああクソッ、マジかよさっきの依頼でだいぶ消耗しちまったぞ」

「消耗品はなんとかなるけど、武器がまずいね……こんなことならすぐ修理に出せばよかった」

「こんな時間に来るとは…………やってらねぇな」


 周りの冒険者達も、皆一様にぼやきながらも手早く戦闘準備を整えている。

そんな中、見知った顔を見つけ、俺は話を聞きに行った。


「おいクライス、緊急任務ってなんだ?」

「おうサクヤか。……そうか、お前らが帝都に来てから初の緊急任務か」


 クライスが手早く剣の調子を確かめながら、答えてくれる。


「現在、この国は魔族と戦争真っ只中、そしてこの帝都は国の首都でありながら最前線だ」

「まさか……」


 いや、でも防衛線とかあるだろ? まさか、マジで?


「この街に、魔族が攻めてきたのか?」

「御名答。ついでに言えば北海岸の防衛線が突破されたってことだ。そうでなきゃ緊急任務は出ない」


 すべての装備の点検を終えたクライスが、立ち上がり俺の肩を叩いた。


「まぁ、俺たちBランク冒険者の役割は取り巻きの魔物を倒すことだ。魔族との戦いはAランクの冒険者に任せればいい。死なない程度に気楽に行こうぜ」

「あ、ああ……」


 じゃあな、と軽く手を上げ、クライスが去っていく。


 ……そうか、魔族が攻めてきていたのか。

疑問が、氷解する。


「あの魔力は、魔族のものだったのか」


 だから親近感を覚えて……吸血鬼に似てると感じたわけだ。

なるほどなるほど……俺は、人間よりも魔族に近いのか。


「…………しっかりしろ俺、だからどうした」


 魔族だろうが人間だろうが関係ない。

俺は俺、望月朔夜だ。

俺の一番の目的はなんだ?


「……ココとニーナを、人間を守ることだ」


 なら迷うな、戦え。

たとえ自分に近い存在であっても、大切なものを守るために。


「……行こう」


 俺はすぐさまココとニーナのもとに戻り、準備を整えて北門に向かった。




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