3-06
あのあと、結局食いだおれた俺は回復に一日使ってしまい、休みが終わった。
「……三日目マジでもったいなかったな」
いや、仕方ないんだけども。
ともあれ休日は終わってしまったわけで、休みが終わったなら働かなければいけない。
「働きたくないでござる……」
「サクヤさん、今までにないほどのダメ人間発言してるっすよ」
ちなみにココの髪型はもとに戻っている、拝み倒してなんとか戻してもらった。
流石にあのままじゃ俺がポンコツ化して戦闘に支障が出る。
そんなわけで、無事いつもどおりに戻った俺たちは剣を受け取るべく、武器屋へとやってきていた。
「こんちゃーっす」
「おう、来たか。剣ならもうできてるぜ」
来店すると、店主が待ち構えていたようで、そう返された。
「おお、もしかしたら少し待たされるかもとも思ったんですけどね」
「はっはっは、早く実物が見たくて朝早くから来る奴らは珍しくねぇからな、早めに仕上げるようにしてるのさ。兄ちゃんもそのクチだろ?」
「あはは……これはお恥ずかしい」
まさにそのとおりである。新しい剣が早く欲しくてわりと朝早い時間に来てしまった。
い、いいんだよこのあと依頼こなすんだから。早く行かないといい依頼なくなっちゃうし。
「ま、話よりもこいつだな。よっと」
そう言って店主が持ってきたのは、紅色の剣だった。
大きさ、剣身、柄などはほぼ前のままだ。
だが、以前の剣とは違い、その紅色の剣身からは魔力が感じられる。
「折れて残った剣身と、あんたが持ってきた赤い魔鉄を混ぜた合金製……なんだが、素材の格差かね、完全にあの赤い魔鉄に飲まれちまった。ほぼ純魔鉄と思ってくれていい」
「へぇ……持ってみても?」
「ああ、お前の剣だからな」
言われるがまま、俺はその剣を手に取る。
重……くない? いや普通の剣と比べたら重いんだけど、俺なら難なく扱える程度には軽くなっている。
それに、やはりもとが俺の血液だからだろうか、すごく扱いやすい。
なんというか……意のままに動かせると言うか、剣との一体感があるというか。
……もしかしてこいつ、血液操作で形状変化させられるのでは?
試してみたいところではあるが……ひと目があるところではまずい。後でこっそり確認しよう。
「で、これ魔力感じますし魔剣なんですよね?」
「おう、流石にわかるか。こいつには魔力を流すと切れ味が向上する力がある」
へぇ、地味だけど有用な効果だ。
前の頑丈な剣と違ってちゃんと切れそうだし、これに切れ味向上が追加されれば大抵のものは斬れそうだ。
「それともう一つ、使用者の魔力を増幅させる効果がある。兄ちゃん魔法も使えるんだろ? こいつは杖ほどじゃないが、魔法の補助になるはずだ」
「おお、すげぇ!」
つまりなに? この剣は剣であり杖でもあると?
すっげぇマジかよ! 魔法剣士の俺にぴったりじゃん!
こういうのなんて言うんだっけ……儀礼剣? でもあれは剣の形してるってだけだったはず。
こっちはちゃんと剣としても使えるし、非常に優秀だ。
「最後にもう一つ。あの赤い魔鉄、どうも吸血鬼由来のものだったらしくてな……刃こぼれしても、敵の血から鉄分を補充することで修復する機能がある。まぁ、おまけ程度だからちゃんとメンテナンスしないとだけどな」
「へ、へぇー、そうなんですかぁー」
……吸血鬼由来ってバレちゃったよ!
い、いやでもまだ俺が吸血鬼ってバレたわけじゃないしセーフ。……セーフだよな?
セーフってことにしておこう、うん。
吸血鬼バレの危機があったものの、得られた効果は非常に強力だ。
刃こぼれがオートで直るとなれば、継戦能力がぐぐっと上がる。
……まぁ、そこまで長時間戦うのは遠慮したいが、戦いってのは個人の事情関係無しで進むわけで、時には数日間ぶっ通しで戦うこともあるかもしれない。
そういうときには、きっとこの能力は役に立つ。
「魔剣としての効果は以上だ。いやぁ、吸血鬼由来の魔鉄なんて初めて扱ったから張り切っちまったぜ。一体どうやって手に入れたんだ?」
「へっ!? え、ええとその……調査依頼を受けたときに拾いまして」
「ほー、そういうことか。まぁ、また手に入ったら持ってきてくれ。損はさせねぇからよ」
「え、ええまぁ、機会があれば」
もう二度とゴメンだよこんな心臓に悪いの!
「まぁ、それはさておき、名前を決めてやらないとな。兄ちゃん、どんなのいい?」
「え、あ、名前? 俺が決めていいんですか?」
「そりゃあ兄ちゃんの剣だからな。まぁ嫌なら俺が決めるが」
「いや考えます。ちょっと待って下さい」
名前、名前かぁ……。
赤い剣だし火炎剣烈……いやダメだ、異世界だけど著作権的にダメな気がする。
それ以前に俺氷属性だし。俺が使ったら火炎剣でもなんでもねぇよ。精々が氷雪剣だよ。
……それはそれでかっこいいな。
とはいえ、この剣の名前なわけだし、せっかく綺麗な紅色なんだからこの色から取りたいよな。
紅、紅色かぁ……ぱっと浮かぶのは……花かな?
花なぁ……剣に花の名前ってのはどうなんだろ? ……いや、一周回って風流でオシャレか?
ううむ……とりあえずみんなの反応を見てみよう。
「……紅椿とか、どうだろう?」
たしか椿って冬に咲くんじゃなかったっけ? そういう意味では氷属性の俺に丁度いいかもしれない。
「ベニツバキ……? どういう意味っすか?」
おっと、意味が通じてない。
っていうことは、この世界に椿はないのか?
「俺の国にある真っ赤な花だよ。ちょうど剣身の色が似てたから思い浮かんだ」
「花か、いいじゃん。アタシは好きだぜそういうの」
「剣にあんまり花ってイメージないんすけど……ああ、血で花を咲かせるとかそういう」
「そんな物騒な意味じゃねぇわ」
……いや、うん、頭に浮かばなかったわけではないけども。違うから、純粋に花の名前だから。
「剣に花の名前ってのは珍しいが……洒落てていいんじゃねぇか?」
うん、店主さんもこういってくれてるしもうよかろう。はい決定。
「じゃあ紅椿で。……よろしく頼むぜ、紅椿」
そう語りかければ、紅椿の剣身が俺に答えたかのようにきらりと輝いた。
「まぁ、いい剣になったな」
「ですね、なかなか居ませんよ、ここまでの魔剣を持った冒険者は」
「はぁー、あの頑丈なだけの剣からこうなるとはねぇ……やっぱご主人の血強すぎだろ」
まぁ、否定できない。
吸血鬼の能力の源なわけだしな、血液は。
そんな会話をしつつ、俺たちは冒険者ギルドにやってきたわけだが……。
「……誰だ、アイツら?」
「さぁ、見たことないっすね」
「ご主人たちが知らないのにアタシが知るわけ無いだろ?」
これでももう三ヶ月近く冒険者をやってるわけで、大体の冒険者の顔は雰囲気で覚えている。
しかし、今日はなにやら、見慣れない白装束の男たちが三人ほどいた。
いや、別に見慣れない人がいるのは珍しいことじゃない。依頼の登録にやってくる依頼主とかもいるし、これから試験を受けようという冒険者志望の人だっている。
だが、こいつらの動きを見るに、熟練の戦士と言った感じだ。依頼主や冒険者志望ではありえない。
一応他の街からやってきた冒険者とかなら説明はつくのだが……連中の異様な白装束、その唯一白一色ではない背中から俺は視線が離せなかった。
そこに描かれていたのは、魔法陣のような紋章だ。
そしてその周囲には、……わかりやすくまとめると『吸血鬼死すべし慈悲はない』的な意味の呪文のような文字列。
……そう、こいつらは吸血鬼狩り――ヴァンパイアハンターだ。