3-03
「えー、そんなわけで冒険者稼業は三日ほどお休みとなります」
剣の修理依頼を終え、戻ってきた俺は二人にそう告げた。
「なるほど、まぁサクヤさんは剣無しでも戦えますけど、周りに怪しまれますもんねぇ」
「まぁ、そういうことだ。幸いニーナ用に取っておいたお金もあるし、三日くらい休んでも問題ない」
「うっ!」
ニーナ用、という言葉に反応してかニーナが胸を抑える。
いいんだぞ、俺たちが好きで用意した金なんだから別に気にしなくても。
「そういうわけだから、それぞれ自由行動で。本を読むもよし、街で買い物に行くもよし、あるいは俺抜きで冒険者として活動してもよし」
「最後のはないっすね。ねぇニーナちゃん」
「いや、冒険者として稼ごう。アタシ用の金なんか使わなくてもいいように稼ごう」
「ニーナちゃん!?」
……どうやらニーナの罪悪感を煽ってしまったらしい。
別に休んでてもいいんだが、まぁ休日なのだし好きに過ごせばいいだろう。
で、翌日。
ニーナに引きずられるようにココが出かけたあと、俺は伸びをしながらつぶやいた。
「さて、久しぶりの休日だな……」
……あれ? ……久しぶりっていうか、この世界に来てから初じゃね?
一応ワイバーン戦のあととか休んでたけど、アレはもう疲労困憊で休むしかないって状況だったし、健康な状態での休日って初では。
「お、おおう……そう考えるとなんて不健全な生活を送っていたんだ俺は……!」
休み、大事。みんな知ってる。
そもそも俺はお休みが大好きだ。
プラモは作りたいしラノベだって読みたいしゲームもしたいし漫画も読みたいし特撮ヒーローだって見たいなによりもダラダラと寝ていたい。
これらを平日にこなすことは難しく、休日は俺にとって大事な趣味デーなのだ。
「そうだ、休もう。ダラダラ寝よう。昼まで惰眠を貪ろう」
そうと決まれば二度寝だ!
「……眠れん!!」
なんということだ、この世界に来てあまりにも健康的な生活を送りすぎたせいで、二度寝ができない!
ギンギンに目が冴えて、とてもじゃないが眠れる状態じゃない。
「……寝れないのなら仕方ない。他の趣味を…………趣味、を…………」
……プラモもラノベもゲームも漫画も特撮ヒーローもこの世界にないじゃん!!
なんてこった、この趣味人間、いや趣味吸血鬼である俺が、この世界では無趣味……?
許されない、許されないぞそんなことは!
「よし、街に出よう! そして新たな趣味を発見しよう!」
というわけで、俺は街に繰り出した。
……繰り出した、のだが。
「ううむ……あんまり楽しくない」
ウィンドウショッピングしてみたが心惹かれるものがない。
一応服は新調したが、それも古着だ。一応状態のいいやつを選んだが。
そもそも俺、おしゃれとか興味ないからなぁ……。
装備も服も実用性一本。むしろ着飾る意味ってあるの? ってな具合だ。
強いて言うなら本に興味をそそられたが、この世界の本は高い。
とてもじゃないが手が出なかった。
あとは……剣とかにちょっと心惹かれたが、このあと魔剣が手元に来るのだし、今買うのは無駄遣いでしかない。
「……この世界は娯楽が少ないなぁ」
強いて言うなら演劇くらいだが、チケット代がバカ高い上にどうせ居眠りして終わるのだし無駄遣いも甚だしい。
……先日もらったチケットって貴重だったんだなぁ。
で、そんな事を考えつつ、自然と足を運んだのが……。
「……なぜギルドに来てるし俺」
休むはずだったのに冒険者ギルドの前に来ていた。
……まぁ、そろそろ昼食の時間だ。飯を食っていくのも悪くないだろう。
そんなわけで、俺はギルドの門をくぐった。
「お、亜竜殺しじゃん。今日は休みってお仲間から聞いてたが」
酒場に腰掛けると、不意に声をかけられた。
「あ、えーと……えーと……そう、クライス! いやぁ久しぶりだなぁクライス!」
「お前俺の名前忘れてたろ」
「や、やだなーソンナコトナイヨー」
俺に声をかけてきたのは、いつぞやのゴブリン退治で一緒に組んだクライスだった。
「まぁお前とはあのとき以来だしな。それよりお前どうしたんだよ?」
「あー、なんか暇でな。つい足を運んじまった。ついでだから飯でも食おうかと思って」
「おお、そういうことならこっち来いよ。たまたまこの前のメンツが集まってんだ」
「へえ、なら同席させてもらおうかな」
クライスたちはココ以外で初めて一緒に戦った仲間だ。
親睦を深めるのも悪くないだろう。
で、席についたのだが。
「さぁ飲め、遠慮するな、俺のおごりだ」
「昼間っから酒かよ……」
思わず頭を抱えてしまった。
思えばクライスは最初から顔が赤かった。あの時点で気づくべきだったわ。
「俺たちは依頼を終えて三日ぶりに帝都に帰ってきたんだよ。だから昼間から飲んでても問題ない」
「亜竜殺しだって休みなんだろ? だったら飲め。休日に昼間から飲む酒はうまいぞ」
「それ、ダメ人間の発想だからな? ……ていうか、俺未成年だぞ」
「え、お前十五歳以下なの?」
「……いや、十七だけど」
「なら問題ない、この国での成人は十五歳以上だ。というわけで飲め」
「ええー……」
そんな感じで有無を言わせずジョッキをもたせてくる……ええと……ニーズ、だったかな。
そしてそのジョッキに……なんだろう、ビールっぽい酒を注ぐ、たしか……ヒック。
んでもって素早くおつまみらしき料理を俺の前に広げる……ヴァルト……だったような。
……名前がうろ覚えなのは許してくれ。もともと人の名前覚えるのはそんなに得意じゃないんだよ。
「……むう……まぁこれも経験か」
吸血鬼ってすぐ毒素を分解しちゃうから、酒のんでもあんまり意味ない気はするが……しかし裏を返せばそれは未成年でも飲んでいいというわけで。
……いや、この世界この国では俺は立派な成人だ。
郷に入りては郷に従えというし、酒を飲んでも問題なかろう、うん。
あ、日本にいる良い子は飲んじゃダメだぞ。あくまで異世界だから許されていることをお忘れなきように。
「……って、誰に言い訳してんだが」
……ぶっちゃけよう、俺は酒というものに非常に興味がある。
なんせあんなに大人たちが美味そうに飲んでいるのだ。きっと美味しいに違いない。
「まぁ、せっかくだしいただくか……」
ふう、やれやれ俺はそんなに飲みたくないんだが、みたいな空気を出しつつ、ジョッキに注がれた液体を飲んで……。
「……苦いわ! なにこれにっが!! え、うそこんなの美味そうに飲んでんの!?」
あまりの苦さに吐きそうになった。
いや吐かなかったけどね。かなり飲み込むのが大変だった。
「……あー、亜竜殺しよ。お前酒飲んだことない?」
「ないよ! これが初めてだよ! こんな苦いの飲まなきゃよかったわ!」
「あー……じゃあエールはキツイか」
「あんだけ武勇立てといて舌はおこちゃまとか……ぶふっ」
「笑うなしばくぞ」
……ええそうですよ! 俺は甘いもの大好きなおこちゃま舌ですよ!
コーヒーとか未だに飲めないしね! いいんだよカフェイン摂りたいならエナジードリンクがあるし!!
「しかたない。おーい、果実酒一つ追加でー!」
「あいよ」
で、しばらくして俺の前に別の酒が用意された。
……ええー、まだ飲ませようとするの?