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3-02


「そっち行ったぞご主人!」

「任せろ!」


 さて、グラインさんからAランク昇格間近と聞き、気合の入った俺たちはとある危険な魔物の討伐を行っていた。

その名はトロール。身長三メートルから五メートルくらいある巨人のような魔物だ。

特徴はだいたいゴブリンと一緒だ。ゴブリン同様武器を操り、魔物なので魔力を操って身体強化ができる。

ただ、その巨体を強化するのだからその力は計り知れない。


 で、俺たちはこいつらが集落を作ってるってんでその殲滅のためにやってきたわけだ。

こいつらは巨体ゆえゴブリンのように他種族の女を襲うことはなく、その繁殖はトロールという種族の中だけで完結している。

故に、メスを逃さず狩り尽くせばひとまずの増殖を止められる。


 トロールも集落を作る程度の知能はあるので、俺たちの狙いをわかっているのだろう。

オスのトロールが俺たちに応戦し、時にはメスの盾になってメスを守っている。


 …………うん、なんかこう、すごく罪悪感が湧くね!

女のために死んだ男を踏みにじって、背後の女を斬らなきゃいけないとかかなり心苦しいんですけど!

ゴブリン程度みたいに本能のまま襲いかかってくるなら罪悪感とか全く湧かないんだけど、こいつらなんかもう、死んでも女を守るぜ! みたいな覚悟が感じられるせいでこっちが極悪人みたいですごく辛い。


「や、まぁ、奴らからしたら俺らは極悪人か」


 時折人を襲うとはいえ、静かに暮らしていたところに攻め込んできたのだから。

が、それはそれ、これはこれ。

時折ではあるが、人を襲うのだ。

聞き取り調査した際には、被害者の遺族の無念も聞いた。

ならば罪悪感など感じている場合じゃない。


「せあっ!!」


 血液剣で向かってきたトロールの首を刎ね、その死体を蹴り飛ばす勢いで更にもう一匹斬り殺す。

と、ここで血液剣が折れてしまった。


「やれやれ、まだ未熟者ってわけか」

「サクヤさん、もう一匹来ましたよ!」


 ココの声で振り返れば、棍棒を振り上げるトロールが。

血液剣は……いや、ガードなら頑丈な剣のほうが確実だ。

そう思い、腰の剣を抜いて棍棒を防いだ――――その瞬間だった。


 ピキ――と嫌な音を立て、俺の剣にヒビが入る。


「うっそ」

「グオオオオオオオオ!!」


 雄叫びとともにトロールは再度棍棒を振り下ろし、そして。


 俺の剣が、ポッキリと折れてしまった。


「折れたぁ!?」

「サクヤさん!?」

「嘘だろこのタイミングで!?」


 で、こんな大きな隙をトロールが見逃すはずがなく。


「ガアッ!!」

「がはっ……! あーすまん、ちょっと離脱する」

「サクヤさん、吹っ飛びながら言う事っすか!?」


 かー、かー、かー……とココの声が遠くなっていくなか、俺は吹っ飛んでいき……やがて木に背中を打ち付けることで止まった。


「いっつぅ……さすがトロール、馬鹿力というかなんというか……」


 それにしても…………折れてしまった。

頑丈さだけが取り柄だったはずなのに、ポッキリと剣身の中程から折れてしまっている。


「……なんだろう、すごく辛い」


 最初はただのサブウェポンとして買っただけだったのに、ワイバーン戦では大活躍して、さらに人前での武器としても活躍して……。

…………ああ、俺、この剣に結構な愛着があったんだなぁ。


「……ならば許さん。剣の敵討ちじゃ!!」


 折れてしまった頑丈な剣を鞘にしまい、血液剣を展開。


「うおらぁ!! 俺の剣を折った罪は重いぞトロール共がぁ!!」


 そのまま再び戦場に戻り、俺はもう目につく限りのトロールをぶち殺していった。

罪悪感? 知るか! 俺の剣を折った連中にかける情けなどない!!

目につくトロールすべてを殺しながら進み、さっきやられた場所まで戻ってきた。


「うおっ! ご主人平気なのかよ!? すげぇ吹っ飛び方してたぞ!」

「問題ない! それより俺の剣を折りやがったあんちくしょうはどこだ!?」

「……あ、ごめん。さっきアタシが首切って殺しちゃった」

「ガッデム!!」


 ちくしょう、この怒りをどこにぶつけたらいい!!


「ゴアアアアア!!」

「うっさいわ!」


 スパンと襲いかかるトロールの腕を斬り飛ばし、さらに首を刎ねて殺す。


「……こうなったらテメェらで憂さ晴らしさせてもらおうか」

「ご、ゴフ……」

「さぁ、絶滅タイムだ!!」


 根切りにしてやるわ!!











 で、


「あ、ああ、冒険者の方々、ありがとうございます! ……ですが、その血は……?」

「ああ、気にしなくていいっす、怪我はしてないんで」

「そうそう、ちょっとハッスルしすぎただけだから気にすんな」


 返り血まみれになった俺は遠巻きにされ、依頼を出した近隣の村の村長からそんなお言葉をいただくのだった。

……うえ、血生臭い。











「こいつはまた派手にやったなぁ……。まさかこの剣が折れるとは」

「うっす…………」


 依頼をこなし、帝都に戻ってきた俺はまっさきにいつもの武器屋にやってきた。


「で、どうする? こいつは数打ちだから同じ剣ならまだあるが」

「できるなら修理してほしいです。愛着もあるんで」

「愛着あるならトロールと真っ向から打ち合うとかバカなことするなよ」

「ぐうの音も出ないっす…………」


 まったくだ。もっと丁寧に扱うべきだった。

折れてから愛着に気づくとか…………失ってわかるありがたみというやつだろうか。


「で、修理だったか。こいつは割と特殊な金属を使ってるからなぁ……五十万ソルってとこか」

「うげ、お高い……」

「修理じゃなくて買い替えならもうちょい安いぞ」

「いえ、修理で」

「頑固だなお前さん。……そうだな、素材になる金属を持ってるなら、割引できるぞ」


 ……金属、金属かぁ。

鉱山にこもって掘ってくればいいのだろうか。

んー……流石にそれはなぁ。


「……待てよ?」


 金属、そうだ金属だよ。

いつも使ってる金属があるじゃないか。

血液剣の主成分である、血中の鉄分が。


「ちょっと待っててください。えーと確かこの辺に……」


 収納袋を探るふりして右腕を突っ込み、人差し指の爪を変身で鋭く尖らせて親指を切る。

で、出てきた血液を鉄分マシマシにして延べ棒……インゴットのような形にする。

これを五個ほど作って……。


「あった、これ使えますかね?」


 何食わぬ顔で武器屋の店主に渡した。

……しかし、鉄のインゴットにするつもりだったのだが、血液から作ったせいか妙に赤い。

怪しまれなければいいのだが……。


「ふうむ、こいつは……鉄か? いや、それにしては赤いし含有魔力が桁外れに大きい……こりゃ魔鉄か?」

「さ、さぁ? 俺も依頼の最中にたまたま入手したものなんで詳細は……」

「そうか、まぁ冒険者ならそういうこともあるか。しかし……これだけ魔力の籠もった素材を使うとなると、魔剣になるかもな」

「魔剣……魔剣!?」


 それってアレだよな、ファンタジーで出てくる特殊な能力を持った剣!

うわぁ、魔剣かぁ……まぁ俺って魔法剣士だし? 魔剣とかよく似合うのではなかろうか。


「そうだな。こいつはなかなかいい素材だし……こいつを使わせてくれるなら半額の二十五万で請け負おう」

「いいんすか!?」

「ああ、こういう見たこともない素材を扱えるのは鍛冶屋冥利に尽きるからな。今回は特別価格だ」

「よっしゃあ! じゃあお願いします!」

「あいよ、じゃあ……そうだな、三日……そう、三日後くらいだな。そのへんに来てくれ」

「了解です!」


 こうして俺は、新たな剣のため血鉄のインゴットと折れた剣を渡し、意気揚々と店を出るのだった。








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