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3-01

 ニーナが仲間になって三日後、エドワード氏紹介の奴隷商人の元、ニーナは正式に俺の奴隷ということになった。

……いや、俺はニーナを奴隷なんかにしたくなかったんだけどね?

エドワード氏は俺が主じゃないとニーナを見逃してくれないし、やむを得ずだ。

いずれほとぼりが冷めるか、旅に出た先で開放したいところである。


 ちなみにニーナの冒険者資格ではあるが、俺の奴隷ということで特に必要なかった。

なんでも奴隷が道具と同様の扱いだそうで、特に資格とかいらないんだとか。

ニーナが剣や盾と同じ扱いというのは非常に不服だが、資格がいらないのは便利なので黙っておくことにした。

……ていうか、ぶっちゃけ戦いには出したくないのだが、ニーナ自身の強い要望もあって、戦闘に参加することとなってしまった。

いや、実際優秀なんだけどさ。


 そして面倒事が片付いたところで、俺たちは宿の一室で今後について話し合っていた。


「ほー、つまりご主人は異世界人で、元の世界に帰る方法を探していると。……また難儀な人生送ってんなぁ」

「波乱万丈にもほどがあるっすよねぇ」


 俺だってもう少し平穏無事な人生を送りたいわ。

まぁ、言ってても仕方ないので地道に変える方法を探すしかないのだが。


「で、そのためにはヤマトの国へ行かなきゃならんと」

「ええ、ニーナちゃんヤマトの国の情報持ってないっすか? 結構放浪してたんすよね?」

「まぁ、放浪してたのは事実だが……アタシは西側の大森林から帝国にやってきたからなぁ。あいにくと東側はよくわからん」

「そうっすかぁ……まぁでも旅慣れてるニーナちゃんが入ったのは大きいっすね」

「旅っつってもあれだぞ? ひたすら街道を離れて隠れ潜みながら進む、ほぼ逃亡みたいなもんだぞ? っていうか事実逃亡だったし」

「あー……それは、まぁ過酷なサバイバルのときは頼りにさせてもらうっすよ。じゃあ、ヤマトへの旅路を考えましょう」

「まぁ、地図を見る限り順当に行くなら獣王国からレムリア共和国、フソウ公国を通って海を渡るのが一番近いんじゃねぇか?」

「うっ……やっぱ獣王国は通りますよね……」


 今度はココが苦い顔をする。


「そりゃまぁ、通らないとかなり大回りすることになるしなぁ」

「通らねぇって選択肢はねぇよな」

「っすよねぇ……」

「あとついでにココの故郷に寄って情報収集を……」

「絶対イヤっす」

「……ですよねー」


 ……うん、知ってた。

ていうかココの問題なんにも解決してないからな、考えが変わるはずもない。


「……なんだよココ、里帰りしたくねぇの?」

「ニーナ、前にも言ったろ。こいつ調子ぶっこいて学校退学になってるから故郷に顔出しづらいんだよ」

「あー、なるほどなぁ」

「言い方!! 事実っすけどもうちょっとオブラートに包んでほしいっす!!」

「いや事実なんだからしゃーないやん」


 ううむ、しかしどうしたものかなぁ……。










 ひとまず会議はお開きとなり、ニーナの装備を整えるためいつもの武器屋にやってきた。

ニーナ、俺とココ合作の頭巾とワイバーンの牙で作ったナイフ以外マジで普通の服だけだからね。もう少し上等な装備を整えて挙げないと。


「あー、そうだな、もう少し重心は切っ先寄りで頼む。あともう少し研いでくれ、切れ味がほしい」

「なるほどな、了解した。装備は兄ちゃんより軽装のでいいんだな?」

「ああ、軽く補強してあるくらいでいい。元から攻撃食らう気なんかねぇからよ」

「わかった、丁度いいの見繕ってこよう」


 ニーナが店主に注文をつけているのを見ながら、考えを巡らせる。

ココの問題は絶対に解決しなければならない。俺の情報収集は最悪どうでもいいとしても、家族と顔を合わせられないのはまずい。

人生何が起こるのかわからない。会えるうちに会っておいたほうが絶対いい。

急な不幸だって起こりうるし、俺みたいに別の世界に召喚されたりとかもありうる。


「ご主人、ココの問題どうするよ?」

「やっぱお前も気になるか?」


 店主が店の奥に引っ込んだことでフリーになったニーナが話しかけてくる。

ニーナとしてもココのことは気になるようだ。


「そりゃ気にするさ、仲間じゃねぇか。……それに、家族仲が悪いわけじゃないのに、会えないのは悲しいだろ」


 ……そうだな、こいつも家族には並々ならぬ感情を持っている。

今のココを見ていたら、もどかしく感じるのも当然か。


「……要は、あいつは学校を退学になってしまった負い目から家族に合わせる顔がないと思っちまってる。なら、学校を卒業するよりすごいことを成し遂げさせてやれば、改善できるかもしれん」

「卒業よりすごいことかぁ……アイツの通ってた学校って名門だろ? それよりすごいことってのはなぁ……」

「……ちなみに聞くけどワイバーン討伐くらいじゃ釣り合わないかな?」

「アタシに聞くなよ。ほとんど世捨て人みたいなもんだったんだから、そんなのわかんねぇよ。でもココが嫌がってるってことは、まだ釣り合い取れてねぇってことだろ」

「だよなぁ……」


 ううむ、難しい。

この世界での偉業となると……やっぱドラゴン退治か?

しかし、今の俺達じゃドラゴンなんか到底勝ち目ないしなぁ。


「ううむ……どっかに名誉挽回できるいい方法はないものか」


「Aランク冒険者になれば、その悩みも解決じゃぞ?」


「「ひぇっ!?」」


 突然の声に驚いて振り返れば、そこにはグラインさんがいた。


「ちょっ、驚かさないでくださいよ……」

「マジかよこの爺さん、アタシでも気づけなかったぞ……」

「かっかっか、この程度の気配遮断に気づけんようではまだまだじゃのう」


 カラカラと笑うが、正直マジで心臓に悪いのでやめてほしい。

まぁ、それはさておき。


「で、Aランク冒険者になると名誉挽回できるんですか?」

「そりゃあそうじゃよ。Sランクが一部の人外ども以外なれんゆえ、Aランクは実質最高ランクの冒険者となる。最高ランクの冒険者ともなれば扱いはほぼ貴族と変わらん。過去にどんなやらかしをしておったとしても、Aランクまで上り詰めれば誰も口出しできんじゃろうな」

「…………だが、Aランクもまた一部の強者以外なれない。アタシでも知ってることだ」


 あ、やっぱそうなんだ。

まぁ、そりゃ簡単になれたら意味ないもんな。


「まぁそうじゃのう。しかし、サクヤはワイバーンをほぼ無傷で倒し、その素材でギルドに多大な貢献をし、さらにはこれまで無視され続けていた危険な依頼を次々こなして再びギルドに貢献をしておる。これらはギルドとしても無視できないものじゃ」

「……いつの間にか評価が爆上がりしてますね俺」

「それだけのことをやったんじゃよ」


 マジか。半身食われたりバーサーカー扱いされた甲斐があったぜ。


「このままコツコツと依頼をこなしていても、お主らならAランクに手が届くじゃろうな。もしくは、ワイバーン以上の敵を倒すか、あるいはとてつもないお宝でも見つけられれば、すぐさまAランクに上げてもよい」

「……ちなみにコツコツやった場合どれくらいかかりますかね?」

「そうじゃのう……今のペースなら、あと半年から一年といったところかのう」

「半年から一年かぁ……」


 ……ううむ、流石に長過ぎる。

できれば今年中に旅に出たいところなのだが……。


「……ご主人? 最長一年でAランクに上がれるって破格の条件だからな?」

「あ、やっぱり?」

「まぁ、普通の冒険者では一生かけて手が届くか届かないかというランクじゃ。破格なのは間違いないのう」


 ううん……まぁ、危ないことは避けたいしなぁ。

俺だけならともかく、ココとニーナを危険な目に遭わせたくない。

俺が危険な依頼をこなせたのも、吸血鬼の再生能力でゴリ押したからなわけで、ただの人間な二人を付き合わせるわけには行かない。


「……ここは地道にやるか」

「だな、危ない橋は渡りたくねぇ」

「そうかそうか、では一層精進することじゃぞ」


 グラインさんの笑い声を聞きながら、とりあえず今日こなす依頼について思考を巡らせた。




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