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本日三話目です。

以降は書き溜めが続く限り一日一回ずつ投稿していきます。


「ぜぇー……はぁー……な、なんとか撒いたか……?」


 俺は城の一室に隠れながら、思わずそうつぶやいた。

 あれ以降もちょくちょく騎士との戦闘をはさみながら逃げていた俺は、見事に迷子になっていた。

まぁ、これだけ広いおかげで捕まらずに逃げ回れているんだが……にしたって出口まで遠すぎる。


「ていうか、よく考えたら正規の出口には門番の兵士とかいるよなぁ……うわぁ、絶対戦闘になるやつじゃん……」


 正直言って俺はもうボロボロだ。何より血液を使いすぎた。

しっかり血を飲んで休まないと身体の再生もできなくなってしまう。


「つっても弁当代わりの輸血パックはもう飲みきっちゃったし、かと言ってそのへんの人を襲うのはなぁ……」


 逃げ回ってる途中で怯えたメイドさんとか見かけたが……流石に直接吸血するのは憚られる。

というのも、輸血パックによる食事が一般的になった現代の吸血鬼において、直接の吸血は特別な意味を持つのだ。

まぁ、その……要するに眷属化させる……つまり、人間で言うとプロポーズするのに近い。

いや、、むしろ人間より長い吸血鬼の人生をともにしてくれというわけだから、プロポーズより重い。

それを見ず知らずに女性にするのは流石に……なぁ。


 あ、男はもっとNGな。単純にきつい。冷静に考えて? 同性の首筋に噛み付くとか普通に嫌だろ?

……空腹が限界ならやりかねないけど。


「限界を迎える前に、なんとかしないとな……」


 とはいえどうしたものか……さっき見かけた窓はガラスが分厚くて破れなかったし……。

ここはどうだろう? って窓もないな。ここなんの部屋だ?


「えっと……宝物庫? ……あれ、なんで文字読めるんだろ」


 あれか、召喚のときに読めるようになったのか? 随分便利だな勇者召喚。

まぁそれはともかく、宝物庫か。確かに奥の方に厳重にロックされた金庫みたいな扉がある。

……ふーむ、どうせこの世界に長くとどまることになるんだし、金は必要だよなぁ?

勝手に召喚されて勝手に追いかけ回されてるんだ、迷惑料くらい貰わないとなぁ?


「よっし、自分への言い訳完了。早速こじ開けますか」


 金庫のタイプは……良かった、魔術とかじゃないアナログ方式だ。

これなら剣にしていた血液をちょっと戻して、鍵の隙間に流し込めば……あとは血液操作で……よっしゃ、開いた!

 ふっふっふ、それではお宝とご対面と行きますかねぇ。


「なんか怪盗になった気分だわ」


 予告状でも出しときゃよかったかね。予告する、あんたのお宝いただくぜ! なんつって。

などと考えながら中に入ると、そこは文字通り金銀財宝だった。

金貨や銀貨といった貨幣はもちろんのこと、なんか歴史の有りそうな名剣っぽい剣や、豪華な甲冑、なんだかよくわからない道具まで様々だ。


「うひょー、大漁じゃん。……まぁ、全部かっさらうつもりはないけど」


 とりあえずお金から……あ、丁度いいところに革袋あるじゃん。

これに入れて……なんかやけに入るな、もしかして魔道具ってやつ? インベントリとか収納袋的な?

そりゃ宝物庫にあるんだからただの革袋なわけ無いか。まぁ便利だしもらっとこ。

他には……そうだな、これとか使いやすそうな剣だな。もってこ。

鎧は……いいや、動き鈍くなりそうだし。あ、軽装の鎧もあるのか、ならつけてこう。……学ランに鎧って壮絶に似合わないな。

っと思ったら服もあるじゃーん! なるべく地味めなやつで……。




 などと物色すること十数分。


「ふむ、これで異世界人には見えないな」


 劇的にビフォーアフターした俺がそこにいた。

ただちょっと仕立てが高級すぎて貴族っぽいな……やっぱ街に出たらもうちょい目立たない服を買う必要はありそうだな。

俺は、かっぱらった荷物を詰め込んだ袋を担いで、部屋を出た。






「そこの君、申し訳ないんだが道に迷ってしまってね。外までの道を教えてほしいのだが」

「あ、はい。かしこまりました」


 宝物庫を出てしばらくして現在、俺は鎧も脱いだ丸腰の状態でメイドさんに堂々と道を訪ねていた。

そう、宝物庫を出たあと俺は思いついたのだ。

服は貴族っぽくなった。ならそれを利用して城にやってきた貴族っぽく振る舞えばいけるのでは? と。


 もちろん普通なら着替えただけでは成功しないが、俺は吸血鬼である。こういうのにうってつけの便利なスキルが有る。


 その名も《変身》。その名の通り他の動物なんかに変身できるスキルだ。吸血鬼が蝙蝠になったり霧になったりする伝説のもとになったスキルでもある。

コイツは本来姿をまるっと変えてしまうスキルだが、ちょっと使い方をいじれば髪や瞳の色なんかを変化させることもできる。

上手い人だと全くの他人に変身してしまうらしいが……俺はそこまではできない。だが顔の印象を替え、髪と瞳の色を変えることで見事この世界の住人らしい風貌となり、怪しまれずに堂々と城内を歩くことができている。


 なんでこいつこんなとこにいるの? と訝しまれても、お上りさんっぽさを出しつつ迷子感をアピールすれば怪しまれない。

ふふふ……我ながらなんという奇策! これは世が世なら天下の名軍師とかになってたかもなーはっはっは!


「……といって、そちらを右に曲がれば出口です」

「ありがとう、たすかったよ」


 おっと、説明が終わったな。しかしいやに複雑な経路だった。

それだけ深くまで迷い込んでいたのかねぇ……。

まぁいい、後は脱出するだけだ。







 で、やってきました城門です。

さすがに俺を警戒してかなりの数の騎士や一般兵っぽい兵士が集まっている。

しかし焦ることはない。なにせ今の俺の変装は完璧なのだから。

そう、堂々と出ていけばいいのさ。


 えー、なにかあったのー? 気になるけど帰らなきゃー、みたいな空気を出しつつ、俺は兵士の見つめる中門までの道を歩いていく。

そして城門を出ようとした、そのときだった。


「失礼、記録を確認させていただきます。お名前を」

「き、記録?」

「はい、城に当城された方には全て入城と退城の記録を頂いています。お名前をお願いいたします」


 ……ま、マジで?

ど、どうしよう、入城の記録なんかあるわけ無いじゃん異世界から来たんだから。


「……いかがなさいましたか?」

「な、名前ね、うん、名前ね。え、ええっと……」


 い、いかん、門番の目がどんどんいぶかしそうになっていく!

こ、このままだと大量の兵士に襲われてしまう。

俺じゃあ、あの数の兵士相手に対抗できない。

こ、こうなったら……偽名を名乗るしか……いや、でもこの世界っぽい名前って何? 西洋風? 北欧風? アジア系? 何もわからん!


 ……ええい男は度胸、出たとこ勝負だ!


「えー、あー、ええと……私の名前は……ふ、フランシスコ・ザビエルです!」

「はい、フランシスコ・ザビエル様ですね」


 とっさに出てきた名前を名乗ったが、怪しまれずに済んだ。

よかったぁ………じゃああとは確認している間に逃げるだけ!


「じゃ、名乗ったんで失礼しますね! サラバダー!!」

「え、あ、ちょっと! まだ確認が……衛兵! 早く捕まえて!」


 ふっふっふ、予想通り追いかけてくる兵士の数は少ない。

そりゃそうだ、なんせ城の中には吸血鬼がいる。偽名名乗った程度の相手に守りを薄くしたくはないだろう。

 しかも外はちょうどいい具合に夜! ならばこの程度の人数など撒くのは容易!

夜闇に潜む吸血鬼の本領、見せてやるぜ!(なお生まれてこの方一度も夜闇に潜んだことはない)


 しかし、吸血鬼の本能のおかげか、影へ影へと潜み続け一時間ほど、俺はようやく追手を撒き、人心地つくのだった。




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