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2-09

 さて、魔法は一応使えるようになったわけだが、俺のメインウェポンは相変わらず血液剣と、この黒みがかった剣身が特徴的な頑丈な剣だ。

一応分類上俺は魔法剣士になるのだろうが、その剣士の部分の実力が足りていない。


 ので、こうして鍛えてもらっている。


「オラァッ!!」

「いかんいかん、力任せの大振りな攻撃なぞ当たらぬぞ?」

「くっ……はぁっ!!」


 誰にと言われればそれはもちろん修行をつけてくれると約束してくれたギルドマスターのグラインさんである。

今日訪ねたらちょうど暇だということだったので(サブマスと思われる人の恨めしげな目は見ないことにする)こうして稽古をつけてもらっている。


「だっしゃあ!!」

「脇が甘いぞ、気合い入れんかい」


 ……普通剣の修業って、基本の素振りから始まって型や身のこなしなどを教えてもらうと思うのだが、どういうわけか俺はいきなり実戦形式の訓練から始められている。

グラインさんいわく、「お主の場合型にはめるより自分特有の動きを伸ばしたほうが強くなれる」とのことだったのだが……まぁ、たしかに吸血鬼の身体能力に対応した剣術なんか存在しないわな。

じいちゃんあたりに聞けばそういう剣術もあるかも知れないが……あの人本当になんでもできるからね。

俺が平和な世界にいながら戦闘的な能力が使えるのもじいちゃんがもしものときのためにって教えてくれてたからだし。

とはいえ今の俺は異世界にいるので、じいちゃんに聞くことなどできない。

ならば俺流の剣術を見つけなければならないのだが……これがなかなかに難しい。


 なんせこのグラインさん、鬼のように強い。

どこを攻めても返り討ちに合うせいで心が折れそうだ。


「どりゃあ!!」

「足元がお留守じゃぞ」


 攻められた箇所は改善して、再び攻撃しては返り討ちにあって、その原因を精査して改善して……というのをひたすらに繰り返しているのだ、そりゃ心折れるって。

……だが、言い換えれば俺の剣にはそれだけ改善点があるということだ。

つまり改善すればしただけ強くなれる。


「ぬおりゃあ!!」

「急所を守らんでどうする、死ぬ気か」


 ……強くなれば、ワイバーンと戦ったときのような思いはしなくてすむ。

半身を食いちぎられるのは、本当にキツかった。

吸血鬼なので痛みとかは殆ど感じなかったが、なんというか……喪失感と言うか虚無感と言うか、そういうのがすごかった。

しかし、なによりも……ココが食われそうになったのが本当に情けなくて辛い。

俺がもっと強ければ、あんな食われる寸前までココを危険な目に合わせなくて済んだだろう。


「だぁあああ!!」

「闇雲に向かっても勝てんぞ」


 だから頑張る。

頑張って強くなる。

そうして自分の身とココを守れるようになって、初めて元の世界に帰る方法を探すことができると思うから。


「ウラァッ!!」

「……ほう、今のは良い一撃じゃ。しかしあとのことを考えねばな」

「うぼっ!?」


 グラインさんの剣、その柄をみぞおちに喰らい、俺は意識を失った。







「っつぅ……あの爺さんちっとは手加減しろって……」

「あ、おかえりっすー。その様子じゃ今日もボコボコっすか?」

「おかえり、なさい。大丈夫ですか?」

「あー、うん、ただいま。そうだよボコボコだよ。ああニーナ、手当はいい、ココの回復魔法があるから」

「はいはい、こちらにどうぞー」


 その後、医務室に放り込まれた俺は目を覚ましたあと、ちょっとした調べ物をして、ココたちのいる宿へ戻った。

帰ってきてみればココはだらしない格好で本を読んでて、ニーナは洗濯物を取り込んでいる。

……実に性格が出てるなぁ。


「……サクヤさん、変なこと考えてると治さないっすよ?」

「すみませんでした」


 さくさく進んでいこう。というわけで俺はベッドに横になり、その隣にココが立った。

……今の俺はニーナに怪しまれないように、そして人間に擬態する訓練の一環として、再生能力は完全に封じてある。

最初はかなり意識しなければならなかったのだが、今ではちょっと頭の片隅に再生停止の思考を残しておくだけでできるようになった。


 ……まぁ、そのせいで痛覚も人間並になってて辛いのだが、そこは必要経費だろう。


「あー……じゃあよろしく」

「はいはい、では『ヒール』」


 ココが俺の腹に手を当てると魔法が発動し、暖かな光が流れ込んでくる。

それと同時に再生停止を解除、一気に治す。


 ……あ゛ー、痛みが取れていくぅ……。


「……なんだか温泉に入ったおじさんみたいな顔してるっすよサクヤさん」

「え、マジで?」


 二重の意味でマジで? 温泉あるの? だったら入りに行きたいんだけど。


「あるっすよ。実家のそばなんで、行くならサクヤさん一人で行ってください」

「アッハイ」


 ……このココと実家の問題もどうにかせんとなぁ。

考えつく方法としては、もう一度魔法学校に入り直してきっちり卒業するか、あるいは魔法学校卒業以上の偉業を成し遂げるか。

俺としては最初の方法のが一番安全で確実だと思う。

まぁ年数はかかってしまうかも知れないが……今のココの実力で進級や卒業ができないとは思えない。

とはいえ、なぁ……。


「なぁココ」

「なんすか?」

「金なら俺が出すからもう一回魔法学校に入学するってのは――」

「絶対イヤっす」

「――ですよねぇ……」


 回復魔法止めて俺のみぞおちを圧迫するくらい嫌ですか。いやわかった、わかったからやめて、吐く! 吐いちゃうから!


「あ、すみませんつい」

「うぇっ…………いや、うん、俺も悪かった。そうだよな、トラウマだもんな」

「…………すみません、あたしもそれが一番確実なのはわかってるんすけど」

「いーって、気にすんな。なんかこう、ドカンとでかいこと成し遂げてさ、魔法学校退学なんか帳消しにしちゃえばいいんだよ」

「……具体的な案は?」

「………ど、ドラゴン倒すとか?」

「ワイバーンであんなに苦戦したのにっすか?」

「……まぁ、おいおい考えような」


 次の訓練のときにでもグラインさんに相談してみるか。

……などと考えていたら、洗濯物を片付け終わったニーナが興味深げにこっちにやってきた。


「……前から気になってたんですけど、ココさんって魔法学校通ってたんですよね、なんでやめっちゃったんですか?」

「う゛っ!!」

「うぼっ! こ、ココ、押すな! 出ちゃう、出ちゃいけないものが出ちゃうから!」

「はっ、す、すみませんサクヤさん!」


 ああー……ヒールの光が染みるわぁ…………。

でもこれ以上手を当てさせてたらまた押されるかもしれんからな、そろそろやめとこう。


「ココ、もういいから。手ぇ離せよ? 離したな? よし」


 身の安全を図ったところで、ニーナに向き直る。


「ニーナ、人っていうのは成長する生き物だ。つまり過去の人は今よりも色々劣っているんだ。つまり……なんだ、ココは学校を退学になっている」

「ちょっ、サクヤさん!?」

「ええ!? あんなに上手に魔法が使えるのにですか!?」


 ニーナの驚きもむべなるかな。実際俺も信じられないし。

……で、そんな信じられないことをした女は俺の脇腹に殴りかかってきた。


「ほらぁっ! ニーナちゃんにまで知れちゃったじゃないっすかぁ!!」

「いいだろ別に、どうせこの街の冒険者はみんな知ってるんだし」

「そうっすけど! そうっすけど! 姉的存在としての立場が!!」

「お前別にそこまで慕われてないだろ」

「ひどい!」

「いや、流石に慕ってないことはないです」

「……ニーナちゃぁん……いい子っすねぇ……」


 涙目になったココがニーナの頭を撫で回す。

フッ、素人め、ニーナはそこではなく頭頂部から側頭部にかけての横ラインが好きなのだ。適当に撫で回すと今みたいに若干嫌そうな顔をするぞ。


「あー、なんかその顔すっごい腹立つっすねぇ……サクヤさんだって御飯食べられなくて行き倒れてたくせに!!」

「はぁー? 一向に倒れてはいませんがぁー? むしろ行き倒れたのはお前だろうが、覚えてるぞあの腹の虫二重奏!」

「二重奏ってことはサクヤさんも鳴らしてたんじゃないっすか!」

「俺は物理的に倒れてないのでセーフですー!」

「きー!! あたしが上げた文字表見ないと字も書けないくせに生意気っすよ!!」

「おいバカマジで恥ずかしい情報暴露すんのやめろ」

「え、サクヤさん字書けないんですか?」


 ほらぁー! ニーナに学のない男だと勘違いされちゃうじゃーん!!


「いや違うんだよニーナ。俺は異国の出身でな、読めるんだよ。読めはするんだよ」

「でもまだ書けないっすよね?」

「黙っらっしゃい! もう半分くらいは覚えたわ!」

「つまりまだ完璧には書けないんですか?」

「ニーナさん!?」


 あーもう疲れてんのになんでこんな事やってんだー!!


 ……そうは思うもののこのしょーもない口論は、互いの知る弱点が尽きるまで終わることはなく。

結果として得たものは、ニーナに恥ずかしい情報を知られるというなんの役にも立たないどころかマイナスでしかないものだった。


 ……でもまぁ、ニーナが笑ってたしいいかな。

子供の笑顔は万国共通の宝です!! はいシメます!





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