2-08
ひとまずココの元を離れ、俺は氷雪属性の訓練に入った。
「まずはイメージ…………むう」
先程と同様に魔力を手のひらに溜め、それを氷に変化させるイメージ。
「むう……う、むむ……むう」
しかし、一向に変化する気配はない。
……まぁそりゃそうか。こんな単純な方法でできてたら今頃複合属性の使い手で溢れていることだろう。
「なら……複合っていうくらいだし、こうか?」
次に試したのは、魔力の同時変換。
手のひらの魔力溜まりを水と風に同時に変換させてみる。
「……だめか」
が、だめ。
風にも水にも魔力は変わらなかった。
なんというか……正解に近いんだろうけど、基本的な練度が足りてない気がする。
「俺の実力じゃあのやり方は無理か……」
その後も魔力をこねくり回して思考をフル回転させていろいろ試してみるが、一向にうまく行かない。
「はぁー、だめか……なんかあとひと押しって感じなんだけどなぁ……」
一番手応えがあったのが、片手で水、片手で風で混ぜてみることだ。
なんかさっきまでと違う魔力の感覚になったし、ここからあとひと押しだと思うんだが……。
「……魔法で一番重要なのはイメージ、か」
ココに言われたことを思い返す。
イメージ、イメージねぇ……。
つってもさっき氷をイメージしてもだめだったし……。
……順番、か?
いきなり氷を出すのではなく、氷になるプロセスをたどる必要があるのか?
「……それなら、水と風ってのは納得がいくな」
水はそのまま氷の材料、風は気温というか、温度の変化だ。
「試してみるか」
イメージするのは冷たい水。
このイメージに血は使えない。俺にとって血は温かい、もしくは熱いものだからだ。
冷たい水……冷たい水……真冬の水道から出てくるキンキンに冷えた水が一番イメージしやすいか。
「……今までで一番出力がしょっぱいな」
所詮水道の水イメージだからね。そのうち大きくできるようにしよう。
続いて風だ。
こちらは簡単、真冬の身を切るような凍える風をイメージすればいい。
結果、できたのだが……。
「……なんか規模が違いすぎるな」
イメージ力の問題だな、水に対して風の規模が大きすぎる。
もう少し魔力を絞って、だいたい同量くらいの魔力で留める。
「そして、こいつらを合わせる!」
両手に溜めた水と風を、手を合わせて合体!
「…………だめか」
しかし なにも おこらなかった!
「んー、なんでだろうなぁ……発想は間違ってないと思うんだが……」
……複合属性だから、二つの属性を組み合わせるのは間違いないんだが。
「んんー…………もしかして魔力の段階で混ぜるとか?」
もしかして、魔法として発現させてしまった魔力は混ざらないし変化しない、とか?
まぁ、試してみよう。
まず右手に先程と同じく水のイメージを込めた魔力を貯める。
ただし水に変化はさせない。あくまで魔力の状態のままだ。
んで左手に風、こちらも魔力のまま。
そして二つの魔力を――合体! すかさず氷のイメージ!
……すると、俺の両手のひらの上には、小さいながらも氷ができていた。
「おお……よっしゃあできたぞ!!」
なるほどなー、魔力の段階で属性を決めた上で混ぜてイメージを乗せて発現させるのか。
……これ、血液操作を水代わりに使ったらイメージ力も魔力も節約できたりしない?
「……まぁ、それは今度か」
血液操作は人目につくところじゃできないからな。いくら人気のない宿の裏庭とはいえ、気軽にできるもんでもない。今後できるか試してみよう。
「お、おおっ、で、できたんすかサクヤさん!?」
そうこうしていると俺の声を聞きつけたのかココたちが来た。
にしても……なんか挙動不審だなこいつ。
「……なんかあったのか?」
「べ、べっつにぃ? 特にご報告するようなことはないっすよ?」
「……本当か?」
「ほ、本当っすよ。それよりサクヤさん、どうやって氷雪属性出したんすか?」
「んー、まぁいいや。氷雪属性っつーか、複合属性は魔力の段階で属性を決めて、それを混ぜた上でその現象をイメージする必要があるみたいだ。試しに……」
俺はさっきと同様、右手に水、左手に風属性の魔力を貯める。
「これを混ぜて、すかさず氷雪属性のイメージ!」
……すると、小指の爪くらいのサイズの氷ができた。
「……出力が足りないっすね」
「……出力が足りないな」
……ま、まぁでもできてるし。
「しかしなるほど、魔力の段階で混ぜるんすねぇ……ほいっと」
「オイコラお前何しれっと氷雪魔法使ってるんだよ」
しかも俺より遥かにでかい氷作ってるし!
「いやぁ、あたし全属性使えるんで、やり方さえわかれば大体の複合属性が使えるといいますか」
そう言ってココは様々な魔法を繰り広げていく。
溶岩のようなものが広がったり鉄塊が出てきたり砂漠化したりなんかレーザーみたいなのが出てきたり……。
「ストップストップストーップ!! やめ! 庭がひどいことになってるから! これ俺たちが直さなきゃいけないんだぞ!?」
「おっと、そうでした」
そうでしたじゃねーぞどうすんだよこんなに荒れ果てちゃって……。
「まぁでもこのくらい土属性の魔法でパパっと直せますから」
「…………ええー」
ココが杖を地面に突き立てると、地面が動き出してきれいに整地されていく。
グニャグニャとありえん動きをして、砂漠化したところも溶岩に変化したところも鉄塊も地面に埋まり、数分で入る前と何ら変わらないきれいな裏庭となっていた。
「…………ええー」
……何でもありかよ魔法。
「いや、サクヤさん驚いてますけど、サクヤさんで水なら同じようなことできるじゃないっすか」
「え? あ、うーん……どうだろう?」
……イメージしてみるが……まぁ、一から水を生み出すのは出力が足りないが、もともとある水を操作するくらいなら……できる、かな?
……いや流石に今の規模は無理だわ。
「まぁサクヤさんならそのうちできるようになりますって」
「………そうか? ……そうかなぁ?」
「いやー、しかし複合属性の使い方が知れたのは収穫でしたね。おかげで戦術の幅が広がったっすよ」
「……俺の修行パートのはずなのになんでお前が強化されてるの?」
おかしいなぁ、今日は俺が魔法を使えるようになってパワーアップするはずだったのに、なんで相方のココがパワーアップしてるんだ?
いやまぁ、相方が強いほうがいいとは言ったけど、これは流石におかしくない?
「まぁまぁ、サクヤさんだって魔法使えるようになったんですし、パワーアップしてるって言ってもいいじゃないっすか」
「いやまぁ、そうだけど……」
俺なんかあれよ? 水道の水並のショッボイ出力の水と、そよ風程度の微風と、小豆大の氷が作れるようになった程度よ?
これをどう戦闘に活かせと。
「反復練習あるのみっすよ。あたしも見てあげますから、地道に頑張りましょう」
「そうだな……。……ちなみにお前は反復練習したんだよな?」
「いえ? 特にしなくてもそこそこの規模の魔法くらいは使えましたけど」
「うわぁん!! もう嫌だこの天才!!」
なんで!? なんでこんなやつが退学になったの!? 魔法学校って魔境なの!?
「ちくしょう! 絶対すげぇ魔法使えるようになってやるー!!」
「あ、ちょっ、サクヤさん戻るならニーナちゃん隠さないと! サクヤさーん!!」
それから数日間、俺は悔しさを糧に寝る間も惜しんで魔法の訓練に励んだ結果、戦闘でちょっとは使える程度の魔法が使えるようになった。