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2-05

 それからというもの、ココはまだ衰弱しているニーナの看病、俺は朝から晩まで依頼をこなして金を稼いでくる係となった。

俺もニーナと遊びたかったので文句を言ったのだが、「こういうときは男が稼いでくるものっすよ」とのお言葉を頂いた。


 いや待ってほしい、男女平等が叫ばれる昨今においてその考えはいささか旧世代すぎるのではなかろうか。

女性の社会進出が推奨されるのであれば、逆に男性が家庭に入ることだって推奨されて然るべきだというのに、専業主夫になるとやれヒモだのやれ穀潰しだのと揶揄されてしまう。

こんな世の中では真の男女平等など訪れるはずもない。

変えていかなければならないのだ、世界の認識を。


 ……とまぁ、こんな感じのことを言ったのだがよくわからないこと言ってないでさっさと稼いでこい(意訳)とのお言葉を頂いたので、俺はソロぼっち状態で、ときおり他のパーティに混ぜてもらってひたすら金を運ぶ親鳥状態になっている。


 いや、実際後衛職であるココが一人で稼ぐってのはそりゃ厳しいし(実際俺に会わなければ金欠で死にかけてた)、言っちゃなんだが万能型である俺が仕事してココがニーナの面倒を見るっていうのが最適解なのはわかる。

けどさ、なんというか、こう……。


「……寂しい」


「おい、さっきまでゴブリン虐殺してたやつがなんか言ってるぞ」

「亜竜殺しにはあの程度じゃ物足りないんだろ」

「俺達の仕事殆ど持ってったしな」

「やはりドラゴンクラスでないともう満足できない体になっていたのか……」


「おいこら聞こえてんぞ野郎ども」

「「「ヒェッ」」」


 俺のつぶやきに反応して、一緒に仕事してた連中がガヤガヤ騒いでくる。

コイツらは俺と同じBランクの冒険者で、名前は…………クライス、ヒック、ニーズ、ヴァルト、だったかな?

あ、ちなみに亜竜殺しってのはワイバーンを倒したことで付いたあだ名だ。正直竜殺しとかならともかく亜竜殺しだと締まらないので別のあだ名に変えたいところなのだが。

……現状だと、なんか『狂戦士』とか『バーサーカー』とかが次点で上がってきそうなので特に訂正はしていないが。


 ……おかしいなぁ、なんで俺こんな狂戦士扱いされてるの?

たしかに今は金が必要だからと危険な魔物退治の依頼ばっか受けてたけど、これでも平和主義な吸血鬼ですよ?


 なおその危険な依頼は大体再生能力と血液操作でゴリ押してクリアした。

ゲームじゃないからね、ワイバーン倒したからってレベル上がって強くなったりはしないしそんなもんよ。

そのうち鍛えるつもりではあるが。


 まぁそれはさておき、今回の仕事は仕事仲間その一が言ってたとおりゴブリン狩りだ。

どうも大規模な群れができてしまったようで、周辺被害が出ないよう依頼が来たわけだ。


 ゴブリンは武器を操る程度の知能を持ち、雑食で何でも食べる。

つまりは作物も荒らされるし、何なら人間だって殺して食う。

そしておおよそのR-18な作品のイメージ通り、性欲旺盛でメスと認識すればどんな生き物でも襲う。


 そんな危険な害獣であり、女性の敵であるゴブリンだが、よくいる雑魚モンスターというわけでもなく、俺達のような冒険者か、あるいは兵士でなければ基本的に倒せない。

なんせ武器を操るのは先述のとおりだが、魔物である以上魔力を持っているので、原始的な魔法を扱えるのだ。


 といっても基本的に身体能力強化しか使えない。他の魔法が使えるようになるとゴブリンメイジとして区別され、より危険度が上がる。


 この他にもより能力を特化させたゴブリンソルジャーやゴブリンアーチャー、仲間を統率して集団戦を得意とするゴブリンリーダーなど、基本のゴブリンから派生した変異種はすべて危険な存在であり、俺達のようなBランク冒険者でも油断すればやられてしまう。


「とりあえず群れはこれで全部か」

「変異種はいなさそうだな」

「油断するなよ、アーチャーやメイジなんかは隠れるのがうまい。いつ攻撃されてもいいようにしろ」


 まぁ、油断すれば、だ。

今回の仕事仲間はその辺しっかりしていて、安心して背中を預けられる。


「む」


 と、一筋の矢が飛来する。

すぐさま剣を抜き、切り払う。


「ほっ……と! アーチャーが出たぞ!」

「……すげぇ、何今の反応」

「お前剣士だよな、あれできる?」

「いや……発射されるのを見てたならともかく、不意をつかれたら回避が精一杯かな」

「お前ら仕事しろや!!」


 怒りの叫びとともに、矢の飛んできた向きからゴブリンアーチャーの位置を把握し、すぐさま飛び込む。

弓矢はどうしたって発射に時間がかかる。こういうのは速攻で仕留めるのがベストだ。


「グギャッ!?」

「死ねやオラァ!」


 重さに任せて剣をゴブリンの首に叩き込み、その骨を折る。

……血液剣ならスパッと切れたんだがな、今の頑丈な剣では流石に切れん。

ゴギャッと音を立てて、そのままアーチャーが崩れ落ちる。


「……………ん、ほかはいないか」


 とりあえず嗅覚に集中してみるが、新手はいなさそうだ。

吸血鬼の嗅覚は人間相手に強く働くものだが、流石に嫌悪感を覚える悪臭を放っているゴブリンを嗅ぎ分けられないほど鈍くはない。

それでもこのゴブリンアーチャーのような連中は臭いでバレないよう体を洗うことを覚えているから、一概に安心とは言えないが。


「おー、こりゃまた随分とえげつない……」

「下手な棍棒より威力のある打撃だな……」

「うるせーな俺の剣は切れ味皆無なんだよ」

「それって剣ではなくただの鈍器では?」


 そんな会話をしつつ、五人で手分けして周囲を探索して、他のゴブリンは見つからなかった。

ええと……ヒックだったかな? はいわゆるシーフで俺より遥かに精度の高い探知能力をもっているが、それでも見つからないのだからすべて殺しきれたか、あるいは散り散りになって逃げたかのどっちかだろう。


「逃げられてると面倒なんだがな……」

「まぁ、群れなければ村にいる衛兵だけで対応できるだろう」

「だな。ひとまずは取り逃した可能性あり、今後も警戒されたし、という報告でいいだろう」

「依頼内容も群れの撃退であって殲滅ではないからな、それでいいんじゃないか?」


「「「「…………」」」」


「な、なんだよ……?」


「亜竜殺しが、これで満足だと……?」

「てっきり山狩りじゃあ! くらい言うかと思ったんだが」

「大丈夫か? 調子悪いなら回復魔法かけるぞ?」

「いや、逆に弱すぎて興が削がれたんじゃないか?」


「「「ああ、なるほど」」」


「なるほどじゃねぇよ! お前ら人をなんだと思ってんだ!!」


「戦闘狂」

「初日にワイバーンに挑むバカ」

「俺より強い奴に会いに行くって言うやつ」

「あの狐っ娘に手を出さない男として死んでるやつ」


「最後! 最後ただの暴言じゃねぇか! いやほかも大概だけど!」


 あー、もうこいつらの相手疲れた……頼りにはなるけどもう組みたくない……。

早く帰りたい、ニーナと遊んで癒やされたい……。















「たっだいまー!!」


 ひゃっほう自由な時間だぜ! もうすっかり夜だけどな!

……いや、帰ってきたときは夕方だったんだよ。でもほら、血の匂いとかゴブリンの悪臭がすごかったし、念入りに洗ってたらこんな時間になっちゃったんだよ。

ニーナに「サクヤさん臭いです」とか言われたら致命傷だからな……そこは気を使うのさ。


 そのうえなんやかんやと用事があったからな。こう見えて俺も忙しいのさ。


「あ、サクヤさんおかえりなさい。でもちょっと静かにしてくださいね、ニーナちゃん今寝たところっすから」

「なん……だと……!!」


 膝から崩れ落ち、床に手をつく俺。

頑張って仕事して、帰ってきたら娘(娘じゃない)がいると思っていたらすでに眠っている……これが世の社畜お父さん方が抱えている絶望か……。


「いいけどね……いいんだけどね……子供は寝て育つからね……」


 深夜アニメに釣られて夜ふかしして背が伸びなかった男が俺だからね(身長169センチ)……。

……あと一センチでいいから伸びないものか。


「はぁー……んじゃ今回の報酬の五万ソルな。何度も言うが生活費だからなこれ」

「わかってるっすよ。ニーナちゃんが回復するまでの巣篭もりのためのお金っすからね」


 ちなみに今回の報酬は一人頭総額で十万ソル。ゴブリンの群れという危険な相手だったので結構な額だ。

んで、その半分を俺がもらってもう半分は生活費という取り決めだ。

まぁ、そろそろ五十万ソルくらいは稼いでいるし、俺も少し休んでニーナと遊びたいものだ。


「……なんかすっかり父親気分だな」

「……あたしもなんか母親気分っすよ」


 ということは、俺達夫婦気分……?


「……いやないな」


 夫婦どころか恋人状態すら想像できんわ。

一緒にアホなことやる友達がせいぜいか。


「んじゃ俺自分の部屋に戻るわ」

「はいはーい、お疲れ様でしたー」


 くだらない妄想はやめて、早いとこ眠ろう。流石に今日は疲れた。

装備をすべて外し、俺はベッドに潜り込んだ。








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