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2-04


「お、おお!! 気がついたか迷える少女よ!」


 いかん、気が動転してなんか変な口調になってる。神父か俺は。


「ここ、は……」

「すぅー、はぁー、よし……ここは俺が借りてる宿の部屋。お前が森で倒れてたところを保護したんだ」


 軽く呼吸を整えて、幼女に今の状況を説明する。


「あなた、は………?」

「俺はサクヤ、サクヤ・モチヅキ。一応Bランクの冒険者だ。駆け出しだけどな。お前は?」

「……ニーナ、です。……っけほ、けほっ」


 むせたニーナを見て、俺は水差しからコップに水を注ぎ、ニーナに渡した。


「ほら、とりあえず飲め」

「すみ、ません……こく、こく……」


 やはりのどが渇いていたのだろう、かなりのスピードで水がなくなっていく。


「ありがとう、ございます……」

「いいって。おかわりいるか?」

「いえ、大丈夫、です……」

「そうか」


 そして下りる沈黙。

……あかん、気まずい。

どうしよう、俺こんなに子供苦手だったっけ?

……思えばこのくらいの小さい子供と話した経験ほとんどなかったな。

加えて元々俺ってそんなに社交的じゃないし……え? ココとのやりとり? アレはほら、あいつが会話回してくれるから……。


「あの」

「はいっ!?」


 そんなことを考えていたらニーナの方から話しかけてきた。

びっくりして思わず変な声出ちゃったよ。


「あ、え、えーと……どうした?」

「サクヤさんは……その、私をどうするのですか?」

「どうって?」

「わかってますよね……私が逃亡奴隷だって」

「まぁな」


 ココから聞いてるしね。

その上でどうするか、か……まぁ答えは決まってる。


「ひとまず俺ともう一人の仲間で匿う。んで、ほとぼりが冷めたら奴隷から解放しようと思う」

「……本気、ですか?」

「おお、本気だとも。疑うなら契約魔法交わすか?」

「い、いえそこまでは……でも、奴隷からの解放って、どうする気ですか?」

「んー、そうだなぁ……」


 奴隷から解放されるには二通りある。

借金奴隷は決められた基準に従って労働によって借金を完済すること、犯罪奴隷は決められた刑期を終えることだ。

……そう、これだけだ。

ニーナのように誘拐からの人身売買コンボで奴隷になってしまった場合、解放されるための手段が存在しないのだ。

全くもってザルな法律なのだが……裏を返せば違法な奴隷についての法律は存在しないってことだ。


 ならば、俺の能力でどうにかしてしまえばいい。


奴隷の解放は主に衛兵立会の元主従契約が使える奴隷商人の元で行われる。

なら、奴隷商人と衛兵を催眠の魔眼で操り、適当な記憶と記録を捏造させてしまえばいい。

実にシンプルで確実な手段だ。

犯罪行為だと罵るのであれば、そもそもちゃんとした法律を整備してない方が悪いし、何より俺はこんな小さい子供を傷つけるような法なら守るつもりはない。


「まぁアレだ、俺の魔法でどうにかするさ。ニーナはなにも心配しなくていい」

「は、はぁ……」


 とはいえ、まだ幼いニーナにこんなアウトな思考は情操教育上よろしくないので、適当に誤魔化しておく。

この辺までがココと街に戻るまでの間に話し合って決めた部分だ。


「ただいま帰ったっすよーって目覚ましてるじゃないっすか! お嬢さんお名前は? あたしココノエっていいます、気軽にココって呼んでくださいね!」


 とか思ってたらタイミングよくココが帰ってきた。

そして怒涛の言葉の連撃である。やっぱコイツ社交性の塊だよ。


「あう、えと……ニーナ、です」

「おほー、可愛いっすぇ! そうだ飴ちゃんあげましょう!」

「その辺にしておけ、ニーナが目ぇ白黒させてる」

「おっとこれは失敬。あ、そうだサクヤさん、これ今回の報酬っす。すでに山分け済みなんで確認してください」

「オッケー……ふうむ、五万ソルか。まぁまぁだな」


 たしか狩った猪は全部で十体だったはずだし、こんなものだろう。

俺は確認した金を部屋備え付けの金庫に入れた。

収納袋があるとはいえ大金を持ち歩くのは怖いので、最近はもっぱらこっちに収納している。


「えと……サクヤさんが言ってたもう一人の仲間って……ココさん、ですか?」

「ああ、俺の相棒だ。さぁ、ココも戻ってきたし、飯にしようか」

「ですね。いやぁこの宿のご飯久々に食べますよ」

「いっつも冒険者ギルドで済ませてたもんな」

「安いし依頼帰りに食べられますからねぇ。あ、ニーナちゃんもお腹すいてるでしょう? いっぱい食べていいっすよ、サクヤさんが奢ってくれますから」

「バカ言え、何も食べてないなら胃腸が弱ってるだろうし消化のいいものを少しずつだ。いきなりたくさん食べたら体に悪いだろうが」

「……奢りについては何も言わないんすね」

「そこについての文句は何もない。ニーナは俺が養う」


 そんな会話をしつつ、俺たちは食事を取りに一階へと降りていった。

……そんな俺たちを見つめる、ニーナの無機質な瞳が、少し気になった。
















 ひとまずニーナは動けないので、追加料金を払って食事を出してもらい、部屋に持っていった。

俺とココはパンと野菜のスープ、ニーナは胃腸に優しい麦粥だ。


 ニーナの話を聞くと、どうやら3日ほどあの森を彷徨っていたらしい。

途中水場を見つけたという話だったが、それがなければかなり危うかったところだ。

人間はおおよそ3日ほど水を飲まなかったら死ぬ。まぁエルフだからもう少し耐えられるかもしれないが、非常に危険だ。

空腹の方も、ちょっと味見したけどさほど美味しいとは思えなかった麦粥を丁寧に、しかし結構な速度で食べていくあたり相当飢えていたのだろう。


 そんな苦労話を聞いてると、なんだか俺まで悲しくなってきて思わずニーナの頭を撫でてしまう。


「よしよし、ゆっくり慣らして、いっぱい食べられるようになろうな」

「ありがとう、ございます……でも、その……私、二十歳なのであまり撫でられるのは……」

「……マジ?」

「マジです」


 ……俺より年上じゃねぇか!

うわぁどうしよう、ニーナさんとか呼んだ方がいいんだろうか。

思わず頭を抱えていると、ココがもしゃもしゃとパンを食べながら言った。


「サクヤさん、エルフの精神年齢は大体見た目通りっすよ。なんでちょっとオマセなセリフくらいに考えれば大丈夫っす」

「なーんだそうなんか! よーしよしよしよし!」

「ちょっ、やめ、やめてください……」


 そういうことならいっぱい頭撫でちゃうぞー。ほーらここがええのんかぁ?


「あ、あう……何この人……撫でるの上手すぎ……」


 ふふふ、これでもありとあらゆる犬猫を撫で回して懐かせてきた男だからな。俺がその気になれば居住区の犬猫全てを集めることもできるのさ。


「あ、年齢といえばあたしサクヤさんの歳知らないっす」

「そういや俺もココの歳知らんな」

「はう……お、お二人ってコンビなんですよね……?」

「ニーナ、覚えておけ。信頼さえあれば年齢なんて瑣末な問題だ」


 とはいえ、知らないのはまずいので聞いておこう。


「俺は十七歳だな」

「んぇ、意外と年上……あたしは今年で十五っす」

「マジか」


 発育がいいから同い年くらいかと思ってたわ。

しかし十五……日本では中三かぁ……手ぇ出したら犯罪だな。いや出さないけど。


「そういや年齢でおもったんだが、このせか……ゲフン、この国の暦ってどうなってるんだ?」

「あー、そういや説明してませんでしたね」


 ココの話では1日は24時間、5日で一週間でこれが四週間で一ヶ月、これが季節毎に四ヶ月あって、一年は十六ヶ月となるらしい。

つまり一年は五×四×十六で三百二十日。一月の数は多いのに日数が日本より少ないのが面白い。

日本の一年より日数が少ないということは、この世界……というか惑星は公転周期が地球より短いのだろうか?


 なんにせよ異世界らしく俺の常識と違うことが多い、早めにすり合わせていかないとボロが出てしまうだろうし、ちゃんと学んでいかなければ。






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