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本日二話目になります。


「ああ、よくぞいらしてくれました! お待ちしておりました勇者様!!」


 光が消えると、そんなセリフが飛び込んできた。

言い放ったのは、金髪碧眼の超絶美少女。


 そんな美少女が俺の手を取り、見つめてくる。


「え、ええっと……なにこれ、どういう状況? なんで俺こんなところにいんの?」


 見渡せばそこは宮殿を思わせる一室だった。

豪華な装飾が壁一面に施され、天井はめちゃくちゃ高いし、床は大理石だ。

そして俺の足元には先程の魔法陣と同様の彫刻が施されている。

さらに数人のローブを着た魔法使いのような連中が魔法陣を囲んでおり、更にその周囲に騎士のような連中がいる。

とても、現代とは思えない光景だった。


 ……もしかして、これは最近流行りのアレ、なんだろうか。

いやいやまさか。アレは二次元の存在であって、現実に起こるわけがない。

ましてや俺、吸血鬼だよ? そんな存在が異世界召喚なんて――


「ああ、失礼いたしました。異界から来られたばかりで困惑されていますよね。ですがご安心ください、私がご説明いたします、勇者様」


――はい、目の前の人物の発言で決定のようです。


 ……俺、異世界に召喚されちゃったよ。






 とりあえず目の前の美少女――ルーミア姫いわく、今この世界は魔王軍によって攻められており、大変なピンチらしい。

矢面に立っているこの国――アトランティス帝国はその国力でなんとか持ちこたえていたが、皇帝が急病に冒されて倒れてしまった。

幸い今も生きてはいるがとても公務を実行できる状態ではなく、姫様であるルーミア姫が現在帝国を取り仕切っているらしい。

ただでさえピンチなのに旗頭となる皇帝が倒れたこともあって士気はボロボロ、当然戦果も芳しくない。

そこで姫様は、古より伝わる勇者召喚の儀を執り行い、俺が呼び出されたそうだ。


「えーっと……期待してもらってるとこ悪いんだけど、俺普通の学生っすよ? 戦ったことなんか一度もないし、勇者なんか務まるかどうか……」


 だから早く帰してくれと願いを込めて姫様を見つめるが、ニッコリと笑顔で返された。


「大丈夫です! 勇者召喚の儀で呼び出されるのは高い潜在能力と巨大な魔力を持った人間です! そして何より、勇者として召喚されたものには魔を討つ特別な力が宿るとされています! 今は素人でも、訓練すればすぐに強くなりますよ!」

「ア、ソデスカ」


 召喚された理由それじゃねえか!

そりゃ高い潜在能力も巨大な魔力も持ってるよ、だって俺吸血鬼だもん!

勇者云々以前の問題じゃねぇかその儀式! せめて人間とそれ以外は選別しろや!


 ……それに魔を討つ力? それって使ったら真っ先に俺が討たれるやつじゃねぇか。


「ですので……お願いします勇者様! どうか魔王を倒し、この世界を救ってください!」


 とはいえ……こんな年端も行かない少女の必死の願いを蹴れるほど、俺は人でなし(人じゃないけど)ではないわけで。


「……俺にできるんでしたら」


 結局、俺はそう答えてしまうのだった。

……大丈夫なのか? 吸血鬼に勇者なんて務まるのか?






〈――魔物の侵入を検知しました! 総員直ちに戦闘配備に付いてください! 魔物の侵入を検知しました――〉


 はい、俺が部屋から出た瞬間サイレンとともにこのアラートである。

そりゃあそうですよね勇者なんか務まるわけねぇわ!

いや、ある意味納得のアラートだし、俺自身魔に属するものではあるけど……魔物扱いってひどくない? 一応知性体だよ?


「ま、魔物!? そんな、城内に侵入するなんて……ですがご安心ください勇者様。城内には選りすぐりのエリート騎士たちでガードされています。どんな魔物だろうとすぐに仕留められることでしょう」


 いやすみません、逆に安心できなくなってしまいました姫様。

選りすぐりの騎士とやり合うとか勘弁してほしんですけど! こちとらただの高校生だよ!?


 い、いやむしろ堂々としていればいいんだ。そうとも、見た目じゃばれないんだからこのまま人間のふりをしてアラートが静まるのを待てば――


〈――魔物の位置を特定しました! 城内四階、召喚の間入り口です! 付近を警ら中の騎士は速やかに現場へ急行し、魔物の討伐に当たってください! 繰り返します――〉


 あ、ダメなやつですねこれは。

騎士の方々、どうか急行しないで、お願いだから。


「そんな! この場所に魔物!? 魔術師たちよ、すぐに探知しなさい!」


 探知しないでおねがいだから!


「え、ええと、姫様、その……」

「どうしたのですか?」


 探知していた魔術師が、姫様に何事かを告げる。

あ、終わりっすねこれ。


「勇者様から、魔物の反応が出ております」

「…………え、ええと、勇者様から?」

「はい、吸血鬼だと」


 …………降りる沈黙。


「あばよ!」

「ひっ捕らえて処刑なさい!!」

「対応早いなおい!!」


 手を出される前にと駆け出した俺を、恐るべき切り替えの速さを見せた姫様の指示を受けた騎士たちが動き出す。

俺はさっきから魔力で強化しておいた両足で床を蹴って跳躍し、包囲網を飛び越え、駆け出した。


「追いなさい! 今すぐに!」

「ちょっ! さっきまでと態度違いすぎない!?」

「黙りなさい薄汚い吸血鬼風情が!! 勇者の名を騙ったその罪……地獄で贖いなさい!!」

「別に自分から名乗ってないんですけど!!」


 ていうか姫様怖いわ! あとさっき握った手をいかにも汚いもの触ったみたいにハンカチで拭かないで、地味に傷つくから!


 とはいえ、うかうかしていられない。

今の姫様の対応的に吸血鬼はこの国じゃ受け入れられてないっぽい。……いや、下手したら世界全てがそうかも知れない。


 ちくしょう、なんて世界に召喚されてしまったんだ俺は。

とはいえ、流石にまだ死にたくはない。

なので、生きるためにせいぜい逃げ回るとしよう。


「くそっ! あの吸血鬼なんて速さだ!」

「いかん、鎧のままじゃ追いつけん!」


 幸いにも騎士の皆さんは鎧のせいで動きが鈍く、逃げやすい。

これならどうにか逃げられるか――?


「よし、回り込めたぞ!」

「ここは通さんぞ吸血鬼!!」


 はい、そううまい話がある訳ありませんでした! 回り込まれたとさ畜生め!


 まずいな、さっきのような高跳びは逃げるための準備を整えていたからできた技だ。

戦闘特化の吸血鬼なら瞬時に脚力を強化して同じことができるんだろうけど、俺にはできない。

となれば、だ。


「倒すしかねぇか!」


 幸い相手は二人、吸血鬼のスペックでゴリ押せば行けるか?

考えながら、俺は自分の親指を八重歯で噛み切った。

その瞬間、小さな傷からは考えられないほど大量の血液があふれ、剣の形となって凝固した。


 これぞ吸血鬼の固有スキルの一つ、《血液操作》だ。

今みたいに血液を凝固させて武器にしたり、傷口に使えばすぐさま止血したりと便利な技である。

ただ血液を固めただけと思うなかれ、血中の鉄分を増幅して固めたこれは、並の武器より遥かに硬い。


 さて、武器は出した。あとはうまくいくか……。


「はぁっ!!」


 斬りかかってくる騎士の剣を、俺は無手の左腕で受け止める。

当然というか、防具も何もつけてない左腕は、そのまますっぱりと斬り落とされた。


「なっ――!」

「せあっ!!」


 だが、こんなものは大した痛手ではない。

俺は瞬時に再生した(・・・・)左腕を血液剣に添え、騎士の頭――正確には兜めがけて両手で大きくフルスイングした。

 そうとも、吸血鬼は弱点を突かれない限り不死身。部位欠損くらい瞬時に治る。

 俺が迷うことなく左腕を捨てたことで虚を突かれた騎士は、頭を殴られた衝撃でそのまま気絶した。


「クソ、この化け物め!!」

「ひどい言われようだなオイ」


 一人倒されて動揺した騎士が突っ込んでくる。

だが、さっき腕を落としたのには虚を突く以外にも理由がある。

それは――トラップだ。


「この――って、う、うわっ!!」


 俺の腕から流れた血溜まりに足を踏み入れた瞬間、血液操作を発動。

足を血液の鎖がガチガチに固定する。


「ほいっと!!」


 その隙を見逃さず、再び頭を殴って気絶させる。


「……案外戦えるな、俺」


 思わずそうつぶやきながら、俺は後ろの追手から逃げるため、脚を動かすのだった。




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