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2-01

 ワイバーンを倒して数日後、晴れてBランク冒険者に昇格し、端数切捨てて一千万ソルという大金を手に入れた俺達は、なぜか冒険ではなく図書館にいた。

というのも、俺たち――というか俺の目的は、冒険してお宝を見つけることでも、大金を稼いでウハウハな生活をすることでもなく、元の世界へ帰ることであり、そのための情報収集である。

具体的には、これまでこの帝国に召喚された勇者がいないかどうか、そしていたとしたら帰れたのか、どんな方法で帰ったのか。

そしておそらく一番の手がかりであろう、漢字を使うという国……ヤマトの国に関する詳細な情報が知りたい。


 そんなことを異世界人であることをぼかしつつグラインさんに聞いてみたら、国立図書館があるので言ってみるといいと言われ、こうしてやってきたわけだ。


 なお、入館料は一人頭二千ソルである。地味に高い。

さらにもし蔵書を汚損、破損させてしまったら、場合によっては十万から百万近い罰金が取られる。

まぁ、印刷機のないこの時代、それだけ本が貴重だということだろう。


 そんなわけで俺はいつも読んでた週刊誌に比べてかなり慎重な手付きでページを捲っていく。

読んでいる本は、『アトランティス帝国伝承考察』という本だ。

その名の通りこの国に伝わる伝承が、筆者の考察とともに載っている。


 たとえば、この国の成り立ちとか。

この国はもともと小さな漁村だったが、初代皇帝となる男が魔物よけの特殊な魔法陣の作成に成功し、これによって水棲の魔物によって渡ることが困難とされていた海や川を超えることで水運を成り立たせ、それによって村を大きくし、街となり、やがて国となった。


 あ、ちなみに魔物というのは魔石という石を体内に持ち、魔力を使える生物のことだ。

通常の動物よりも遥かに危険で、Cランク未満の冒険者は戦うことを禁じられている。

冒険者ギルドの蔵書である冒険者心得第一巻より引用。


 さて、話を戻すとその水運による莫大な富を使い他国を侵略し、今の帝国が出来上がったのだとか。

魔族との戦争の最前線である海岸近くに首都である帝都があるのは、この漁村があった場所が帝都だからだそうだ。


「いや、引っ越せよ戦争中なんだから」


 思わず冷静にツッコミを入れてしまった。

実際首都が陥落したら終わりなんだから、さっさと移転なりすべきだろう。

守るべき伝統でもあるのか、あるいは帝国まで成り上がったプライドがそれを許さないのか。


 まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。

問題は勇者召喚に関する伝承だ。

たしかに、この帝国では何度か異世界の強者を勇者として召喚した記録が残っていた。

しかし、どの勇者も大概は道半ばで命を落としたり、戦うことを拒んで静かに暮らしたりだとかで、帰ったという記録がまったくない。


「んー……やっぱこっち方面からじゃ難しいかなぁ」


 となると、やはりヤマトの国だろう。

もう、名前からして日本が関わってそうだし、漢字も使ってるというのだから、行けば何かしらの手がかりがあるだろう。

とはいえ、聞けばこの国は東の果ての果てにある海を超えた先の島国らしく、安全なルートも見つかっていない。ほぼ逆西遊記みたいなものだ。

たまに何人もの商人を介して、ヤマトの国で作られた物品が持ち込まれたりするが、そういったものはちょっとした小物でも目ン玉飛び出るような額がつくとか。


「それだけ行くのが大変だと、気軽に行くわけにはなぁ……」


 色々準備を整える必要もあるし、そのための資金も必要だ。まぁ、金はこの前入った分でどうにかなるだろうが。

そして何よりも必要なのは地図だ。このさい大雑把でもいい、何かしら道標がなきゃこんな長旅はまずできないだろう。

そのへんはココにあたらせているんだが…………。


「サクヤさーん!! あった、あったっすよヤマトの国までの地図!!」

「ホントか!? でかしたココ!」


 思わずハイテンションになり、大声を出してしまった瞬間、ものすごい殺気が飛んできた。


「……図書館ではお静かに」

「「す、すみません…………」」


 妙にガタイのいい司書の人に怒られてしまった。

やべぇよこの人、グラインさん並の殺気だったぞ今の。


「それでココ、地図は(小声)」

「こっちっす(小声)」


 ココが調べ物をしていた机に向かうと、そこにはたしかに地図があった。

それも、大陸全土を描いたとんでもない地図があった。

あったのだが……。


「………雑すぎない?」

「まぁ、書かれた年代もだいぶ古いっすからねぇ」


 なんというか……こう、ゲームでファストトラベルを使う際に出る地図を何倍にも引き伸ばしたような、そんな感じの地図だ。しかも村以下の大きさの集落は記載されてないっぽい。


「だが、大まかな位置がわかるだけでもありがたい。それにどの街に向かえばいいのかはわかる」

「最悪、街ごとなくなってたり道が変わってそうっすけど……そこは情報収集とアドリブでなんとかするしかないっすね」

「とりあえず写しを取るか」


 そんなわけで用意してきた白紙の羊皮紙に大雑把にではあるが地図を書き写す。

……いいんだよもとが大雑把なんだから。


「サクヤさん……」

「……なんだよ?」

「絵心ないっすねぇ」

「うっさいわ。じゃあお前がやってみろ」

「了解っす。こういうのはこう、さらさら~っとっすね」


 そう言ってココが書き上げた地図は、俺のものより遥かに精度が高かった。

……誰にだって、苦手なことはあるだろ?





















 さて、図書館で目当てのものを見つけた俺達は、武器屋に寄っていた。

理由は当然というか、ワイバーン戦でくたびれた武器防具の整備である。

行こう行こうとは思っていたのだが、この数日間は疲労困憊でどうにも行けなかったのだ。

ちなみに向かったのは最初に頑丈な剣を買ったあの武器屋だ。

後で聞いた話だと、かつてグラインさんも懇意にしていたらしく、巷では腕がいいと評判だそうだ。


「おう、こいつはまた派手にやらかしたな……」

「いやぁ……ワイバーンは強敵でしたね」

「強敵でしたね、じゃねぇよ。なんで真正面から打ち合うんだよ避けろよ。いくらこいつが頑丈とは言え、そんな使い方してたらいずれ折れるぞ」

「うっす、反省してます!」

「してねぇだろ絶対……まぁいいや、直してくるか……あ、そうだ」


 店主はそう言うと、一回奥へ引っ込み、すぐに戻ってきた。


「ほれ、例のワイバーンの素材で作った鎧だ。一応送られた数字通りに作ってみたが、試着してみろ。合わないところがあったら直してやる」

「おお、これが例の」


 そう、俺は素材の一部を売却せずにそのままもらい、グラインさんのツテでこちらに送って防具として加工してもらったのだ。

そして出来上がったものがこちら。


 全体的な形状は今つけている革鎧と同じだが、俺たちを苦しめたあのワイバーンと同じ翡翠のような鱗に覆われている。

軽く指で弾いてみれば、生きていた頃と殆ど変わらない硬さのようだ。

そしてサイズだが、見事にぴったりだ。

いくら身体データを渡したとは言え、調整無しでここまでフィットさせるとはさすがとしか言いようがない。


 とはいえ、やや気になる点はあるのでそこを剣と一緒に直してもらう。


「よし了解だ。そうだな……夕刻までにはできるだろう。その頃にまた来てくれ」

「わかりました、ありがとうございます」


 そういって、店を出る俺たち。

いやぁ、新しい装備ってゲームでも現実でもワクワクしますね。

早く着たいなぁ、あの鎧。


 ……そうだ、防具と言えばだ。


「なぁココ、お前金入ったのにローブと杖しか買い替えてないよな? 服は変えないのか?」


 この世界において、服も重要な防具である。

なんでも魔力を繊維に込めた魔力繊維で、防御力と魔力伝達率を上げることができるらしい。

まぁ、前衛職では焼け石に水なので普通に鎧を着るが、後衛の魔法使いならそういう魔法着みたいなものを着たほうがいいと思うのだが。


「え、ああ、そうっすね。この服はちょっと思い入れがありまして」

「思い入れ?」

「ええ、この服、あたしの里に伝わる大魔法使いが着ていた服と同じデザインなんすよ。偉大な大魔法使いのように立派になってほしいと、両親が贈ってくれまして……」

「あー、なるほど……そいつは他には変えられんな」

「はい、それに魔力繊維もかなり高品質なものですし、買い換えなくても結構なスペックがあるんすよこれ」

「へー、なるほどねぇ……」


 ……しかし、巫女服を着た大魔法使いか。

やっぱり、日本人絡みだろうか。

だとしたら、やはり一度ココの故郷である獣人の国に行くべきだろう。

幸い、帝国の東側にあったから、ヤマトの国に行く途中で寄れる。

ココも里帰りできるし、丁度いいだろう。

そのためにも、しっかりとした旅のプランを考えないとな。





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