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 さて、まいったぞ。

俺は毒を分解して動けるようになったが、急速再生の影響で魔力と血液の底が見えつつある。

ココはさっきまでの大立ち回りで体力を使い切っているし、大技を連発してたのだ、魔力だって底をついているはずだ。

だから、あえてこう言おう。


「余裕だな、ココは?」

「らくしょーっすよ」


 強がり、口だけ、なんとでも言うがいい。

言葉まで弱くなったら、本当にどうにもならない。


「さて、奴さんは随分お怒りのご様子だが……なんか有効打はあるか?」

「一発、どデカいのを撃てるっすけど……動きを止めて、弱点を狙った上でじゃないと効果がないっす」

「やっぱ邪魔だなぁあの鱗…………まあいいや、動きを止めればいいんだな?」


 やってやろうじゃない。ていうかできなきゃ俺たちはワイバーンの餌だ。


 血液操作はもう使えない。これ以上血を抜いたら再生できなくなるからだ。

やむなく俺は、腰の剣を抜く。


「やれやれ、買ったときは『使わんだろこれ』って思ってたのに、まさかこいつに頼ることになるとは……」


 まぁ、なんでもいいさ。

奴さんも我慢の限界のようだ。


「さぁ、存分に殺し合おうか!!」

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ものすごい咆哮だが、もはや見切った。

さっき流れた血を耳に詰めて、血液操作で固めたのだ。

これで衝撃波以外は無効にできる。

その衝撃波にしたって、口の向きから大体の範囲がわかる。


 俺はそれらを元に咆哮を回避し、その喉に斬りつけた。

その瞬間、驚くべきことが起こった。

なんと、あれだけ硬かった鱗が割れたのだ。

ワイバーンの巨体からすればささくれ程度の傷だが、たしかに通った。


「なんつー剣だ、まさかワイバーンの鱗より硬いとは……おっといけね」

「グルアッ!!」


 すぐさまその場から飛び去れば、さっきまで俺がいたところにワイバーンの前肢が振り下ろされる。


「ふむ、やつのモーションは前肢攻撃、噛みつき、咆哮、そして尻尾による毒属性の打撃と………」


 実際はゲームと違って決まったモーションじゃないし、相手は生きているから予想外の動きをすることもあるだろうから注意しないとな。


 さて、ではこの手のMobをすっ転ばせるにはどうしたらいいか?

ゲームで言えばスタン値を貯める、リアルなら?


「足攻撃、だよなぁ!」


 このワイバーン、二足歩行もできる四足歩行動物であり、前肢は攻撃に使う関係上、後ろ足でバランスを取っている。

なら後ろに回って、その後ろ足を崩す!


 そのためにはまず、後ろに回らなければならない。


「ほうら、こっちだこっち! 来いよ……そうだ来い!」

「グルァッ!!」

「よっしゃ来たぁ!!」


 腕は届かないけど首は届く、そんな絶妙な位置を取った結果、狙い通り噛みつき攻撃を誘発できた。

あとはタイミングを図って……ここだ!!


「セアッ!!」

「グルッ!?」


 俺を噛み砕こうとしたタイミングで上に飛び、その脳天に剣を打ち込む!

流石に鱗よりも硬い剣が脳天に直撃したのは堪えたのか、少しだけ動きが止まる。

その間に、俺はワイバーンの背を駆け抜け、後ろに回った。

そしてあとは、その丈夫そうな足に剣を振るうだけだ。


「オラオラオラオラ!! どうしたどうした、後ろ取られたらもう何もできませんってかぁ!?」

「グ、グォオォオオオオオ!!」

「おっと、咆哮はただの隙でしかねぇぞ?」


 やたらフレキシブルに動く首による咆哮攻撃も、すでに範囲も把握した俺にとって大した脅威ではない。

むしろ、その衝撃波が後ろ足にぶつかり、がくんと力が抜けてワイバーンが倒れた。


「はっはぁ! 自分で自分にトドメさしやがった! 喰らえ血液鎖!!」


 その瞬間、俺は予め血液操作で各所に配置しておいた血液を鎖と楔に変え、ワイバーンを縛り付ける。


 え、もう血液操作できないって言ってたのにそんな血液どこから出したのかって?

そりゃあ、ワイバーンの尻尾の一撃をもらったあのときだ。

あのときドバドバ出た血液を使って、この鎖に変えたのさ。


「さぁ、ココ!! トドメは任せたぞ!!」

「任されたっすよ!! ………スゥ――『ブレイズメテオ』!!」


 ココの杖が天を差し――――――そして現れたのは、流星のような炎の塊だった。

…………あれはやばい。なんでって、炎が青い。

青い炎がとてつもない熱を持ってるってのはもはや常識だろう。


「ヤバイヤバイヤバイ! 巻き添え食らっちまう!」


 あんなもの食らったら骨まで焼き尽くされちまう。

そうなったらもう再生どころじゃない。

慌ててココのそばに戻り――


 ――――ふと、ゾッとするほどの殺気を覚えた。


 殺気の出どころは、もちろんワイバーンだ。

俺と同じく、この炎はやばいと感じたのだろう。

出処であるココを殺さなければ、確実に死ぬとわかったのだろう。

そのために、奥の手を切ると。


「ココッ!!」

「ゴアアアアアアアア!!」

「えっ――――」


 起きた現象としては、まず俺がココを突き飛ばした。

そして、さっきまでココがいた場所――つまり俺がいる場所に向かって、ワイバーンの首が蛇のように伸びて、噛み付いてきた。

……ああ、なるほど。なんであんなにフレキシブルに動くのかと思っていたが、縮めた首を蛇腹のように動かしていたのか。


 そんなふうに疑問を解消していると、ココは飛びついてきた。


「サクヤさん! サクヤさん! ああ、そんな……半身が………」


 そう、俺はココの代わりに噛みつきを受けた。

結果――――下半身まるごと食われてしまった。


「俺はいい…………それより、魔法は………?」

「え、あっ! ま、魔法が…………」


 ココが集中力を切らしてしまったためだろうか、青い流星は消えかかっていた。


「グルルルル………」


 そしてワイバーンを見れば、すでに俺の血液鎖を引きちぎり、起き上がっていた。

その顔は、こころなしか勝ち誇っているようにも見える。


「おいおい、何を勝ち誇った顔してるんだ…………?」


 強制テケテケ状態にされてしまったせいで、どうにも力が入らない。

だが、そんなのどうでもいい。


 すでに、俺たちの勝ちは決まった。


「お前……飲んだなぁ……俺の血を……!」

「ゴフッ!?」


 ワイバーンの口から、俺の血液が漏れ出る。

そう、俺が自由に操作できる血液が、大量にワイバーンの中に入ったのだ。

それも下半身丸々である。

足腰には太い血管が大量に通っている、それはつまり、その分だけ大量の血が巡っているということだ。


「さて、お前の鱗は確かに強靭だが……果たして体内はどうかな?」


 あとは簡単だ、食道と胃を鋭く尖らせた血液で貫く。

内臓もそれなりに硬いが、下半身まるごとという大量の血液を送り込んだのだ。

質量にモノを言わせて内側から破り、ワイバーンの血管に侵入する。

あとは血流から臓器の位置、特に心臓と脳の位置を把握し、それを破壊するだけだ。


「終わりだ……詰めを誤ったな、ワイバーン」

「ゴ、ゴアアアア…………」


 ワイバーンは血の混じった泡を吹きながら、ついに倒れ伏した。

……やれやれ、こんなことなら最初っから血液を送り込むべきだっただろうか。

とはいえ、流石に半身まるごと食われるのは嫌だったしなぁ。


「っと…………大丈夫だったか、ココ?」

「え、ええ、でも、サクヤさん、身体が……」

「ああ、再生するから大丈夫………ただ、血が足りない……血をくれ…………」

「あ、はい! 了解っす!」


 いつもの要領でココが血を出してくれたので、それを飲む。

うむ、疲れた身体に生き血がしみる。

おかげで身体の再生速度も上がって……。


「あ」

「えと、その……ご、ご立派で?」


 ……そう、俺は下半身まるごと食いちぎられた。

つまりはズボンも食われてしまったわけで、さらに言えば俺の再生能力では衣服は戻らない。

要するに、なんだ………丸出しだった。


「ぜ、絶妙に締まらねぇ…………」


 局部を隠しつつ、思わずそうつぶやいてしまった。





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