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 ――まぁ、まずいというのは人間のレベルのお話だ。

吸血鬼ならばこの程度、ピンチですら無い。


「ふんっ!!」


 まずは鬱陶しい毒を消すために全身の血液に魔力をたぎらせ、異物――毒を感知し血液で一箇所に集中、せっかく吐血しているので口から毒血を吐き出す。

続いて魔力と血液を強く循環させて再生能力を強化、即座に肉体の修復を終える。

よし、急いで戦線の復帰して――


「この…………よくもサクヤさんを!!」

「ココ!?」


 あのバカ、一人で突っ込んでどうするんだよ!!

急いでフォローに回ろうと立ち上がって……がくんと、膝から崩れ落ちた。


「しまっ……!? 毒が……!」


 くっそ、ワイバーンの毒ナメてた!

吐き出す前に吸収した少量の毒が、まだ俺の中に残っているんだ。


「くうっ……」


 だめだ、力が抜ける。

急いで魔力と血液を回して毒を分解するが……時間がかかる、あと数分は立ち上がれない。


「くっそ……ココ!!」


 俺はどうにもならない中、ココへ手を伸ばし――


「……へ?」

「この……くらい!!」


 ――素早い身のこなしでワイバーンの攻撃を回避するココに、言葉を失った。

速い、とにかくココの動きは速い。

飛んで跳ねて走って避けて、まるでスーパーボールをデタラメに投げたような動きで、とても後衛職とは思えない身のこなしでワイバーンの攻撃を次々回避していく。


 って、呆けてる場合じゃない。力が入らなくても這って動け!


「――スゥゥゥウウウ」

「まずい咆哮だ、アレは回避できないぞココ!!」

「サクヤさん!? い、いや大丈夫っす、音ならこの魔法で! ウィンドベール!!」


 なんとか這って進み、ココに言葉を届けた。

それを聞いたココが、なにやら魔法を使った。

それと同時に、涼しげと言うには少々強い風が俺たちを包み込む。


「……風?」

「そう、この魔法は風の壁を作り出す魔法っす。本来は矢を回避したりする魔法っすけど…………空気の振動である音なら、この魔法で防げるっす!」

「――――――ォォォォオオオオ………」


 ココの言葉通り、あの強烈な咆哮がほとんど聞こえてこない。

……魔法便利だなぁ、俺も覚えたいなぁ。


「それよりサクヤさん、すごい吹っ飛び方してましたけど大丈夫なんすか!?」

「ああ、肉体の損傷はほぼ回復したから大丈夫だ」

「…………アレだけの攻撃を受けて、この短時間で回復するんすか。改めてとんでもないっすね、吸血鬼」

「まぁ、不死性が吸血鬼の特徴だからな。とはいえ毒がまだ抜けきってない、あと数分はかかるぞ」

「ああ、ワイバーンの尻尾には毒がありましたね。けど、大丈夫っす」


 そういうとココは尻尾を揺らし、炎の槍を携えながら不敵に笑ってみせた。


「その数分、あたしが稼いでみせるっすよ!」


 そう言うと、ココはワイバーンに向かって駆け出した。


「グルァ!!」


 ワイバーンは飛膜となった前肢でココを迎え撃つ。

しかしそれらはさきほど同様、すべてココの素早い動きで回避される。


 続いて襲ってくるのは素早い連続の噛みつき。あの異常な可動域の首に寄って、縦横無尽の動きでココを狙ってくる。

しかし、それさえもココはバックステップと後方宙返りですべて回避していく。


 とはいえ、やはり後衛職の体力でこの動きは無理があるのだろう、ココの顔がゆがむ。

ていうかなんでこいつ後衛なのにこんなに動けるんだ。


「くっ……きっついっすねぇ、さすが竜種……けど、あたしだって伊達に後衛職でソロ経験してないっすよ!!」


 ああ、そうか。ココのやつ、これまで後衛なのにソロを強制されていたんだった。

だからこそ、あの動きなのだろう。

とにかく敵の攻撃を回避し、隙をみて魔法を打ち込むスタイル。

たった一人で回避盾と火力を兼任する戦い方。


 今もココは、ワイバーンの噛みつきを紙一重で躱し、炎の槍を叩き込んでいく。

一発一発は鱗を少し焦がすだけだが、時折目を狙った強烈な一撃を叩き込むため、ワイバーンも攻めあぐねている。


 だが、だめだ。この戦い方は長く持たない。

紙一重になったのはそれを狙ったわけではなく、紙一重で回避せざるを得なかったからだ。


「クソ、動け、動け、早く動け……!」


 だから、俺が行かないと。

身体の脱力感は徐々に取れている。動くくらいならできるだろう。

だがまだ戦うことはできない。


 なにか……なにかないか? 今の俺でもココをフォローする方法、あるいは戦う方法。

考えろ、考えろ……今持ってる手札と、相手の手札、それらを総合して今の状況で切れる札は…………。


 ふと、ワイバーンの目に刺さっている、血液槍が見えた。


「あれは…………行けるか?」


 すでにあの槍の血液操作は途絶えてしまっている。

血液操作は操り人形の糸のようなものだ。一度切れてしまうともう動かせない。

だが、やるしかない。


「……行けっ!」


 口元の血を拭って、それを血液操作で飛ばす。

動き回るワイバーンの、さらに突き刺さった槍を狙うのは非常に難しい。

だが…………やってやる。


「ココが踏ん張ってんだ、俺だってやるしかねぇだろ!!」


 左、上、右、下、右斜め上、下、下、左斜め上、上、上、左、下。


 毒の分解で血液を使っている以上、飛ばせるのはこの吐血した分だけだ。

だから絶対にミスできない。絶対に当てる。


 動き回るココにぶつからないよう掻い潜り、暴れまわるワイバーンの、万が一にも狙いと違う場所に付着しないようすり抜け。


 そうして、俺が操作する血液が――――槍に、当たった。


「よっしゃ!!」


 しかし、同時に危ういバランスで成り立っていたココの立ち回りが、破綻した。


「ゴアァアア!!」

「う、うわ!?」

「ココ!?」


 まずい、食われる――!!

――やれるか? 血液操作はつながったか?


「ええい、やるしかねぇ!!」


 血液操作、起動!!


「グルアアアアアアアアアアアア!!」


 その瞬間、ワイバーンは苦悶の声を上げてのたうち回った。

そりゃあそうだろう。焼け焦げた目に刺さっていた棘が、急にドリルみたいに回転して埋没していくのだから。


 もともと、あの槍は貫通能力を上げるために螺旋模様が施されている。

それを回転させながら突き進めているのだから、たまったものではない。


「よっしゃ、成功!」

「さ、サクヤさん? 一体何を?」

「傷口に槍で掘削工事」

「う、うわぁ…………」


 とはいえ、このままうまくいくとは思えない。

いくら柔らかい目とは言え、その先には頭蓋骨がある。

その頭蓋骨が鱗より柔らかいってのは……流石に希望的観測がすぎるだろう。

うまいこと視神経から脳まで到達できればいいが、やはり再度つなげた血液操作では伝わってくる感触が鈍い。

これでは視神経がどこか探れないだろう。


 その結果――


「あー…………ここで、止まるか」

「グルルル…………」


 槍は止まり、怒りに燃え盛るワイバーンが、こちらを見つめていた。




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