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 さて、俺が思いついた方法というのは簡単である。


「フゴー!!」

「ほいっと」


 猪の突進を躱し、すれ違いざまにその素っ首を切り裂くだけだ。

使うのは日本刀を参考に作った切れ味重視の血液剣。

テレビで見たうろ覚えの日本刀の作り方を参考に作ったものだから、本物の刀匠からしたら鼻で笑うようなものかもしれないが、それでもなかなかの切れ味だ。

実際、今も猪の首をスッパリと……というほどではないが切り裂き、噴水のように血が吹き出している。


「お、おお……見事っすね……」

「まぁ、頸動脈の位置はさっきの死体から割り出したし、これくらいはな」


 血液操作で別の生き物の血液を操作すると、血液の位置を把握できるので、大体の血管の位置がわかる。

なのでそれを参考に当たりをつけて斬ってみたのだが、うん、うまく行った。


「問題は……俺の技量か。あの一撃で折れちまった」


 手元を見れば、ポッキリと折れてしまった血液剣。

折れた先は、猪の首に埋まっている。

うーん、切れ味重視で作ったとは言え、こうも簡単に折れてしまうとは。

まぁ、日本刀も素人が振ると簡単に折れるって言うし、これに関してはさっきも言ったとおり俺の技量不足だろう。

実際、もっとうまくやれば折らずに切れそうな感触はあった。


「とりあえず、この方法で猪を仕留めていこう。んで、俺がしくじったときはココ、お前の出番だ」

「おおー後詰めってことっすね、了解っす!」


 俺は再び血液剣を作り直すと、猪の死体を回収してココとともに次の獲物を探しに向かった。











 そして現在、俺達は七匹目の猪を狩り終えていた。


「フゴ…………」

「うーむ……やっぱ難しいな……まだ折れちまう」


 あと一息で振り抜けるというところで折れてしまった血液剣を眺めつつ、つぶやいてしまう。

まぁ、そうやすやすと身につく技術ではないか。


「いやーさすがっすねサクヤさん。あたしの出番殆どないじゃないっすか」


 駆け寄ってくるココがそう言うが、たしかに三匹目で一度しくじったとき以外ココの出番はなかった。


「そうだな、じゃあ報酬の取り分はココが1で俺が9でいいよな?」

「ひどい!」

「冗談だよ。袋もっといてくれ」


 さて、俺達がこの巨体の猪を七匹も休まず狩り続けられているのは、城からパクってきた魔道具の袋……ココ曰く、『収納の魔袋』、略して収納袋というアイテムによるものだ。

いわゆるインベントリとかそういう系のアイテムで、見た目に反して大量のモノを入れられる。

加えて入れた人間にしか取り出せないので、盗難の心配もない。まぁ袋ごと持ってかれたらアウトだが。


 一応この袋は大量に出回っているが、質の差が激しいらしく、俺が持っているものほど容量が大きいのはめったに手に入らないらしい。

ちなみに収納袋共通で入れたものは時間が止まるらしいので、肉が腐る心配はしなくていいらしい。

 そんなわけで、便利な収納袋にまた猪の死体を詰めていく。


「いやぁ、便利だなこれ。さすが城の宝物庫に保管されてただけある」

「……あたしはバレたらどうしようと気が気じゃないんすけど」

「上から袋かぶせてるし早々バレないだろ」


 死体を入れ終わったところで口を縛り、さらに偽装用の革袋の口も縛る。

こうしておけば、大量の荷物を一気に出すような真似をしなければバレないだろう。


「ギルドに納品するときはどうするんすか? 一気に七体も出したら流石にバレるっすよ?」

「たしか荷車の貸し出しがあっただろ。あれで三体くらい積んで、残りは袋から出せば問題ないだろ」


 まさかこんな大物で、しかも複数狩るとは思ってなかったので借りてこなかったが、まぁ街まで往復でもそんなにかからないし、後で借りに行けばいい。


「ていうかそろそろ引き上げようぜ。もう十分狩っただろ」

「うーん、あたしとしてはもうちょい狩っておきたいんすけど……」

「やだよ疲れた。あと血生臭くて仕方ない。はよ水浴びしたい」


 すれ違いざまに斬るとは言え、結構な返り血を浴びているので血の匂いがきつい。

本音を言えば風呂に入りたいのだが、ないので水浴びで我慢するしかない。


「サクヤさん、吸血鬼なのに血の匂い嫌なんすか?」

「人間の血ならいい匂いに感じるけど、獣の血だからな。吸血鬼はあくまで人間の血を糧とする存在だから、人間以外の血はだめなんだよ」


 ……まぁ、飲めないこともないが、それは本当に最後の手段だ。

人間で言うなら……そうだな、ヘドロ混じりの汚水を飲むような感覚だ。

一応水分補給はできるけど、どんな病気になるかわかったものじゃない。


「……吸血鬼にも病気ってあるんすか?」

「そりゃああるよ。身体構造は人間に近いわけだし、人間が罹患する病気は大体吸血鬼も罹るぞ。まぁ、抵抗力とかは人間より強いけど」

「へー」


 いつだったか、俺たちの居住区で吸血鬼にも感染するほど感染力が強いインフルエンザが流行って大変なことになった事があった。

普通のインフルエンザくらいなら感染しないからって油断してたから、そりゃあもうやばいくらい感染が広がった。

無論吸血鬼なので死にはしないが、きついのは変わらない。

結果として一ヶ月ほど居住区の都市機能が麻痺してしまった。

以降、吸血鬼だからって油断せず予防接種をする人がとても増えた。

なお、吸血鬼に予防接種の意味があるのかはわかっていない。


「まぁ、そういうわけだから、獣の血とかどんな病気があるかわからないし、できれば口にしたくないってわけ。経口摂取とか絶対感染するリスク高いし」

「あー、たしかに血が口に入ったとか、傷口にはいったとかで病気にかかる人多いっすからねぇ」


 とくに狂犬病とか絶対かかりたくない。人間と違って治るけど、治るまでが地獄の苦しみらしいし。

ソースは俺のじいちゃん。飢えに飢えて獣の血に手を出して罹ってしまったらしい。

じいちゃんの世代はまだ人間を襲っていたから、血が安定して手に入らなくて大変だったようだ。


「それにほら、血の匂い漂わせてると肉食獣とか寄ってくるし。俺、熊とかの相手はしたくないぞ」

「……それは嫌っすね」


 猪ですらこんなにでかくて強いのだ。肉食獣とかやばいヤツしかいないだろ。

そんな奴らの相手はしたくないので、さっさと帰ろう。


「じゃあ俺が身体を洗いがてら荷車借りてくるから、ココは適当に時間つぶし――――っ!?」

「なっ……なんすか……この風……!!」


 そしてこの場を離れようとした瞬間、ものすごい突風が上から吹き付けてきた。

それにつられて上を見たら…………そいつと目があった。


「…………マジっすか」


 俺がつぶやいたのか、ココがつぶやいたのか。

ともかく、信じられないものを見てしまった。

金色の瞳に、縦長の瞳孔。

全身が緑色の鱗に覆われ、巨大な両翼が俺たちに風を叩きつけてくる。

……その姿は、一般的にはこう呼ばれる。


「ワイバーン……だと!?」


 こうして、俺達は唐突にボスクラスの怪獣とエンカウントした。






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