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 さて、血もたっぷり飲んで(反省させる意味も込めて多めに搾り取った)、ぐっすり寝て魔力回路も回復した翌日。


「さて、今日から本格的に活動していくわけだが……ぶっちゃけ俺は素人だ。グラインさんにも散々言われたし、そのうち鍛えるつもりではあるが……荒事やら命のやり取りには慣れてない」

「慣れてない素人であれなんすか……」


 ココは昨日覗き見た試験の様子を思い出しているようだが、アレくらいなら吸血鬼だったら多分誰でもできる。なんなら十歳にも満たない子供でも、戦闘の才能があればアレくらい余裕でこなせるだろう。

それくらい吸血鬼ってのは強い種族で……その中で俺は弱い部類に入る。


 能力だけ見れば吸血鬼の中でも上位に入るんだけど……経験の無さが致命的だ。後単純に戦闘のセンスもない。


「そういうわけだから、俺が吸け……ゲフン、アレだって認識は捨ててくれ。そのうえで安全にこなせる仕事を探すぞ」

「了解っす」


 で、依頼内容の書かれた紙が貼られた掲示板を見ているのだが……ううむ、いいのが見当たらん。

俺のランクは現在C、ココはD。

で、依頼のランクも冒険者と同じくS~Eまでの五段階に分かれており、自分の冒険者ランクから上下一個差までのランクを受けられる。

俺だったらB~Dランクの依頼。ココならC~Eまでの依頼だ。

つまり、俺たち二人を合わせれば実質B~Eまでの依頼を受けられるんだが……これがなかなか判断が難しい。

というのも、当たり前だが低ランクは安全だが実入りが少なく、高ランクは実入りが多いが危険が伴うのだ。

多少の危険なら看過できるが……。


「……Bランク、北の森でワイバーンの目撃報告あり……調査、場合によっては討伐せよ」


 ……いや無理っしょ。ワイバーンってアレだろ? 腕が翼になったドラゴンでしょ?

お前、始めたての初心者がリオ○ウスに勝てるわけ無いだろ。え、ティガ○ックス相当ですって? なお無理だわ。


「ええと……おっ、ゴブリン? なになに……Bランク、ゴブリンキングの討伐……大規模な集団戦となるので留意されたし……無理」


 ゴブリンの文字に釣られて読んだけど無理だわ。今の俺の実力で無双ゲーは無理だ。


 ……このように、高ランクはなかなか厳しい依頼ばかりだ。

ではもう一段下げたらどうなるのか。……これも厳しい。


「Cランク……盗賊団の殲滅……厄介な盗賊団なのでひとり残らず殲滅されたし…………いきなり人殺しはちょっと……」


 いやまぁ、吸血鬼だから多分普通の人よりは人殺しへの抵抗は薄いんだろうけど……それでもやっぱ生理的に受け付けない。

いずれはこういう依頼もこなせるようにならなきゃいけないんだろうけど、一発目から行く依頼ではなかろう。


 次。


「商隊の護衛……うーん、実入りもいいし危険も少なそうだけど、三日もかかるのかぁ……」


 三日も一緒に行動してたら俺が吸血鬼だってバレそうで怖いなぁ……とりあえず保留で。

とか考えてたら護衛の依頼書を別の冒険者が持っていってしまった。

……そりゃそうだ。依頼の受注は早いもの勝ち、出遅れてしまえば条件のいい依頼など残っているはずがない。


 ……こりゃ、今日は実入りは少なくても安全な依頼を受けて、明日から本気出すか。


「サクヤさんサクヤさん、これなんてどうっすか?」


 とか考えていたら、ココが一枚の依頼書を持ってきた。


「おう、どんな内容だ?」

「はい、猪の討伐っす」


 ほー、猪か。野生の猪は結構危険だから猟師さんに任せたほうがいいのだが、まぁ俺吸血鬼だしなんとかなるだろう。


「どれどれ……狂い猪の討伐……一頭に付き1万ソル、肉の納品でさらに1万ソル……」


 ……いや、うん。たしかに猪だ、猪なんだが……。


「……狂い猪って何?」

「森林に住んでるでっかい猪っす。縄張り意識がすごく強くて、侵入した相手はどんな奴だろうと自分か相手が死ぬまで追いかけ回してくるっす」


 なるほど、そいつは確かにクレイジーだ。……じゃなくて。


「……なぁ、俺言ったよな? 無理せず安全に行こうって。なんでこんな危険生物の討伐選んでるんだよ」

「大丈夫っすよ。サクヤさんのギルマスとの戦いっぷりを見るに、余裕で勝てますって」

「……信用できないんだが」

「えーっと……じゃあ、そうっすね。ギルマスの攻撃、サクヤさん回避してたじゃないっすか?」

「え? ああ、ほとんど勘だったけどな」

「狂い猪は最高速度になってもあそこまで早くないっす。加えて相手は突進しかできない。……どうっすか? 勝てそうっしょ?」

「えー、あー、うーん………」


 まぁ、アレより遅いならなんとか……。

しかも最高速度でっていうなら、初速はそんなに大したことないだろうし……。


「大丈夫っすよ、サクヤさんは一撃躱してくれればいいんす。そしたらあとはあたしの魔法でズドーンと決めるっすから!」

「ううむ…………そううまくいくかなぁ………」


 なんかこいつが立てた作戦だと失敗するフラグが立ちまくってる気がするんだが。


「じゃあとっておきの情報っす」

「……とっておき?」

「狂い猪の肉は、それはもうとろけるような味わいで絶品なんすよ。この依頼は討伐がメインで、肉の納品は自由、つまりあたしらがもらってもオッケーなんすよ」


 ……美味しいものって、大事だよね。

俺は吸血鬼で、普通の食事は嗜好品みたいなものだけど、嗜好品だからこそ美味しいものは食べたいわけで。


「よしやろう、すぐやろう。準備に取り掛かるぞ!!」

「アイアイサーっす!」


 俺はまんまと乗せられ、狂い猪とやらの討伐に赴くことになった。







 で、俺たちは東西南北それぞれにある門のうちの東門を抜け、狂い猪が出るという森にやってきたのだが……。


「…………………アレが、狂い猪?」

「そうっす」

「…………………猪?」

「そうっす」

「ライオン並のサイズじゃねぇか!!」

「まぁ『いの”獅子”』っすからねぇ」

「そんなダジャレ今は聞きたくなかった!!」


 俺たちはいま、草木に隠れながら、元の世界では絶対にお目にかかれないであろう、大型肉食獣並の巨体を持った猪を見ていた。


 道理で門番の人が心配するわけだよ。どう考えても危険生物じゃねぇか!


「ちょっと待って!? 俺アレ相手に立ち回らなきゃいけないの!?」

「大丈夫っす! ギルマスと渡り合ったサクヤさんならいけるっすよ!!」

「いやPvPとPvM一緒にしないでもらえます!? 俺種族的に対人勢なんですけど!」

「訳わかんないこと言ってないで行くっすよ! 大丈夫っす、魔法で狙い打ちますから!!」


 そう言って、ココのやつは俺を突き飛ばしやがった。……あんにゃろう覚えてろよ……今夜はリットル単位で血ぃ搾り取ってやる……。


「……フゴ?」

「…………あ、どうも」


 目があったのでとりあえず挨拶してみた。


「フゴー!!」

「ぎゃああああああああ!!」


 無視されて突進されました。そりゃそうだよね、猪だもん。


「くっ……このっ!」


 ええい逃げてもしょうがない、腹くくれ俺!

振り返り、すごい勢いでこっちに向かってくる猪を見つめる。


 ……ああー、すっごい帰りたい、メッチャ怖いんだけどこいつ。

想像してみて? ライオンが殺意全開で襲ってくるさまをちょっと想像してみ?

その十倍くらい迫力があるのが今の状況だ。


 とはいえ弱音を吐いていても始まらない。

タイミングを見計らって…………今!!


「とうっ!!」


 素早く横に飛び、猪の突進を回避する。

それと同時に猪は俺の背後の木に衝突した。


「よっしゃ!!」


 ……その瞬間、衝突された木がメキメキと嫌な音を立てながら、猪に向かって倒れた。


「…………ええー」


 ……今の木、いわゆる大木だったんですけど。

それをなぎ倒すんですか? マジですか?


「サクヤさーん!! まだ終わってないっす、射線上から離れてくださーい!!」

「げ、マジかよ!」


 ココの言葉通り、猪は軽く頭を振るだけで倒木から抜け出し、こちらを睨みつけてきた。

俺はココの指示に従い、ココと猪の直線上から離れる。


「よっしゃ、行くっすよ!! フレイムジャベリン!!」


 その言葉と同時にココの魔力が急激に高まり、それが杖の先端に集まり、巨大な炎の槍の形を取った。

そして杖を振り下ろすと同時に放たれた炎の槍が、猪に向かって超高速で飛んでいく。


「フゴォ!?」

「ふははははー!! そのまま燃え尽きるっすよ!!」

「いや燃え尽きちゃだめだろ」


 思わず冷静にツッコミを入れてしまったが、ココの魔法の威力は凄まじい。

なんせ猪の巨体を貫通し、しかも傷口は焼け焦げているので、きれいな穴が空いている。

まぁ、即死である。


「見たっすかサクヤさん! これがあたしの実力っすよ!」

「あー、まぁ、たしかにすごいんだが……」


 俺は猪の死体を確認し……うん、こりゃだめだ。


「この状態じゃ、血抜きができない」

「…………あ」

「まぁ、普通なら、だけど」


 血液剣を作り、猪の首筋あたりを斬ってみる。

しかし、やはり心臓が止まっているせいであまり血が出ない。

まぁ、問題ない。俺の血液操作は血に触れられればいいのだ。

出てきた血に触れ、そのまま一気に抜いていく。


「おお、すごいっすよサクヤさん!」

「……とりあえず、お前の魔法は最終手段な。即死させると血抜きが面倒だ」

「……じゃあ、どうやって仕留めるんすか?」

「さっき逃げ回ってちょっと思いついた。まぁ見てろって」


 そう言って、血抜きの終わった猪の死体を軽く叩いた。







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