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2-06


「ふーむ……でかいな」


 俺は貴賓席からコロシアムを見下ろし、そう呟いた。

ここは武道大会の会場となるコロシアムの貴賓席。

書類を提出するついでに会場の下見はできないかと尋ねたら、快くオーケーしてくれたのでここにいる。

まぁ、俺たち以外の出場者は会場知ってるらしいからね、このままじゃ不公平だってんで見やすい貴賓席まで案内してくれた。


「大きいのは当然ですよ。なにせバトルジャンキーな獣人の国の首都にある闘技場ですから」

「バトルジャンキーって……いやまぁ、そうなんだろうけど」


 予選、まっすぐ向かってくる奴らめちゃくちゃ多かったからね。ていうか搦手使ってたの俺くらいだった、まぁあの程度を搦手と言っていいのかは微妙だが。


 それはさておいて、再度戦場となるコロシアム中央を見下ろす。

フィールドは石畳で障害物は特になし。外縁に柱があるくらいか。


「あの柱は使えませんよ? あそこに結界術師が控えて多重結界を張り巡らせますから、選手である私達はあの柱の中でしか戦えません」

「なるほどねぇ……で、その結界が観客への流れ弾を防ぐと」

「そうです。一流の結界術師六人による六重結界なので、破ることは不可能ですね」

「なるほど、そりゃ安心だ」


 実際、流れ弾を気にしなくてもいいのは気が楽だ。

ふーむ……そうなってくると障害物はなし、となると真正面からぶつかるしかないか。


「……遮蔽物もなしってのはなぁ」

「いやですか?」

「いやだね。俺は真っ向勝負は苦手なんだ」


 予選で余裕だったのは策が綺麗にハマったのと、試験内容が俺の能力にベストマッチだったからだ。

真っ向勝負なら俺より強そうなやつは何人もいたし、油断はできない。


「障害物なら作れるんじゃねぇか?」

「ニーナ?」

「ほら、石畳ひっくり返したりしてさ」


 ……ああー。

頭柔らかいなぁニーナは。


「確かに地面ぶっ壊せばそれなりの障害物を作れそうだな」

「ですね、土魔法で地面を盛り上げるという手も使えそうです」


「主催者側としては、あまりそういう手段は取ってほしくないのだがな。まぁできるのは間違いなかろう」


 急に声をかけられ、慌てて振り返ると、そこにはやたら豪勢な服とマントを着た男がいた。

……できるな、こいつ。

一応、常に周囲の気配を探っていたというのに、全く気が付かなかった。

加えて、この男の服、たしかに華美だが動きを邪魔しないよう計算されて装飾されている。

この貴賓席にいることといい……何者だ、この男。


「おっと失礼、名乗るのを忘れていた。俺は――」

「……で、殿下!? アルベール・マリウス・ガレオン殿下!?」

「殿下……ってことは王子!?」

「……言われてしまったな。いかにも、俺はアルベール。この国の第一王子だ」


 こ、これはまたとんでもない大物が現れたもんだ……。

なるほど、たしかに頭を見れば見事な金髪に、伝え聞いた王族の証である獅子の耳がある。


「予選を圧倒的な戦績で突破したパーティがいると聞いて見に来たのだが……なるほど、噂に違わぬ実力者なようだ」


 そういう王子様の視線は、無意識に柄に手をかけていた俺の手元に向かっていた。


「これは失礼を。つい癖でして」

「いやいい。不意打ちに素早く反応できるのも強者の証だ。後ろから急に声をかけた俺も悪かったしな」


 笑顔でそういう王子様は、なるほど王子というだけあって気品を感じさせるものがある。


「君がリーダーのサクヤ・モチヅキ殿だな? 個人の武勇に優れるだけでなく、高い判断能力を持ち、常にパーティを勝利に導いてきたとか」

「買いかぶりです。俺は常にがむしゃらに戦ってきただけですよ」


 ていうか、どこからそんな情報仕入れてきたんだ?

大会出場のための書類にはそんな細かいこと書いてないし……冒険者ギルドか?


「ほう、もう察したようだな。そうだ、君たちのことが気になってね、冒険者ギルドに無理言って情報を教えてもらったのだよ」

「そちらもずいぶんと察しがいいようですね」

「ははは、これでも王族だからな。顔色を見て何を考えているのかくらいわからないと務まらん」

「あとサクヤさん、結構顔に出ますからね?」

「え、マジ?」


 えー……結構ポーカーフェイスなつもりだったんだけどなぁ。

普段はともかく、戦闘中や緊張状態ではできる限り表情を動かさないよう気をつけてたんだが。


「そういう君がココノエ・タマモ殿か。このパーティの火力担当で仕留めた魔物は数知れず、その魔法の威力はSランク冒険者にも匹敵するとか」

「いやぁ、照れますねぇ」

「ちっとは謙遜しろや」


 まぁ事実なんだけどさ。もうちょっと謙虚な心をだな。


「そしてそちらの少女が奴隷のニー……ナ…………?」


 とかなんとか言ってたら、王子がニーナを見て固まった。


「……なんだよ?」

「も、もしやニーナ殿は……ダークエルフか?」

「だったら何だよ?」


 その瞬間、ダンッと激しい音が立ち、王子が消えた。


「ぬおっ!?」

「ああ……ようやくお会いできました、ダークエルフ殿!!」


 その声に振り向けば、王子がニーナの前に跪き、その手を取っていた。


「ニーナ殿……どうか、どうか俺と夫婦の契りを結んでいただきたい!」

「「「は、はぁっ!?」」」


 突然何いってんだこの人は!?





 ……その後、なんとか興奮するアルベール王子をニーナから引き剥がし、落ち着かせることに成功した。

いやぁ、大変だった……もう結婚してくれの一点張りでなぁ……。


「……で、ニーナみたいな幼女にいきなり求婚ってどういうことなんですか? ロリコンなんですか?」

「失敬な、俺はロリコンではない。好きな人がたまたま幼女だっただけだ」


 ぐっ……こいつ、なんて澄んだ目をしてやがる……!


「……まぁ、じゃあそれはいいとして、なんでニーナなんですか? 一目惚れにしてもいきなり過ぎません?」

「……そうだな、説明しようか。あれは俺がまだ十にも満たない頃だった」


 ……王子のはなしを要約すると、こういうことらしい。

かつて幼少期の王子は、森に狩りへでかけた際に一人はぐれてしまい、さらに魔物に襲われ絶体絶命のピンチに陥ったらしい。

そんな窮地を救ったのが、ダークエルフの女性だった。

彼女に救われた王子は……まぁ、なんというか、ダークエルフフェチになってしまった。


「無論、その女性を探したとも。だが見つかったのは、別の男と幸せに暮す彼女だった。いかに王子と言えど、いや王子だからこそ、人の幸せを踏みにじってまで欲しい物を手に入れることは許されない。……ああそうだ、俺は失恋した」

「……で、だったら他のダークエルフにすればいいと」

「そんな、ダークエルフなら誰でもいいという考えではない。……だが、気がつけば俺はダークエルフ以外に恋心を抱けなくなってしまっていた」


 ……なんというか、難儀だなぁ。

いやまぁ、気持ちはわかるけどね。俺も褐色フェチだし。


「無論、ダークエルフなら誰でもいいという考えでニーナ殿に求婚したわけではない。本当に一目惚れしたのだ。艶やかな黒髪、幼い容姿に似合わぬ刺々しい態度と表情、そしてその裏にある優しさ、一国の王子を相手に一切へりくだらない度胸、そして何よりその強さ。すべてが俺の心をつかんで離さないのだ」

「いや、掴んだつもりはねぇんだけど……」

「わかりみが深い」

「ご主人!?」


 そうなんだよ、ニーナはいっつもしかめっ面だけど可愛いし優しいし強くて賢い最強幼女なんだよ。

わかってるじゃん王子。


「けど、ニーナはやれませんね。彼女は俺たちの大切な仲間、こんなところで失う訳にはいかない」

「だが、いちばん大事なのは彼女の気持ちだろう? どうかなニーナ殿、俺ならば君を絶対に幸せにして見せる、誰よりも君を愛し、君のためにすべてを捧げよう」


 ……王子がすべてを捧げるとか言っちゃっていいの? 国を捧げるってことにならない?

まぁ、そんな言葉を聞いたニーナの返事など決まっているわけで。


「断る。アタシの幸せはご主人のそばにいることだ、あんたが何を捧げようとこれ以上の幸せはない」


 ……お、おう、そんなに断言されると照れるじゃないか。


「まぁ、そういうわけです。なので他のダークエルフを探してください」

「いや、いいや、他のダークエルフでは駄目だ。ニーナ殿でなければ駄目なのだ」


 ……ずいぶん食い下がるな。いくらニーナが可愛いからってあんまりしつこいと嫌われるぞ?


「……ニーナ殿、では……俺と決闘していただけないかな?」


 決闘?



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