2-05
「はいでは失礼しますねー」
そう言って大会委員が俺たちの背中に何か貼り付けていく。
これは……風船?
「今回はバトルロイヤル形式だが、我々もこの広い草原の全て見て回ることはできん。そこでこの風船を割られたものは失格というルールとする。最後に一人でも生き残っていたパーティが勝利だ」
「風船には探知魔法が仕込まれているので割られた瞬間にこちらからも失格がわかります。他人の風船を奪ったりというズルはできないのであしからず。失格者は速やかに戦闘エリアから退出してくださいねー、失格状態での戦闘はご法度ですのでご注意を」
なるほど、これが残機ってわけだ。
しかも割れた瞬間戦闘不能扱いとは……なかなか厳しい。
そもそも風船っていうのがなかなかに守るのが難しい。
改めて背中の風船を見てみれば、日本のものとさほど変わらないものが風で揺れている。
中世に風船ってあったのか? いやまぁ、現実としてあるってことはこの世界にはあるんだろうけど。
しかし……本当にただの風船だなぁ。針でつついただけで割れそうだ。
これを常に守るっていうのはなかなか難しいな。しかも風で揺れ…………風?
……そうか、風か。
「サクヤさん、ひらめきましたか?」
「ああ、とりあえず俺の分は問題ない。各自自分の風船だけ注意して立ち回ってくれ」
言葉をかわしながら周囲を見れば、どうやら他の連中もなにか思いついているようで、なにやら話し合っている。
が、関係ない。
ウチには対人戦ほぼ最強の頼れる幼女がいる。
「ニーナ、いけるな?」
「おうよ、楽勝だぜ」
うちのニーナさんは暗殺が大得意だ。
背後から忍び寄って風船を割るなど造作もない。
移動速度も半端じゃないので気づいたら自分のパーティ全員やられていた、なんてこともあるだろう。
それに……。
「剣、剣、斧、細剣、弓、魔法使い……」
主だったパーティの主力であろう連中の武器を見て、ほくそ笑む。
これ、もしかしてヌルゲーかな?
「では、今から一分後に開始する。終了時刻は日没まで、隠れるのは構わんが、同一パーティでない二名が生き残った場合は両名ともに失格とする。積極的な戦闘を推奨する」
わーお、新しいルールが追加されちゃったよ。
まぁ、関係ないけどな。
他のチームがわらわらと離れていく中、俺達は仁王立ちで開始を待つ。
同じように待つ好戦派、隠れはしたもののこちらを補足している芋砂派。
それぞれの作戦のままに動き……始まった。
「では、戦闘開始!」
じゃあ作戦開始と行こうか。
「ニーナ、ココ。全力で刈り取ってこい」
「了解!」
「おうよ!」
俺の言葉を合図に、二人が消える。
いや、消えたとしか思えないほどの速度で動き出した。
何本もの炎の槍が手当たりしだいに風船を貫いて焼き溶かし、ナイフが風船が割れる音を置き去りにして貫いていく。
「おーおー、景気よくやってるなぁ」
「のんきにしてんじゃねぇ!」
「おっと、来たか」
まぁ、のんきに見物などできるはずもなく。
俺に襲いかかってきたのは……斧使いだな。
楽勝過ぎて参るね。
「ほいっと」
指を指し、ヤツの斧にとある魔法をかける。
「でぁあ!!」
裂帛の気合とともに風船を狙った一撃。
しかし、そんな相手が相手なら一撃で沈めてしまいそうな斬撃は、風船が風になびくことで、あっさりと無力化されてしまった。
「はっ?」
「はいお疲れさん」
対象を男の風船の中に設定し、真空の刃を発生させる。
そうなれば無数のカミソリを中に詰められたようなものだ。一瞬で男の風船は割れた。
「もらった!」
「そこだ!」
今度は二人がかりか。でも両方とも剣士なんだよなぁ。
「ほいほいっと」
再度、斧使いにかけたものと同じ魔法を二人の剣にかける。
するとなんということでしょう。風船が二人の剣から逃げるように動くではありませんか。
「くっ……なんで!?」
「なぜ当たらん……!?」
「君たち、気流ってご存知?」
俺の風船に苦戦している間に再び風の刃で二人の風船を割る。
……そう、気流。気流なのだ。
風船は軽いので風に流される。わずかでも気流があると避けてしまう。
とはいえ、気流が発生するより素早く武器を振るえばそんなに関係ない。
そこで俺の魔法だ。
俺は自分でも忘れがちだが氷属性だけじゃなくて水と風にも適正がある。その風属性で相手の武器を包み込んでやればいい。
そうやって相手の武器から発生する風を強めてやるだけで、振るたびに大きな気流が起こって風船は勝手に逃げる。
つまり横にせよ縦にせよ振るしかできない武器は使い物にならなくなる。
そもそも風船相手に武器を振って割ろうとするような連中は三流。
「せいっ!」
「お、細剣か。良い判断だ」
それと同時に、こちらも気づいたのか剣士だが突き技で襲ってくるやつが一人。
そう、突き技を選んでようやく二流。
「だが速さが足りない」
再度相手の武器の風圧を上げてやれば、突きでもやはり風船はなびいてしまう。
速さが足りないのだ。俺の魔法に捕まる前に風船を捉えるような、そう、ニーナのような圧倒的速度が足りない時点で二流。
ふたたび風の刃を押し込めば、二人の風船が割れる。
では、一流とはどういうやつなのか。
剣士たちは防衛に徹するべきだろう、攻めとしては役に立たん。現に俺もそうしている。……ウチのニーナくらいの技術があるなら話は別だが。
なら攻めるにはどうしたらいいのか?
「っと、弓か?」
単純な話だ、速度が出せて貫ける武器を使えばいい。
今まさに芋ってた弓使いとか。
「ウィンドエッジ!」
「魔法使いか」
単純に物理法則を受けない、魔法とかな。
ここで俺はようやく剣を抜き、まずは剣で矢を弾く。
それと同時に魔法とも言えない空気をかき乱す技で相手の風魔法を打ち消す。
……他の魔法以上に技量の差がでるのが風魔法。技量が上ならこんな適当な対処でもどうにかなってしまう。悲しいね。
唖然としている魔法使いの風船を割って、弓使いは――ああ、ココが割ったか。
ことここにきて、どうやら俺たちが周りには異質に映ったらしい。
周囲の連中は、一旦敵対をやめて一斉に俺を見る。
「けど、遅い」
もう周囲の奴らの風船の位置は把握した。
そこに合わせて風魔法を打ち込めば、パパパパパパンと快音が響く。
「なっ……!? 何者だ、お前ら!?」
何者って……そうだな。
「強いて言うなら……ダークホースってやつだ!」
狙うは優勝ただひとつ、こんなところで躓いてられねぇんだよ!
で、二時間後
「やれやれ……ようやく見つけた」
ちょっとカッコつけて指パッチンと同時に風魔法で隠れていたやつの風船を割れば、これで全滅だ。
「楽勝だったな」
「だから言ったろー? 心配する必要ないって」
「まぁ、私達なら当然ですね」
……ううむ、これ、ちょっとくらい調子に乗っても許されるんじゃね?
そのくらいには一方的な戦いだった。
ターゲットが風船で俺の風魔法で制御しやすかったってのもあるが、それにしたってなかなかに圧倒的だった。
俺たち、強くね?
「ふむ、君たち以外すべての風船の破壊を確認した。おめでとう、予選突破だ」
「よっしゃ!」
「今夜は祝勝会ですね!」
「よし、飲むぞご主人」
「ニーナはだめだ。そして俺も飲む気はない」
「ぶー」
「可愛くぶーたれてもだめだ」
正直心臓に悪いくらい可愛いので早くやめてほしい。
でも酒は大人になるまでだめだ。
「……盛り上がっているところ悪いが、これから本戦への出場登録が必要になる。必要事項を書類に書いて明日の昼までに提出してほしい」
「あ、わかりました」
受け取った羊皮紙を見れば……なになに? パーティ人数に職業、得意武器に得意魔法?
……いやいや、こんなの明かせないだろ。
「心配しなくても対戦相手にこの情報を見せることはない。あくまで観衆へ向けての紹介や実況などで使うものだ。大衆に情報が明らかになってしまうのは武道大会という性質上仕方ないものだ。諦めてほしい」
むう……まぁ、たしかに衆人観衆の中で戦うわけだしそりゃバレるのは仕方ないか。
「詳細に書く必要はない。ある程度戦い方さえわかれば十分だ」
「わかりました」
俺なら氷雪属性をメインに使う魔法剣士、ココは火属性の魔法使い、ニーナは光、闇、影を操る暗殺者ってところか。
こうしてみると俺たちって全員魔法使えるんだよなぁ。魔法メタとか出てきたら危ないかもしれない。
……まぁ、全員物理でも戦えるんだが。ココですら杖を鈍器に立ち回れるからね。
「えーっと、あとは……パーティ名?」
「ああ、これは必須だ。でないと管理ができない」
まぁそりゃそうか。
しかし名前、ねぇ…………。
「何がいいと思う?」
「魔導騎士団」
「チーム最強」
……だめだコイツら、俺も大概だけどネーミングセンスが皆無だ。
ていうかココ、それは数年後に思い返して死にたくなるタイプのネーミングだからすぐやめたほうがいいぞ。†とかつけたらだめだからな?
「……とりあえず帰って話し合うか」
で、あーだこーだ話し合った結果。
「ちわーっす。書類届けに来ましたー」
「うむ、では受け取ろう。チーム名は……チームブラッド? 随分物騒な名前だな」
「あ、あはは……まぁそのくらいの気合ってことで」
なんで俺から名前取るかなぁ……まぁチームヴァンプとかよりはいいけどさぁ。
……ともあれ、チームブラッド、本戦出場決定だ。