2-04
それから俺たちは来る大獣王祭に向けてひたすら特訓に励んだ。
今回はパーティ単位での戦闘ということでこれまでのように個別に修行するのではなく、とにかく連携を高めた。
もともと俺を肉壁にして貫通力の高い魔法で諸共殺る吸血式肉壁魔法とか色々連携技はあったが、前述のようにほぼ全てが俺の吸血鬼の能力が絡むものであり、当然ながらそれらを見せるわけには行かないのでデチューンしたり廃案にしたりと夜は三人で頭を悩ませ、昼は夜に考えた動きを実践することとなった。
あ、そうそう、先述の通り今回は三人での出場になる。
フレアは強い。ドラゴンの中でも最上位のボルケーノドラゴンだけあって、弱体化中の現在ですらやべぇぐらい強い。吸収魔法を使わなければ俺など一捻りだ。
……そう、確かに強いのだが……こと連携となるとつい先日パーティに加入したばかりでうまいこと噛み合わない。
威力高すぎる魔法は味方を巻き込むし、格闘術はほぼタイマンを想定したもの。これでは連携も何もあったものではない。無理に組み込んでもパーティという歯車を狂わす異物にしかならないだろう。
ひどい言い様ではあるが、事実なのでやむを得ず今回はメンバーから除外している。
なお、本人は憂さ晴らしに個人戦に出ると言っていたので、最上位のドラゴンと戦うこととなった個人戦出場者には黙祷を捧げよう。
で、ついに大獣王祭一週間前。俺たちは獣王国王都にやってきていた。
「ほー……これが獣王国の首都かぁー……」
思わず馬車から乗り出すように見渡してしまう。
建築様式は相変わらず洋風だ。和風なのは玉藻の前が中心となって作られた妖狐族の里だけなので当然だが。
で、洋風は洋風なのだが、少しばかり作りが違う。
なんというか、全体的に頑丈そうで……城塞っぽい? なんか、ドイツのお城を思わせる作りだ。
獣王国は武闘派が多いというが、その精神性が建物にも反映されてるなぁ……。
「こらこら、そうはしゃいではいけないよ。まずはホテルに行かないとね」
「まぁまぁあなた、いいじゃないですか。サクヤさんたちは初めての場所なんですから」
「しかし母さん、ホテルのチェックインまで時間がない。観光はチェックインをしてからにしようじゃないか」
そう言って御者に指示を出すのはハヤテさん。直接見ると言ってアリサさんともども俺達と一緒に馬車でやってきている。
そう、俺達は現在馬車に乗っている。
それも道中で護衛してきた行商人の馬車とは比べ物にならない豪華さの、まさしく貴族専用といった感じの馬車だ。
まぁ、考えてみればさほど不思議ではない。
ここまでの道中で聞いたところによると、妖狐族は国にとって重要な魔法使いを育成する一族として扱われているらしい。
そういえばココも魔法が使えるのは妖狐族と猫又族だけって言ってたしな。わずか二つの種族からしか魔法使いが育たないとなるとそりゃあ重要視するだろう。
魔法の強さ、戦闘における有用性ははもはや語るまでもない。武闘派だというのなら、なおのこと貴重な魔法戦力の大切さをわかっているだろうしな。
ハヤテさんはそんな重要な一族を束ねる長なわけだから、そりゃあもうVIP待遇は当然だ。
で、ハヤテさんの連れである俺たちもそのお零れに与れた結果、この高級馬車での移動である。
いやぁ、この馬車すごいね。全然揺れない。
前に馬車に乗ったときは、揺れによるケツへのダメージがデカかったからな。特に能力を封印されているときは再生能力による痛み止めも使えないしで最悪だった。あと地味に乗り物酔いした。三半規管に回復魔法かけてもらったら治ったからよかったけど。
それを思えばまぁ快適だこと快適だこと。
これを一般規格にしてくれませんかね? 無理? そりゃそうか、お高いだろうしね。
「んー、車体の跳ねを抑える方法…………マスダンパー?」
……うん、絶対違うな。あれはミニな4WDだから有効なんだろうし。
多分サスペンションとかなんだろうけど、中世でサスペンションを作る方法が思いつかない。
まぁ、専門学校生や大学生でもない俺のにわか知識ではわからんのも当然のこと。
それにこの世界では魔法が一般に浸透しているわけで、日本の技術で考えるだけ無駄だろう。
そんなわけで、俺はとりあえず考えることをやめ、ゆったりと馬車の旅を楽しむのだった。
「では、ルールのおさらいと行こうか」
ホテルにチェックインして日が落ちた夜、俺の個室にココとニーナが集まり、作戦会議を始めていた。
俺は事前にハヤテさんに説明されたルールを反芻し、口に出す。
「ルールは単純、降参するか戦闘不能になるまで戦う。審判の裁定に従わずにむやみに痛めつけるような戦い方や対戦相手の殺害、目潰しや金的などの急所攻撃の禁止。破ったら失格だが、抜け道は多い」
つまるところ、やむを得ない状況での殺害に持っていけばいいだけの話だ。目潰しは砂利でも投げれば同じ効果が得られるし、金的は……その、勘弁していただきたい。
いやあれ、今の俺でさえうずくまるレベルよ? もはや本能に根ざした痛みなので男という生き物はすべからく逃れられない宿命なのだ。
まぁ、急所攻撃はやむを得ない状況に持ち込むのが難しいから大丈夫だと信じたい。
……一応、念の為に血液操作でプロテクター作っておくか。
「これらのルールは禁止項目だが……逆に言えば失格になるだけで特に罰則はなし。……出場は自己責任、死ぬほうが悪いって感じだな」
「その、獣人族は過激なバトルが好きなので……」
「まぁそれはいい。んで、これらのルールは本戦でのものであり……俺達にとっての問題は、ルール不明の”予選”だ」
無論強い選手にはシードもあるそうだが、俺達は初出場なので予選をくぐり抜けなければならない。
ハヤテさんを始め、冒険者ギルドや妖狐族の里で情報収集をしたりといろいろ聞いて回ったのだが、どうにも毎回ルールが変更されるらしく、まともな対策が考えられなかった。
「いちおう過去にあったものは、特定素材の回収や特定モンスターの討伐、変わったところだとダンジョンのタイムアタックなんかだな」
どれもこれも最速でクリアしたやつが予選突破、ほかはすべて失格というかなり厳しいルールだ。
まずはここで一位にならないとお話にならない。
「個人戦だとバトルロイヤルなんかもあったらしいが、パーティ単位では流石にありえないだろうな」
どれだけの広さを用意すればいいんだって話になるからな。
一応事前情報によるとだいたい十組くらいが平均らしいから、仮に全パーティ五人ずつだとしても五十人、相当広くなければすし詰め状態になってしまう。
「とりあえず過去のデータから対策をとっていこう。まず素材回収だった場合だが――」
――そんなこんなで夜が更けて、朝が来て、また夜が来て……。
本戦開始の三日前、ついに予選会がはじまった。
「……さすがに緊張するな」
「なんだよご主人。フレアと戦った時を思い出しゃ大したことねぇだろ?」
「……そう思うとちょっと気が紛れてきたな」
中身はアレだったけど、まぁ恐ろしいほど強かったからな、あいつ。
冷静さを取り戻し、周囲を見渡す。
なんというか……歴戦のパーティですっていうのが大半なんだが、中には明らかに新人では? ってパーティもある。
……いや、油断はできない。その見た目とは裏腹にとてつもない実力者って可能性もある。
「よし、揃ったな。ではこれより、予選会を始める」
時間になると大会組織委員と思われる人たちが現れ、次々と俺たちに羊皮紙が配られた。
これは……魔法陣が書いてある。マジックスクロールか?
「これは転移魔法のスクロールだ。魔力を込めて使用すると、医療班の控えている治療室へ飛ばされる。我が国が誇る回復魔法の精鋭たちが集っている。死んでなければ大体の怪我は治せるだろう」
……なるほど、離脱したければ使えってことか。
で、当然使えば――
「使えば失格だが、死にたくなければ使い所を見誤らないことだ」
――まぁ、当然失格なわけだ。
大会側としても、死者は出てほしくないってことか。
「では、予選の内容を発表する。今回の予選は――」
ゴクリ、と息を呑み、言葉を待つ。
「――バトルロイヤル形式で行う。これより向かう草原、全てが戦場だ。思う存分戦え」
……そう来るかー。