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「はっはっは、そう怖がらなくてもいいじゃないか」

「ソ、ソデスネ」


 いや怖いよ!

ただでさえ憎からず思ってる女の子の父親なのに、その上あれだけ派手に啖呵を切ってしまったのだ。

加えてハーレムにしか見えないパーティ構成……これは……死んだのでは?

だが、俺のそんな感情など知らずにハヤテさんはのんびりとした様子で風呂に入る。


「ふぅー……久しぶりに誰かとお風呂に入るね。私の子供は女の子ばかりだったけど、息子がいればこんな感じだったのかな?」

「いやいや息子だなんて……あれ? 他にもお子さんいらっしゃるんですか?」

「ああ、ココノエの妹がね。あの子も優秀だから留学させてるんだ」

「へぇー」


 ……そういえば遥か過去にココから妹がいると聞いたような気がする。すっかり忘れてたわ。

いや、それよりもだ。


「で、では邪魔するのもあれなんで俺はこれで……」


 そう言って上がろうとすると、一瞬で腕を掴まれた。

マジかよ全く反応できなかった……。


「まぁまぁ、もうすこしくらいいいじゃないか。君の世界にも『裸の付き合い』という言葉があるだろう? ここは一人の父親として、娘がお世話になったパーティリーダーと腹を割って話したいだけなんだ」

「ま、まぁそれくらいは…………あれ?」


 ……俺の世界? 裸の付き合い……?


「ココノエの手紙で全て知ってるよ。君、異世界から召喚された勇者なんだろう?」

「えっ……」


 ええええええええええええええ!? 何バラしてんだよあいつ!?

ていうかそういえば俺扱い的には勇者でしたね。すっかり忘れてたけど。


「あの子を責めないであげてほしい。あの子は隠し事が苦手でね、いやこれだけ長い間一緒にいたんだ。それは知ってるかな?」

「え、ええ、まぁ」


 あいつちょくちょく隠し事バラしそうになるからな。例えば俺が吸血鬼の能力を使って倒した敵に着いての死因を聞かれたときとか。

フォローすんのけっこう大変なんだからな?


「他にもなにか隠してそうだったけど……まぁ、隠し事が下手なあの子が、それでも隠そうとするものだ。親としては寂しい限りだが、追求するのは無粋だろう」

「ほっ……」


 よかった、流石に吸血鬼であることまではバラさないでいてくれたらしい。

この異様に察しのいいお父さんから隠し通してくれたんだ。コーヒー牛乳を後でおごってやろう。


「さて……ここまでの話で、君も疑問が尽きないのではないかな?」

「……そうですね。なぜ異世界人を名乗る俺に疑念を抱かないのか、なぜ俺の世界の言葉を知っているのか、なぜ建築様式が突然俺がよく知るものになったのか、そもそもココノエという名前の由来、そして彼女が着ている巫女服の由来……ぜひとも知りたいですね」

「素直でよろしい。では、そのためにはまず妖狐族に伝わる伝説から話さなければならない」


 チャプンとお湯を鳴らして、ハヤテさんは座り直してから口を開いた。


「これは我々妖狐族が、まだ人族と同じ姿をしていた頃の話だ。いつの時代もそうだが、差別というものはなくならない。色が違うから、魔力が低いから、他にも様々な理由で迫害された者たちは、身を守るために団結した。しかし圧倒的少数だった彼らはついに国からも追放され、未開の地に追いやられた」


 ……胸糞悪い話だが、よくある話でもある。

俺がいた世界だって、そういう事はあっただろう。


「恐ろしい獣に、野獣のような蛮族。来る日も来る日も怯えて過ごす毎日だったが……ある日、転機が訪れる。突如として開いた転移魔法、その先から現れたのは、白と緋色の服に身を包んだ、狐の耳と、九本の尾をを持った金髪の女性だった」


 九本の尻尾……九尾の妖狐か……?

妖狐であることは予想はしてたが、まさか最上位の九尾だったとは……しかも召喚されたのではなく、自発的にこの世界に転移した……?


「彼女はココノエ、と名乗った。そしてとある理由で元の世界を追われたので、静かに余生を過ごせる場所を探しているとも言った。

そこで我らの先祖は彼女に住処を提供する代わりに、獣や蛮族から守って欲しいと頼み込んだ。

すると彼女は二つ返事でうなずき、そしてこうも言った。

『望むのなら、私の力を分け与えよう。人ではいられなくなるが、強き力と大いなる魔力を得られるだろう』……とね」

「それで、あなた方は……」

「ああ、多くの同胞が彼女から力を分け与えてもらった。結果がこの耳と尻尾だ。しかし、後悔したものはいなかった。獣も蛮族も、妖狐の力を得た我々の敵ではなかった。これまで得られなかった安寧が、ようやく得られたのだから」


 俺も、その選択にとやかく言うつもりはない。人のでなくなることと命、どちらを取るかは人それぞれだ。

それより問題は、多くの人に力を分け与えられるほど大きな力を持った妖狐がいたということだ。

俺の知り合いの妖狐も九尾だが、それでもそんなことはできない。

しかも、俺の世界から逃げてきたという事実。

……まさか。


「白面金毛九尾の狐……玉藻の前?」

「おや、その名前はやはりそちらの世界でも有名なのかね?」

「ええ、まぁ……こちらで言う演劇のようなものの演目にもありますよ。……悪役ですけど」

「だろうね、真の名を告げた時、彼女もそうなるだろうと言っていたらしい。しかし君の世界では悪役でも、我々にとっては救世主だった。安定した生活を得られた私達は彼女が望む形の家を作り、畑を作り、村を作った。これが妖狐族の里の由来だ」


 ……つまり、玉藻の前がいたから、彼女に気を使って和風の建築にしたと。

なるほど……すべての由来は玉藻の前か……。

……疑問が氷解する中、それでも一つの疑問が残る。


「ハヤテさん、その初代ココノエ……玉藻の前は、俺の世界に帰ったのですか? いや、帰らずとも……なにか、帰るための手がかりはないのですか?」


 俺の問に、ハヤテさんは少しうつむき……やけにはっきりとした声で、言った。


「ない。彼女は自分の世界については何も残さず、天寿を全うした。もともとが追われる身だったのだ、君の世界につながるものは、極力排したかったのだと思う」

「……そう、です……か」


 ああ、まぁ、逃げてきたって聞いた瞬間になんとなく察してはいた。

でも、なぁ……けどさぁ……結構、期待してたんだよ。

もしかしたらヤマトの国まで行かずに、ここで帰る方法が見つかるんじゃないかって。

期待していただけに……これは結構、来るものがある。


「……やはり、ショックかい?」

「そう、ですね。結構」


 ……でも、悪いことばかりでもなさそうだ。

まだ手がかりがつかめないのなら、俺達は一緒に旅ができる。

今の仲間と一緒に、まだ一緒にいられるのだ。

そう考えれば、まだ捨てたものじゃないかもしれない。


「……君は、なんというか……仲間に依存してないか?」

「俺もそう思います」


 生活とか金銭とかで依存してるわけじゃなくて、あいつらの存在に依存してると思う。

二人が……いや今は三人か。まぁフレアはともかく、ココとニーナが欠けたら、俺はもう動けなくなってしまう。……いや、後を追うだろう。雪山でココが倒れたとき、そう思ってしまった。

そのくらいには依存している。

なんせ、右も左も分からない、周りは敵だらけという状況で、ようやく巡り会えた仲間なのだ。大切だし依存だってする。


「……あまり良くない傾向だが……仕方ないか。さて、私は君の疑問に答えた、次は君が答える番じゃないかな?」

「え、あ、はい。なにをお聞きに?」

「これまでのココノエの活動についてかな。……無論手紙で近況は知っているが、やはり生の声を聞きたい。だから、あの子を一番そばで見ていた君に聞きたい。あの子は、どんな冒険をしたんだい?」

「……長くなりますよ?」

「いいとも、じゃあサウナでも入りながら聞こうか」


 そんなわけで、俺とハヤテさんはココ談義に花を咲かせることとなった。


 2時間ほど。


 当然二人してのぼせました。

格好つかねぇなぁ!!



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