2-02
お年玉投稿です。
かなり急ピッチで書いたので後々修正するかもしれません。
「ご主人、なんでパパさんが知ってるってわかったんだ?」
「そりゃあ、単純なことさ」
ココが通っていたのは学校だ。未成年を預かり、教育するための場所だ。
であるならば、そこから退学になった生徒が出たのなら、預かっている子供の保護者に連絡を入れるのが筋だろう。
「大体サクヤくんの言う通りだね。退学になったという連絡は一年ほど前に受け取っているよ」
「んなっ……じゃあ、全部知って……?」
「うん、嘘の手紙で退学になったことをごまかしていることも、冒険者として食いつないでいたこともね。だからほら、毎回仕送りに多めにお金を入れておいただろう?」
「あら、それは私が言ったからでしょう? あなたは気が利かないから……」
「母さん、娘の前だしせめてもう少し格好つけさせてほしいんだが」
今の会話でなんとなくこの夫婦の力関係がわかったな。
ともあれ、やはり親は偉大だ。子供の窮地を信じられない精度で察知して助けてくれる。……俺の親も助けに来てくれないかなぁ……無理か。異世界だし、放任主義だし。
あー……でもちょっと顔見たくなってきたぞ。こんなに長いこと親元を離れたのは初めてだし……これが世にいうホームシック……?
「ご主人、ご主人、意識飛ばしてないでココとパパさんたちの間を取り持たないと」
「おっといかん」
まぁ、そうは言っても黙認してくれていたのだ。そんなに大事には……。
「……お前は、学校を卒業できなかった。里の全員で出し合った学費や、想いを無駄にしてしまった。それはとても良くないことだ。わかるね?」
「うっ…………は、はい……」
あれぇ!? 思ったより厳しいぞこのお父上!?
「ま、待ってください、待ってくださいお父上」
「……君に父呼ばわりされるいわれはないが……なにかな?」
あ、今の挨拶に来た娘の彼氏への対応っぽい。
いやそうじゃなくてだよ。
「た、たしかに娘さんは失敗しました、里の人たち大勢の期待に応えられませんでした。でも、とても成長しました! きっと無為に学校へ通っていたときより、ずっと大きく成長しています!」
「……そうか、とはいえそれはあくまで君の視点だ。ココノエの成長を示すものがない」
「証拠ならあります。彼女の冒険者ランクです」
「……なるほど。たしかにAランクというのは実力の保証になるね」
そうだ。Aランクは一部の人外を除いた最高ランク。
他人に寄生しているだけでは絶対に上がれない、どんなものにも勝る実力の証だ。
「しかし、私が言いたいのはそこではない。ココノエは確かに成長したのだろう、それは私も肌で感じている。そしてAランクにふさわしい実力も得たのだろう。だが、果たしてそれは魔法学校……『帝立魔法学院』を卒業した場合よりも、大きく成長できているのかと言うのが私は知りたい」
……なるほど、学校を退学になったのをチャラにしたいのなら、学校を卒業した場合よりも今のほうが成長できたと示せ、と。
そして仰々しい名前の学校だが……おそらくこの学校の卒業者にはAランク冒険者がいる。
だからこそ、Aランクの肩書だけでは認められないってわけか……。
ううむ……困ったぞ。そもそも成長度合いを示す物差しなんてものは存在しない。
測れないものをどうやって証明すればいいんだ……?
「そうだね、君たちには証明のしようがないし、私も確認のしようがない。というわけで、手っ取り早い成果を持ってきてくれたらば、今回の件は水に流そう」
「成果、とは?」
「年に一度の獣王国王都で開かれる武道大会、大獣王祭。これのパーティ部門で優勝できたのであれば、ココノエは学校で得たものより遥かに大きな経験を得られた、そう判断しよう」
あー……武道大会系イベントかぁ……。
武道大会イベントとは、その名の通り天下○武道会的な大会に登場人物たちが参加することだ。
まぁ、WEB小説なら異世界バトルものなら八割から九割は発生するイベントだ。
だって便利だしな。主人公の強さを物理的に証明して、なおかつ今後出す予定の強キャラとかを顔見世したりもできるし、ヘイト集めてるキャラを合法的に殴れる場でもある。
でもここ現実なんですよ……俺は小説の主人公ほど強くないし、下手したら無双される側になりかねない。
何より俺は必要以上に戦力を晒したくないし晒せない。
大会となれば間違いなく大勢の観客がいるだろうし、その真中で吸血鬼の各種能力を使うわけには行かない。
そして俺から吸血鬼の能力を引いてしまえば、残るのは器用貧乏な魔法剣士だけだ。
……どうしろと?
「……ちなみに、達成出来なかった場合は?」
「私が修行をつけて、その後再び学校へ入学させる」
再入学と聞いて、ココの体がビクリと跳ねた。
……まぁ、トラウマだもんなぁ。
そして何より、再入学ということは……。
「つまり、冒険者としての活動をやめろ、と?」
「そういうことだね。やるなら卒業してからだ、卒業後まで縛るつもりはないよ」
……この条件を達成出来なければ、ココはパーティから離脱しなければならない。
卒業まで待ってもいいが……帝都では俺はお尋ね者、ほぼ会えないと考えたほうがいい。
……なんだろう。すごく嫌だ。
まぁ嫌なのは当たり前だろう。けど、なんだろう、この腹の底から込み上げる感情は。
……けど、これは俺の一存では決められない。
当たり前だ、これはココの進退を決める話。こいつ抜きで決めるわけにはいかない。
「ココ、お前はどうしたい? 俺たちのことは一旦考えなくていい。お前がどうしたいかだけ教えてくれ」
「わた、私は……」
しばしの逡巡。
しかしそれを振り切るように、ココは口を開いた。
「私は、サクヤさんともっと冒険したい! 一緒にいたいです!」
「よっしゃ、決まりだな」
改めてハヤテさんに向き直る。
「その条件、お受けしましょう。ココは俺たちの仲間、誰が相手でも、たとえご両親であっても、彼女の承諾なしに渡すわけには行きません」
「……威勢がいいね、気に入ったよサクヤ君。まるで若い頃の私のようだ」
獰猛な獣のような笑みを浮かべる彼に、背筋がゾクリとする。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「ふっ、いいだろう。大会は一ヶ月後、それまでに準備を整えるといい」
「ふぃー……緊張したなぁ……」
久方ぶりに、本当に久方ぶりに浴槽に浸かりながら、俺はため息をついた。
ここは旅人向けの宿泊施設。ココの家は広いとはいえ、俺たち全員が泊まれるほどではなかったため、この宿泊施設を案内してもらった。
で、この宿泊施設なのだが……うん、ぶっちゃけよう。完全に旅館だった。
しかも温泉付きの、である。
なんで急に和風になったのかとか色々と疑問は尽きないが、それはそれとして念願の温泉である。
そりゃ入るでしょ。
「あ゛あ゛ー……極楽ぅ……今後は地獄だけど今だけは極楽ぅー……」
あの後、ココに尋ねたところ例の武道大会はAランク冒険者でもベスト16止まりとか普通にある魔境らしい。
そして俺は能力を縛らなければならないわけで……ひと月でどこまで鍛え上げられるかが焦点になるだろう。
「そう悲観するものじゃないよ。君は若い、可能性に満ちている」
「もちろん負ける気はないですけど、いい加減苦戦したくないといいますか……ヱ?」
ギギギ、と振り向けば、そこにはハヤテさんがいた。
ぎゃあああああなんでボスが徘徊してんだよクソゲーかよ! クソゲーだったわ!
「隣、いいかい?」
「ハ、ハイ、ドウゾ」
やばいやばいやばいこれは吸血鬼狩りに出会った時並みの危険度だ。
誰か助けてぇ!!




