2-01
メリークリスマス!
ということで今回はクリスマス更新です
ささやかながら皆様へのプレゼントとなれば幸いです
「冒険者さん、もう見えてくるよ」
「おお、あそこが……」
見えてきたのは、村よりは大きく、街ほどではない集落。
そうか、ここが……。
「ええ、妖狐族の里です。歓迎いたしますよ、サクヤさん」
そう言って、ココがいたずらっぽく笑ってた。
「おおー、狐耳だらけだ」
道中でも進むにつれて獣人の割合が増えていたが、ここはほとんど獣人しかいない。
しかも全員狐の獣人。まぁ彼らの里なのだから当然だが。
そして何より気になるのが、鼻をくすぐるこの硫黄の匂いよ!
温泉だろ? 温泉だよな? 温泉だな! 入りたい! 今すぐ温泉入りたい!
「はいはい、ご飯お預けされてる犬みたいな顔してるところ悪いですけど、温泉は後回しですよ。まずは私の両親に挨拶に行きましょう」
「お、積極的だな。覚悟決まったか?」
「ええ、流石にこれだけ時間があれば」
奇遇だな、俺もこれまでの時間で正しい敬語のココに慣れた。
……あー、でも待てよ?
「こういう時って、族長にも挨拶したほうがいいよな。族長が出した金で帝都に行ったココを預かってる身だし」
まぁ、ほぼほぼカンパだったらしいが、最終的に資金を渡したのは族長だったという話だったはずだ。
となると、ココの両親と族長、先にどっちに挨拶したらいいんだ?
「あれ? サクヤさんには伝えていませんでしたか?」
「え、なにが?」
「あー……完全に忘れたんですね」
「ええ、何を忘れてるっていうんだよ?」
「私、族長の娘ですよ? どっちにせよ挨拶に行く場所は変わりませんよ」
「……ココが」
「……族長の」
「「娘ぇ!?」」
ニーナとダブルでびっくりしちゃったよ! 衝撃すぎる事実だわ!
「え、じゃあなに? お前、お嬢様なの?」
「いや、そこまで大層なものじゃないですよ……せいぜい誕生日に里総出でお祭りが開かれるくらいで」
「大層な扱いだよそれは!?」
俺の去年の誕生日なんかケーキ買ってお前は趣味多すぎて何やったらいいかわからんからこれで買えと二万円を父さんから渡されただけだぞ?
あー……でもなんかココのイキった性格が出来上がった流れがわかってきた。
幼少期は族長の娘として蝶よ花よと育てられ、魔法が扱えるとわかったらひたすら褒めて伸ばすタイプの教育をしたことだろう。
そうなればよっぽどの聖人でなければ出来上がるのは高慢ちきな高飛車女だ。
なるほどなぁ……そこまで丁寧に育てられたなら死ぬまで折れない立派な鼻っ柱が出来上がることだろう。
むしろ謙虚な今の性格に変われたのが信じられねぇ。よく変われたなこいつ。
「なんかサクヤさんがものすごく失礼なこと考えてる気がしますね」
「ソンナコトナイヨー」
「……はぁ、まぁいいでしょう。じゃあ私の実家に行きますよ」
「あいあい。案内頼むなー」
で。
「……なんか緊張してきた」
他の建物よりも一回り大きな家の前で、なんだか俺は緊張していた。
なるほど、これが彼女のお父さんにご挨拶に行く男の気分か……いやココは彼女じゃないけど、空気的には似たようなものだろう。
もう一つの懸念材料が……こいつらだよなぁ。
ちらりと振り返れば、ニーナとフレア……つまりは女二人。
やだなぁ……道中でも思ったけどハーレム野郎じゃんこんなの……絶対殴られるよ……。
でもまぁ、俺がしっかりしなければココは両親と会えないわけで。
「うっし、行くぞココ」
「大丈夫ですか? なんだか悲壮感が漂ってますが」
「気にするな、世の男は皆背負うものだ」
「そ、そうですか……では……」
ガチャリと、戸が開けられる。
「お父様、お母様……ココノエ、ただいま帰りました」
そう言いながら入っていった室内に入ったココは……驚くべきことに靴を脱いだ。
これまでの建物はすべて土足が当たり前の西洋スタイルだったのだが、ココは靴を脱いで上がっている。
フローリングではあるが、わずかながら感じる和のテイストに少しだけ心臓が高鳴った。
「おや、手紙通りの到着だね。さすがは私の娘だ」
「おかえりなさいココノエ、疲れたでしょう?」
そして出迎えてくれたのは、ココと同じ金髪に青い瞳の穏やかそうな男性と、優しげな美女だ。
どちらもココとそっくりだ。間違いなく親子だろう。
「そちらの方々が、お前が手紙でよく書いていた仲間だね? どうも初めまして、この子の父のハヤテといいます」
「私は母親のアリサといいます」
ハヤテ? アリサ? また随分と日本人っぽい名前だが……おっといかん。
「私はサクヤ・モチヅキです。こちらはパーティメンバーのニーナとフレア」
「ニーナだ。悪ぃなこんな口調で、他に口の聞き方知らねぇんだ」
「フレアじゃ。しかし我はパーティメンバーというよりサクヤのこむぐっ!?」
「はいはい、大事なとこなんだから余計なことしゃべんなよな」
フレアが危ないことを口走りそうになった瞬間、最速でニーナがシャドウバインドで口を封じてくれた。
実にありがたいが……ご両親ドン引きしてるじゃん。
「な、なるほど……手紙通り個性的な人たちだね」
「ああ、その……はい」
諦めないでくれココ。いつもはもっと……もっと……いやいつもどおりだわこれ。
「まぁ、その……少々騒がしいですが、それでも冒険者として娘さんとともに仕事をしています」
「ふむ……冒険者として、かね?」
「ええ、冒険者として、です」
あんまり力を誇示するのは好きではないが……ここは示さなければならない。
俺はギルドカードを取り出し、魔力を通して閲覧状態にした上で、お父さんに見せる。
「娘さんの力あって、全員……じゃなかった。フレア以外三人はAランクに到達できました。ココノエさんがいなければ、到底無理だったでしょう」
「Aランク冒険者……これはまた、素晴らしい功績ですね。……しかし、冒険者なのですね?」
「ええ、そうです」
Aランク冒険者、それは実質冒険者ギルドにおける最高ランクだ。
そして最高ランクは、とても学業と両立してなれるものではない。
つまりは前フリだ。
そして、この前フリに気づかないほどココの頭は悪くない。
「……お父様、大事なお話があります」
「……言ってご覧?」
「私……私は……魔法学校を退学になってしまいました!!」
土下座せんとばかりに頭を下げるココ。
それを、静かに見下ろすお父さん。
「……なぁ、大丈夫なのか?」
「大丈夫だろ。俺の見立てでは――」
「顔を上げなさい、ココノエ」
「お父様……」
「全部、知ってるよ」
――あの人、全部知ってるだろ。
そういう前に、お父さんはココにそう告げた。
……この人、強キャラ感半端ねぇ。




