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「で、お主らどこに行くのが目的なんじゃ?」
ギルドでのパーティ登録を終え、食事中にフレアが肉をかじりながらそう尋ねてきた。
「最終目標はヤマトの国だな。とりあえず直近の目標は妖狐族の里だが」
「うぐっ!」
俺の言葉に胸を押さえるココ。
まぁ、トラウマのようなものだから仕方ないが……行かないわけにはいかない。
それにいつかは両親と顔を合わせる日が来る。なら、Aランク冒険者という手土産がある今会ったほうがいいだろう。
「後は火山だな、お前が住みやすくて人がいないところ」
「我としては別に急がなくてもいいんじゃがのう」
いや急ぐよ。さっきからこいつの目怖いもん。
あまり悠長に構えてると夜這いとかされかねない、早めに引越ししてもらおう。
「まぁ、ギルドでもらった地図を見る感じ、火山も妖狐族の里周辺にあるし、向かう先はほぼ同じだな」
ギルドで活火山の場所を聞いた時は妙なものを見る目をされたが、温泉を探していると言ったら納得してもらえた。
どうやら火山は妖狐族の里周辺に多く分布しているようで、温泉は里の名物だそうだ。
ああー……早く行って温泉入りてぇー……この世界に来てからというもの、まともに風呂に入れていないんだよ。
水浴びか、あるいは血液操作で作った五右衛門風呂か。
水浴びはこの時期はまだ冷たくて辛いし、五右衛門風呂は単純に維持に使う血液と魔力がしんどくてリラックスなどできない。
はぁー……ゆっくり湯船に浸かりてぇー……。
「ご主人、なんか物凄い辛そうな顔になってるぞ」
「おっといかん」
まぁ、温泉はサブなんだよ。いや個人的にはメインだけど。
それ以上に気にかかるのはココ……ココノエという名前の由来、そしてこいつの着ている改造された巫女服の由来だ。
おそらくは日本からやってきた化け狐……妖狐に由来するものだろうが、そうなるとその妖狐は帰ったのか、そして帰ったのならどうやって帰ったのか、それが知りたい。
「よし、今回の報酬をもらったらすぐに出発するぞ。ココ、覚悟決めとけよ」
「うっ……りょ、了解っす……」
……そういや俺、一応パーティリーダーだしココのご両親にも挨拶しておいた方がいいか。
そんでパーティメンバーを紹介して……紹介、して……。
……紹介すんの? この女だらけのパーティを?
……マジか、この状態で娘さんを預かっていますっていうの?
完全にハーレム野郎じゃん。絶対殴られるよ俺。
ニーナだけならギリ保護しただけですって言えば納得してもらえたかもしれんが、フレアがなぁ……。
もうこいつマジでさぁ……あのとき火口に捨てときゃよかったかもしれん。
「なんじゃろ、すごくひどいことを考えられとる気がする」
「気のせいだ」
まぁ、時は巻き戻らない。適当なところでフレアを捨て……もとい、ちょうどいい住処に置いていけることを祈ろう。
もしダメなら……まぁ、一発くらいもらうことを覚悟しておこう。
……いやな覚悟だなぁ。
「では、私たちがあなた方を護衛いたします。どうぞよろしくお願いします」
「いや待て誰だお前!?」
時はすぎ、三日後。
無事ドラゴン退治(退治してない)の報酬も受け取り、せっかくの旅路なので、護衛の依頼でも受けようかという話になった。
で、俺はギルドへ依頼受注の手続きを行い、ココが依頼主へ挨拶と打ち合わせに行くっすーといって話しかけた時、それは起こった。
「誰って……失礼ですね。貴方のココノエですよ?」
「言い方! いやそれもだけど、なんだその口調!? ココといえばあの妙な敬語だろうが!」
「あー……あれはその、帝国語に慣れてないばかりに変な口調になってしまいましたが……素はこちらですよ?」
「マジか……マジかー」
いやまぁ、母国語なら正しい口調で喋れて当たり前なのだが……違和感が凄まじい。
もはや形容し難いほどの違和感だ。
ていうかあれ訛りを翻訳した結果だったのか。翻訳機能すげぇ。
「もー、サクヤさんはしょうがないっすねぇ。こっちはいいなら普段はそうするっすよ」
「そう! それだよココはそれでないと!」
あー、なんだろこの実家に帰った時のような安心感。
もう半年以上この口調を聴き続けたせいでこれじゃないと満足できない身体になってしまった。
ある意味これも調教なのだろうか?
「まったくサクヤさんはまったく……じゃあ打ち合わせに戻るっすよ?」
「あ、ああ、すまんな」
いや、しかしココにとってこの国は母国。
母国語を喋るのは当たり前だし、これからは慣れていかないと……。
「すまんな嬢ちゃん、荷車は五台ほどで……」
「ええ、わかりました。私たちのパーティは四人なので各一台ずつ、私とリーダー二人ででもう一台も見ることにしましょう」
「やっぱ違和感すげぇ!!」
……慣れるの、無理かも。
「なぁなぁご主人、そんなに違和感すごいのか?」
「ああ、なんだろう……動物が人間の言葉喋ってるような違和感がある」
「その例えはひどくないですか!?」
俺としては結構的確な例えだと思うんだが。
しかしまだ獣人語が不得手なニーナにはよくわからないらしく首をかしげている。
いや、帝国語も獣人語もわかるらしいフレアも特に違和感を感じてないあたりに召喚特典の翻訳能力を持つ俺だけの違和感なようだ。
くっ……便利だけど絶妙に足引っ張るなぁこの翻訳能力!
「まぁ、特に実害はないからいいか……」
俺の違和感が凄まじいだけだからね。特にダメージを受けたりはしてないし。
……いや、俺の精神にダメージは入ったが。
……まぁ、何はともあれ妖狐族の里に向かって出発だ。
「ふふ、温泉楽しみですね、サクヤさん」
「違和感……!!」
記念すべき100話がここまで遅れてしまい申し訳ありません。
お詫び兼100話記念に作中で語る暇がなかった設定でも語ろうかと。
吸血鬼の平均寿命は500年から800年と作中でも明言しましたが、500年かけてゆっくり成長するわけではありません。
作中でもサクヤは17歳と明言しており、外見年齢もおおよそ一致しています。
吸血鬼の歳のとり方は、だいたいサ○ヤ人です。
生まれてから全盛期までは普通の人間と同じように歳を取り、そのまま若い全盛期の姿がずっと続くわけですね。
大体20歳前後まで成長するとそこで止まり、個人差はあれどだいたい600年ほど経って老化が始まります。
そして400年ほどかけてゆっくり老化し、死んでいきます。
それだと平均寿命短すぎない? と思われるかもしれませんが、作中で明言されている平均寿命はまだ人間と争っていたときのものです。
つまり100年も生きずに戦って死んだものもカウントされてたわけですね。
サクヤは平和ボケしてるのでこの事実に気づかず爺ちゃんはホラ吹きだなぁとなってたわけで、実際には吸血鬼はみんな1000年近い寿命を持っているわけですので、じいちゃんが言っている「1000年生きた」という言葉はあながち嘘ではないかもしれません。
もちろん大嘘という可能性も大いにあるので、真相は闇の中ですが。
今後もまた区切りのいいところでこんな毒にも薬にもならない設定をこぼしていこうかと思います。
いちおうプロット通りに進めば(現時点で進んでない)、まだまだ話は続くので語る場もあるかと。
では、今後もまだまだ続くサクヤたちの冒険にお付き合いいただければ幸いです。




