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 はじめに感じたのは、ふんわりとしたいい香り。続いて後頭部に感じる柔らかさ。


「…………んあ?」

「あ、目が覚めたっすね?」


 目を開ければ、大きなお山と、その上から顔を出すココ。

…………えーと、つまり、なんだ?

俺は今、男のロマンである膝枕をされているというのか?


「んっふっふー、どうっすか? 美少女の膝枕っすよ」

「……その言葉で台無しになったな」

「ひどい!」

「……冗談だ、あんがとな」

「……まったく、素直じゃないっすねぇサクヤさんは」


 とりあえず、してくれているのだからと遠慮なくココの膝枕の感触を堪能しつつ、周囲を見渡す。

ベッドと医療器具と思わしき道具が並んでおり、どうやらここは医務室のようだ。

まぁ、倒れたやつを運び込むんだからそういう場所で当たり前か。

今は俺たち以外いないようで、おかげで今の情けない醜態を晒さずに済んでいる。まぁ流石に人前だったらココもこんな事やってないと思うが。


 ……まだダメージが残っている身体に魔力を巡らせて回復させつつ、思い返すのは先程の試験。

……アレは、正直ないと思う。

いや、結果がではない。


「……普通の高校生は、あんなに適応できないよなぁ」

「なんか言ったすか?」

「いんや、なんも」


 ……そう、俺が感じているのは、俺の適応能力の高さ。

さっきの試験は、実戦形式の試験。

ようは殺し合いの練習だ。


 そんな状況で、俺と同じようになんの訓練も受けていないごく普通の人間だったら、まず間違いなく最初のグラインさんの殺気に当てられた瞬間、身体がすくんで動けなくなるだろう。

けど、俺はそれに対応して回避した。

それどころか意地になって勝ちを狙いに行くほど戦いにのめり込んだ…………いやいっそ、楽しんでいたと言ってもいい。


 それは紛れもない、戦闘種族である吸血鬼の証だ。


「あー……俺って、やっぱ吸血鬼なんだなぁ」

「何を今更言ってるんすか。今朝もあたしの血飲んでたじゃないっすか」

「ごもっとも」


 まぁ、だからどうしたという話だ。

俺は吸血鬼、それは今も昔も変わらない。

だから俺は吸血鬼として、吸血鬼のまま、人間の中で暮らしたい。


「うっし、回復完了。んじゃギルドカード受け取りに行きますか」

「おー、心躍る瞬間っすね!」


 俺はそんな当たり前を確認し、ココとともに医務室を出た。













「あ、サクヤ・モチヅキさんですね? ギルドカードはもう出来上がってますよ」

「ああ、ども、ありがとうございます」


 受付に向かうと、俺の試験の案内をしてくれたお姉さんがすでに用意して待っていてくれてた。

そして、俺に金属製の、何も書かれていないカードを差し出してくる。


「では、こちらがギルドカードです。あなたの魔力を流していただくことで魔力紋を認証し、ギルドへの登録が完了します。以降は微量で構いませんので魔力をカードに流していただくと、登録された情報が表示されます」

「ほー、盗難対策に個人情報管理までバッチリとは……」


 魔力紋、というのはよくわからないが、隣に住んでる魔法に詳しいばあちゃんから、魔力は人によって微妙に違うって話を聞いたことがあるし、おそらくそれだろう。

指紋ではなく魔力で認証しているあたりがハイテクながらファンタジーである。


「えっと……こうかな?」


 グラインさんに向けてぶっ放した魔力弾の感覚を思い出しながら、ごく少量の魔力をカードに流していく。

するとカードが仄かに光り、俺の名前と職業(剣士になっていた)、そして冒険者ランクが浮かび上がる。


「はい、これで登録完了です。以降は依頼を受ける際や依頼を完了した際などにこちらのカードを受付に提出してください。また、再発行は可能ですが1万ソル頂いていますので紛失にはお気をつけください」

「うっ……結構高いんですね……」


 ちなみにソルというのはこの世界のお金の単位だ。

金貨一枚で1万ソル。ココから聞いた話を総合すると、だいたい価値は1ソル=1円くらいだ。

もちろんだいたいなので、相違はあるが。


 で、話を戻すと再発行に1万ソル、つまり一万円だ。かなり高い。


「まぁ、それだけコストの高い技術を使用していますから。初回無料なのも結構頑張っているんですよ?」

「なるほど」


 まぁ、そういうことなら紛失には気をつけるとしよう。

カードには右端に穴が空いているので、ここから紐でも通して首からぶら下げろってことなんだろう。あとでなんか丁度いい紐を買うか。


 笑顔のお姉さんに見送られ、俺達は昨夜食事した酒場の方に移動し、渡されたばかりのギルドカードを眺めていた。

うーん、なんかこう……新しく手に入れたものって無性に眺め回したくなるよね。なんかこう……そう、新しいおもちゃを買ってもらったときの心境というか。


 そんな俺を見つめていたココが、意を決したように口を開いた。


「サクヤさんサクヤさん、結局サクヤさんって、どのランクになったんすか?」

「え、お前覗いてたから知ってるだろ?」

「いや流石に声までは聞こえなくて……ていうか覗いてたの知ってたんすか!?」

「あんだけキツネ耳ぴょこぴょこ出してたら気づくわ」


 ていうかそのでかい耳は飾りか。……いやまぁ、狐の耳がいいって話はあんまり聞かないが……それでも人間より悪いってことはないだろうに。


「……まぁいいや。で、ランクだっけ? CだよC。ちょうど真ん中、実に日本人的なランクだ」

「どんな民族なんすかニホンジン……。っていうかC!? Cって言ったっすか!?」

「ああ、言ったよ。……ほれ」


 ギルドカードに軽く魔力を流し、情報を浮かび上がらせてココに見せる。

……ていうかいい加減魔力使うのもしんどいな。グラインさんにぶっ放した魔力弾もあれ、かなり無理矢理使ったからなぁ。

例えるなら……そう。野球のフォームでボウリングの球投げたみたいな? 本来の用途とは全く別の使い方したせいか、全身の神経が筋肉痛みたいに痛い。

多分魔力回路に負荷がかかって痛んでるんだろうけど……俺の回復能力が血液と魔力に依存する関係上、回復力を増すとよけい魔力回路に負担がかかるので、自然回復を待つしかない。

なのでもうそろそろ休みたいんだが……ココはどうやらそれどころじゃないようだ。


「マジっす……マジっすよサクヤさん! あの鬼教官のギルマス相手にCランクとか、とんでもない快挙っすよ!!」

「……え、なに、そんなすごいの? だって真ん中だよ? お前だってすごく頑張ればCくらいまでならすぐ上がれるって言ってたじゃん」

「いや確かにそうなんすけど、ギルマス相手にCランク取ったってことがすごいんすよ!! ギルマスは鬼教官って有名でして、ギルマスが試験官を務めた場合は大体が不合格、合格してもほぼ確実にEからってのが通例なんす」

「あー、まぁたしかにあの爺さん厳しそうだったからなぁ……」


 冒険者を目指して試験を受けた初々しい若者相手に、あの殺気はきついものがある。

慣れてしまえば今から攻撃を仕掛けるよっていう合図でしかないんだが……さっきも考えてたとおり、普通の人は身がすくんでしまうだろう。


 で、そうなれば初撃で決着、当然試験は不合格。あるいは対処できたとしても次の一手で詰み、最低ランクからもやむなしだ。


「なのに余裕で合格してあまつさえ2つ飛ばしでCランク! これは快挙っすよサクヤさん! いやーめでたいっす! 実にめでたいっす! 今夜は宴っすね!!」

「おいバカやめろ財布が致命傷を受けるだろうが。あといい加減声下げろ、目立ちたくないんだよ」


 どんどんヒートアップするココを鎮めようと口を出すが……遅かった。


「よう兄ちゃん、あのギルマス相手にCランクもぎ取ったって本当かい?」


 ……俺たちの座るテーブルに、いかにも荒くれ者です! という主張の激しい男がやってきた。





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