97話 ビッグマッチ
夜
特訓組のガイたちはもちろんのこと、家事などの手伝いをしてくれているユリナたちも休校期間中はヒロムの屋敷に宿泊することとなっているためかこの日は皆で揃って夕飯を食べていた。
ヒロムの屋敷がそれなりの広さを持つからか10人以上はいるこのメンバーが全員揃ったところで余裕がある。そんな中で食事をするヒロムたち。その傍らで幼子の精霊である飛天はソラの宿す精霊の子猫のキャロとシャロ、そしたガイが飛天と同じように宿す精霊の子犬の鬼丸にごはんをあげようとしていた。
「みんなごはんですよ」
「ニャー」
「ミャー」
「ワン」
ごはんが待ち遠しいのか3匹は飛天の前でお利口さんで座っており、飛天は3匹の頭を優しく撫でるとそれぞれにごはんの乗せられた平皿を1つずつ置いてあげる。
「はい、どうぞ」
飛天が優しく言うとキャロたちは元気よく食べ、飛天は3匹がしっかり食べているの確認すると今度はノアルが宿している子竜の精霊であるガウとバウのもとへ向かう。
すでにガウとバウはごはんを食べており、飛天は2匹が仲良く食べているのを確認するとガイの隣に座って自分の分のごはんを食べようとする。
「いただきます!!」
「ちゃんと噛んで食べろよ飛天」
「うん、ご主人!!」
ガイの言葉に強く返事をして食べ始める飛天。そんな飛天をガイとユリナたち女性陣が見守っている中でヒロムはテレビの画面を見ていた。
何かを考えてるのか、何も考えてないのかは分からないが食事の最中でテレビの画面をじっと見ている。そんなヒロムが気になったのか隣に座るユリナは彼の肩を叩く。
「ん?」
「味、口に合わなかった?」
「……いや、こういう団欒っていいなって思ってただけだ」
「そうなの?」
「……疑ってる?」
「ヒロムくんってそういうの興味無いと思ってたから……てっきりまた《世界王府》のこと気にしてるのかと思ったから」
「まぁ、それも気にはしてるけどな。
正直な話、テレビ程度の情報じゃ何の足しにもならねぇよ」
「でもニュースとかなら……」
そこなんだよね、とイクトは夕飯の品を頬張りながらユリナの言おうとした言葉についてある補足をしていく。
「今のご時世、ニュースなんて情報の操作とか印象操作を狙ったような偏った面からしか伝えないニュースばかりだから信用も何もないんだよね。姫さんの言い分は分かるけど、テレビのニュースが扱うニュースなんてオレが知る裏社会の情報屋の持つ情報と比べたら塵程度のもの。中身も聞けば聞くほど市民やらを安心させるためだけのそれぽい内容でまとめてるだけ。本質を捉えたものは何も語られてないのさ」
「でもそのニュースを見てる人もいるんだよ?
イクトの言い方だとニュースは信用出来ないみたいに……」
「信用出来ないじゃん、実際。半年前なんて大将がテロリストを倒して街の壊滅防いだのに街の人が大将がいたからテロリストが街で暴れたとか大将がここにいるから犠牲者が出たとか適当なこと叫ぶわネットもそれに便乗して大将を誹謗中傷するわ、挙げ句の果てに姫さんの言うニュースは世間体を気にしてか大将を非難する報道をしてたんだよ?それでも信用出来るの?」
「それは……」
「初戦ニュースが語ることは世間体を気にしたものばかり。世間がある方向に不満を持ってしまえばそっちに偏った内容を放送する、それが今の報道なのさ」
「でも……」
黙ってろ、とイクトの言葉にユリナが何か言おうとするとヒロムは2人に黙るように伝え、何故か真剣な表情でテレビを見てしまう。何があるのか、気になったユリナとイクトはもちろん、ガイたちもテレビの方を見るとニュース番組の報道担当のアナウンサーの女が何かを読み上げていく。
『ここで臨時のニュースです。先程防衛大臣の大淵麿肥子が《センチネル・ガーディアン》の存在意義および活動についての不信任案を議会に提出、《センチネル・ガーディアン》の創立および責任者の鬼桜葉王と意見の対立から《センチネル・ガーディアン》の必要性を問うべく決闘を執り行うことを発表しました』
「決闘!?」
「ヒロム……」
「……静かにしてろ」
『大淵大臣は頻発して現れる《世界王府》のテロリストに対して《センチネル・ガーディアン》の姫神ヒロムが任命された職務を全う出来ずにテロリストを取り逃してしまっていることを問題視し、大淵大臣は現在の日本国防衛においてテロリストを拘束できないのであれば存在の意味は無いと主張。これに対して鬼桜葉王さんはまだ若いものに全ての責任を問うのは不当だとして真っ向から反論、大淵大臣に対して主張を通したいのであれば《センチネル・ガーディアン》に代わる能力者と決闘をさせろと申し出ました』
「ヒロムくんが……」
「こういうことだよ姫さん。これが今のニュースとそれに情報を伝えさせてる連中の1人の素顔だよ」
「この感じ……拒否権ってないよな?」
「拒否するも何もそんなことすればヒロムは逃げたと非難されるだけだろ」
アナウンサーの女が話す内容になど耳を貸すことなくガイとソラは冷静に情報をまとめようとしているが、2人はどこかこのニュースに対しての許せない思いがあるのかその目にはどこか殺気にも似たものが秘められていた。
シオンや真助、それにナギトとノアルもこのニュースに対して納得いかないらしく食事をする手が止まり、ユキナたちもさすがにゆっくりと食事をすることなど出来なかった。そんな中、ヒロムはため息をつくとリモコンを手にしてテレビの電源を消してしまう。
何故消すんだと言いたげに全員がヒロムの方を見るが、視線を向けられるヒロムはリモコンを投げて手放すとガイたちに向けて話していく。
「この程度でいちいち反応するな。
どうせ現実を理解していないバカが出世したいがために利用しやすいオレを狙っただけだ」
「でもヒロムくん……」
「心配するなよユリナ。
どうせ中年太りのクソ野郎が注目浴びて次の選挙で票取りたいがために悪目立ちしようとして周りを巻き添えにしてるだけ、そんなクソ野郎が何してこようがオレには関係ねぇよ」
「けどヒロム、決闘ってことは……」
「報道のカメラの中で戦わされるかもな。こんだけニュースにされてるんなら中年太りのクソ野郎は隠密とか内密って判断はしないだろうしな。だから……どんな決闘になろうがオレのやることは変わらない。クソ野郎がオレを潰したいのなら……オレが何もかも潰して現実を突きつけてやる」
決闘が行われるかもしれない、そうだとすればヒロムは《センチネル・ガーディアン》に異を唱えた大淵大臣の全てを潰してでも現実を突きつけると強気な発言をして席を立ってしまう。
「ヒロム?どこに行くの? 」
「悪いなサクラ、少し用事が出来た。気になるならついてくるか?」
「そんなの決まってるでしょ。これから夜も危ないのにアナタを1人にさせられないわ」
「わ、私もヒロムくんについていく!!」
「じゃあ……」
「残念だがオレ1人が万が一に守れるのは2人までだ。ユリナとサクラ以外は悪いがここにいてくれ」
ユリナとサクラは連れていき他は留守番、ヒロムのその言葉に一部納得しないものがいるが彼は気にする事はない。
そんなヒロムにガイはどこに向かうのか質問した。
「ヒロム、どこに行くんだ?」
「決まってんだろ。オレを否定しようとしたクソ野郎に反発したあの野郎に話を聞きに行くんだよ」




