96話 戦場変わりて
ヒロムとサクラが話す頃……
屋敷の地下にあるトレーニングルームではガイとソラ、イクトとノアル、シオンと真助がそれぞれ実戦形式の特訓をしており、ナギトはヒロムの精霊であるフレイとラミアを相手にガイたちのように特訓をしていた。
特訓とはいえ白熱するガイたち。トレーニングルームに設置された時計にあらかじめセットされていた制限時間の終わりを告げるタイマーの音が鳴っても彼らはやめようとしない。激しくなる戦い、奇しくも偶然が重なって4つの戦いで相手の出方を伺うように双方が距離を取って構える。
激しく続いていた戦いに訪れた一瞬の静けさ、その静けさの中でガイたちは集中力を高めると再び動き出そうとしたが……
「ご主人〜!!おやすみの時間だよ〜!!」
トレーニングルームの入口が開くと幼子の精霊・飛天が走ってきてガイに駆け寄り、飛天がガイに駆け寄るとそれを機に集中している全員が高ぶる気持ちを抑えて一時休戦として武器を下ろす。
「飛天、わざわざ教えに来てくれたのか?」
「うん!!時計さんの音鳴っててもご主人おやすみしないから来たの!!」
ありがとな、とガイは飛天の頭を撫でて礼を言い、頭を撫でられる飛天はどこか嬉しそうに笑む。すると入口から水の入ったペットボトルを人数分持ってユキナがやってきてガイたちにペットボトルを手渡していき、彼女はガイに質問をした。
「皆白熱してたみたいだけど順調なの?」
「……いや、どうかな。
結局のところオレたちのこの方法はこの屋敷に設けられたトレーニング用のプログラムでは物足りないからって始めたことだから成果云々は度外視してる」
「それで大丈夫なの?
サクラから聞いたけど、ガイたちはヒロムのアシストが出来るだけの力をつけるように言われてるんでしょ?」
「まぁ、葉王からはそう言われてるけどオレたちとしてはそれなりにヒロムのアシストが出来るだけの力があると思っていたから改めて言われると右も左も分からないって感じだよ」
「苦戦してるのね。いっそのことヒロムの真似して瞑想してみたら?」
「……瞑想自体はともかく大人しくしてるのが苦手なヤツがいるから今のやり方になってるんだよな。というか、やり方の話をするならオレたちの知識じゃ足りなさ過ぎる」
だな、とユキナと話すガイにソラは歩み寄ると話に入るように言い、ソラは現在のトレーニング状況についての意見を述べていく。
「オレらが出来るのは手当り次第の特訓だけ。葉王の求めるものを結果として出そうとすれば指導者なり専門家の知識が欲しいところだな。今のやり方がオレたちの最大限のやり方であると同時にもっとも効率の悪い疲弊のひどいやり方だからな」
「でも実際のところオレたちのこれまでを振り返ってもこういうやり方しかしてこなかったからな」
「ご主人、タイショーさんのマネしちゃダメなの?」
ガイとソラの話を聞いていたらしい飛天はガイにヒロムのやり方を模倣するということを言うが、ガイは飛天の提案に首を横に振るとヒロムのやり方を模倣するやり方をしない理由を話していく。
「ヒロムの目指すものとオレたちの目指すものとでは大きく異なる。アイツは精神的に強くなり、オレたちは実力的に強くなろうとしている。心と体のそれぞれを高めようとするヒロムとオレたちとでは根本的に違うからどれだけ真似しても意味が無いんだ」
「タイショーさんのマネはダメ?」
「ゴメンな飛天。せっかくアイデアをくれたのに」
ヒロムのやり方を模倣する方法はダメだと何となくで理解した飛天が悲しそうな目をしているとガイは飛天に謝りながら彼を抱きしめ、ソラはガイに今後のやり方について提案していく。
「やっぱりやるとなればオレたちの本能を刺激して強さに直結できるような起爆剤になるような相手が必要になるな。ナギトのあのやり方はヒロムの弟子であるが故に成り立つってだけでオレたちがやっても今のやり方と変わらない。葉王や一条カズキ、それか《一条》の人間が相手になってくれるかしなけりゃ難しいと思うぞ」
「でも葉王は助言だけ残した。だとしたらオレたちだけで出来るやり方があるはずだ。それを見つけてクリアしなければ……オレたちは強くなれない」
強くなるためには最適なやり方がある。だがそのやり方が見つからずに手探りであるガイたちは頭を働かせて悩むしか無かった。果たして方法はあるのだろうか……
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その頃
警視庁、そこにある会議室へ葉王は呼び出されていた。
葉王を呼び出したであろう中年太りのスーツの男と警視総監の千山がおり、葉王が会議室へ入るなり男は葉王に対して単刀直入に話の本筋を話していく。
「やぁ、鬼桜くん。キミを呼んだ理由は分かるよね?
キミが警視総監に対して提案して採用された《センチネル・ガーディアン》についてだ」
「オレの提案したシステムに穴があると言いたいんだろォ……日本国軍事統制担当の防衛大臣・大淵麿肥子さんよォ。それとも他に呼び方あッたかァ?」
「好きに呼んでくれればいいよ。何せ前者の方は能力者によるテロ対策と《世界王府》への対策の1つとして総理から試験運用として任命されたばかりだからね」
「オレとしても肩書きなんざどうでもいいィ。オマエがオレをここに呼んだ理由を話せェ」
「……なら単刀直入に言おうか。《センチネル・ガーディアン》、キミが提案したそれは当初の見込み通りの成果が出ているのかい?」
「成果だァ?《センチネル・ガーディアン》はそれぞれが各地でテロリストの摘発を行ッているし姫神ヒロムだッて《世界王府》の幹部クラスを相手に撤退まで追い詰めてるだろォ?それで不満だとォ?」
「キミの言い方なら《センチネル・ガーディアン》は国のために大きく貢献しているだろう。警視総監殿も同じ言い方をしてくれる。だが、私から言わせてもらえば撲滅してもらわねば困るのだよ。せっかくのこの日本に《世界王府》という悪の手先が潜んでいるとなれば国外からの旅行者は減る危険性があり、それに伴い経済的な打撃も大きくなる。さらに言うなら《センチネル・ガーディアン》の戦闘による器物の損壊に対して適用される費用もバカにならない」
「……何が言いたいィ?」
「《センチネル・ガーディアン》の解体、私の求めるものはそれだけだよ。権限か何かで好き放題戦う《センチネル・ガーディアン》を解体し、キミの指導で教育を進めている《フラグメントスクール》の先鋭をより防衛に特化させた状態に仕上げることで国のための防衛戦力として機能すると思わないかね?」
「……防衛大臣のくせにろくな仕事もしてねェのに偉そうなことをォ。若いヤツらが血を流して必死になッてることを否定するのかァ?」
「だからこそだ。今のやり方では無駄な負傷者が増えるのなら徹底したやり方で統制して防衛の手立てとすべきだと思わないかね?《フラグメントスクール》の好成績者30人を選出し、その30人を各地の軍属のエリートが指導しながら前線で指揮を執る……その理想形を完成させればキミの言う若い者が血を流さなくて済むであろう?官僚でもないキミではなく大臣である私が成果を出せば世論はどちらを支持すると思うかね?」
「……なるほどォ。オマエは自分の正しさを主張するために《センチネル・ガーディアン》を否定して成果を上げて上の地位を狙ッてるッてことかァ。己の欲のためなら人が指導中のアイツらも利用するッてんならァオマエの望み通りにしてやるよォ」
「では私の提案を……」
ただしィ、と葉王は一言付け加えるように言うと男に……大淵麿肥子に対して告げた。その口調は気だるさのあるいつものものではなく、真剣な話をする際の彼本来の口調となっていた。
「今の《センチネル・ガーディアン》とオマエの言う新しい案のどちらが真に国を守るに相応しいかを国民の目の前でハッキリさせてやるよ。安全なところで傍観してるだけの中年太りよりも困難に立ち向かって自力で今を勝ち取っているアイツらが優れていることをオレが証明させてやるよ」




