95話 私は私を捨てられる
ペインとの激闘、それが学校の校庭により行われたということもありヒロムたちの通う姫城学園は数日間の臨時の休校、さらに政府は他の学校の安全も考慮して周辺地域へ臨時の休校を宣言。
それによりヒロムたちは休みを得ることになるが、ペインとの1件からガイたちはヒロムの屋敷の地下にあるトレーニングルームに籠って特訓を続け、ヒロムに関しても屋敷の庭で1人静かに座禅を組んで目を閉じて瞑想していた。
「……」
風が吹き抜け、木々や花の香りがヒロムのそばを通る。そんなことを気にかけることも無くヒロムは静かに瞑想を続けるが、何を勘違いしてるのかソラの宿す精霊である子猫のキャロとシャロ、さらにはガイの宿す精霊の子犬の鬼丸は瞑想中のヒロムのもとへやってくると彼の膝の上に乗ろうとするようにじゃれ始めた。
「……」
「ニャー」
「ミャー」
「ワン」
「……クソ、気が散る」
ヒロムはため息をつくと瞑想をやめて目を開け、構ってほしいであろうキャロたちを膝の上に乗せるとキャロたちを撫でる。
「ったく、ユリナたちと遊んでたんじゃないのか?」
「ワン?」
「ニャー」
「……なるほど。サクラが気を利かせて外で遊べるように連れてきたのか。それをいい事にここに来たのか」
「ミャー」
「怒ってねぇよ。ここで瞑想してたオレが悪い。
室内でやるより気分転換になると思ったのに……とんだ邪魔が入ったものだ」
「あら、そのわりには嬉しそうに見えるわよ?」
キャロたちを撫でながら話すヒロムの後ろからサクラが声をかけ、サクラに声をかけられたヒロムが呆れたようにため息をつくと彼女は微笑みながらヒロムの隣に座る。
「……オレがここで集中しようとしてるの分かっててコイツらを仕向けたな?」
「仕向けたって言い方は失礼よ。
この子たちがアナタのところに行きたがってたんだから私はアナタの気分転換も兼ねて散歩させてあげただけなんだから」
「……オレが悪いってか?」
「そんなこと言ってないわよ」
「冗談だよ。オレが無理しないように休ませようとしてくれたんだろ?」
「そんなところよ。順調……なのかしら?」
いいや、とヒロムはサクラの質問に対して曖昧な返事を返すと続けてサクラに今の状態について話していく。
「ペインとの件でオレは《ユナイト・クロス》を使えるようになった。でもそれは葉王にも言われたようにオレが最適なポテンシャルを発揮出来る状態になれるだけで強くなったわけじゃない。だからって闇雲に力を求めるのはペインと変わりないから精神的に強くなる必要があるわけなんだが……ここ何日か色々試しても思い通りにいかない感じだ」
「私には分からないけど精神的に強くなるってことは何か変わるものなの?」
「それはない……とは言えねぇな。
ペインとの件でオレは別世界の自分を知ると同時にその世界のユリナの死を目の当たりにしてソラが背中を押してくれたりナギトが自分の思いを明かしてくれないと《レディアント》の力すらまともに使えなくなるほど精神面は不安定になった。そこから何をどうすべきか、葉王の精神力を高めるように告げられたことと《レディアント・アームズ》が使えなかったことからオレに必要なものが何かが分かったから代わりに《ユナイト・クロス》が使えるようになった。オレの精神力が大きく関わって変化が左右されるのなら精神的に成長するってのは不可欠なのは否定できない」
「複雑なのね」
「複雑、というよりは目に見えて成長してるか判断出来ないことだからなかなか難しいことではあるよ。
それを課題とする葉王が何を求めているのか、それに対してオレが応える必要もあるしな」
「でもやるしかないのね?」
「……オレがやるべきことがそれならやるしかないからな。
傷だらけになりながら戦うことになるとしても……ユリナやサクラを心配させるようなことをするてしてもオレがやらなきゃ《世界王府》を止められないならオレはどんな困難が待っててもやるしかない」
「……無理はダメよ?」
どんな事があってもやるしかない、その強い意思を明かすヒロムの手にそっと自分の手を重ね彼の身を心配するサクラは彼に身を寄せ、サクラに身を寄せられたヒロムはどこか恥ずかしそうに頬を赤くする。
何やらいいムードになりつつある……かと思われたが、そんな中でまさかのサクラが自らこの空気を壊すようにヒロムにある話をしていく。
それはペインとの激闘後に葉王から聞かされた母・姫神愛華が手配したとされる屋敷に来るヒロムの助けとなるとされる人物についてだ。
「愛華さんが手配してくださった人物……その人の荷物が屋敷に届いたわ」
「ふーん、早いな」
「荷物の中身から見て年齢的には私たちと同い年。そして……アナタと私の知る人間よ」
「あいにくだがオレはサクラ以外に昔に約束して破ったおぼえはないぞ」
「その件はもう気にしなくていいのよ。
でも、心当たりはあるはずよ?」
「……サクラはもう分かってるのか?」
「ええ、荷物の整理の許可はもらっていたから中身を確認したわ。荷物の中の服のセンスからして……来るのはヒカリよ」
「……悪い。オレはその名前を聞いてもいまいち分からん」
「あら、覚えてないの?
私と一緒に何度かアナタと会ってるはずなのに……残念ね」
「またオレが忘れてるパターンか?
まさかそのヒカリってのとオレは変な約束してねぇだろうな?」
それはないわ、とサクラはヒロムの質問に対し一言返すと自身が名前を口にしたヒカリについて話していく。
「ヒカリは私のように約束をしてアナタと別れるようなタイプじゃないわ。どちらかと言えばアキナのように気持ちが先行して行動するタイプだからアナタへの手助けになるっていうのは身の回りの事云々というよりはアナタの課題の精神的に成長するって面での力になるってことなのかもしれないわ」
「サクラがユリナやエレナ、ユキナと同じタイプなのに対してヒカリはアキナと同じ……ってことは気苦労が絶えなさそうだな」
「そうね。アキナのようにアナタへの愛が強く我が強い子はそういないものね。それにアナタとしてはユリナやエレナのような可愛い子が好みだろうし」
「……嫌味か?」
「あら、事実でしょ?
アナタ、ユリナやエレナと話す時は私やユキナの時と違ってどこか嬉しそうに話すんだもの。聞いてて少し妬いてるのよ?」
「……そんなつもりはない」
「でしょうね。だから私もいじわるするつもりはないわ。
アナタにとってそれが心の安らぎになってるのなら私はそれを応援するなり支えることが役目なのだから」
「……オレが言うのもなんだが、オマエはかわってるな」
「ええ、私は変わってるわ。
だって……アナタのためなら自分を捨てられるのだから」
サクラの言葉、それを受けたヒロムは彼女の心にある強い意志を感じ取った。そしてその意志を受けたからこそヒロムは心にある思いを抱いた。
彼女は自分のために己を捨ててまで尽くそうとしている。ならば……
「必ずオレは前に進むべく強くなる。
だから……サクラ、オレのわがままに付き合ってくれるか?」
「ええ、アナタのためなら」
「……ありがとう」




