92話 消える事無き闇
「終わりだ、ペイン!!」
ペインを倒すべく精霊たちの力を合わせて放った一撃で敵を襲うヒロム。その一撃を受けたペインは防ぐことも出来ずにその身で受け、ヒロムの力の衝撃に襲われていき、ヒロムの一撃を受けたペインは舞い上がる戦塵に飲まれるように消えてしまう。
舞い上がる戦塵で姿は見えない、だがヒロムの一撃が決まったことはヒロムはもちろんガイたちも目にしていた。
これで終わった、ヒロムがそう思おうとしたその時空間が大きく歪み始め、歪んだ空間が戦塵を取り込みながらペインの姿を現させる。
ヒロムの攻撃を受けたペイン、ひどく負傷しているペインは空間の歪みに体を浮遊させられると全身から禍々しい何かを放出することで体の傷を消していく。
「ヒロムの一撃を耐えた……!?」
「違う、あれは……」
ペインの身に起こる謎の現象にガイたちが驚きを隠せずにいるとペインはヒロムから受けた攻撃のダメージを無かったことにするように全て消すと地に足をつけてヒロムの方を見て不敵な笑みを見せる。
「……さすがにここまで来ると驚きが隠せないな。
まさか、リュクスのヤツの考え通りに闇がオレを導くとはな」
「闇がオマエを導いただと?」
「光と闇は表裏一体……それは希望と絶望も同じ。
大きな希望を抱いたものが1度堕ちて絶望を知ればその先の道は闇に染まる。深く底のない闇はオレたちに力を与えるが、より強き力を得るにはどうすべきか……オレたちが1つの壁を前にした時、リュクスはオレやビーストにある仮説を説いた。姫神ヒロム……オマエという存在が光であることで仲間たちの希望となって強さを引き出すのならオマエを憎み嫌うオレも同じようにその光を拒絶して絶望の中にいるオレを深き闇の中に導けるってな」
「まさか……」
「オレやビーストとは異なりリュクスはオマエのことを数年に渡って観察していた。だからこそこの説を説いたわけだが……オマエが面白いまでにリュクスの掌の上で踊るように強くなってくれてオレは嬉しいよ」
「最初から《ユナイト・クロス》を発動させてオレがクローザーを倒すことを想定してたのか……!?」
「当然だろ?オレは絶望して《輪廻》を手にしたことで元の世界でクローザーを殺している。つまり、この世界にもクローザーを倒す姫神ヒロムの未来はあるのはたしかなことだ」
それに、とペインはヒロムではなくユリナの方を見ると彼女のことに振れるようにヒロムに自身の考えと目論みを次々に明かしていく。
「オレがその女を直接狙うと分かれば鬼桜葉王に忠告されているオマエはそれを無視してオレを完全に消そうと本気を出すとも思っていた。思惑通りにオマエはオレを殺そうとし、オレの力を前にしてオレを否定するように精霊の力を最大限に引き出す形で光を放ってオレを追い詰めたんだからな」
「一歩間違えたらオマエは死ぬかもしれないのに、そんな無謀なことをしてまで力を求めたのか?」
「死ぬ?そんなものは恐れることも無い。
オレにとってもっとも恐ろしいこと、それはオマエに対して敗北感を覚え何もかもを諦めた時だ。だがオマエを前にしてオレはオレの中の強さの可能性を信じてるが故に諦めることは無い。故に……オレはオマエが立ち止まらなければそれに呼応して強くなる自信もある」
ヒロムを前にしてこれまでにないほどの自信と余裕を見せるペイン。そのペインの言葉の中は上辺だけのものではないと理解しているヒロムはペインをこれ以上好き勝手にはさせまいと拳を構えて戦いを続行しようと考えたが、ペインはそんなヒロムにある話をした。
「いいことを教えておいてやろう、姫神ヒロム。
何故能力を持たないはずの姫神ヒロムが《輪廻》という未知の力を持ったペインという能力者になったのか、気にならないか?」
「何?」
「オマエと同じようにオレもかつては精霊を宿し、精霊の力を借りてオマエのように人のために戦おうとしていたんだからな」
「待てよ……ならその精霊はどこにいる……!?」
「勘がいいな。
そう、オレの宿していた精霊は……オレの守りたいものを守れない役立たずは拒絶してオレの闇で力に変えた。この《輪廻》の力の発展のための糧となったんだよ」
「オマエ……!!
ふざけんな!!」
精霊は拒絶した、それを聞いたヒロムは我慢していた感情が爆発したのか白銀の稲妻を強く纏うとペインに接近して彼を殴ろうとするが、ペインは禍々しい力を強く纏うとヒロムの攻撃を弾いて彼を吹き飛ばしてしまう。
吹き飛ばされたヒロムはすぐに起き上がるとペインにもう一度挑もうとするが、ペインが禍々しい力を身に纏うと大気が大きく揺れ始める。
「何だこの力!?」
「これが……ペイン力なのか!?」
「んだよこの力……」
大気を揺らすほどの強い力を前にガイたちが驚き、これまでペインと互角にも見える戦いを繰り広げていたヒロムもペインの力を前にして挑もうとする足が止まってしまう。ヒロムたちが足を止め目の前のことに驚きを隠せぬ中でペインは現実を突きつけるかのように語っていく。
「《世界王府》序列3位……そのオレをオマエが簡単に倒せると思ってたのか?オマエが力を得た程度で倒せる相手だと思ったか?」
「まさか……オマエは……」
「オマエを消してもこの世界にはまだ厄介なヤツがいる。そいつらを消すためにはオレが強さをさらに得る必要があるからオマエを利用したに過ぎない。同一個体故の潜在能力の共鳴、オマエが《世界王府》に挑む度にオレは強くなり世界を絶望させる存在に近づける」
「くっ……!!」
「……だがさすがに無理をしすぎた。
今回は撤退してやるが、次は容赦しない。オマエの大切なものを何もかも消してやるよ」
ヒロムが手も足も出ない中でペインはあえて撤退することを選び伝え、大気を揺らすほどの強い力を抑え込むと空間を歪ませながら消えていく。
敵を前にして奮闘したヒロム。だが奥知れぬ力を持つ敵の潜在能力を目にしたヒロムたちは敵が去った後に思い知らされる。
己の力を、そして戦おうとしている敵の大きさを……
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ヒロムたちのもとを去った後、ペインは別の場所へと移動していた。
ヒロムとの戦いでさらなる力を得たペインはその事が嬉しいのか笑みを浮かべていたが、しばらくすると何故か悲しそうな表情を見せる。
「……何度世界を壊してきてもこの感覚には慣れないな。
姫神ヒロムという人間を否定して消すために潜在能力を引き出させた上でオレの力の糧として殺す……これまで何度も繰り返してきた事なのに1つの要素が介入しただけであの感覚に襲われる。いや、もはや慣れるべきだな。己の手で消すことに対する冷酷さに……」
何かを呟くペイン、そのペインの脳裏にはユリナの顔が浮かび上がっていた。ヒロムと戦い、そして彼に目論みを明かしていく際に視界に入ったユリナの顔。まるで異物でも見るかのように拒絶の眼差しを向けるユリナの顔が頭に残るペインはため息をつくと禍々しい力を手に纏わせながら拳を強く握る。
「……オレのユリナはもういない。
あの女は同じ姿をした別人だ。次は躊躇うことなく必ず……殺してやる」




