90話 躊躇い無き絶望
「かかってこいよペイン!!
オマエのその絶望の力が正しいって言うなら今ここで証明してみろよ!!」
クローザーを倒したヒロムはペインを相手にしようとするかのように彼を挑発し、その挑発を受けたペインは鬱陶しそうに舌打ちをすると首を鳴らしヒロムを殺意を秘めた目で睨むと言い返した。
「図に乗るなよ、姫神ヒロム。
オマエのその力、オレや他の世界の姫神ヒロムには手にできなかった霊装の姿だということは認めてやろう。だがオマエが辿る未来は変わらない。オマエは必ず絶望に足を踏み入れる、そして大切なものを守れずにオマエは無力さを噛み締めて滅びる運命にある」
「相も変わらず絶望するだの無力さを思い知るだの……それはオマエが諦めたからその未来しか来なかっただけだろ。
オマエの辿った未来をオレに押し付けるな。オレのこれからは……オレたちの未来はオレたちの手で掴み取る!!」
「その思い上がりで……そのくだらないこだわりでユリナはオレの前で死んだんだ!!」
ペインは禍々しい魔力を身に纏うと何の動作もなくヒロムに向けて衝撃波を放ち、ヒロムはペインの放った衝撃波を拳で殴り消す。が、それは囮だったらしくペインはヒロムが衝撃波を消そうと拳を用いたその瞬間に右手に黒炎を纏わせ、黒炎を纏わせた手をヒロムにかざすと無数の黒炎の剣を出現させて矢のように放っていく。
ペインの放った黒炎の剣を前にしてヒロムは白銀の稲妻を強く纏うとそれを前面に放出することで黒炎の剣を相殺し、敵の攻撃を相殺したヒロムは白銀の稲妻を無数のエネルギー弾に変えて飛ばしてペインに命中させようとする。
だがペインは黒炎を纏う右手でエネルギー弾を消し去り、さらに左手をヒロムに向けると紫色の炎を龍の形で放っていく。
紫色の炎の龍が迫り来る中、ヒロムは深呼吸をすると右手に白銀の稲妻を纏わせた手刀で一撃を放ち、放たれた一撃が炎の龍を薙ぎ払う。
互いに1歩も譲らぬ展開、激しい攻防が繰り広げられる中ヒロムもペインも互いに油断出来ぬ中で常に集中力を維持している。あまりにも次元の高い戦いにナギトは目を奪われ、ガイたちもヒロムの動きを見ることに意識を持っていかれていた。
「すげぇ……」
「あれがヒロムの新しい……」
ナギトやガイたちだけではない。ヒロムの戦う姿は彼の戦いを見守る生徒たちの目をも奪い、そしてヒロムに期待を寄せるような目を持たせていた。
その全てをすぐに察知したペインは黒炎を消すと下を向き、下を向いたままヒロムに問う。
「……オマエはどうすれば絶望する?」
「あ?」
「オマエがどうやった絶望するのかオレは分からなくなった。
これまでの世界の姫神ヒロムはオレの思惑通りに倒れ絶望し滅びた。なのにオマエは……何故絶望しない?」
「あいにくオレは他のオレとは違う。
オマエと出会い、仲間の励ましを受けて立ち直る勇気があったからこそオレは絶望せずにいられる」
「……そうか、オマエの希望の根本はそこか」
「?」
「いや、もはやオレが躊躇っていたのが間違いだ。
希望を滅ぼすのなら……オマエよりも先にそっちを狙うべきだった」
ヒロムの話を聞いたペインは先程までの態度から一変して異常なまでに落ち着いた様子で何かを悟ったように語り、ヒロムが言葉の意味を理解していない中でペインは禍々しい魔力を剣にして構えるとヒロムに向けて斬撃を飛ばす。
ペインが飛ばした斬撃をヒロムは白銀の稲妻を纏わせた拳で防ぐが、ヒロムが斬撃を防ぐその瞬間にペインはもう一撃を飛ばす。
飛ばされた斬撃に反応してヒロムはもう一度拳で防ぐが、ヒロムが斬撃を防ぐその瞬間、ペインは空間を歪めることなく姿を消してしまう。
どこに消えた?ヒロムがペインの行方を探そうと周囲を見渡しているとヒロムはナギトに守られるユリナとサクラの後方に何かを見つける。
「そこか!!」
ヒロムは地を強く蹴ると目にも止まらない超速で走り出し、加速すると姿を消してしまう。そしてヒロムは一瞬でユリナたちの後ろへと移動すると白銀の稲妻を纏う拳で何も無いはずの空間に一撃を放ち、ヒロムが一撃を放つ瞬間そこにペインが現れて魔力の剣で攻撃してくる。
ペインの出現と同時に放たれる一撃はヒロムの拳の一撃とぶつかって強い衝撃となって消え、ヒロムは続けて攻撃しようとするもペインは空間を素早く歪ませるとヒロムの前から姿を消し、ヒロムやユリナたち、さらにはガイたちからも離れた位置へ姿を現すと魔力の剣を構えてもう一撃放とうとする。
させない、ペインの思い通りにはさせないとヒロムはユリナたちを守るべく前に出ると白銀の稲妻を両手に強く纏わせてビームにして放ち、ペインはヒロムが白銀の稲妻をビームにして放つと魔力の剣を媒体にしてビームを撃ち放つ。
2人の放った攻撃がぶつかり、眩い閃光と強い衝撃が発生して大地を揺らす。
力と力がぶつかる中、2人の放った攻撃は相殺されて消えてしたい、ペインの攻撃を防いだヒロムは拳を強く握るとペインを睨みながら彼に問い詰めるように強く叫んだ。
「何のつもりだ……!!
なんでユリナを狙った!!」
「オマエを絶望させるための最短ルートを選んだだけだ。
オマエは大事なお仲間やその女たちを守りたいんだろ?ならオレがそれを壊すしかないだろ」
「仮にも……仮にもオマエがいた世界にもいた人だろ!!
オマエを支えてくれた人と同じ姿の人をオマエは簡単に殺せるのかよ!!」
「その女はオレの知るユリナではない。
姿は似ていても中身は違う。オマエとオレのように、同じ個体であって別の人間なんだからな」
「……ふざけんな!!」
ヒロムは白銀の稲妻を纏うとペインに向けて動き出し、ヒロムが動き出すとペインは何の動作もなく炎、氷、雷、風をヒロムに向けて同時に放つ。
放たれた4つの力を前にしてヒロムは足を止めることなく白銀の稲妻を強く纏うと深呼吸をし、そして右手を強く握ると叫んだ。
「オマエなんかに負けない!!オマエのような闇に堕ちた人間に……オレは負けない!!やるぞ《レディアント》、オレたちの力を見せてやるぞ!!」
ヒロムが叫ぶと白銀の稲妻の上に金色の稲妻が重なるように纏われ、さらにヒロムは右手に光の大剣を装備すると力を高めていく。
「これがオレの……オレたちの出した未来!!
共に進むと決めたオレが手にした力……ユナイトライズだ!!」
光の大剣に力を溜めるとヒロムは一閃を放ち、放たれた一閃はペインの放った攻撃を容易く消し去るとそのままペインに向かっていく。
ペインは右手に禍々しい魔力を纏わせると一撃を掴み止めるが、ヒロムはペインが一撃を止めていると光の大剣に金色の稲妻を強く纏わせる。
「力を合わせるぞフレイ……ユナイトライズ、《マジェスティ》!!」
ヒロムが叫ぶと彼の姿に一瞬だが精霊・フレイの姿が重なり、ヒロムは光の大剣を振ると身の丈の倍はあるサイズへと大きくさせながらペインに向けて攻撃を放つ。
「マジェスティ・ブレイブバスター!!」
巨大となった光の大剣を振るとヒロムはペインに向けて光の斬撃を飛ばし、飛ばされた光の斬撃を前にしてペインは闇を強く纏って止めようとするが光の斬撃は闇を消し払うとペインを襲い敵を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたペインは倒れてしまい、ヒロムは光の大剣を元のサイズに戻すと構えながらペインに告げた。
「……オマエと戦うことは避けるよう言われてた。
けど、この際関係ねぇ。オマエがユリナを狙うってんなら……オレはオマエをここで潰してそれを阻止する!!」




