88話 霊装の意志
「オレに力を貸せ、《レディアント》!!」
クローザーを倒すべくフレイたち精霊と力を合わせるも力及ばなかったヒロムは敵を倒すための次の手段に移行しようとする。白銀のブレスレットに光を纏わせ、白銀の稲妻を強く纏うとその稲妻と光を重ねると白銀のブレスレット……ヒロムの霊装である《レディアント》の力を高めさせようとした。
だが、白銀の稲妻と光を強くさせても何も起きない。どれほど意識を集中させても白銀のブレスレットは何の変化も見せない。
それでも諦めないヒロムは白銀の稲妻を強くして何かの変化を起こそうとするが、クローザーはそれを待つことはしない。
ヒロムが何かする前に仕留めようとするクローザーは闇を強く纏うとヒロムに接近して手に持つ剣で斬りかかり、白銀の稲妻を強く纏うヒロムはクローザーの攻撃を避けながら白銀のブレスレットの力を解放しようとしている。
ヒロムの狙い、それを理解しているのかクローザーは執拗にヒロムを斬ろうと攻撃を続けて放ち、クローザーの猛攻を前にしてヒロムは変化を起こしたい反面で起きない現状を変えるべく一旦諦めたのか精霊・フレイの武装たる大剣を白銀のブレスレットから出現させて装備して敵の攻撃を防ぎ止める。
「くっ……!!」
「ほぅ、見事だ。僅かな絶望を心に抱きながらもそれを芽吹かすことなく諦めずに我に挑もうとするか」
「言ったはずだ、絶望はさせないってな。
誰も絶望させない、そしてオレも絶望しない……そのためにオレは戦うことを諦めない」
「だがオマエの望みは潰えたぞ。そのブレスレットの力たる《レディアント・アームズ》は発動しない様子を見ると、もはやオマエの手は尽きたように思えるぞ」
「うるせぇぞ……まだオレは終わってねぇ!!」
ヒロムは大剣で防ぐクローザーの剣を押し返して反撃に転じようとするが、ヒロムが大剣で押し返そうとするとそれを上回る力を剣に込めるとクローザーは振り切るかのような一撃を放ってヒロムの持つ大剣を破壊してヒロムを吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
吹き飛ばされたヒロムは勢いよく地面に倒れてしまい、クローザーはそんなヒロムを始末しようと剣を構えて走ろうとした。
だが、クローザーの思惑はその通りにはいかなかった。
フレイとラミア、そしてマリアとテミスがクローザーを足止めしようと一撃を放ち、4人の精霊の攻撃を意に介さずクローザーが防ぐユリアとセツナ、フラムは敵の体を押さえ込むように掴みかかる。
「精霊共が……余計な邪魔を……!!」
「マスター、今のうちに立て直してください!!」
「私たちの力では倒すのは不可能!!
マスターとその《レディアント》の力に全てがかかってる!!」
「ですからお願いします……マスターの力を!!」
「私たちが何とかして時間を稼ぎます、だから!!」
無駄なことだ、とクローザーはヒロムのために時間を稼ごうとするフレイたちを全身から闇を放出することで吹き飛ばし、吹き飛ばされたフレイたちが倒れるとクローザーは剣を構え直してヒロムに告げた。
それはヒロムを諦めさせるための言葉であった。
「これ以上何をしようとしても何も起きない。我はペインによってオマエがどのように絶望するかを知っている」
「オレは絶望しないって言ってるだろ」
「絶望するのだよ、オマエは。
そのブレスレット……霊装はオマエが発動しようとする《レディアント・アームズ》の力を与えることを拒んでいる。そして大切な存在を守ろうとするオマエの言葉に答えることの無いその霊装は我に破壊されて終わる」
「デタラメなことを……」
事実だ、とペインはクローザーの言葉を信じようとしないヒロムに対して自身の手首を見せるかのように腕を構え、ペインの腕が見せられるとその手首にはボロく朽ちたかつては白銀であったであろう破損したブレスレットが存在していた。
「姫神ヒロムは大切なものを守れずに絶望して最後には大切なものを目の前で失う、それが運命として確定された絶望のゴールだ。オレがそれを辿ったようにオマエも例外ではない。その霊装に見放されてオマエは絶望に堕ちる、そういう末路を……」
「そうか、オマエの話を聞いて安心した」
ペインの話を途中で終わらせるかのようにヒロムは言うと何故か白銀の稲妻と光を消してしまい、ヒロムのその行動にクローザーは諦めたと感じていた。
ガイたちもヒロムがクローザーを倒すのを諦めたと感じていたが、ペインは違った。
「何をするつもりだ……?」
この期に及んでヒロムは何かをする、それを直感で感じ取ったのかペインはヒロムに何を企むのか問い、問われたヒロムは落ち着いた様子で言葉を返した。
「オマエが現れたことはオレにとってマイナスばかりではなかった。オマエの存在を目にしたからこそオレは……未来を掴むことを諦めずに進める」
「何?」
「……聞こえてるだろ、《レディアント》」
ヒロムの言いたいことが理解できないペインが不思議に感じているとヒロムは白銀のブレスレットに語りかける。
「オレの声が聞こえているなら応えてくれ。
あの時……ヴィランに抗ったあの時にオレが辿り着いたあの世界でオレに告げたあの言葉の意味をオレは理解した。だからオレの言葉に耳を傾けてくれ」
ヒロムが白銀のブレスレットに語りかけ、語りかけられた白銀のブレスレット《レディアント》は彼の言葉に反応するように光を発す。発せられた光はヒロムの前で人の形を得ていき、人の形を得た光はどこかヒロムに似たような容姿となっていく。
現れたヒロムに似た容姿の光、その光は右手に白い剣、左手に紫色の剣を持つとヒロムを見て彼に話していく。
『……どうやら少しは成長したようだな。
永らく封じられていたオレを得たオマエは精霊の使役とオレの力を使って無謀に戦うことしかしなかった。そのような愚かな行為をするオマエをオレは許せなかった。そんなオマエに使われるのはゴメンだった。だが……今のオマエならオレの一端を使わせても構わないと思える』
「……少しは認めてくれたってことか」
『心の成長を認めただけだ。
オマエという存在を完全には認めていない』
だが、とヒロムに似た容姿の光はペインを見るとヒロムに伝えた。
『絶望して堕ちたオマエ自身を前にして諦めることなく希望を信じて戦うオマエをオレも信じたくなっただけだ』
「へっ……素直じゃねぇな」
『……そう思うならオレを完全に認めさせてみろ。
今は……オマエが理解したものを掴め。その手にしたもので絶望に屈したあの男を倒してこい』
ヒロムに似た容姿の光はヒロムに一言伝えると完全な光となってヒロムの白銀のブレスレットの中へと消えていき、光が消えるとペインは信じられない顔でヒロムの方を見てしまう。
「まさか……霊装の意志に己を認めさせたのか……!?」
「見せてやるよペイン、これが絶望から大切なものを守ると決めたオレの覚悟!!
いくぞ《レディアント》!!オレと力を合わせてくれ!!」
ヒロムが叫ぶと白銀のブレスレットは眩い光とともにヒロムを白銀の稲妻と光の竜巻で包み込んでいく。
何が起きようとしているか分からぬペインとクローザーが戸惑っていると輝きは強さを増し、そして……




