86話 絶望はさせない
絶望魔人・クローザー、ペインがそう呼ぶ闇を取り込んだ静魔の変化した黒い鬼のような存在はゆっくり地に足をつけると自身を包んでいた殻と繭を闇に変えて体内に取り込んでいく。
後ろに伸びるような3本の角に水色の鋭い目に鋭い爪を持つ手足、魔『人』と呼ばれるように人のような体つきをしておりその全身が鎧を思わせるような黒い甲殻に覆われ、今日部・肩・前腕・腰・太腿・脛には黄色く発光するクリスタルのような石が施されている。
得体の知れぬその存在を前にしてヒロムはガイたちに何があったのかを尋ねる。
「オマエらはペインに何をされた?」
「……ペインの罠に嵌められたんだよ」
「罠?」
「アイツはビーストの求める新種のクリーチャー完成のためにその糧となる《魔柱》共をオレたちに差し向け倒させることでヤツらの憎悪を増幅させ、増幅させた闇を用いてオレら4人の魔力を吸収した」
「静魔はヤツらのその憎悪を集約して覚醒して新たな力を得るらしい……」
「全部オマエを絶望させるため、ヤツがビーストに手を貸して仕向けたことらしい……」
ガイ、イクト、シオンがどこか苦しそうに状況をヒロムに報告する中、ソラは何とかして立ち上がるとクローザーの方を見て構えようとする。
「ソラ?何するつもりだ?」
「……ペインが現れて何も出来なかったオレのせいでこうなった。
だからコイツはオレが……」
「バカな真似はやめろソラ!!」
「いくら《魔人》の力で力を回復できるとしても4人の魔力を吸収したアイツに挑むのは無謀だ!!」
「そんなもん……やってみなきゃ分かんねぇだろ!!」
ガイとイクトが止めようと叫ぶもソラは紅い炎を纏いながら走り出し、紅い炎を纏ったソラはクローザーに迫ると炎を纏わせた拳で殴ろうとした。が、クローザーはソラの背後へと瞬間移動するとソラを蹴り、怯んだソラの前に移動するとソラを殴った後彼の首を掴んで持ち上げる。
「ソラ!!」
「この……」
クローザーに首を掴まれるソラは左手に炎を纏わせると刃にしてクローザーの胸を貫こうとするが、クローザーの体の各部のクリスタルのようなものが光るとソラの纏う炎が一気に吸収されてしまう。
炎を奪われたソラの攻撃は不発に終わり、クローザーはソラに対しての興味が無くなったのか彼を投げ飛ばし、投げられたソラはガイたちの前で倒れてしまう。
「がっ……!!
オレの……炎を……!?」
「能力を吸収する力を持っているのか……!!」
「クローザーは絶望を与えるためのクリーチャーだ。
力を高め強さを得たオマエたちが絶望する最高の形、それを追求したのがこのクローザーだ。クローザーの誕生の糧になって燃えカスに等しい人間が倒せると思うなよ」
クローザーに炎を吸収されたソラにガイが歩み寄るとペインはクローザーについて語り、ペインが語るとクローザーは右手に炎と雷を纏わせるとガイたちを倒そうと攻撃を放つ。
放たれた炎と雷、魔力吸収をされ疲弊しているガイたちが避けれないと分かりながら迫る攻撃力前にしてヒロムは白銀の稲妻を纏って彼らの前に立つと拳の一撃でクローザーの攻撃を消滅させる。
「……オレが狙いなら余計な手出しするなよ」
「手出し、か。
1度は心が折れかけたヤツが偉そうなことを。それにオマエ1人でクローザーに勝てると思ってるのか?」
「思ってるさ。そいつを倒して……オマエも倒して絶望とやらをここで断ち切るだけだ」
「……愚かな者だな人間よ」
クローザーを倒し、ペインも倒すと宣言するヒロム。そのヒロムの事を受けるとクローザーは人の言葉を発する。クローザーが人の言葉を発することは想定してたのかヒロムは別に驚くような反応は見せず、クローザーは闇を纏うとヒロムを見ながら彼に問う。
「何故抗う?
オマエのようなひ弱な人間が抗っても運命は変わらない。なのに何故我に挑む?」
「オマエらが気に食わねぇからだよ。
その程度のことを聞いて何になる?」
「愚かな人間の思想を聞いてみたかっただけ。
今から我に潰される人間の戯言を聞いてみたいと思うのも一興だ」
「……あっそ」
クローザーの言葉になど聞く耳を持たないヒロムはクローザーを倒すべく地を蹴って一気に距離を詰めると殴りかかるが、クローザーはヒロムが拳で攻撃するその瞬間に彼の前から姿を消してしまう。瞬間移動、それを用いてヒロムの攻撃する空振りに終わらせたクローザーはヒロムの背後へと現れるなり彼を攻撃しようとするもヒロムはクローザーが現れると同時に後ろに体を向けると攻撃される前に蹴りを放った。
ヒロムの放つ蹴りをクローザーは左腕で防ぐと右手で攻撃しようとするもヒロムは蹴りを放った状態から体を回転させて後ろ回し蹴りを放つことでクローザーの攻撃前に顔に一撃を命中させる。が、クローザーはそれで怯むことは無い。
それどころかクローザーは平然とした様子で闇を強く纏うとヒロムに衝撃波を放って吹き飛ばし、吹き飛ばされたヒロムは倒れることなく立ち上がると白銀の稲妻を強く纏う。
そして……何かを合図にするでもなく白銀の稲妻を纏うヒロムと闇を纏うクローザーは互いに全速力で走り出すと目にも止まらぬ速さで空や地を駆けながら激しくぶつかりあい、互いに譲らぬ攻防が繰り広げられて幾度と衝撃が生じ風となって吹き荒れる。
何が起きてるのか、あまりにも高度なスピード戦が繰り広げる2人の動きはユリナやサクラ、生徒たちにはもはや目に見えるレベルでは無くなりガイたちは何とか目で追えている状態だった。
そんな中で激しく繰り広げられる攻防、ヒロムとクローザーは素早い攻防を繰り広げる中で互いに相手のスキが生まれる瞬間を待っており、互いに待つそれは同時にやってくる。
ヒロムは蹴りを、クローザーは拳撃を放った直後に僅かなスキが生じ、それを待っていたかのようにクローザーは闇を強くさせるとヒロムに両手の爪による斬撃を喰らわせようと……するが、ヒロムは両手の白銀のブレスレットを光らせるとどこからか大剣と刀を出現させて装備するとクローザーの攻撃を止めてみせた。
「どこから……」
「オレのことを知らねぇなら覚えておけ」
ヒロムは大剣と刀を振るとクローザーを吹き飛ばし、さらに双剣、太刀、銃剣、槍を出現させると吹き飛ばしたクローザーに向けて撃ち飛ばし、飛ばされた武器は意思を持つかのように動きながらクローザーに襲いかかっていく。
「これは……精霊の……」
「気づいてもおせぇ!!」
いくつもの武器が襲いかかる中でクローザーは何かに気づくもヒロムはそれにより考えを働かせまいと大剣と刀を構えて接近すると飛び交う武器とともにクローザーを攻撃していく。
目にも止まらぬ速さでの攻防から一転してヒロムが優勢に持ち込もうと攻撃を放っていくが、クローザーは攻撃を受けてもなお致命傷に到るようなダメージを受けている様子はなく、闇を強く纏うと剣にしてヒロムの攻撃を防ぎ始める。
「……個人の力で挑むとばかり思っていたが故に油断した。
ただし、原理さえ理解すれば次はない」
「そうか。なら避けてみろよ」
クローザーの言葉を受けたヒロムはまるで敵の挑発に乗るかのように手に持つ大剣を逆手に持つなりクローザーへ向けて勢いよく投擲し、それに合わせるように飛び交う武器もクローザーへ向かっていく。
なんということはない、そう言いたげなクローザーは剣を構えてまずは大剣を対処しようとした……が、クローザーが剣を構えようとするとヒロムが投擲した大剣のそばにはいつの間にか彼の精霊・フレイがおり、フレイは大剣を手に持つとクローザーの剣を手にした武器で破壊してしまう。
「!?」
「今です、マスター!!」
「ナイスだフレイ」
フレイの出現と武器の破壊にクローザーが驚いているとヒロムは飛び交う武器の中から太刀を手にして刀との二刀流となるとクローザーへ接近して二撃を食らわせてダメージを与える。
突然のフレイの出現でリズムが崩されたのかクローザーは防ぐことも出来ずに攻撃を受けてしまい、攻撃を受けたクローザーは怯んでしまう。
そんなクローザーの周囲を飛ぶ武器のもとへと精霊・ユリア、アイリス、テミスが現れ、ヒロムが2つの武器を手放すとラミアとセツナが現れてそれぞれが刀と太刀を手にして構える。
「なんだ……今の攻撃は……?」
「オマエの考えは間違いではない、クローザー。
オレという存在は個人の力で戦うことにいつの間にかこだわりを持っていた」
けどな、とヒロムは白銀の稲妻を強くさせると力を高めてクローザーへと告げた。
「オレという存在の未来がこの先で変化するのならオレはどんなことだってやる。その果てで絶望の未来が変えられるのなら迷いはない。オレは絶望しない……オレのこの手で助けられるものがオレたちの前にあるかぎりオレたちは誰も絶望させない!!」




