84話 痛みの話
「ようやく語れる……この空間に導かれたオマエらとな」
ソラの前に現れ、シオンのいる空間に移動するなりシオンが相手をしていた仲間のはずの乱魔を殺害し、そしてガイとイクトをも呼び寄せたペインは警戒心を高める4人を前にしてそう言った。
が、自分の戦いの邪魔をされたシオンはペインを警戒する中でその不満を言葉にしてしまう。
「オマエ、オレの獲物を奪うとは何のつもりだ!!」
「シオン、その話はあとにしろ」
「ソラ、一体何が?」
「……ガイ、信じられないかもしれないがヤツはシオンが引き受けたイキリ野郎を殺しやがった」
「え!?大将とそっくりのアイツって敵なんだろ!?
それが何でビースト様とか狂信してるヤツを殺したんだ!?」
「オレに聞くなバカイクト!!
……ヤツはオレの前に現れるなり話がしたいだの訳わかんねぇこと抜かしてやがるんだよ」
「話がしたい……?」
その通りだ、とペインはソラの話を聞いて半信半疑のガイの言葉に向けて言うと続けて己の考えを伝えるかのように話していく。
「オレはあくまで相馬ソラと話をしたいからここに来た。まぁ、この状況なら相馬ソラ1人と言わずオマエら全員と話してもいいかもしれないがな」
「……何が目的だ?」
「別に警戒しなくてもいいんだぞ、雨月ガイ。
いくらオレの姿が忠義を誓いしあの男と似ていようとオレの中身はオマエの知るあの男とは異なる」
「そんなのは何とも思わないしオマエがヒロムにどれだけ似てようが関係ない。オマエはヒロムの敵、その認識だけで事足りる」
「なるほど、さすがは姫神ヒロムの信用する仲間なだけあるな。
それほどの強い意志があるのならどこに出ても通用するだろうからな」
「思ってもいないことをよく言う。オマエの狙いはヒロムを絶望させることだろ?残念だがそうはさせない。たとえどんなことがあったとしても最後にはオレが必ずオマエの目論みを阻止する」
「フッ、威勢のよさも流石だな。
……だから尚更面倒なんだけどな」
「?」
「この際だから単刀直入に言ってやるよ。
オマエら……姫神ヒロムを《センチネル・ガーディアン》させたくないのならヤツから離れろ」
「何?」
「何を言うかと思えばふざけたことを」
「全くだね。大将を狙ってるようなヤツの言葉に従うかっての」
「好きに捉えればいいさ紅月シオン、黒川イクト。
ただし……これを目にしてもまだそれが言えるならな」
「何を……」
ペインが何を言いたいのか分からないガイが問い詰めようとするとガイの頭の中に何かが流れるような感覚が走る。ガイだけではない。ソラたちにも同じようなことが起こり、ガイたちはこれまで経験したことのない感覚に襲われてどこか苦しそうに頭を押さえる。
「んだ……これ……!?」
「頭の中が……!?」
「頭の中が……乱される……!?」
「オマエ……!!
オレたちに何をした……!!」
「前回はアイツのせいで精神が繋がったせいでオレまで巻き込まれたが今回はあんなミスはしない」
「前回……?」
「まさかヒロムがオマエの記憶を見たっていう……」
「でもオマエがヒロムと精神が繋がったのは……」
「そう、アイツとオレの精神が繋がったのは姫神ヒロムという1つの同じ個体としての共鳴が起きたからだ。その共鳴によってオレの力が勝手に発動してヤツに記憶となる幻視を見せることとなったわけだが……今回はオレの意思でオマエらに幻視を見せる。つまり、同じ個体かどうかなど関係ない」
「オマエの意思で……!?」
「じゃあ……リュクスがノブナガを強制契約してオマエを苦しめたってのは……」
「オレの経験したことを幻視としてヤツに見せた。さすがのリュクスも多少は戸惑ってはいたが姫神ヒロムを苦しめたという1つの事実を知って大笑いしていた。ノブナガという偉人の強制契約は難しいというからそのヒントもついでに与えたがな」
「コイツ……!!」
「そこまでしてヒロムを……別の世界の自分を殺したいのか!!」
「殺したいのではない、絶望させたいだけだ。
そしてそのスタートはオマエらが担ってるのだからな」
「何を……」
ペインの言葉の意味が未だに理解できないガイたちだが、ペインが何を言いたいのか理解しようとしたその時ガイたちの脳内にヴィジョンが流れる。断片的な映像、ペインが見せているであろうそのヴィジョンを見たガイたちは言葉を失うしか無かった。
「そん、な……」
ガイたちが見せられるヴィジョン、おそらく4人は同じものを見せられている。
「オレたちのせいで……サクラやエレナが……殺される!?」
「そんな……!?」
「そう、今見たものが全てだ」
周囲が光に包まれると光の中にガイたちが見たであろうヴィジョンが映し出される。
ボロボロになって動けなくなったガイたち4人、その4人の前には《魔柱》を名乗っていた乱魔たちが闇を纏って立っていた。場面が変わると乱魔たちがエレナやサクラたちに迫っており、ガイたちが必死に叫ぶ中で乱魔たちがエレナたちを殺害していたのだ。
そこでヴィジョンが終わり、光が消えるとペインは4人に別世界でユリナが死亡したことで姫神ヒロムが絶望した理由の1つを明かしていく。
「姫神ヒロムが姫野ユリナの死を防げなかったのはオマエらが敵を前にして油断してほかの女を殺させたからだ。多くのことを乗り越えてきた姫神ヒロムには愛してくれるもの支えてくれるものが消えたショックは姫神ヒロムの冷静さを奪い、姫神ヒロムは彼女だけはと急ぐも間に合わずに見殺しにしてしまった。そしてオマエらは《魔柱》に殺されてヤツの絶望するのを阻止することも出来なかった」
「……そんな……!?」
「……だが……《魔柱》のヤツらはすでに全員倒れてるはずだ……!!」
「ソラの言う通りだ。
オマエが殺した乱魔とかいうのを含めてほかのヤツらも倒されてるのならもはやヒロムが絶望するこ……」
《魔柱》のメンバーは既に倒した、ソラとシオンはそれをペインに主張しようとしたがその瞬間、4人の体が闇に包まれていくと彼らを包んだ闇は彼らから魔力を奪い取るように吸収していく。
「なっ……!?」
「体から力が……!?」
「たしかに《魔柱》のヤツらは死んだ。だがヤツらの能力の前ではその事実は覆される」
「どういう事だ……!!」
「ヤツら《魔柱》が何故人間でありながら人間を嫌うビーストから直々に力を与えられていると思う。あのビーストがわざわざ特別視する人間に何の力も無いと思ったのか?」
「何を……」
「オマエらには特別に教えてやるよ。アイツらは東雲ノアルの力を取り込んで力を増したビーストが生み出した新種のクリーチャーだ」
「なっ……!?」
「新種のクリーチャー……!?」
「とはいえビーストが思い描くクリーチャーの完成には程遠い。そこでオレはオレの経験を幻視としてヤツに見せることで乱魔たちが実験台に相応しいことを教え、その上で新種のクリーチャーのための新要素を施す実験をさせた。オレが少し手を貸した結果として生まれたのが強い憎悪が敵の魔力を吸収する力だ」
「無関係の人間を巻き込んだのか!!」
「いいや、乱魔たちは生体兵器……つまりはかつて姫神ヒロムを殺そうと企んでいたある家の人間が人為的に生み出した改造人間だ。幾度となく人体実験を重ねられたヤツらはその過程で憎悪を強く抱きそれを力に変える体質となったらしいが、その力を発揮することなく生みの親を政府に拘束されヤツらは実験施設の中で幽閉されていた」
「まさか……オマエが連れ出したのか!?」
「元々オレのいた世界ではリュクスがヤツらを連れ出したのが始まりだったが、この世界のリュクスはヤツらを知らなかった。だから空間転移のできるオレがビーストを連れていき、ヤツらはの力を利用してクリーチャーを強化する取引をしたのさ」
「だがヤツらは倒されたはずだ!!」
甘いな、とペインが左目を妖しく光らせるとガイたち4人の魔力を奪う闇がペインのもとは集まり、ペインはその闇を左手の上で球体へと変える。
「静魔にはオレのいた世界とは異なる力を宿されていた。憎悪を糧に力を得る乱魔たちの力を集約することでそれらを取り込んで新たな力を得て覚醒すると言う特殊な力をな。ビーストの与えた力でその特殊な力はより強いものとなっている。……それを暴れさせるためにオマエらに《魔柱》を倒させる必要があったからな」
「まさか……オレたちは……」
「そう利用されていたのさ。オマエらは姫神ヒロムを助けようとして絶望させる手助けをしていただけだ。静魔と隔離されるようにこの空間に乱魔たちが送られたのは想定外だったがオレが手を貸せば何の問題もない話だ」
「そんな……」
「せっかくだ……オマエらにはヤツらを倒してくれた礼に姫神ヒロムが絶望するその循環を拝ませてやるよ」
不敵な笑みを浮かべるペインは空間を歪ませ、空間が歪む中ペインより思いもよらぬ話を聞かせれてショックを隠せないガイたちは動くことも出来ずに歪みに飲まれてしまう……




