82話 魔人としての在り方
ヒロムによって別空間に飛ばされたソラたち。それぞれが別々の空間に飛ばされ、その空間の1つである荒廃した大地、そこがどこかにあるものなのかは分からないがソラは《魔柱》と名乗る静魔の仲間の1人である大男・剛魔と戦闘を繰り広げていた。
《ヒート・マグナム》という紅い拳銃を右手に構えて炎を放つソラに対して剛魔は両手を前に構えるとソラの放った炎を地面へと落として消してしまう。
「……なら左だ」
ソラは左手に《ヒート・マグナム》を持ち直すと引き金を引いて6発の炎の弾丸を速射し、さらに引き金を引いて6発の炎の弾丸を追加で速射して剛魔を撃ち抜こうとする……が、剛魔が両手を勢いよく横に広げるとソラの放った12発の炎の弾丸は剛魔を襲うことなく軌道が逸れて左右に散ってしまう。
攻撃が届かない、この現実を前にしてソラは舌打ちをすると《ヒート・マグナム》を下ろすと剛魔の力について考察していく。
「オレの炎が極端に弱いわけじゃない。炎の魔人の力を持つオレの炎は並の能力じゃ防げないはずだ。となれば……オマエらが名前に持つ《魔》の文字が表すのが何かを紐解けば謎は解ける」
「敵の分析とは余裕だな……ふん!!」
ソラの考察を余裕があるからだと判断した剛魔は全身に力を入れると周囲の大地から石などを浮遊させて1つの大きな球をつくるとソラに向けて飛ばす……が、ソラは紅い炎を纏わせた右手をかざすと触れることなく焼き消してしまう。そして今の剛魔の一撃を前にしてソラは敵の力についての答えを出す。
「元々の能力は重力の操作のようだが……オマエも同じってわけか。その力の上に魔人の力を重ねているな。
ノアルやビーストとは違う、オレと同じ途中からその力を覚醒させた魔人の力を宿す能力者」
「オマエと一緒にしてくれるな。
オレはこの力を魔人の世界を生み出すと約束して与えてくださったビースト様のために使う。中途半端なオマエや愚か者の純粋種とは違う」
「中途半端?それはオマエもだろ。ノアルみたいな最初から持ってる力ってわけじゃないだろ。まして成長とともに得たオレのと違ってオマエは与えられただけの力、中途半端って言葉を出すならそれなりに経験重ねてるオレより与えられて使ってるだけのオマエのその力の方が中途半端だろ」
「オマエ……ビースト様の力を侮辱するな!!」
自身の力、ビーストより与えられたという力を侮辱されたとして剛魔はソラに向けて手をかざすとソラを中心に周囲の重力を操って彼を推し潰そうとするが、ソラは紅い炎を周囲に放出すると自身の身を守り、紅い炎が何かにぶつかるとソラの周囲の地面が陥没していく。
ソラを仕留められなかった、その事に苛立っているのか先述した侮辱されたと思っていることに腹を立てているのかは分からないが剛魔は息を荒くすると全身の体表の色を茶色くさせ、闇を纏うと周囲の地面を破壊し、破壊した地面の破片をいくつも合わせた大きな岩の玉をいくつも生み出すとソラに向けて飛ばしていく。
「重岩玉!!」
大きな岩の玉をいくつもソラに向けて飛ばす剛魔だが、ソラは《ヒート・マグナム》を手放すと座り込んで右手に紅い炎を纏わせて地面を殴って自身の前に紅い炎の壁を出現させて岩の玉を全て破壊して消してしまう。
炎の壁を消すとソラは立ち上がり、立ち上がるとソラは紅い炎を両手に纏わせた上で構えると剛魔の変色した体を見てまた考察していく。
「外観の変化はそこまで派手じゃないんだな。オレのことを中途半端だとか言ってるわりにオマエのその変化、地味だな」
「見た目など関係ない。必要なのは力の強さ、それこそが必要なのだ」
「力の強さか。
その程度で計れる程度の人間ならオレの相手にもならねぇな」
「オマエの手の内は知っている。ビースト様が気にかけている《炎魔劫拳》、その力と姫神ヒロムのパワーを凌駕するためにオレは選ばれそれに相応しい力を得ている、オマエの全てを理解した上でオレは強さを得て……」
「長ぇんだよバカが」
剛魔の話を遮るようにソラは言うと両手を紅い炎を用いて両腕に《炎魔劫拳》を発動させて変化させ、鋭い爪を持った紅い拳となった両腕に合わせるようにソラは全身に紅い炎を纏っていく。
ソラの纏う紅い炎、それはまるで命を持ち生きてるかのように揺れ動き、ソラの体に纏う炎は次第に彼の体の形に合わせて縁取るかのように形を変えていく。
「この炎……」
「オレの《炎魔劫拳》とヒロムのパワーを凌駕する?
大口叩くだけの精神は認めてやるが、オレのことをその程度で理解してると思うな。オレの全てを理解することなど誰にもできない」
「理解は出来ている。オマエのその炎はオレの力を越えられないとな」
「そうか……なら気をつけとけ」
強気な態度を崩さない剛魔に向けてソラは忠告すると音も立てずに消え、ソラが消えると剛魔の右前腕が炎に焼かれて消し炭となってしまう。
「……ッ!!」
「この状態のオレは加減が出来ないからな」
右前腕が消し炭となってしまったことに剛魔が驚いているとソラが敵の背後に現れ、現れたソラは冷たく告げると左手による一撃を放って剛魔を吹き飛ばし、吹き飛ばすと共に右手を勢いよく振ると身に纏う炎の一部を長く伸ばすと剛魔の左脚を切断して焼き消す。
「がァァ!!」
うるさい、とソラは吹き飛ばされ左脚を切断されて叫ぶ剛魔に冷たく言うと炎を強くさせながら剛魔に接近して連続で攻撃を食らわせていく。
殴り、蹴りを繰り返して放ちそれを受ける剛魔は全身血だらけになりながら受けてダメージを受けていく。ソラの攻撃を受ける剛魔、その剛魔が必死に抵抗しようとするもソラはそんなことを気に留めることもなく剛魔の左手を掴むと骨を握り砕いてしまう。
「ガァァ!!」
「叫び声だけならオレらより一流だよオマエ」
「ば、バカな……!?
何故……オレが……」
「何故?そんなの決まってんだろ」
剛魔を天に向けて蹴り上げるとソラは両手に紅い炎を強く纏わせ、両手の紅い炎を1つに合わせて巨大な業火の玉にさせると剛魔に向けて言葉とともに放つ。
「力を過信して己を見誤った、それがオマエの敗因だ」
言葉とともに放たれた業火の玉は剛魔に襲いかかり、酷く負傷した剛魔は避けることも防ぐことも出来ずに炎に飲まれ、叫ぶ間も与えられることなく炎によって焼き消されしまう。
業火に飲まれ消える剛魔、その末路を見届けるソラは剛魔が完全に焼き消えると紅い炎を消して両手を元に戻す。戦闘状態を解いたソラ、そのソラは倒した剛魔のことであることが気になっていた。
「……妙だな。ビーストは人間を滅ぼして魔人の世界をつくるのが目的のはずだ。それが何で人間に力を与えるなんて何を考えてるんだ?」
(ビーストがヒロムの強さをベースにしたクリーチャーを生み出すならまだ理解出来る。だがヤツは何かを基準にして自分が毛嫌いしてる人間に力を分け与えた。何故だ?魔柱と名乗るコイツらには毛嫌いしてる他の人間にはない何らかの要素があるのか?あるとしたら一体……)
「敵を倒したはずなのに随分悩んでるじゃないか」
ソラが頭を悩ませていると彼の後ろの少し離れた空間が歪み、その歪みの中からペインが現れる。
「……オマエは!!」
「警戒しなくていい。警戒したとしても……無意味だ」
別世界のヒロムであるペイン。ヒロムに似た顔のペインを前にしてソラは警戒心を高め敵の動きに備えようとする。するとペインはソラに対して自分の両手の平を見せるように上に挙げるとソラを見ながら不可思議なことを言い始めた。
「安心しろ。戦うつもりがないからな」
「は……?」
「オレはただ、オマエと語りたいだけだ」




