80話 魔の柱
放課後・
他の生徒が下校しようとする一方でガイの宿す幼子の精霊・飛天と希天がソラの宿す仔猫の精霊・キャロとシャロと校庭を戯れるように歩く様子をヒロムはガイとソラ、イクトとシオン、ナギト、ユリナ、そして今日編入してきたサクラと飛天たちを見守るようにゆっくりと歩いていた。
可愛らしく戯れる飛天たち。飛天や希天と同じようにガイに宿る子犬の精霊・鬼丸は何故か飛天たちの仲に入らずにユリナに甘えて抱っこされている。
「ワフ〜」
「鬼丸くん、飛天くんたちと遊ばなくていいの?」
「クゥン?
ワン!!」
「えっと……」
鬼丸の言葉は普通分からない。当然ユリナにも分からないが、ユリナは唯一鬼丸の言葉を理解出来る人物の方に視線を向けると鬼丸は何か言いたいのかを尋ねた。
「ねぇ、ヒロムくん。
鬼丸くんは何て言ってるの?」
「あー……飛天や希天とはウチで遊べるけどキャロとシャロとはここでしか遊べないから邪魔したくないんだとよ。鬼丸としては家に帰ってから飛天といっぱい遊ぶから今はオレやユリナに甘えたいらしい」
「ワンワン!!」
「そうなんだ……。
鬼丸くんまだ幼いのにそこまでしっかり考えてるんだね」
「みたいだな」
「ヒロムも少しは鬼丸くんから学んだら?」
うるさい、とヒロムはからかうように言うサクラに冷たく言うと鬼丸の頭を撫で、頭を撫でられた鬼丸は嬉しそうに尻尾を振る。
鬼丸が嬉しそうに尻尾を振っていると飛天と希天がキャロとシャロを抱きながらこちらにやってくる。
「鬼丸くん、キャロちゃんとシャロちゃんが一緒にお散歩しよって」
「ワン?」
「お散歩だよ、お散歩。
鬼丸くんの好きなお散歩だよ?」
「ワン……クゥン」
飛天に散歩と言われても何故か喜ばない鬼丸。何故なのかと飛天が不思議そうな顔をしているとガイが飛天に向けて申し訳なさそうに言った。
「飛天、鬼丸はお散歩用のリードがないとダメって父さんに言われてるだろ?鬼丸はリードが今はないからお散歩できないって言いたいんだよ」
「えぇ〜。今日だけはダメ?」
「ルールを守るって約束だろ?」
「……はーい」
ガイと言葉に飛天はしょんぼりしてしまう。どうしても鬼丸を散歩させたかったみたいなのだが、シオンは飛天へ歩み寄ると彼に向けて伝えた。
「ひとまず散歩のことは後にしとけ。今は妹と猫を連れて女の後ろに隠れてろ」
「雷のお兄さん?どうして?」
「……場所くらい選べって話だ。
そこにいるのは分かってんだから出てこい」
他の生徒たちが帰宅しようとして向かう校門の方に視線を向けながらシオンが言うと音も立てずに何かが現れる。
何かではない、人だ。5人、病気ではないかと疑いたくなるほどに白い肌の6人は白い装束を纏いて現れ、現れたその5人を前にして下校しようとしていた生徒たちは足を止めてしまう。
「……あぁん?
クソ雑魚人間のバーゲンセールかよ」
5人の中の1人の右目を隠す青髪の青年はどこか鬱陶しそうに言うと他の4人に向けて言った。
「こんなゴミ溜めに来るんならオマエらに押しつけてサボればよかった」
「……口を慎めよ乱魔」
青髪の青年が鬱陶しそうに話すと水色の長い髪の青年が青髪の青年のことを乱魔と呼ぶと彼に注意した。
「これは我らが主より与えられた任務だ。
貴様の私情を持ち込むな」
「あぁん?
静魔、喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩など売っていない。
少しは冷静になれというだけのことだ」
静魔と呼ばれた水色の長い髪の青年は落ち着いた様子で乱魔に向けていい、静魔はヒロムたちの方を見ると彼らに向けて語る。
「初めまして、とだけ言っておこうか我らの敵よ。
我々は魔柱、我らが主よりオマエたちと他の人間の抹殺を命じられし存在だ」
「……通路の邪魔だ。どけ」
「おいおい、オレらの話聞いてたのか?」
通路の邪魔だとヒロムが冷たく言うとそれを聞いた赤い髪の女のような見た目の少年が笑いながらヒロムに言い返した。
「オレらはオマエらを皆殺しに来たんだぞ。
邪魔だのどけだの言われてはいそうですかって理解すると思ったのか?」
「波魔の言う通りだぜ。
ワシらはオマエらを殺しに来たんだぜ。その目的も果たさずに帰れるわけねぇんだぜって話だぜ」
「糸魔の言う通りだ。
我らは目的を果たさなければ帰還など出来ぬのだ」
「堅物の剛魔もこう言ってる。
つうわけで……ストレス発散に何人か殺さなきゃ帰れねぇんだよ」
赤い髪の女のような見た目の少年・波魔、ポニーテールの緑色の髪の青年・糸魔、茶髪の大柄の男・剛魔がそれぞれ意見すると乱魔はストレス発散と言ってヒロムたちに殺戮を宣言し、それを聞いた生徒たちは己の身を守らねばと混乱して校門とは反対の校舎の方へ逃げようとした……が、ヒロムは首を鳴らすと乱魔たちを冷たく睨みながら告げた。
「……オマエらは1人も殺せずに1人残らず生きて帰れない」
「あん?」
「オマエらが揃いも揃ってここに来たのが間違いだったと教えてやろう。オマエらが相手しようとしてるのが誰なのかをな」
「んだと、テメェ……!!」
「……そうとなればオマエら、好きなヤツを潰せ」
ヒロムの言葉に乱魔が苛立ち、静魔たちもそれに反応する中でさらにヒロムが一言言うとガイ、ソラ、イクト、シオンはヒロムの隣に並び立つとそれぞれが意見を述べていく。
「ヒロムの言う好きなヤツってのは相性の話もある。
オレはどれでもいいけど、オマエらは……」
「オレは大男を殺す。あの5体の中じゃ殺しがいがありそうだからな」
「んじゃあオレは女男もらおうかな。女装男子は嫌いじゃないけどああいう中途半端なのは嫌いだからハッキリさせたいんだよね」
「誰も名乗り出ないならオレはあの威勢のいいヤツをもらう」
「……3人が選んだならオレは……」
「オレはあの長髪をもらう」
ソラは剛魔、イクトは波魔、シオンが乱魔の相手をすると言うとガイは残る糸魔と静魔のどちらかを選ぼうとするが、そんなガイの後ろからナギトは静魔のことを相手にすると名乗り出た。
ナギトの名乗り出、それを想定していなかったのかガイはヒロムに確認を取ろうと視線を向けるが、ヒロムは何も言わずに頷きそれを見たガイはナギトに伝えた。
「無理はするなよナギト。
相手は得体がしれない存在、下手に攻めずに無理だと思ったら退け」
「オッケーだよ隊長。
オレの成長、見せつけてやるんだ」
「おいおい、オレらは遊び相手のつもりか?
こっちは本気で殺しをやりに来てんのに、オマエらは……」
「オマエらは腕試しでしかない」
ガイたちの話を聞いていた波魔が不機嫌そうに離そうとするとその途中でヒロムが遮るように言い、さらに続けて乱魔たちに向けて告げた。
「オマエらは言うなら今の《天獄》の力量を計るためのサンドバックだ。何処の馬の骨かは関係なくオマエらはコイツらの経験値にしかならないということを知れ」
「んだと、テメェ!!」
「イライラするなよ噛ませ犬。
そのイライラは……オマエらの対戦相手にぶつけな」
ヒロムは左手首の白銀のブレスレットを桃色に光らせると桃色の宝玉を出現させる。宝玉が出現するとガイ、ソラ、イクト、シオン、糸魔、剛魔、波魔、乱魔が光に包まれていく。光に包まれていくことに乱魔たちが慌てる中ガイたちは落ち着いており、落ち着くガイたちにヒロムは指示した。
「勝てる戦いはするな。価値のある意味のある勝利を収めろ」
「「おう!!」」
「……いってこい」
ヒロムが指を鳴らすとガイたちは光に飲まれて消え、乱魔たちが消えたことで1人残された静魔を前にしてナギトは準備運動をすると前に出る。
「じゃあ、オレの活躍を見せてあげるよ師匠」
「油断するなよナギト。オマエは発展途中なんだからな」
「……分かってるよ。
だからこそ負けない!!」
「……魔柱が1人、静魔。
敵対戦力を排除する」




