8話 始学の乱入
数日後……
高校生であるヒロムたちは春休みという休みが終わり、新たな学年に進級しての学生生活の始まりを迎えようとしていた。
私立姫城高校。ヒロムたちの暮らす街の中にある敷地範囲が多く、校舎も大きい高校。有している在学生徒の数も多く、生徒の中には《能力者》と呼ばれる者も多く存在しながらも手を取り合って学生生活を送っている。ヒロム、ガイ、ソラ、シオン、イクト、そして先日街でヒロムが出会った姫野ユリナはこの学校の生徒である。
1年から2年へと進級、学科の変更も無いためクラス自体も大きな変化はなかった。ヒロム、ガイ、ソラ、イクト、ユリナは1年の頃から変わることなく同じクラス、シオンについても1年からクラスが変わることなく進級している。
そして新入生を歓迎する入学式前のHR前の時間、進級して気持ちを新たなに心躍らせる生徒がいる中でヒロムは机の上で腕を組んでそれを枕代わりにして寝ていた。
「……もう寝てやがる」
「相変わらずだよな、大将は」
当然のように眠るヒロムの姿に呆れるソラとイクト。ヒロムが寝ている光景が当たり前なのかガイも何か言うことは無く、ヒロムの後ろの席のユリナはヒロムの寝る姿をじっと見ていた。
「……」
「ユリナ、そんなに見つめてもヒロムは起きないぞ?」
「ふぇ!?
へ、変なこと言わないでよガイ!!」
「いや、当たり前のようにヒロムのこと見てたから。
ヒロムと話したいなら起こそうか?」
「ううん、大丈夫。
ヒロムくんもここのところ大変そうだから休める時に休んでもらわないと」
「……まぁ、《センチネル・ガーディアン》になってからそれなりに忙しくなったからな。
昔みたく十神アルトの権力で操られてた能力者を対処することがなくなっても犯罪者の暗躍を阻止したりとやることは前に比べて増えてるからコイツもそれなりに疲れてるかもな」
「ソラもガイも毎日大変だよね?
ヒロムくんと一緒に頑張ってるみたいだし……」
「オレらはコイツの指示で動いてるだけだから大したことはねぇよ」
「ヒロムの場合は《天獄》のリーダーと《センチネル・ガーディアン》の主要人物として色々やらなきゃならないこと多いらしいからな。今までに比べたら処理することも増えただろうし、そういう意味ではヒロムは大変だと思うよ」
「そうなんだ……」
それより、と話に置いていかれているイクトはヒロムの話を早々に終わらせて話題を変えるかのように教室の廊下側の後ろに視線を向けながら話していく。イクトが視線を向けた先には誰も座っていない、荷物も置かれていない机と椅子があった。
「オレとしては転校生がいるってのが驚きだよ。
新しい学年になるタイミングだから不自然なことは無いけどさ」
「そうだな。
どんなヤツが来るのかは気になるな」
「案外、《センチネル・ガーディアン》の座を狙ってる能力者だったりしてな。噂で聞いたがこの学校の生徒の何人かは《天獄》の加入と《センチネル・ガーディアン》への任命を狙ってるらしいからな」
「うわぉ、大将が狙われてるって話?」
「いや、ヒロムを狙ってるのもいるらしいがオレたち5人の中で弱そうって理由からイクトが穴場扱いされてるみたいだぞ。ガイとシオンはヒロムの次に危険、オレはその次に危険、でイクトは他に比べたら油断してそうってな」
「はぁ!?何それ!?
あのな、オレだって……」
ソラが耳にした噂に納得いかないイクトが反論しようとすると始業のチャイムが鳴り、チャイムが鳴るとガイとソラは自分の席に戻っていく。話がまだ途中で不満が収まらないイクトはモヤモヤしつつも席に戻り、ユリナは寝ているヒロムの背中を軽く叩いて彼を起こした。
「ヒロムくん、もうHR始まるよ」
「んん……分かった」
ユリナに起こされたヒロムは別に文句を言うでもなく素直に起きると姿勢を正すように座り直し、ヒロムが座り直したタイミングで担任の教師が中へと入ってくる。
黒いマスクで口元を隠した水色の髪の白衣の男。まだ若い白衣の男は教室に入るなり教壇に立って挨拶をする。
「どうもっス。今年もこのクラス、2年B組の担任になりました瀧神カルラっス。みんな無事に進級できて安心したスけど、2年となると学習塾することは難しくなるから油断は禁物スよ。それと、このクラスに転校生が1人入ります。このクラスに早く馴染めるように皆さんよろしく頼むっス」
白衣の男……瀧神カルラが転校生の話題に触れると教室の前の扉が開けられ、開けられた扉の向こうの廊下から1人の少年が入ってくる。
銀色の少しボサボサの髪、青い瞳、新調されたことが一目で分かる綺麗なこの学校のブレザーの制服を着た少年は扉を閉めるとカルラの隣に並び立つ。
並び立った少年の姿を見たヒロムは彼の姿を見たと同時に頭の中であの言葉がよみがえる。
『……天才の実力、そのうち確かめに行くよ』
化け物が現れる直前に通り過ぎた誰かがヒロムに向けて言ったとされるこの言葉。その言葉を聞く前にヒロムが見たとされる銀髪の人物と転校生の少年の姿がヒロムの中で一致してしまう。勝手な勘違いかもしれない、だがヒロムの記憶の中のその人物とこの転校生は間違いなく同一人物だと彼の直感が言っている。
「では自己紹介してくださいっス」
「……風乃ナギト。よろしく」
どこか気だるそうに自己紹介をした転校生・風乃ナギトにクラスの生徒が拍手をする中、ヒロムは彼の声を聞いて確信した。
「間違いない……」
(あの声とコイツの声は同じだ。つまりコイツが……あの時のヤツで間違いない)
「じゃあ、廊下側の1番後ろの席に座ってくださいっス」
うす、とカルラの指示に風乃ナギトは返事をすると指定された席に移動しようとする。移動するナギトはちょうどヒロムの横を通ろうとし、彼が通ろうとする中ヒロムはじっと彼のことを見ていた。
すると……そこでヒロムの想定していないことが起きた。
「……約束通り、確かめに来たよ」
「……ッ!!」
ヒロムにだけ聞こえるような大きさの声でナギトは呟き、その言葉にヒロムが反応しているとナギトは少し微笑むとそのまま席に向かっていく。
「アイツ……!!」
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入学式が終わり、初日だからか午前で終わったヒロムはガイを校舎裏へと連れて身を隠すようにしてナギトについて話をしていた。
「あの転校生が怪しい?」
「あぁ、アイツはオレと面識がある。そしてその事をオレも認識してる」
「ただの偶然じゃないのか?」
「偶然だと?
例の化け物が現れる直前にアイツと思われるヤツが言った言葉とあの転校生が通り過ぎる瞬間に言った言葉の意味が一致するのにか?」
「……言いたいことはわかる。
けど、ヒロムが雑貨屋で聞き込みをした時の犯人像で一致するのは髪の色くらいで背丈は違うだろ。化け物が突然現れて記憶が混濁してると仮定したとしても180cmはそう見間違わないだろ。あの転校生の背丈はざっと見て170cm、10cmの間違いはさすがにないだろ」
「なら……直接聞くか」
「……なるほど。
それが早いかもな」
いまいち話が進まない、そんな中でヒロムは直接聞くと決め、ガイとそれに賛同すると2人揃って後ろを向いた。その先には……
「やぁ、天才」
「……よぉ、新参者」
いつからいたのか、そしてヒロムとガイはいつから彼に気づいていたのか……2人の視線の先には転校生の風乃ナギトが立っていた。