79話 展開されし道
翌朝……
珍しく早起きしたヒロムは屋敷を出てある場所で誰かを待つように立っていた。屋敷から数分ほど歩いた所にある交差点、その交差点の信号の前でヒロムは誰かを待つように立っていた。
「……」
静かに待つヒロム。そこにヒロム以外にガイたちの姿もなければサクラたちの姿もない。1人でそこに立つヒロム。ヒロムが静かに立っていると……
「ヒロムくん……?」
誰かがヒロムのことを後ろから呼ぶ。ヒロムがゆっくりと振り向くとそこにはユリナがいた。昨日の一件、つまりはヒロムの告白とも取れるような言葉を受けてユリナは彼の前から逃げるように去ってしまったからか気まずそうな表情を見せるが、ヒロムは咳払いをするとユリナに向けて頭を下げた。
「……悪いユリナ。
誤解を招くような言い方をしてユリナを困らせて」
「あっ、えっと……ヒロムくん、顔上げて」
突然のヒロムの謝罪に戸惑いを隠せないユリナはこの時間帯通勤や通学のために通る周囲の人の目が気になるのかヒロムに頭を上げさせようと彼に言うが、ヒロムはユリナの言葉に応じずに彼女に言った。
「オレの未熟さでユリナを困らせた。ユリナの気持ちを考えてない発言をしてすまなかった」
「そ、それは……」
「でもあえてもう1回言わせて欲しい。恋愛云々のことはまだ分かんねぇけど、オレが能力者として戦う上でユリナが見守っててくれることはオレの心の支えになる。だから……上手く言えねぇけど、これからもそばにいてほしい」
「ヒロムくん……」
上手く言えない、それを分かりながらもヒロムはユリナに自分の思いを伝えようとする。彼の言葉を受けたユリナが返す言葉に悩んでいると……
「ヒロム、もう少し言葉を選ばないとその言い方も勘違いを引き起こすわよ」
いつからいたのか、いつの間にそこにいたのかは分からないがユリナの後ろからサクラがヒロムに彼の言葉について指摘し、後ろからのサクラの声に驚いたユリナは驚いた拍子に彼女の方を見てしまう。サクラの声がするとヒロムは頭を上げて彼女の姿を見るとため息をついてしまう。
「……サクラ、性格悪いぞ」
「さ、咲姫さん!?いつからいたの!?」
「ヒロムが頭を下げたくらいからかしら。
それよりユリナ、私のことは呼び捨てでサクラって呼んでくれていいのよ?」
「えっ、あの……ってあれ?
咲ひ……サクラ、さんが何で姫城の制服着てるの?」
戸惑いを隠せないユリナはサクラの服装に疑問を持つとなぜなのかを彼女に尋ねた。サクラの服装、それはヒロムとユリナ、ガイたちの通う姫城学園の制服だった。ヒロムとユリナが姫城の制服を着てるのはこれから学校に向かうから不自然ではない。では何故サクラが着ているのか?
そこを疑問に思っているとヒロムは何かを察したのかヒロムはものすごく残念そうにサクラを見ながら言った。
「オマエ、真助を彩蓮に編入させるついでに自分が姫城に通えるように手続きしたろ?」
「ええ、もちろんよ。
放っておくと何するか分からないアナタを学校ではユリナに任せるのは申し訳ないから私もフォローしようかと思って」
「……余計なことを」
「あら、アナタの学校での素行に問題がなければ私1人が編入したところで問題ないはずよ?私が編入したら何かまずいのかしら?」
「……変な事言うなよ。
何もねぇよ」
「それならいいわよね?
というわけでよろしくねユリナ」
「は、はい!!」
「……先行き不安だな」
「そ、それはいいすぎじゃないかな……?」
半場強引なサクラの言葉にヒロムもユリナもこれ以上言えることがないのか引きつった笑顔で話す他なかった……
******
その頃……
《一条》の屋敷……その庭にて一条カズキの指導を受けているゼロは息を切らし、汗を流して座り込んでいた。
座り込むゼロの前にはカズキがおり、カズキは汗一つ流すことなく立っていた。
「……ゼロ、その調子じゃ続行は不可能だ」
「まだやれる……!!
休む間もなく続けろ……!!」
「努力は認める。だが闇雲に努力しても身につかないものもあるということを理解しろ」
「悠長なこと言ってられるかよ。
オレが強くなってヒロムの力にならなきゃペインは倒せない。だからオマエは鬼桜葉王にヒロムへのアドバイスを送るように指示を与えたんだろ?」
「……勘違いをするな。アイツのことだから道を示さなきゃ真っ先に打倒ペインを目指すと判断したから葉王に指示したまでだ。オマエらの存在は《世界王府》を消すためには欠かせないからな」
「《世界王府》を消すため、か。それがオマエの戦う理由なのか?」
「……少し違うが今はそうだな。
《センチネル・ガーディアン》の設立は十神アルトが利用していた《十家》を超えるシステムとして機能している。首都では姫神ヒロムが《天獄》とともに、各地においても他の《センチネル・ガーディアン》のメンバーが戦っている。だがもし……これ以上敵の勢力が増すのならオレは政府に申請して《センチネル・ガーディアン》を集結させなければならないかもしれない。そうならなくてもいいようにオマエを鍛えるんだ」
「オレは保険代わりか?」
「いや、保険ではないシステムとしてだ」
「システム?」
カズキが指を鳴らすとゼロの前に2つの椅子とテーブルが現れ、現れた椅子にカズキが座るとゼロは立ち上がって椅子に腰掛ける。
ゼロが椅子に座るとどこからか紅茶の入ったカップが現れ、さらにノートパソコンが1台現れる。
「……相変わらず便利な能力だな、オマエの《創造》は」
「生物や命は生み出せない。命無き無機物しか生み出せない能力でしかない」
「それが便利なんだって話だろ」
「オレの能力などどうでもいい。それよりもオマエが気にしてるであろうシステムとしての話を聞きたくないのか?」
「……聞かせてくれるなら聞かせてもらおうか」
「ふっ、素直でいい。
とはいえ今言ったシステムとは新しく組織などを作ることではない。オマエも知っての通り今《世界王府》の動きは活発になり、中でもその多くがこの地域に密集している。他の《センチネル・ガーディアン》のメンバーは各地で各々の戦いをしている中で引き戻すのは難しい、そこでこの地域をメインで戦う姫神ヒロムをアシストしながらもメインで戦える戦力を揃えるというのが今回の新たなシステムだ」
「つまりヒロムの助けになるってことか。
それにオレを抜擢するのか?」
「抜擢するというよりはオマエだけがそれの対象になるんだがな」
「オレだけ?ガイやソラは少なくともオマエが認める能力者なはずだろ。ならオレだけじゃなくアイツらも……」
「今回のこの新システム……仮の名前として名をつけるなら《セカンドガード》は抑止力としての機能の提示が目的だ。雨月ガイや相馬ソラの実力は成長次第では姫神ヒロムを超えるとオレも評価はしてるが、世間からすればあの2人は姫神ヒロムを支える仲間にして姫神ヒロムの両翼を担う能力者と認識されている。そんな2人を《セカンドガード》に任命してみろ。政府や警察は姫神ヒロムを優遇してると勘違いしかねない」
「……つまり、オマエはヒロムに肩入れした人間ではなく世間から認められる存在が必要であり、それに最適なのがオレって言いたいのか」
「幸運なことにオマエのことを世間はしっかりと認知していない。姫神ヒロムに似ている男がいるという噂がある程度でオマエが姫神ヒロムの心の闇に宿った存在だとは誰も知らない。だからこそオマエが最適なんだ。世間では《センチネル・ガーディアン》の座を狙うものが多い、そんなヤツらに教えてやるんだ。国の防衛を担うのなら相応の力を示す必要があることをな」
「……そうかよ。
それで、このノートパソコンは?」
「オマエの強化プログラムの全てを記している。
それを理解した上でオマエは今の姫神ヒロムの数倍の強さを得て世間の前で姿を晒させる」
おもしれぇ、とゼロはカズキの話を前にして笑いながら言い、そしてその上でゼロはカズキに告げた。
「オマエの望み通り強くなってやるよ。ただし……オレがオマエの強さを超えても知らねぇから覚悟しとけ」
「フッ、やれるならやってみろ。
オマエみたいな狂犬を手懐けるのは容易いんだからな」




