76話 精神の乱れ始め
「大した話じゃないんだが気になってな。
その……ノブナガとの戦いの時、何でそうしなかったのかを聞いていいか?」
「何がだ?」
はぐらかすように言葉を濁すガイ。さっさと本題に入れと言いたげなヒロムは問い返し、ヒロムに問い返されたガイはヒロムに尋ねた。
「ヒロム……何であの時フレイたちを呼ばなかった?」
ガイの質問、それを受けたヒロムは少し間を置くように考えた上で彼に答えを返した。
「あそこでフレイたちを頼らなくてもオレが何とかできると思った。それにヤツが奥の手を隠してた場合に備えたかったんだよ」
「リュクスの奥の手はノブナガそのものだったはずだ。リュクス自身も魔力の消耗云々を口にしていたし、精霊の使役における魔力の消耗については誰よりも詳しいヒロムがそこを見抜けないと思ってるのか?」
「敵の言葉を鵜呑みにするのか?オレはヤツの演技に騙されてイクトの力を利用されるような状況を作ってしまった。だからあそこから必要以上の被害を出したくなかったから……」
「その気持ちはわかる。だけどノブナガのあの力を前にしてヒロムはフレイたちを呼び出して援護を頼むことも可能なはずだと思うとオレの中で納得できなくてさ。」
「他に手があったと?」
「ヒロムが嫌いなたらればの話をすることになるけど、リュクスのスキをついての攻撃をシオンたちじゃなくてフレイたちだったらノブナガ召喚は防げたかもしれないし、ノブナガ相手にフレイたちを呼び出してればヒロムがそこまで苦しまなくて済んだはずだ」
「済んだ話に文句はいくらでも言える。その上で言ってるなら次から気をつけ……」
「言い方を変えるよ。ヒロム、オマエはペインを1人で倒すことに囚われてないか?」
言い方を変えたガイの一言、それを受けたヒロムはどこか冷たい眼差しをガイに向ける。ヒロムの冷たい眼差しを見たガイはヒロムの言わんとすることを汲み取ったのかため息をつくと彼に告げた。
「リュクスの言ってたことを鵜呑みにするつもりはないけど、アイツの言い分が正しいならたしかにノブナガを倒してアイツを倒せばオマエは何も失わないでユリナも守れて終わるかもしれない。けど、1度絶望して生まれてしまったペインという存在は消せないのも確かな話だ。ヒロムがそこを気にしてペインと1人で決着をつけたいと思うのは勝手だが、その果てでオマエが傷ついて倒れたら今度はユリナを絶望させることになるんだぞ」
「絶望はさせない。オレが未来を掴んでアイツを倒せば……」
「仮にもペインはオマエと同じ姫神ヒロムという人間だ。オマエと同じように《未来輪廻》を使えたらどうするんだ?」
「それは……」
「冷静になってくれヒロム。相手は《世界王府》のテロリスト、どんな運命を辿ってるとしてもペインはオマエじゃない。ペインはテロリストとして全員で何とかするべきだ」
「……」
「……何とかする手立てもなく言うのは無責任だがそこは理解してほしい。とくにその《未来輪廻》の力による反動が今回を超えるレベルとなった時にオマエにどんなリスクがあるか分からないんだからな」
ヒロムに自らの思いを伝えたガイはそれ以上何も言わずに彼の前から去るように歩いていき、ガイの言葉を受けたヒロムはガイの言葉を受けて何かを思っているのか拳を握っていた……
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1時間後、彩蓮学園よりノアルがユキナ、エレナ、アキナを連れて屋敷に戻り、道中で合流点した真助も屋敷に到着したことでゼロを除く一同がヒロムの屋敷に揃った……のだが、屋敷につくなりアキナはヒロムの姿を見て取り乱してしまう。
「いやぁぁぁぁあ!!ヒロムがぁぁあ!!」
「うるせぇよアキナ。少し落ち着け」
「落ち着けないわよヒロム!!
アンタのそんな姿見たら落ち着いてなんていられないわよ!!」
「うるせぇんだよいちいち。大体この眼帯もサクラが大袈裟に……」
「あらヒロム。眼帯外したら次は取らないように鎖で縛るわよ?」
騒ぐアキナを黙らせようとヒロムは医療用の眼帯を外そうとしたが、笑顔で外すなと言ってくるサクラが視界に入るとヒロムは何も言わずに外そうとするのをやめる。
だが鼻に詰めたティッシュは大丈夫だろうとヒロムはそれを引き抜き、サクラが止めることもなかったためヒロムは何とか息のしやすさを取り戻すと真助に尋ねた。
「そういや真助、ゼロは?」
「ゼロなら《一条》の当主が鍛えるってことでそこにいる。何かはよく分からんがゼロの存在はペインって野郎にとってイレギュラーらしいから敵の予測を超える力を得る必要が云々で指導されるらしい」
「ふーん……。ゼロの指導とか珍しいことするんだな」
「というか初めてじゃねぇのか?今までならゼロはオマエが強くなれば勝手に強くなってたし……」
「オレの中に宿る闇なんだから光の存在でもあるオレが強くなれば必然的に闇が強くなるのは当然ってゼロは言ってたぞ。ホントかは知らんけど」
だからでしょ、と話を聞いていたユキナはヒロムの隣に座ると彼のことを心配しながらもゼロについて話していく。
「ゼロはヒロムが強くなったことで自分が強くなったその性質を利用して逆にアナタを強くさせたいのよ。アナタのために何かしたい、心の闇に宿ると言いながらもゼロはアナタの力になりたいのよ」
「あのゼロがね……」
「けど現実的な話をするならペインが操る外道輪廻とかいう目に見えない存在を視認できるのはゼロだけだ。そのゼロが強くなった恩恵でヒロムが同じように視認できるようになったとなればお嬢さんの言うようにオマエのためにってのは間違いではないだろ?」
「そうかもな……つうか真助、そろそろユキナたちの名前覚えろよ」
努力する、とどこか適当な返事で済ませる真助に覚える気は無いだろとヒロムが呆れているとアキナはヒロムの隣に座るユキナに食ってかかる。
「ユキナ!!何どさくさに紛れてヒロムの隣に座ってるのよ!!」
「あら、ごめんなさい。ヒロムの隣はユリナかエレナって話だったかしら?」
「そうじゃないわよ!!どさくさに紛れて色目使おうとしてるでしょ!!」
「アンタと違うからしないわよ。それに私はアンタと違うから何もしなくても何かと頼りにされるから色目使おうとしなくていいのよ」
「はぁ!?そんなの分からないでしょ!!
試しにヒロムに……」
「頼むから静かにしろ」
ユキナとアキナの言い合いが口喧嘩になる前に止めようとヒロムは仲裁するように一言言い、ヒロムに言われた2人は彼に従うように静かになる。2人が静かになるとエレナがヒロムたちのもとへコーヒーの入ったカップを運び、眼帯をつけるヒロムを気遣ってエレナはヒロムにカップを手渡した。
「大丈夫ですか?」
「大したことねぇよ。1晩寝たら治ってるよ」
「そうですか……それより、ユキナから聞いたのですが真助さんが彩蓮学園に編入するというのは本当なのですか?」
「ああ、サクラが手配してくれてるみたいだが……たしか明日からじゃなかったかな」
「おいヒロム……初耳なんだが?」
想定していない話に戸惑いを隠せぬ真助がヒロムの方を見る中、ヒロムは静かに視線を逸らす。ヒロムに何か言いたげな真助が発言しようとするとサクラが真助に歩み寄って彼に言った。
「アナタも学生として学ぶことが出来るのですから今後のためにも頑張ってね」
「待て待て!!オレは戦うこと専門であって……」
「頑張ってね」
真助の言葉に聞く耳を持つことなくサクラはただ頑張れと伝え、サクラの言葉を前にして真助は抵抗するのを諦めたのか学校が余程嫌だったのか急にテンションを下げて落ち込んでしまう。
真助すら手玉に取るサクラ、そのサクラの姿を遠くから見るソラとイクトは思った。彼女に逆らうのは危険だと……




