74話 楽しみの温存
ノブナガを追い詰めたヒロム。そのヒロムの謎の力《未来輪廻》を目にしたリュクスは想定していない事態に当然の事ながら不満を持っているらしくヒロムを睨み、睨まれるヒロムは臆することなく余裕を見せるようにリュクスに視線を向ける。
そのヒロムの謎の力《未来輪廻》を目にしたガイはその力を前にして驚いていた。
「未来輪廻……」
(ソラに叱咤され、ナギトの明かした《憧れ》に応えようとしたヒロムの心の変化がもたらした新たな力。いや、あの事件……《十家騒乱事件》の黒幕の十神アルトを倒すためにヒロムが一かバチかの賭けに出たことで一時的に会得していた力を真に開花させたんだ。未来をやり直して自分の手で未来を掴む、ペインという自分の成れの果てを見たからこそヒロムが手にした絶望を超えるための力!!)
「これならペインを倒せるんじゃ……」
今のヒロムの力ならペインを倒せるかもしれない、ガイがそう思っていると倒れたはずのノブナガが立ち上がる。満身創痍、ダメージにより体は半壊していて戦えるような状態ではない。そんな体でまだ立ち上がるノブナガを前にしてヒロムは今度こそノブナガを終わらせようと構えようとしたが、ヒロムが構えようとするとノブナガは不敵な笑みを浮かべながら彼に言う。
『……よもやこれほどとは驚きだ。貴様は我の家臣として仕えさせたいと思うと思うと同時にこの手でその力を潰したいとすら思ってしまう。貴様は我を楽しませてくれる数少ない好敵手になる存在だ』
「勝手に楽しんでろ。オマエとはここで終わらせてやる」
ノブナガを倒そうと白銀の稲妻を拳に纏わせようとするヒロム。だがヒロムが白銀の稲妻を拳に纏わせようとすると突然彼はフラつき、そして右目は充血して血の涙を流してしまう。さらに鼻から血が流れ落ち、それによってヒロムは自身の体の変化に気づく。
「なっ……」
『貴様も満身創痍、というわけか。お互い決着をつけたいとは思いながらも戦えるような状態ではないようだな』
「クソっ……こんな時に……!!」
「ヒロム!!」
(回数制限があるのかは分からないが未来輪廻の力はヒロムに負担がかかるらしいな。ここはオレも加勢して……)
ヒロムが危ない、そう考えたガイは霊刀《折神》を構えながらヒロムの前に立ってノブナガの相手をしようとするが、ノブナガは刀を闇に変えて消すとヒロムに向けて伝える。
『……精霊となった我は時が経てばこの身の傷も癒える。貴様も時を経れば回復するのだろう。決着はその時まで取っておくとしようではないか』
「何?」
「ヒロムを見逃すのか?」
『今回だけだ。もっとも、我の望みを叶えないのであれば我は精霊としての座を下りるだけだ』
ヒロムのことは今回は見逃すとノブナガはヒロムとガイに伝えると続けて忠告するようにリュクスに伝えた。ノブナガの言い分にリュクスはため息をつくとノブナガの言葉に対して承諾するような言葉を口にする。
「仕方ないね。キミと強制契約したからオレも魔力をかなり消耗してる。キミの言う通り今回は退こうかな」
『ふっ、物分りの良い人間だな。では……我が主よ、我は先に帰還する』
自身の言葉を受け入れたリュクスに一言言うとノブナガは闇となって消え、ノブナガが消えるとリュクスは手に持つ魔剣を闇に変えて消すとヒロムを見ながら言った。
「……今回のノブナガはいわば黒川イクトの力を試しに使って動かしただけ。その程度の相手に苦戦してるようならキミの未来なんて絶望しか待ってないよ」
「……言ってろ。オマエが何企もうがオレはオレの力で未来を掴み取ってオマエを止める」
「フッ、そっちこそ好きに言ってなよ。
未来輪廻なんてペインの《輪廻》の力を真似た力を使ってもオレは倒せないんだからね」
じゃあね、とリュクスは不敵な笑みを浮かべながらヒロムに向けて手を振ると音も立てずに風と共に消えてしまう。リュクスが消えるとヒロムは膝から崩れ落ち、ヒロムは手をついて倒れないようにするもどこか苦しそうな顔をする。彼が心配になったガイは彼に駆け寄り、ソラたちも、そしてユリナとナギトもヒロムに駆け寄る。
「ヒロムくん!!」
「ヒロム、大丈夫か!?」
「あぁ……少し目眩がするだけだ。
未来輪廻、かなり便利な力を得たと思ったのに……このザマだと笑えねぇな」
「そんなことないさヒロム。オマエがその力を使えたから敵を撤退させられたし、ユリナや皆を守れたんだぞ」
「ガイの言う通りだ。オマエがいなかったらノブナガとかいうヤバいのをあそこまで追い詰められなかった」
「いや、そうとは限らないだろ」
ヒロムの新たな力、その力にガイやソラが感謝しているとシオンは彼らとは異なる意見を口にした。
「今回はヒロムの新たな力で助かった。だがヒロムはノブナガを消せなかった。全快したノブナガが現れた時、今みたいにヒロムが互角に戦えるかは分からないんだから安心も出来ねぇだろ」
「今が無事ならひとまずはいいって話だ。シオンの言いたいことはわかるけど、今はまだ先送りにしてもいいだろ」
シオンの意見を受けながらもガイはヒロムの身を案じて今後のことは後に話そうとしてヒロムを見る。大丈夫、といいながらも苦しそうなヒロム。《未来輪廻》、その力は果たして……
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その頃……
ヒロムの母こと姫神愛華は《姫神》の血筋にある当主が代々管理する屋敷にいた。現在《姫神》の当主を務める愛華は自身のために用意された執務室とは異なる広々とした部屋におり、そこで誰かに電話をしていた。
「サクラさんの頼みでしたら断りませんよ。あなたはヒロムさんのためを思ってそうしようと考えられたのなら私はそれを尊重します。ですからその件については私の方で連絡するのでサクラさんはヒロムさんのことをよろしく頼みますね」
では、と愛華は通話を終わらせると電話を置き、電話を置いた愛華は一息つくと誰かに話しかける。この広々とした部屋、その部屋に置かれた大きなソファーに1人の青年がいた。
愛華は彼の座るソファーと向かい合うように置かれたソファーに腰掛けると彼に話しかけた。
「お待たせしてすいません。せっかくお越しいただいたのに……」
「構わねェよォ。アイツ絡みのことなら何とかしてやッてくれればそれでいいィ」
「それで、話の続きですが……ヒロムさんそっくりの敵を何とかできる方法があるというのは本当なのですか、葉王さん」
まァなァ、と青年は……鬼桜葉王は愛華の言葉に軽く答え、答えた葉王は愛華に彼女のいうヒロムそっくりの敵、つまりはペインのことを話していく。
「ペインは別世界の姫神ヒロムであると同時に姫神ヒロムが世界を滅ぼす程の絶望を味わッた起こりうる可能性世界の中を生きた存在ィ。それが姫神ヒロムの前に現れたということはァ……姫神ヒロムが絶望しなくても済む可能性があるッて単純な話だァ。だがァ、問題はァ……」
「絶望を回避してヒロムさんがそのペインというお相手を倒す方法、という点ですか?」
「その点はオレで何とかできるゥ。それ以上の問題はァ、ペインが絶望して到達した覚醒と成長による力の獲得と同等の力を絶望に抗う上で姫神ヒロムがどうやッて得るかだァ。仮にオレが鍛えたとしてもォ、そこでアイツが確実に力を得られる保証もないィ」
「ですが、アナタは私のところに来た。
つまりはアナタにはヒロムさんがペインに負けぬ力を得るための手がかりを知ってるからこそここに来たのではないのですか?」
その通りだァ、と葉王は言うと咳払いをし、そして口調を変えると愛華の言葉に対してある事を伝えていく。
「……姫神ヒロムを強くした上でペインに匹敵する希望に位置する力を会得させる方法はある。その方法を実現するためにオレはここに来た。鬼桜葉王として偽り隠してきた名……姫神葉桜の名を名乗ってでも何とかしなきゃならないこの局面を乗り越えるための方法がな」




