72話 第六天魔王
ノブナガ、リュクスにその名で紹介された武将の男を前にしてヒロムたちは驚愕してしまう。彼らが驚愕してしまう理由は単純明快、ただ1つしかない。
ナポレオン、ジャック・ザ・リッパー、猿飛佐助、ヘラクレス、呂布の魂を現世へと呼び寄せて魔剣・《ソウルイーター》の力による《強制契約》で精霊として使役していたリュクスがこの状況で呼び寄せて精霊として使役しようとするノブナガとなれば誰もが知るあの人物しかいない。尾ヒレがついて誇張させられた言い伝えだとしてもその力の在り方は現代においても一部で影響を与えている男。その男の名は……
「織田、信長……!!」
ノブナガ、そう呼ばれた男の正体……それは織田信長だ。ヒロムたちはそれについてすぐに気づき、ヒロムたちがノブナガの正体に気づいているとわかっているリュクスはどこか嬉しそうに話し始める。
「あまりに有名すぎてすぐに分かったみたいだね。そう、彼こそがかの有名な第六天魔王にして戦国乱世にその名を轟かせた王と呼べる武将、織田信長だよ」
「第六天魔王……その力を従えるためにイクトの力を利用したのか?」
「正確に言うには彼はまだお試しだよ。本当に呼びたい相手は別にいるからね」
「お試しだと?」
(ただ立っているだけで威圧してくるほどの殺気、その姿を目にしただけで体の奥底へと伝わってくるほどの得体の知れぬ力……あのノブナガが正真正銘本物の織田信長の甦りかは別としてもアレが放つ異質な力は常軌を逸してる。ビーストやペインに負けぬほどの力を持ちながら、これで試しただけ?ならリュクスは何を狙って……)
『……人の子よ』
リュクスの言葉から疑問を抱くヒロムが思考しているとリュクスが精霊として呼び出した男……ノブナガはリュクスに冷たい視線を向けながら彼に問う。
『何故我を呼び寄せた?何故我の力を求める? 』
「ッ……!!」
「アイツ、自我があるのか!?」
「今までのとは何もかも違うってのか!?」
『……答えろ、人の子よ。雑草どもと異なり貴様には思惑があるはずだ。それを我に聞かせよ』
「思惑も何も無いよ、織田信長。ただキミが死者として無意味に崇められるのは滑稽だと思った、だからオレがこの世界に呼び寄せたんだよ」
『何故我を選んだ?』
「キミがこの世界に必要だからさ。キミは世界をより良くするために天下を統一しようとしたがキミの思いは後世に正しく伝わることなく事実は歪んで伝えられ、それにより世界は仮初の平和に毒されて醜いものとなってしまった。そんな世界をキミに正してもらいたいのさ」
『……つまり、世を統一しようとしたこの我に貴様が納得していないこの世を直せと?』
「そのためにオレがキミに必要な力を与えたんだ。感じるだろ?キミの奥底から溢れ出ようとする力、それが今の織田信長としてのキミの力なんだよ」
『なるほど……我を前にして凡人程度の貴様が力を語るか。
この我に力を与えたなどと豪語する貴様のその態度、気に入ったぞ。ならば望み通りにこの世を統一させてやろう』
「フフッ、それでいい。
なら手始めに……キミをさしおいて王を語る愚か者が目の前にいるからそいつを倒せ」
ノブナガに吹き込むかのように次々にそれらしい言葉を並べていくリュクス。そのリュクスの言葉を受けたノブナガが真に受けたのか手に持つ刀を握り直すと動こうとし、ノブナガが動こうとするとリュクスはヒロムを指差しながら彼を倒すようにノブナガに指示を出す。
リュクスが指示を出すとノブナガは動き始め、ノブナガが動き始めるとソラとイクト、シオンはそれを阻止しようとノブナガに接近して攻撃を仕掛けようとした。
「行かせるか!!」
「大将はやらせない!!」
「ここで倒す!!」
『邪魔をするな』
ソラたちが迫ってくるとノブナガは刀を軽く振って烈風を起こし、起こした烈風は雷を纏いながらソラたち3人を吹き飛ばしてしまう。
「ぐぁっ!!」
『雑魚に用はない』
「ナメんな……!!」
吹き飛ばされたソラとイクトが倒れる中シオンは受け身を取ると雷を纏いながらノブナガへと再び迫ろうとし、ノブナガに迫るとシオンは纏う雷の一部を槍に変えて敵を貫こうとする。しかし……ノブナガは刀を水平に構えるとシオンの雷の槍を切っ先で止めてしまい、止めた上で軽く力を入れるとシオンの槍を破壊してしまう。
「なっ……」
『非力だな、小童よ』
「させねぇ!!」
シオンの雷の槍を破壊したノブナガは刀を振り上げてシオンを斬ろうとするが、倒れるイクトは自身の影を素早く引き伸ばしてノブナガの影に重ねるとそのままノブナガの影の一部を帯のようにして敵の体を拘束する。
影の帯に拘束されたノブナガの動きが止まるとシオンはすかさず距離を取ろうと後ろに飛ぶが、ノブナガは全身に力を入れるとイクトの操る影を強引に引き剥がしてしまう。
「何!?」
「オレの能力を!?」
『目障りだ小童共が!!』
影の拘束を強引に引き剥がしたノブナガが叫ぶと強い衝撃が生まれて2人を吹き飛ばしてしまう。吹き飛ばされた2人はたおれてしまい、2人を殺そうとノブナガは刀に炎を纏わながら振ろうとする……が、ノブナガが刀を振ろうとすると蒼い炎を刀に纏わせたガイが接近して敵の一撃を止める。
シオンとイクトを狙ったであろうノブナガの攻撃を止めたガイ。だがノブナガの刀を止めるガイは敵の力に押されていた。
「ぐっ……!!」
『ほぅ、我の刀を止めるか。
時代が時代なら我の家臣にしていたぞ』
「……織田信長に認められるのは光栄だが、ヒロムを狙ってるヤツの言葉と思うと素直に受け入れられねぇな」
『我の言葉を聞き入れぬか?
実に愚かな考えだ』
「なら死ね」
ノブナガの刀をガイが押さえ込んでいるとソラは紅蓮の炎を纏いながらノブナガの背後に現れて紅い拳銃・《ヒート・マグナム》を構える。構えた拳銃の狙いを定めるとソラは引き金を引いて炎をビームのように撃ち放ってノブナガを後ろから撃ち抜こうとする……が、ノブナガは全身から闇を強く放出させるとソラの攻撃を消滅させ、さらにガイとソラをその力で吹き飛ばして倒れさせてしまう。
「ぐぁっ!!」
「がっ!!」
『……背後からの攻撃、悪くない。
だが我を殺すにはそれでは足りない』
ノブナガは手に持つ刀に闇を纏わせるとその場で回転しながら一閃を放ち、放たれた一閃は闇を纏いし強い衝撃となってガイ、ソラ、シオン、イクトを襲って彼らを負傷させる。
「「ぁぁぁぁぁぁあ!!」」
『トドメを……』
「何楽しんでやがる?」
ガイたちを負傷させたノブナガが彼らを始末しようとするとヒロムは音も立てずにノブナガの前に現れ、ヒロムは首を鳴らすとノブナガの顔面を殴打して敵を殴り飛ばす。
『!?』
ヒロムの一撃を受けたノブナガは殴り飛ばされるもすぐに立ち上がり刀を強く握ると斬撃を飛ばしてヒロムを消そうとするが、ヒロムは白銀の稲妻を一点に集中させて撃ち放つとノブナガの一撃を相殺してしまう。
『貴様……?』
「オマエの狙いはオレだろ?
何寄り道してんだよ、ヘタレ魔王が」
『我に向けてのその言葉使い……死を持って償ってもらうぞ』
盛り上がってきたね、とリュクスはどこか楽しそうに言うとヒロムに向けて面白そうにある話をしてやる。
「姫神ヒロム、別世界のキミの全てを壊すように仕向けたのはオレだけど……キミの全てを壊したのはそこにいるノブナガだ。別世界のオレは同じようにノブナガを呼び寄せてキミを潰そうとした。その結果……」
「オレは絶望したってか?
それならちょうどいい」
ヒロムは首を鳴らすと白銀の稲妻を強く纏いながらノブナガを睨み、そして光を纏いながらその身に白銀のアーマーである《レディアント・アームズ》を纏っていく。両腕、脚部、肩部にアーマーを纏いしヒロムはノブナガを睨むと告げた。
「オレの世界のターニングポイントが目の前にあるならここでオレが終わらせてやる。絶望への道もその可能性の欠片も全てオレが壊してやる」




