71話 ソウルイーター
ナポレオンたちをヒロムが退け、リュクスのスキをつくようにシオンを起点としたソラ、イクト、シオンの3人の攻撃で致命傷を受けたはずのリュクスはまるで何も起きていないかのように平然とした様子で起き上がり、3人の攻撃による負傷もいつの間にか完全に消えていた。
「ありえない……」
手応えはあった、だからこそリュクスを倒せたとソラはもちろんイクトもシオンも確信していた。それなのにリュクスは彼らの思いを裏切るように立っている。
「……にしても驚いたよ。いくら演技とはいえ姫神ヒロム相手にオレが取り乱したことで後ろがガラ空きになってるところにバカ正直に奇襲仕掛けるような真似するなんてね」
「演技だと?」
「あれ?まさかだけど姫神ヒロム、オレがキミ如きの挑発受けたくらいで遅れをとるわけないだろ?あれはキミがオレを挑発したから狙いが他にあると分かったからわざとお上品さを無くしたフリをしてたのさ」
それに、とリュクスが指を鳴らすと地を割るように闇が吹き出し、吹き出た闇の中からヒロムが倒したはずのナポレオンと呂布が姿を現す。
「そいつらは……!!」
「倒したと思った?残念だけどキミのあの技が命中する瞬間にオレが低能な魂でダミーの精霊を生み出して咄嗟に入れ替えたのさ。オレの神経を逆撫でしようとしてあんな派手な技使ったのかは知らないけど、助かったよ。精霊使いとしての姫神ヒロムが持つ霊装が放てる技の1つを目にすることが出来たからね」
「最初からこの状況をつくるために演技をしてたのか……!!」
「途中からだけどね。ペインのいた世界のオレがその世界の女を殺したって話は本当だよ。別世界のオレが姫神ヒロムを殺したいがために強制契約した精霊に破壊工作をさせて女諸共何もかもを壊したってね」
「……ッ!!」
(ハッタリ……なんかじゃない。オレがペインと精神が繋がった時に見たユリナの遺体を抱えるペインになる前のアイツの前に現れた謎の集団、あの集団そのものが強制契約した精霊たちなら合点がいく)
「……オレがペインの話で動じないから作戦を変えたってことか」
「その通り。強がりかどうか試す必要があったし、キミが指示を出した時点で何か狙ってると思ったからオレもそれを利用したくなってね」
「利用したくなった?」
これだよ、とリュクスは手に持つ魔剣・《ソウルイーター》をヒロムに見せる。彼が持つ魔剣、その刀身にはソラとイクトが放った炎の一部と思われるものがついていた。
「ソラとイクトの……炎?」
「正確には黒川イクトの力だけが目当てなんだけどね。この魔剣、実は欠点があってね。魂をこの世界に呼び出すのはいいんだけどその過程で生み出す精霊のベーススペックは生前の肉体に依存されるんだ」
「ベーススペックってことはさっきみたく闇を与えて後付けで強くできるんだろ?それなのにイクトの力を必要としてるのは何故だ?」
「今言ったろ?ベーススペックは生前の肉体に依存されるって。生前の肉体情報はこのソウルイーターを介して何度試してもオレの手では書き換えが出来なくてね。生前の肉体という現実をオレの後付けという虚構では上書きできないらしいんだ」
「知るかよそんなこと。大体イクトの力を得たところでそんなの関係ねぇだろ」
「……だ大将」
リュクスの話を聞いたヒロムは呆れた様子で聞き流そうとしたが、何かに気づいたイクトは慌ててヒロムに向けて叫んだ。
「そいつの狙いはオレの《死獄》の力だ大将!!現実と虚構を統べる《死獄》の力で無理やり書き換えるつもりだ!!」
「なっ……!!」
「だとしたら……!!」
イクトの叫びによりリュクスの狙いを理解したヒロムおソラ、シオンは慌ててそれを阻止しようとリュクスに向かって走ろうとするが、3人が走ろうとするとリュクスは不敵な笑みを浮かべながら闇を纏う。
不敵な笑みを浮かべながら闇を纏うリュクスが魔剣に闇を纏わせると刀身についていたソラとイクトの攻撃の炎の一部の中から黒炎だけを抽出して取り込んでいく。黒炎を魔剣が取り込むとリュクスは闇を周囲に放出させて衝撃波を発生させて走ろうとするヒロムたちの動きを止め、リュクスは魔剣を手に先程新たに出した3本の魔力の柱へと歩み寄ってそれらを闇に染めていく。
「……お礼を言わせてもらうよ姫神ヒロム。
《センチネル・ガーディアン》としての責務を果たすべく逃げることなく立ち向かったその覚悟、それは紛れもない戦う覚悟を決めた戦士そのものだ。だがその覚悟がオレの力を高めてくれた!!《世界王府》の魔の手を前にしてキミは敵に力を与えるような愚かな真似をしたんだ!!」
「そんな……」
「オレの言葉を真に受けて情けない姿晒して倒れてればよかったのに……本当にキミは哀れだ。精霊使いとしてはキミが上?そんなこと知るかよ。精霊使いとか関係なく人の心を掌握して利用した方が上なんだよ」
「テメェ!!」
リュクスの言葉にヒロムは感情を爆発させるように白銀の稲妻を強くさせながら走り出し、加速しながらリュクスに接近して彼を倒そうとする……が、そんなヒロムの邪魔をするようにナポレオンと呂布が立ちはだかり、彼に向けて攻撃を放つ。
ナポレオンと呂布の攻撃をヒロムは白銀の稲妻による一撃で防ぐが、2体の攻撃の力によるものなのか強い衝撃波がヒロムを襲い、衝撃波に襲われたヒロムは勢いよく吹き飛ばされてしまう。
「がはっ!!」
「ヒロム!!」
「ハハハハハハ!!まさかさっきのがこの2体の全力とでも思ったのか?残念だけどあれはオレがそう思わせるためにリミッターをかけた状態。今のこの2体の攻撃こそが本来の力なのさ」
「この……!!」
吹き飛ばされたヒロムはリュクスが笑う中で立ち上がると白銀の稲妻を強く纏って構えるが、ヒロムが構えると同時に3本の魔力の柱が闇に染まりながら動きを見せる。
3本の魔力の柱、それらは闇に染まると1つになるかのように集まり、集まると同化して1つの大きな柱になろうとする。
「どういう事だ……!?」
(3本の魔力の柱で3体呼ぶんじゃなかったのか!?
1体につき1本、そう思って……)
「まさか……!?」
「ハハハハハハハ!!
本当に愚かだよキミは!!そう、ソウルイーターの力で強制契約するのに出現させるこの柱1本で1体なんてルールはないよ。
この柱は魔力で出来ているがこれ自体がこの世界に呼び寄せた魂なんだ」
「魂……?その柱が?
なら何で魂であるはずのその柱が1つになったんだ?」
「簡単な話だよ。魂の柱が1つに収まらないほどにベーススペックの高い力を持っているということだよ」
「収まらない……!?」
「そう、生前の肉体が強力すぎると1つの柱に収めようとした時に収まらずに消えてしまうこともある。1本に収めるのは単に強制契約が楽だから、数が増えれば増えるだけ強制契約をする際に抵抗されるんだよ」
「そのために……生前の肉体という現実を書き換えた上で強制契約そのものを確実に行うためにイクトの力を……!!」
「そうだよ。3本の柱ともなると時間がかかると思ってなかなか手が出せなかったけど、キミが上手くオレの計画という盤上の上で動いてくれたおかげで成功したよ」
「クソ野郎が……!!」
「さて、お礼代わりに見せてあげるよ。オレがキミたちを利用して得た力でしか強制契約出来ない最高の精霊を!!」
リュクスが声高々に叫ぶと1つとなった大きな柱が闇を放出しながら雷を帯びていく。雷を帯びていく柱はさらに周囲を炎で包み、炎が広がる中でリュクスは言葉を発していく。
「天上天下唯我独尊、その名を体現せし時代の覇者よ。
戦国乱世を駆け抜けたその魂、この地を地獄に変えるべくここに来たれ。
破壊をもたらすその力、その力で名を体現せし王ここに来たれ!!」
リュクスが叫ぶと大きな柱は闇を一気に解き放つと砕け散る。砕け散った柱の中より雷と炎が溢れ出し、その中心で何かが姿を現す。
西洋鎧のような漆黒の鎧に身を包みし武将と思われる男。全身から闇が溢れ出ており、体は所々雷や炎が発せられている。
刀を手に持ちただ立っているその姿からは凄まじい力を感じるほどの圧があり、その圧を前にしてヒロムたちは威圧されているとリュクスは現れた男の名を高らかに叫んだ。
「君臨せよ第六天魔王!!《魔王》ノブナガ!!」
「ノブナガ……だと!?」
リュクスが《強制契約》で呼び出した新たな精霊、その名がノブナガだと知ったヒロムたちは驚愕してしまう。ノブナガ、その名に間違いがないならその正体は……




