70話 未来を掴む手
「未来を掴む……?」
ナポレオンたちを返り討ちにして優位に立つヒロムの口にした言葉を聞いたリュクスは耳を疑うかのように聞き返すと続けてヒロムを睨みながら冷たく言った。
「ふざけるのも大概にしろよ。こんなクソみたいにくだらない世界にある未来なんて破滅しかない。そんな未来を掴む?笑わせるなよ……希望なんて安い言葉で他人を惑わすだけのキミの言葉に何の価値がある?」
「価値なんて知らねぇ。でもオレはオマエを倒すという未来を掴むために戦うだけだ」
「オレを倒す?不可能だよ、そんなのは。
天と地の逆転や太陽と月、昼と夜を逆転させるってくらいに不可能な話だ」
「やってみなきゃ分かんねぇだろ」
「やる前から分かりきってんだよ……そんなことは。キミじゃオレには勝てない!!精霊に頼るしかないオマエにはオレは倒せないんだよ!!」
リュクスが強く叫ぶと彼の持つ魔剣が闇を放出し、ナポレオンたちは立ち上がると全身に闇を強く纏っていく。その様子を前にしてヒロムはリュクスが自身を潰すために力を与えたと考え、その一方でヒロムは首を鳴らすとリュクスに言った。
「その魔剣で好きな偉人やらの魂をこの世界に呼び戻せるなら次の用意を済ませとけよ。すぐにコイツらを消してオマエを殺すからな」
「そういう偉そうなことはやってから言え……!!
オマエじゃコイツらには勝てねぇんだよ!!」
ヒロムの言葉を否定するかのようにリュクスが叫ぶとナポレオンと呂布が先陣を切るべく走ってヒロムに迫り、接近すると同時にヒロムに攻撃を仕掛ける。だがヒロムは焦ることも無く落ち着きを見せながら軽い身のこなしで躱し、2体の攻撃を避けたヒロムは左手首の白銀のブレスレットを紫色に光らせると紫色の刀を装備して2体を斬っていく。
ヒロムの攻撃は命中した、だがナポレオンと呂布は倒れない。それどころか斬られたことにより生じる傷が消えてしまう。
「……再生能力か。いや、亡霊故のゾンビ体質か?」
ダメージを与えたはずなのに無かったことにされた、その事に焦る様子もなくヒロムは淡々と分析しようとするが、そんなヒロムの背後へと音も立てずにサルトビが姿を現すと忍者刀でヒロムを刺そうとする。
しかし……サルトビの接近を分かっていたのかヒロムは白銀の稲妻を背中から強く放出させると無数の刃のようにしてサルトビを襲わせ、白銀の稲妻が放たれるも反応出来なかったサルトビは無数の刃のように放たれた白銀の稲妻を全身に全て受けてしまう。
「忍者が背後から奇襲仕掛けるなんてのは簡単に予測できる」
無数の刃のように放たれた白銀の稲妻に貫かれたサルトビの動きが止まるとヒロムは手に持つ刀に紫色の稲妻を纏わせて斬撃を放ち、放たれた斬撃はサルトビを両断してしまう。
ヒロムの放った斬撃に体を真っ二つに両断されたサルトビは倒れ、倒れたサルトビは炎のようなものに焼かれるように消えてしまう。
「……まずは1体」
サルトビを倒したヒロムは刀を地に突き刺すと稲妻に変えて消し、次の敵を倒そうとする……が、そんなヒロムを殺そうとリッパーが迫り来る。リッパーが迫り来る、それでもヒロムは焦らない。
「……セレクトライズ、《グレイシャー》」
ヒロムが呟くと彼の右手の白銀のブレスレットが青く光り、青く光るとヒロムの右手は冷気を帯びていく。何か起こる、それを本能で察知したのかリッパーは手に持つ武器をでヒロムが動く前に仕掛けようとするがそんなリッパーの思考よりも早くヒロムは動くと右手の拳でリッパーの腹を殴り、ヒロムの拳が腹に叩き込まれると彼の手が帯びていた冷気がリッパーの体を包み込んで敵を氷の彫像へと変えてしまう。
瞬間凍結、そう呼ぶのが早いだろう。氷の彫像へと変えられたリッパーを前にしてヒロムは左手の白銀のブレスレットを薄紫色に光らせると薄紫色の稲妻を左手に纏わせた上でそれを龍へと変化させる。
「セレクトライズ……《リベリオン》」
龍へと変化させた薄紫色の稲妻をヒロムは氷の彫像へと変えられたリッパーへ叩き込み、薄紫色の稲妻の龍が叩き込まれたリッパーは粉々に粉砕されてしまう。
2体目、サルトビに続いてヒロムはリッパーをも倒した。
「バカな……!!ソウルイーターの力でステータスは高くなってるはずだ。それなのに何故……能力のない精霊に頼るしかないヤツに倒されるんだ!!」
「知るか。その程度でオレを倒せる、オマエが勝手にそう思い込んだからそうなったんだろうが」
「そんなわけないだろ!!」
ヒロムの言葉を否定するかのようにリュクスは魔剣に闇を強く纏わせるとそれを斬撃とともにヒロムに向けて飛ばすが、ヒロムは白銀の稲妻を前面に集めると盾のようにしてリュクスの攻撃を相殺してしまう。
「オマエ……!!」
「さっきから言葉がどんどん汚くなってるぞ。上辺だけのお上品さが剥がれてきたか?」
「……ナポレオン、呂布!!
そいつを殺せ!!」
無理だな、とヒロムは頭上に白銀の稲妻を集中させるとそれを巨大な球体に変化させるとともに乱回転させ、乱回転する球体状の白銀の稲妻の上へと一瞬で移動するとヒロムはそれを左右の足で交互で蹴りながら回転を激しくさせていく。
「……エボリューション・ドロップ!!」
球体状の白銀の稲妻の乱回転が激しさを増すとヒロムは両足でそれを蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた白銀の稲妻の玉は激しさを増す回転の力によって数倍に膨れ上がりながらナポレオンと呂布に襲いかかる。
ナポレオンと呂布に迫る白銀の稲妻の玉。激しく乱回転しながらそのサイズ感を肥大化させるそれは力をさらに高めながらナポレオンと呂布に襲いかかると敵が防御する間も与えることなく稲妻を炸裂させて爆撃となり、乱回転から生じるエネルギーで爆撃の威力を高めながらナポレオンと呂布の全身を一瞬で消し飛ばしてしまう。
2体同時に消し去り、ヒロムはこれで4体のリュクスの呼び出した精霊を倒した。ヒロムにナポレオンたち4体を倒されたリュクスは魔剣を強く握ると新たな精霊を呼び出そうと自身の前に3本の魔力の柱を出現させる。が、その時だった。
轟音が鳴り響き、その音の正体を探ろうとリュクスが音のした方に視線を向ける。音のした方には何も無い。あるのは焼き焦げた地面とユリナを守ろうとするガイとナギトの姿だけ。それだけだ。
いや、違う。それだけではない。『それだけ』とリュクスは感じると共にそこに違和感を覚えて即座にその違和感の正体に気づくが、リュクスが気づいたその瞬間に彼の背後にシオンが現れ、シオンと同時に現れたソラとイクトはそれぞれ紅蓮の炎と黒炎を纏って一撃を放とうとしていた。
「しまっ……」
「「くらいやがれ、リュクス!!」」
リュクスが気づくよりも先にソラとイクトは同時に炎を放ち、さらにシオンもそれに続くように雷を槍にして撃ち放つ。3人の攻撃、それを防ぐ間もなく身に受けてしまうしかないリュクスは3人の攻撃を受けるとその攻撃とともに吹き飛ばされ、2色の炎と雷に体を焼かれながら倒れてしまう。
倒れたリュクス、敵が立ち上がらないかをソラたちは警戒し、ヒロムも白銀の稲妻を纏ったまま様子を見ようと……したが、ヒロムは様子見をすることなく結果を理解してしまう。
「ダメだ!!殺せてない!!
魔力の柱が消えてない!!」
「!!」
ヒロムの言葉を受けてソラたちが視線を向けると先程リュクスが新たな精霊を呼び出そうとして出した3本の魔力の柱がまだ存在しているのを目にしてしまう。
「なっ……」
「手応えはあったのに、何で……」
「……言っただろ、殺せてないってさ」
殺した、そう思っていたソラとイクトが動揺していると倒れていたリュクスは立ち上がり、2色の炎と雷により負傷したはずのリュクスの体はまるで何も無かったかのようにその傷を消していく。
「なっ……再生能力!?」
「どういう事だ……!!」
「バカな……。コイツは魔人と何の関係もない人間のはずだ」
「……せっかく教えてあげたのに。キミたちじゃオレは殺せないってね」




