68話 妖しく笑む
《世界王府》のリュクスを倒すべくヒロムたちは敵に立ち向かおうとしたが、そんな彼らの前に突如として2本の魔力の柱が現れる。
何かある、そう感じたヒロムたちは足を止めて警戒し、ヒロムたちが警戒しているとリュクスは意外そうな反応を見せる。
「驚いた。まさか1度足を止めるなんて英断が出来るなんてね。
少しキミたちを見くびっていたよ」
「……敵に褒められても嬉しかねぇよ」
「だろうね。だから代わりに教えてあげるよ」
「何をだ?ペインの倒し方か?オマエらを滅ぼす方法か?」
「いいや、姫神ヒロム。キミに関してだよ」
「オレに関してだと?」
「キミは今、自分だけが特別だと思っていないか?
精霊を14体宿す、その人智を超える事を成し遂げているのは自分だけだと思ってるだろ」
「……何が言いたい?」
「いやいや、簡単に言うとさ……その程度で自分のことを特別視するなんてちっぽけだと思ってさ。その程度のことで優れてるなんて思わないでもらいたいよ」
「勝手に言ってろ。オレは別にそんなこと思ってねぇよ」
「そうか。なら……驚くなよ?」
ヒロムの言葉を受けたリュクスは何かを企むような笑みを見せると右手に闇を集め、集めた闇に形を与えていく。形を与えられた闇は髑髏を彷彿とさせる意匠の鍔を持つ黒い剣へと変化する。変化して現れたその剣を手に持つとリュクスは軽く一振すると2本の魔力の柱に何かを注ぐ。
何かを注がれた魔力の柱は闇に染まっていき、魔力の柱が闇に染まる中でリュクスは何かを唱えるように言葉を発していく。
「大地を制覇せし皇帝よ、希望に染まらんとする大地を踏み潰し、今恐怖の中へと突き落とせ。
疾風駆ける隼の化身よ、平和という幻想に囚われた愚かな世界を駆け抜けて全てを滅せよ」
何かを唱えるように言葉を発していくリュクス。そのリュクスの発していく言葉を耳にしたガイは驚きを隠せずヒロムの方を見て彼に確かめるように言ってしまう。
「ヒロム、アレはまさか……」
「アイツ、まさか……精霊を契約しようとしてるのか!!」
「それならさっさと止めるぞ!!」
リュクスが口にしている言葉から彼が精霊を今この場で契約しようとしているのを察知したヒロムの言葉に続くようにソラは言うとシオンと共にそれを阻止しようと走ろうとした……が、2人が走ろうとすると闇に染まる魔力の柱が強い衝撃を発してそれを阻止してしまう。
「「!!」」
「……手遅れなんだよ。何もかもがな」
「くっ……」
「野郎……!!」
「だがオマエがここでどんな精霊を契約しようがそれはただの運ゲーでしかない無謀な行為だ。オレの精霊どころかオレたちの力に勝る精霊を契約出来なければオマエは……」
「姫神ヒロム、何勘違いしてんのさ?」
「勘違いだと?」
「たしかにこの行為は精霊の契約だ。だがしかし、オレはいつネットゲームのガチャのような運任せなことをすると言った?」
「何言って……まさか、自らが望んだ精霊を契約出来るとでも言うのか!?」
「言い方が少し異なるな。オレは望んだ精霊を契約するわけじゃない。オレの場合……オレの望んだ魂を手中に収めるんだよ」
「魂を……?」
「その目で見ろ……強制契約!!
蹂躙しろ《皇帝》ナポレオン!!走れ《忍風》サルトビ!!」
リュクスは手に持つ剣を振って闇に染まる魔力の柱を破壊する。破壊された2本の柱、片方からは黒い軍服にマントを纏った仮面をつけた戦士が剣を持って現れ、一方からは絵に書いたような忍者の装いの上にマフラーを巻いた仮面の男が忍者刀を手に持って現れる。
ナポレオン、サルトビ。その名を聞いたヒロムはリュクスが何をしたのかを誰よりも早く理解したと同時にリュクスの言う魂を手中に収めるという意味をも把握してしまう。そして、彼の口にした《強制契約》という言葉すら彼は自身の中の知識から答えを出してしまう。
「オマエは……死者の魂を弄んでるのか!!」
「へぇ、さすがは精霊の王とも呼ばれている覇王だな。初めて会った時に比べたら少しは成長してるじゃないか」
「ヒロム、ヤツは何を……」
「アイツは何らかの方法で死者の魂をこの世界に呼び戻してその魂の意志すら無視して無理やり精霊に変化させて有無を言わさない人形のようにして強制的に従えてるんだよ」
「なっ……」
「魂をこの世界に!?」
素晴らしい、とリュクスはヒロムの話を聞くなり褒めるかのように嬉しそうに拍手をすると指を鳴らし、リュクスが指を鳴らすと新たに2本の魔力の柱が現れる。
「……数多の伝説を残せし英雄よ、絶望背負いてこの世に降りよ。
人の生を狩りし殺意の権化よ、終わりを告げる刃で希望を絶て」
「まさか、他に……」
「強制契約!!
現れ出ろ《英雄》ヘラクレス!!殺せ《殺刃》リッパー!!」
新たに現れた2本の柱を闇に染めるとリュクスは剣を振って破壊し、柱が破壊されると半壊した鎧を纏いし戦士と黒衣に身を包みし短剣を持った者が現れる。
リュクスが出現させた得体の知れぬ4体の存在。《強制契約》により姿を現した4体の存在を前にしてヒロムたちは武器を構え、ヒロムたちが構えるとリュクスは何が面白いのか急に笑い始めた。
「フフフ……おかしいよね、キミたち。
キミたちの前に立つのはかつて世界でその存在を主張して後世に名を残せしものたちだ。そんな彼らをオレの力でこの世界に呼び戻したわけだが……まさかキミたちが倒せるような相手だと思ってるのか?」
「オマエの言う強制契約ってのでそいつらがどうなったかは知らねぇ。けどオマエを倒せばそいつらを止められるならまず狙うは……」
「それが出来るならの話だろ?」
ヒロムの言葉を遮るように言うとリュクスは指を鳴らし、彼が指を鳴らすと闇を纏いながら彼の前に何かが現れる。鬼の面を付け甲冑を纏いし赤い髪の武将を思わせる存在、それは2本の槍を両手に持っていた。5人目、そう考えたヒロムは警戒心を強めて白銀の稲妻を強く纏い、ヒロムが警戒する中リュクスは彼やイクトたちに話していく。
「紹介しよう。彼の名は呂布、キミたちもよく知る武将だよ」
「呂布だと……!?」
「ナポレオンに呂布、ヘラクレス、サルトビってのがあの猿飛佐助だとしてリッパーは……」
「殺すって言い方とリッパーって呼び方から考えるならジャックザリッパーだよな、多分」
「オマエ……命を弄ぶのがそんなに楽しいのか!!」
「叫ぶなよ姫神ヒロム。これは仕方の無いことだろ。
今の世界を壊してやり直す、そのためにはこれくらい許されて当然なのさ」
「神にでもなったつもりか!!」
「神なんかになったつもりはない。オレは世界を変えるための救世主になるのさ。そのために魂をこの世界に呼び戻す魔剣の力と今の世界を生む元凶となった愚かな先人たちに責任を取らせる必要がある」
「歪んでるんだよ……その思想が!!」
「オレはそういう人間だ。そのオレに固執したからオマエは女を救えずに絶望するのさ」
「女を救えずに……?」
リュクスの言ってることが分からない、ヒロムが戸惑いを隠せずにいるとリュクスはどこか嬉しそうに彼に衝撃の内容を告げた。
「ペインとなった別世界の姫神ヒロム、その別世界の姫神ヒロムが守りたくても守れなかった女を殺したのは……その世界で悪として名を馳せていたオレなんだよ」
「!?」
「ペインからこの話を聞かされた時は驚いたけど、オレは自然と受け入れられた。だってオマエのその姿を見てたらオマエの大切なものを奪いたくなるのは当然だもんな」
「オマエがユリナを……?」
「さて、別世界の自分の結末の中身を知れたなら感謝してくれ。その上で……死ね」
リュクスが指を鳴らすと彼が《強制契約》で呼び寄せた5体の存在……精霊となったナポレオンたちが動き出す。リュクスの口から別世界のユリナの死について聞かされたヒロムは……




