64話 心の乱れ、心の光
ペインの正体とペインと対峙したことで見せられたユリナが死ぬという謎のヴィジョンを目の当たりにして精神が不安定になったヒロムはナギトとともに姫城学園に登校、少し遅れる形でゼロからペインのことを聞かされたガイとソラは登校した。
イクトとシオンについては別の場所でそれぞれが現れたクリーチャーを倒していたらしく、その際にシオンやさがユリナを保護して学校へと連れてきた。
そしてシオンがユリナを連れてきたことでヒロムの今の精神状態の不安定さが垣間見えた。
ユリナの姿を見たヒロムは必要以上に彼女に怪我などがないかを確認し、そしてユリナから離れようとしない。ユリナがどこかに行こうとすると何か起こると落ち着かない様子で彼女に同行しようとする。まるでユリナがいなければ不安になって何も出来ないかのようなほどに彼女から離れようとしない。
そんな彼を見兼ねたソラは昼休み、彼をユリナとともに屋上へと呼んだ。ガイ、ナギト、イクト、シオンが見守る中ソラは舌打ちをするとヒロムに冷たく言った。
「……何のつもりだヒロム。さっきから何かある度にユリナから離れようとしない、見てて鬱陶しいんだよ」
「……仕方ないだろ。ユリナに何かあったらオレは……」
「何かあったら何だ?オマエがユリナにひっつき回る理由にもならねぇだろ。《センチネル・ガーディアン》って立場にありながら1人の人間に固執してんじゃねぇよ」
「ユリナは能力を持たない非能力者なんだぞ。そんなユリナが《世界王府》の手下なんかに襲われたら……」
「バカか?こうしてる間もどこかで《世界王府》は暗躍して犠牲者は出ている。ユリナ1人が犠牲になる云々のレベルじゃねぇだろ」
「オマエ……!!」
「何だ?文句あんのか?文句あんなら来いよ。今のオマエにオレが負ける気しねぇんだよ」
待って、とヒロムを刺激して戦闘に持ち込もうとするソラを止めるようにユリナは言うとヒロムの隣からソラに言った。
「ソラもペインって人の話を聞いたでしょ。ヒロムくんはその人の記憶を見たせいで今は少し不安になってるだけ。少し時間が経てばヒロムくんも元に……」
「その間に《世界王府》の刺客が来たらどうする?一時の不安で戦えないから帰ってもらおうってか?」
「そうじゃないよ。そこは皆で……」
「敵は世界転覆を謀るテロリスト共だ。ビーストはノアルから奪った力を取り込んでクリーチャーを生み出す力を高めている。ただでさえ厄介なヤツに新しく現れたペインの相手もしなきゃならない。世間は《センチネル・ガーディアン》のヒロムを頼る、そんな中でその無様な姿を晒させるのか?」
「それは……」
「現状ヤツらをどうにか出来る可能性を秘めてる能力者の1人がヒロムだ。オマエはそのヒロムを甘やかして何もさせないつもりか?」
「わ、私は……」
もういい、とソラはユリナが言おうとする言葉を遮るように言うと紅い炎を全身に纏い、さらに両腕を紅い炎に包ませると《炎魔劫拳》を発動させる。両腕を強化した状態となったソラはヒロムを睨みながらイクトに指示を出す。
「イクト、幻術空間をつくれ」
「え、ここで?」
「出来れば広い空間がいい。それと……ヒロムの邪魔にしかならないユリナを隔離する檻もだ」
「ソラ!!いくら何でも……」
「黙ってろガイ。コイツに理解させる必要があるからそうするんだよ」
「……ッ」
「……イクト、やれ」
「……わかった」
ソラを止めようとするガイを言葉で一蹴するとソラはイクトに指示を出し、指示を受けたイクトはどこか申し訳なさそうに返事をすると魔力を周囲に放出する。放出された魔力は屋上を覆うように広がり、屋上が魔力に覆われると景色は一変してヒロムたちは河川敷のような場所にいた。
さらに……景色が変わるとともにユリナが鋼鉄の檻に閉じ込められ、閉じ込められたユリナは鋼鉄の檻ごと空高い場所に浮遊させられる。
「ユリナ!!」
「助けたいなら構えろ。その性根を叩き直してやるよ」
「ソラ……どうしてだ!!
オレはただユリナを……」
「それが鬱陶しいんだよ。ユリナ、ユリナ、ユリナ……散々ユリナのことを気にかけるでもなくそばにいるのが当たり前に思ってたオマエがペインに出会ってから掌返して守るだの巻き込みたくないだの……うんざりだ。そんなに大事なら最初からそうしてろって話なんだよ」
「そんなこと……」
「言われなくてもわかってるってか?言われなきゃ理解しようとすらしなかったのはオマエだろ。そのオマエが今更何を偉そうに言ってやがる」
「何が言いたいんだよ……ソラ!!」
「言って欲しいなら言ってやるよ。オマエがそんなんだから別の世界のユリナが殺されたんだろうが!!」
「オマエ!!」
ソラの言葉にヒロムは感情を抑えられず、白銀の稲妻を纏いながら走り出すとソラを殴ろうとするがソラはヒロムの拳撃を簡単に躱すと腹に蹴りを見舞う。
「!!」
「感情に身を任せてオレに勝てんのかよ。オマエのお得意の《流動術》は雑念があったら機能しないって忘れたのか?」
「この……」
蹴りを受けたヒロムは白銀の稲妻を強くさせながら連撃を放つもソラに簡単に躱されてしまい、連撃を避けたソラは舌打ちをすると右の拳でヒロムを殴る。素手ではない。炎の魔人の力を纏いし《炎魔劫拳》を発動させている拳だ。その一撃は重く、それを受けたヒロムは殴り飛ばされて地に伏してしまう。
地に伏してしまったヒロムは何とかして起き上がると構えようとするが、ソラはそんなヒロムに構える余地など与えようとせずに接近すると連続で蹴りを食らわせていく。
「ぐっ……」
「どうした?ビーストと互角に戦い、ペインに一撃食らわせたんだろ。とっととその力をオレに見せてみろよ」
「そうかよ……なら、見せてやるよ。
……力を貸せ、《レディアント》!!」
ソラの挑発にも似た言葉を受けたヒロムは彼の望み通りに事を運んでやろうと両手首の白銀のブレスレットの霊装・《レディアント》の力を解き放とうとした。が、ヒロムの言葉など聞こえていないのか白銀のブレスレットはなんの反応も見せなかった。
「何で……何で……」
「スキだらけだ!!」
何も起きない、その事に動揺を隠せないヒロムがもう一度試そうとするとソラはヒロムを殴り、そこから止まることなく連続でヒロムを殴るとヒロムを追い詰めていく。
追い詰められるヒロムは殴られたことでひどく負傷し、負傷して徐々に戦意を削がれるヒロムを前にしてソラは回し蹴りを放ってヒロムを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたヒロムは地を転がるように倒れ、倒れたヒロムの名を鋼鉄の檻の中からユリナは何度も叫んだ。
「ヒロムくん!!ヒロムくん!!」
「聞こえてんだろヒロム。オマエが必死に守りたい女がオマエの名前を叫んでるぞ」
「ソラ!!お願いだからもうやめて!!ヒロムくんを……これ以上ヒロムくんを……攻撃しないで!!」
「黙ってそこで見てろユリナ。今のままじゃコイツは《世界王府》どころかその辺のテロリストにも勝てない。そんなヤツにオマエを任せられるわけないだろ」
「だからってこんなの……」
ないよね、と見守っていたナギトはユリナの気持ちに賛同するように一言呟くと前に出る。急なナギトの行動に驚くガイ、イクト、シオンだったがソラは何も動じていない。むしろ何をするのかソラは見ようとしている。
ソラの視線が向けられるそんな中でナギトは深呼吸をすると倒れるヒロムに向けて言った。
「立てよ姫神ヒロム。アンタはここで終わるような人間じゃないだろ」
「ナギト……?」
「立ってくれ。オレが……オレが憧れを抱いた姫神ヒロムならこんなところで終わらないだろ」
「……オマエが……オレに……?」
「見せてよ、覇王の力を。誰もが認めてアンタに従うと決意させるその素質を」




