63話 不完全の中の完全
「炎魔解放……!!」
ソラがその言葉を声に出すとソラを包む紅い炎はさらに強くなり、ソラの身の丈の数倍にまで大きく燃え上がった炎を前にしてビーストは笑みを浮かべる。
「愚か、愚か……実に愚かだ。
その炎をどれだけ燃やそうとオレには通用しないというのに無駄な努力を重ねるその愚かさ、まさに不完全な人間がやる所業に相応しい」
「笑ってろよ、今のうちに」
「何?」
「オマエが自分大好きの他人見下しな最低な性格してるってのはよく分かった。だからその腐った性根ごとオレが全て焼き消してやるから消される前に好きなだけ笑ってろ」
「オマエ、好き勝手に……」
「四の五の言わずにオマエの吠え面を拝ませろ!!」
紅い炎が突然炸裂して四方八方に飛散し、紅い炎が飛び散る中でその中からソラが姿を現し、姿を現したソラは両腕が炎に包まれながら歩を進める。
一歩ずつ歩を進めるソラの両腕を包む炎は次第にソラの両腕と一体化し、炎と一体化したソラの両腕は前腕が鉱石のような紅い甲殻のようなものに覆われ、両手は人とは思えぬほどに鋭い爪を有したものへと変化していく。
変化した両腕、それを身に持つソラは首を鳴らすとビーストを睨み、ソラの変化した両腕を目の当たりにしたビーストはどこか機嫌が悪そうな顔で睨み返す。
「オマエ……それは何の真似だ?」
「何の真似もクソもない。これがオレが宿す炎の魔人の力を解放した姿……その力を両腕に集めた超攻撃型変化・炎魔劫拳だ。1年前にオレの中の魔人の力を制御しようとして考案した力と体の一体化を図った変化の力だが、ノアルと出会ったことで魔人の力の制御の仕方を改めて理解したことでオレの力を高めることに特化させたガントレット型の武装ってところだ」
「武装だと?どう見てもそれはオマエの腕と同化してるように見えるんだが?」
「細かいことを気にするなよ。そんなんだから精霊の力を借りるヒロムに力負けして見下してたノアルにも負けんだよ」
「あ……?」
「事実を言われてムカついたか?ならもっとムカつけよ。どうせ見下してる人間に手も足も出ないオマエが今更怒ろうが何しようが関係ねぇんだからな!!」
「脆弱な人間風情が偉そうに語るな!!」
ソラの言葉にビーストが怒りを抑えきれずに爆発させて闇を強く放出し、そしてビーストはその怒りをぶつけるようにソラへと狙いを定めて右手をかざすと放出した闇の一部を収束させて撃ち放とう……とするが、ビーストが闇を収束させて撃ち放とうとしたその瞬間に紅い炎を身に纏ったソラは敵との距離を詰めて拳の一撃を収束されていく闇に向けて放ち、ソラの放った一撃が闇を焼き消してしまう。
「なっ……」
「偉そうに語るな?
ならいちいち驚いてんじゃねぇぞゴラ!!」
闇をたったの一撃で消されたビーストが驚いているとソラは右腕へ力を溜めて敵を殴り、さらに左腕に炎を纏わせるとビーストの腹を強く殴ると同時に纏わせた炎を炸裂させて敵を吹き飛ばす。
「がぁっ!!」
「まだ終わらねぇ!!」
炸裂した炎によってビーストが吹き飛ばされるとソラは紅い炎を強く纏いながら走り出し、走り出したソラは全身を炎へ変えると一瞬で吹き飛ばされているビーストの飛ばされる先へと回り込むと敵を地に叩きつけるように殴る。
回り込まれた上に攻撃を叩き込まれたビーストは地に倒れるが、ビーストは両腕を《魔人》の力で黒く染めて爪を鋭くさせると即座に起き上がってソラに一撃を入れようとする。だがソラはビーストのその一撃を右腕で弾くと蹴りを食らわせ、さらにソラは両腕に紅い炎を強く纏わせるとビーストの体に連撃を叩き込んで敵を追い詰めていく。
「オラオラオラァ!!」
「こ、この力……!!」
「どうした?さっさと見せてみろよ……オマエの言う真の魔人とやらの力をよ!!」
ソラはビーストの頭を掴むとそのまま数度腹を殴打し、ビーストが怯むと蹴り飛ばして紅い炎を一点に収束させていく。
何かが来る、それを悟ったビーストは闇を周囲に放出するとその闇を媒体にクリーチャーを生み出そうとした。
「クリーチャーよ、オレを守……」
「失せろ!!」
ソラの放とうとする一撃からビーストは自らの身を守るべくクリーチャーを数体生み出して盾にしようとしたが、ソラが一言叫ぶと熱波が放たれ、放たれた熱波を身に受けたクリーチャーは消し炭となって消滅してしまう。
「何!?」
「そんな雑魚でオレを止められると思ったのか?
今のオレの心は滾ってる……迸るこの炎の熱さをその程度で止められると思うな!!」
ソラは一点に収束させた紅い炎のその全てを右腕へと纏わせると同時に右の拳をビーストの方へ突き出し、突き出された拳から超高温の紅い炎がビームとして放たれる。
「バハムート・バスター!!」
ソラの放った紅い炎のビームはビーストに向かっていき、ソラの攻撃が迫る中ビーストは回避が間に合わないと判断したらしく全身を《魔人》の力で黒く染めると鬼人へと変化し、闇を強く纏うと炎のビームを受け止めようと両腕を前に出して止める。
が、ビーストのその判断は甘かった。ソラの放った紅い炎のビームを止めた両腕は炎に触れると瞬く間に炎に焼かれ、両腕だけでなくビーストの全身も炎の熱に襲われて焼けていく。
「バカな……たかが人間の炎に……半端な魔人の力しか宿していないこんな人間に……」
「爆ぜろ!!」
ソラの攻撃にビーストが追い詰められる中ソラは強く叫び、ソラが叫ぶと紅い炎のビームはビーストを巻き込むように炸裂・爆発を起こしながら爆炎となって巨大な炎の柱となって天へと上がっていく。
あまりにも強いその力は周囲に力の余波たる衝撃を走らせ、その衝撃により周囲に被害が及ぶ中ガイとノアルは吹き飛ばされぬように耐えていた。
「これが今のソラの……!!」
「なんて力だ……!!」
(感じる、だから分かる。今ソラの中にある炎の魔人の力はオレやビーストの中にある魔人の力とは比較できないほど強いものとなっている。後天的に発言したとされるソラの中の力、それはもはや純粋な魔人に……)
「やりすぎだな」
ソラの力を見てノアルが感心していると炎の柱の中から声がし、その声がすると空間の一部が歪みながら炎が全て消されてしまう。
紅い炎の全てが消えるとビーストが火傷を負った状態で座り込んでおり、そのビーストの前には少し前にヒロムたちに素顔を晒したペインが立っていた。
「なっ……」
「あれは……見間違いではなかったのか」
ペインの素顔、それを前にしてガイとノアルは驚きを隠せぬ様子だったが、ソラだけはペインの顔を見ると《炎魔劫拳》を発動させている両腕に炎を纏わせて構える。
「オマエがペインか。話に聞いてはいたがまさかヒロムそっくりだとはな」
「……そのそっくりだという顔を前にして平然としてられるのは意外だな。オレの顔が気にならないのか?」
「はっ、知ったこっちゃねぇよ。大方、ヒロムはそれ見て動揺したか何かの反応をしたんだろ?ならそれで終わりだ。オレのやることは目の前のことに囚われることじゃない。ヒロムの敵を……ヒロムの道を邪魔するヤツを消すことがオレの使命だからな!!」
ペインの正体など関係ない、ソラはそう言わんばかりの強い言葉を発すると走り出し、走り出したソラは炎を纏わせた腕による一撃を放ってペインを倒そうとする……が、ペインは左目を妖しく光らせると右腕に黒炎を纏わせてソラの一撃を弾き返してしまう。
「コイツ……!!」
「……この世界は他と違ってイレギュラーが多いな。
まさか炎の魔人の力がそこまで目醒めているとは思わなかった」
「この世界?オマエ、何言って……」
「知りたいなら姫神ヒロムにでも聞け。もっとも……ヤツの精神がまともならの話だがな」
この世界、何を指しての言葉なのかソラが気にしているとペインは空間の一部を歪ませるとビーストとともにその中へと消えてしまう。
敵が消えるとソラは舌打ちをしながら《炎魔劫拳》を解除し、どこか不完全燃焼な気持ちを抱きながらもガイとノアルに話しかける。
「……ヒロムのとこに向かうよな?」
「当然。オレとソラはヒロムのところに向かうさ」
「ヒロムのことは2人に任せる。オレは彩蓮学園に行ってエレナたちの無事を確かめる」
「頼むぞ。
ペイン……ヒロムそっくりのあの野郎が何者かハッキリさせてやる」
ならちょうどいい、と今後について話していたソラたちのもとへゼロが真助とともに現われ、現れたゼロは3人にペインについて話そうとする。
「ヒロムの精神状態が悪いから簡潔に話す、それで理解してくれ。あのペインの正体は……」




