62話 不完全であること
ペインが去った。その場に残るゼロ、真助、ナギトはひとまずヒロムを落ち着かせようとした。とにかく冷静になるよう言葉で宥め、何とかして理由の分からぬ昂りを落ち着かせるとヒロムを冷静にさせてひとまず人気のない場所で話を聞くことにした。
そしてヒロムの口から明かされたのは衝撃の内容であり、それを聞いた真助とナギトは驚くしか無かった。
「ペインが……別世界のヒロムが闇に堕ちた瞬間ってのを見ちまったとはな」
「しかも姫野さんが誰かに殺されるなんて……冗談としても笑えないよね」
「つうか、幻術の可能性はないのか?
ゼロの力に多少苦戦してきたからオマエを陥れようと……」
「そんなことする必要ある?相手は天才より上手だったんだし姿の変化したゼロの攻撃も何とかしてたくらいの強さなのにあえて幻術で惑わすような真似する意味無くない?」
「なら何だよ新入りくん。ヒロムが見たものはリアルだったって言うのか?」
「それは間違いない」
ナギトの言葉に真助が多少イライラしながら問い詰めるとナギトではなく何故かゼロが答える。
「ヒロムが見たものが幻術ならオレも知覚できる。闇に宿るが故に嫌でもヒロムの記憶をオレは共有出来るからこそ知覚出来るわけだ。だが……幻術によく見られるような記憶の混濁はなかったしヒロムの記憶が途切れるような感じもなかった。その代わり、1秒にも満たない時間でオレが知覚できていない瞬間があったのはたしかだ」
「つまり……何が言いたい?」
「ペインとヒロムの記憶もしくは精神が一瞬繋がったことによりヒロムはそのヴィジョンを目にした、という可能性がある。オレがヒロムの記憶やらを知覚・共有できるのはヒロムとの繋がりがあるから。逆をいえばオレがヒロムの記憶やらを知覚・共有できなかったのはヒロムがオレではなくペインと繋がりその反動でヤツの記憶を一部共有したんだろうって話だ」
「……よくわかんねぇがとりあえずヒロムが幻術で騙されたとかじゃなくてペインと何かしら共有したってので間違いないんだな?」
「そうなるな。ただオレがヒロムの共有したとされるものを認識するのは不可能なようだがな」
ゼロの説明で何となくで理解した真助はナギトとともにヒロムに視線を向け、視線を向けられたヒロムは頭を押えながら彼らに伝えた。
「……ペインを見つけて全てを吐かせる。何故ああなったのかを話させなきゃオレの気が晴れない」
「気持ちはわかるがヒロム、あくまでお嬢さんが殺されたのはペインがいた世界での話だろ。この世界のユリナは生きてんだから……」
「そういう問題じゃねぇよ真助。そもそもの話をするならペインが別世界から来たとしてどの時間軸から来たのかすらハッキリしていないんだ。過去からなのか今のオレたちより少し先の未来からなのか……ヤツの言う別世界ってのが単なる同時系列並行世界なのか今いる時間軸の前後のどちらかによるものなのか、とにかくヤツがどういう風に世界を捉えているのかが分からない以上呑気なことはしてられない」
「……お嬢さんが心配なのはわかるが今再戦してもまた負けるぞ」
「だとしてもやるしかない。ヤツを倒して全てを吐かせて全てをハッキリさせる」
頑なにペインに全てを話させようとするヒロム、その頑なな意思に真助とナギトが呆れているとゼロはため息をつくとヒロムに告げた。
「ヒロム、オマエは一度戦いから身を引け」
「あ?」
「今のオマエは冷静になれてない。そんなオマエがペインと戦っても無駄死にで終わる。そうなったとしてもオレはオマエの敵討ちはしない」
「何が言いたい?」
「……忘れるな。オマエが戦うのは守りたいものを悲しませたくないからだろ。そのオマエが悲しませるような真似をするな」
「……ッ」
ゼロの言葉にヒロムは何も言えなくなり、ヒロムが何も言えなくなるとゼロは真助とナギトに指示を出す。
「真助、オレと一緒にビーストと戦ってるノアルたちの加勢にいくぞ。新入り、オマエはヒロムを連れてユリナのところにいけ。この時間なら学校にいるはずだから探す手間は無いはずだ」
「うん、オッケー」
「適材適所って感じだな」
「……」
「ヒロム、悪いがそういうことだ。今のオマエは足でまといでしかない」
ヒロムに冷たく告げたゼロは真助とともに歩いていき、2人の背中をヒロムはどこか悔しそうに見ることしか出来なかった……
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その頃……
「オラァ!!」
「はぁっ!!」
クリーチャーを使役するビーストと戦うソラとガイは雑魚の群れを倒しながら本丸たるビーストへの道を切り開こうとし、ノアルは2人がクリーチャーを倒したことで手薄になった場所からビーストに迫ろうとしていた。しかし、ビーストに迫ろうとしてもクリーチャーが新たに現れてそれを邪魔する。
「くっ……何度やってもクリーチャーが邪魔してくれるな」
「おまけにクリーチャーは無尽蔵に生み出されている。このままじゃこっちの体力が消耗させられる一方だぞ」
「これもオレの中の魔人の力を取り込んだ恩恵だというのか?」
その通りだ、とノアルの言葉にビーストは簡潔に返すと新たなクリーチャーを生み出し、クリーチャーを無数に生み出したビーストはノアルたちに向けて冷たく告げる。
「今のオレは純粋種の力を取り込んだことでより完全な魔人となった。そんなオレを不完全な人間のオマエらが勝つなど不可能だ」
「コイツ……!!」
「もっと感情を表に出してみろよ雨月ガイ。オマエがどれだけ本気になろうとオレには……」
「グダグダ……うるせぇ!!」
ビーストの言葉にガイが感情的になりそうになっているとソラは声を大にして叫ぶと紅い炎を強く放出してクリーチャーを次々に焼き消し、クリーチャーの群れの一部を紅い炎をもって焼き消すとビーストの言葉に対して反論した。
「不完全な人間だの偉そうな言葉口にしてるが、オマエも不完全な人間だろ。だからノアルの力を奪ったんだろ?」
「何?」
「つうかノアルの力を奪って取り込まねぇと完全な魔人になれなかったんならてめぇも不完全ってことだろ。それなのに偉そうに……ナメてんのか?」
「オマエ……!!
仮にも中途半端に魔人の力を宿してる分際で完全な魔人たるオレを愚弄するつもりか!!」
「愚弄?ナメんなよバカが。
オマエが完全かどうかなんざ関係ねぇ。今重要なのはここで《世界王府》の1人たるオマエを殺して魔人という因縁の1つを終わらせることだけ、オレが中途半端かどうかも関係ない……オマエがどう思おうがオレは不完全だと思ってなければどうとでもなるからな」
「ふざけたことを……!!」
「ふざけてるかどうか試してみるか?
オレの力……炎の魔人の力を!!」
ソラはビーストに向けて強く言葉を放つと紅い炎を全身に強く纏い、ソラが紅い炎を纏うとガイのもとへといつからいたのかソラの宿す精霊・子猫のキャロとシャロが甘えるように歩いてくる。
「キャロ?シャロ?」
「ガイ……そいつらをたのむ。
しばらくの間、オレに近づくと危険だからな!!」
キャロとシャロのことをガイに頼むとソラはさらに紅い炎を強くさせ、そして全身が紅い炎に包まれたソラは悪魔のような雄叫びをあげるとさらに炎を強くさせる。
何が起きている、強くなり続ける紅い炎を前にしてビーストが一応は警戒する中ソラは炎の中から言葉を発する。
「炎魔解放……!!」




