61話 謎のヴィジョン
苦しみに襲われ、頭に痛みを感じたヒロムの視界が光に包まれた。
何が起きたのか分からない、ヒロムも状況を飲み込めない中彼の視界に広がった光が薄れていく。
光が薄れていくことにより視界が戻っていくが、視界が戻ったヒロムが目にしたものは先程まで目にしていたものとは大きく異なっていた。
ペインに襲われ、真助やナギトやゼロと攻防を繰り広げていたはずなのにヒロムの目に映ったのは争いなど起こっていないかのように平和な街の風景だった。
「何が……起きてる……?」
風景の変化、あまりにも突然すぎるその変化にヒロムは戸惑いを隠せないでいた。辺りを見渡しても戦闘の痕跡はなく、ペインの姿すら見当たらない。
「ヤツはどこにいった……?」
ペインの行方を探そうとヒロムは歩を進めようとした……のだが、ヒロムが動こうとしても足が動かなかった。
何故だ?何故動かない?動けないことにヒロムが困惑していると平和な町の風景の中に彼も予期していないことが起きる。
「なっ……」
ヒロムは自身の目を疑った。平和な町の風景の中に1人の少年が現れたのだが、その少年はヒロムにそっくりだった。いや、そっくりというよりはヒロムそのものだった。
「何でオレが……」
『ヒロムくん!!』
目の前に現れた自身に戸惑っているともう1人の自身のもとへユリナが走ってくる。
『ユリナ?』
『もう、せっかくだから一緒に行こうよ』
『……恥ずかしい』
『恥ずかしいって……今までいつも一緒だったのに今更だよ?』
『だからだよ。《センチネル・ガーディアン》に選ばれたからか当たり前のことが当たり前に出来ない感じがして……変な気分なんだよ』
『変なの。いこっ』
もう1人の自分とユリナはここにいるヒロムに目をくれることも無く歩き始める。ヒロムの存在に気づいていないのか、それともあえて触れないのか分からない。だがヒロムはこの2人の会話に違和感を覚えていた。
「んだよこれ……これは……オレは知ってることなのか……?」
(幻術にしてはこの光景はあまりに馴染みがあるような感覚がある。記憶をヴィジョンとして見せているならこんな記憶はオレにはない。なのにこれが偽りではないと思ってしまうのは……)
「まさか……ペインの記憶、なのか……!?」
自身の記憶にはないどこか馴染みすら感じられる目の前の風景とそこを歩く2人についてそれがペインの記憶ではないかとヒロムが思っているともう1人の自分にユリナが話しかける。
『ねぇ、今日学校終わったらなんだけど……時間ある?』
『あ?まぁ、時間はあるけどどうかしたのか? 』
『あのね……もしよかったら帰りにお買い物行きたいから付き合ってほしいなって』
『別にいいけど……2人でか?』
『うん、ダメ?』
『……いいよ。行こう』
学校帰りにどこかに行く約束をしている2人。だがその約束が交わされた後、目の前の風景ががらりと変わる。
平和な街並みは炎に包まれ、建物は壊され車も爆発している悲惨な状況に変貌した風景。その中をボロボロになりながらも何かと戦うもう1人の自分が走っていた。
『クソ……クソ、クソ!!
このままじゃ間に合わない!!』
稲妻を纏いながら走るもう1人の自分は焦りながら駆けており、炎が激しさを増す中、もう1人の自分は目的地へとたどり着いたのか足を止める。だがその足を止めたもう1人の自分の顔は何かに絶望したような表情を見せる。
『あっ……あぁ……』
「そんな……」
もう1人の自分が見たものをヒロムも目にしてしまう。それは……炎の中で瓦礫に埋もれているユリナの姿があったのだ。
『ユリナ!!』
「待て……待ってくれ……」
もう1人の自分が慌てて瓦礫をどけようとする中動けぬヒロムは混乱する思考の中で焦りを募らせる。
瓦礫をどけたもう1人の自分はユリナを抱き寄せるが、ユリナの体には瓦礫の欠片や鉄筋のようなものが刺さっており、刺さった場所から多量の血が流れていた。ユリナの息も小さくなっている。
『ユリナ!!ユリナ!!』
「頼む……頼む……」
『……ごめんね……ヒロムくん……。
私のせいで……』
『喋るな!!もう……喋らないでくれ……!!』
『……ごめんね……私のせい……で……』
ごめんね、と謝るユリナの言葉はそこで途切れ、そして彼女はそこで息絶えてしまう。
「やめろ……」
『ああああああああぁぁぁ!!』
もう1人の自分はユリナの体を抱きながら叫び、もう1人の自分が叫んでいると全身を黒いコートで隠した何者かが彼を包囲していく。
『ここまでだ姫神ヒロム』
『我々はすでにオマエの仲間たちも全て始末した』
『オマエが我々の全てを奪ったが故にこうなった、それを痛感したのなら我々に従え』
『……従え……だと?』
何者かに包囲されるもう1人の自分、その彼はゆっくりとユリナを地に寝かせると立ち上がり、殺意に満ちた瞳で何者かを睨むと闇にも似た何かを放出していく。
『オマエたちがくだらないことを企てなければオレはオマエらみたいな虫けらなんかを相手にすることは無かった!!オマエらみたいなクズが生きてるせいで死ななくていい人間が殺された!!オマエらみたいなヤツが生きてるのに……その一方でユリナが死んだ!!殺してやる……オマエらなんざ何も感じさせずに終わらせてやる!!』
もう1人の自分が憎悪に満ちた言葉を吐き捨てると彼の瞳は闇に染まり、左の瞳に十字架のような紋様が浮かび上がる。その瞬間、彼を包囲していた何者かに得体の知れない強い力が放たれ、放たれたその力を受けた何者かは次々に肉片すら残すことなく消滅させられてしまう。
包囲する者が消えると彼の髪の一部が白くなっていき、そして彼は涙を流しながら息絶えたユリナを抱き上げて歩き始める。
『待ってろユリナ……オレがこんなくだらない世界を……オマエを悲しませた世界を終わらせてやる……』
ユリナを抱き上げ歩く彼は空間を歪まるとその中へと足を踏み込み、そして闇と共に消えてしまう……
「そんな……嘘だ……嘘だァァァ!!」
信じられない光景にヒロムが叫ぶと目の前が光に包まれ、そして景色は元に戻っていた。ペインがおり、ゼロ、真助、ナギトもいる。今見たものが本当にペインの記憶かは分からない、だがヒロムは確かめるしか無かった。
「何でなんだ……?」
「何?」
「何でユリナが殺されたんだ!!何で……何がどうなって巻き込まれたんだ!!」
「オマエ……オレの記憶を……!!」
「答えろ……オマエが戦ってたアイツらは誰なんだ!!」
「ヒロム、急に何を……」
突然ペインに強く問うヒロムに戸惑いを隠せないゼロ。ヒロムの言葉から何かを察したペインは舌打ちをすると自身の背後の空間を歪ませる。
「……オマエに教える義理はない。全ては姫神ヒロムという人間がいるから必要のない犠牲が生まれた、それだけの事だ」
「ふざけんな……!!
んなことでオレが納得するわけねぇだろ!!」
先程まで動かなかった体が動く、それを確信したヒロムは地を強く蹴って走るとペインに迫ろうとするがペインは空間の歪みの中へと消えてしまう。
ペインが歪みの中へと消えると歪みそのものも消えてしまい、ペインが消えるとヒロムは叫ぶ。
「ふざけんな……ふざけんな……ふざけんなァァァァァ!!」




