60話 1というゼロ
闇と灰色の稲妻を全身に強く纏うゼロ。そのゼロの言葉を受けたペインは手に持つ黒炎の剣を構えると走り出す。
「0から1に進化する、言葉としては見事だ。だが人の世はそう簡単ではない」
「たしかに人間は簡単じゃねぇ、けどオレは……オマエの想像の外にある簡単な存在なんだよ」
「何?」
「見せてやる……ディヴァイン・クロス!!」
ゼロが叫ぶと彼が纏う闇と灰色の稲妻がゼロの全身を包み込みながら彼の姿を変化させる。黒いボディースーツのようなものを着用させると灰色のクリスタルが施された紫色のアーマーを各部に装備させ、そして頭部を保護するようにマスクとアーマーが装着されると緑色のV字のバイザーがセットされる。
さながら全身武装したスーパーヒーローを思わせるような装いとなったゼロは拳を構えるとまだ離れた位置にいるペインに向けて正拳突きを放ち、放たれた正拳突きが強い衝撃波を生み出すとペインに襲いかからせて敵の接近を妨害する。
「何……!?」
「久しぶりに纏ったが悪かねぇ。このアーマーがあればオマエにも負けねぇ」
「……何だ、その姿は?」
「ディヴァイン・クロス、これまでの積み重ねた戦闘と経験を基にオレが最大限に力を引き出せるように完成させたパワーアップ形態だ。もっとも、見た目に関してはヒロムが嫌うヒーローシリーズからアイデアをパクったんだがな」
「……なるほど、ヒーローの真似事か。
まさかとは思うがそんなことをしてオレに勝てるとでも?」
「これ単発纏ってオレの勝ちになるなら苦労はねぇ。けど、オレの真価はここからなんだよ!!」
ゼロは全身に灰色の稲妻を強く纏うと一瞬でペインとの距離を詰め、距離を詰めるとゼロは敵を倒そうと灰色の稲妻を纏わせた手刀で攻撃を仕掛ける。が、ペインは手に持つ黒炎の剣を用いてゼロの攻撃を防ぎ止め、攻撃を止めたペインはゼロを倒すべく現状自身を除けばゼロのみが視認出来ている《外道輪廻》の人の形の歪な存在に黒炎の剣を構えさせながらゼロを攻撃させようとした。
だが、そんなことはゼロの想定の範疇だ。
「やっぱ来たな、なら……マテリアル・ウェポン!!」
人の形をした歪な存在が黒炎の剣を持って迫る中、それを待っていたかのようにゼロは灰色の稲妻を右手に集めながら叫び、ゼロが叫ぶと右手に集められた灰色の稲妻は手を覆うような形でクリスタルへと変化していき、変化したクリスタルは刃となってゼロの右手を強化していく。
「稲妻を変質させただと!?」
「マテリアル・ウェポン……オレがオレのために考案してオレのために完成させたオレ専用の強化術だ!!」
クリスタルに強化された右の手刀でペインの黒炎の剣を押し返すとゼロはペインを蹴り飛ばし、さらに迫り来る歪な存在の攻撃を回避しながら次々に攻撃を放って倒していく。
「コイツ……見た目に反して器用なことを!!」
「褒めても何も出ねぇよ!!マテリアル・ウェポン!!」
ペインの言葉を軽く流すとゼロは右手に纏わせたクリスタルの形を変化させてハンドアックスに変え、クリスタルのハンドアックスを装備するとゼロはペインを斬ろうと連撃を放っていく。
放たれるゼロの連撃を前にしてペインは黒炎の剣を2本に増やして応戦し、ゼロの放つ攻撃に合わせて黒炎の剣の攻撃を放つことで相殺していく。
「どうした?さっきまで強さ云々言ってたヤツが防戦一方か?」
「姿が変わっただけでなく力も増しているとはな。
オマエの評価を多少訂正しなければならないな」
「あんまナメんなって話だ。オレがオマエの中の物差しで測れるようなヤツだと思うなよ!!」
ゼロは灰色の稲妻をクリスタルへと変えるとハンドアックスをもう1本生成して左手に持ち、2本のハンドアックスによる猛攻を放つとペインの持つ黒炎の剣を破壊してしまう。
黒炎の剣を破壊されたペインだが彼は焦ることなく淡々としており、左目を妖しく光らせると黒炎を右腕に纏わせていく。
「んだよ、もう剣は作らねぇのか?」
「……オマエの望みを叶えてやろうと思ってな」
「あん?」
「オレが測れないというオマエの力を試してやるよ。斬殺輪廻の本来の使い方でな」
右腕に黒炎を纏わせたペインはゼロを倒そうとするかと思われたが、何故か突然地面を殴る。何がしたいのか分からないゼロが不思議に思っていると地面を殴ったペインの手を起点にゼロの方へと地面に亀裂が入りながら無数の黒炎の刃が現れ、現れた黒炎の刃はその数数百にも達するとゼロを貫こうと襲いかかっていく。
「なっ……地面を壊しながら黒炎の刃を放ったのか!!」
「斬殺輪廻は黒炎の剣ではない。敵を殲滅するために全てを破壊する刃となりて襲い続ける、それこそが斬殺輪廻の真価だ」
「そういう類の攻撃か……!!
マテリアル・ウェポン!!」
迫り来る数百の黒炎の刃を前にしてゼロは両手の2本のクリスタルのハンドアックスを灰色の稲妻に1度戻し、戻した灰色の稲妻をもう一度クリスタルにすると盾の形を与えて自身の前に構えさせ、次々に襲いかかって来る黒炎の刃を防ぎ止めていく。
「くっ……!!」
「さすがに硬いな、そのクリスタルは。いや、クリスタルの生成に使われている灰色の稲妻の効果の恩恵による強化のおかげか?」
「コイツ……人の力を分析して……」
「驚くようなことではないだろ。姫神ヒロムの半身たるオマエが冷静にやれたのならオレにもそのくらい出来る。存在していた世界が異なるだけで姫神ヒロムという人間であることに変わりはないからな」
「ちぃ……この野郎が」
「もっとも、オレとしてはオマエという存在が気になって仕方ないのは事実だ。何せオレの世界では存在していない存在なのだからな」
「何……?」
ペインの言葉にゼロが不思議に思っていると黒炎の刃の攻撃が止まり、攻撃が止まるとペインは音も立てずにゼロの背後に移動するとある話をゼロに聞かせていく。
「そもそも姫神ヒロムという人間が全ての世界において共通事項として共有しているのは内包している精霊の数だ。それ以外の力や存在に関しては共通点としてではなく各世界観の独自要素として解釈される。ゼロ、オマエの存在はまさしくそれなんだよ」
「イレギュラーだとでも言いたいのか?」
「いいや、オマエの存在はイレギュラーではない。だが強いて言うならオレが他の世界で見てきた他の姫神ヒロムという人間にはオマエのような存在はいなかった。まして不確定要素でしかないオマエが力を得て強くなるなんてこともな」
「他の世界で、ってまさか……」
「そう、そのまさかだ。
オレはこれまでいくつもの別世界の姫神ヒロムという人間を絶望させて殺してきた。これが初めてではない。オレは姫神ヒロムという人間を否定して殺すために別世界を飛び回ってるのだからな」
「なっ……」
ペインの口から明かされた衝撃の内容、別世界から来た姫神ヒロムであったペインはここに来るまでに多くの世界にいる姫神ヒロムという人間を消してきたというのだ。
その事に驚きを隠せないゼロの動きが一瞬止まるとペインは腕に纏わせた黒炎を球体状にするとそれをゼロに向けて飛ばし、飛ばされた黒炎の球はゼロへと勢いよく迫ってい……くが、黒炎の球がゼロに迫ると《レディアント・アームズ》を纏うヒロムが白銀の稲妻を纏った状態でゼロの前に立ち、そして黒炎の球を装甲を纏う両腕で止める。
「ヒロム!?」
「ぐううう……!!」
黒炎の球の力にヒロムは押されそうになるも何とかして耐えており、白銀の稲妻を強くさせると同時に何とかして黒炎の球を天へと逸らすように弾いてみせた。が、それによるダメージが《レディアント・アームズ》に蓄積されたらしくヒロムの纏う武装全てが消えてしまう。
「オマエ、何を……」
「悪いなゼロ……。
やられっぱなしで黙ってたらオマエに後から何言われるか分からねぇからとりあえずでカッコつけさせてもらった」
「バカか?
ヤツの狙いは今のオマエを……」
だからだよ、とヒロムは一言言って深呼吸するとペインを見ながらゼロに伝えた。
「このままやられっぱなしで終われねぇ。だから今出来ることをやるために出てきたんだよ」
「……死にに来たか。面白い、なら望み通り殺してやろう」
自ら前に出たヒロムに引導を渡すべくペインは力を手に纏わせて彼に迫ろうとした……が、その瞬間、突然ヒロムとペインは苦しみ始め頭を押える。
「がっ……!?」
「こ、これは……!?
何が……」
「頭に何かが……流れて……」
突然苦しみ始め頭を押えるヒロムは何かを口にし、そしてそのヒロムの視界は突然光に……




